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[PLAY]演出・キャストを一新!2年ぶりの再演『M.Butterfly』9月開幕

[PLAY]演出・キャストを一新!2年ぶりの再演『M.Butterfly』9月開幕

 

日本ではジェレミー・アイアンズ、ジョン・ローン主演で1993年に公開された同名映画で知られる『M.Butterfly』が2年ぶりの韓国再演を決定し、キャストが発表された。

原作は中国系アメリカン人の脚本家デヴィッド・ヘンリー・ファン(David Henry Hwang)が1988年に発表し、アメリカで初演した同名戯曲。同年のトニー賞作品賞ほか3部門受賞をはじめ、多数の演劇賞を受賞した作品だ。韓国では演劇シリーズ「演劇列伝4」で2012年に初演後、3度の再演を経て、今年2年ぶりに4回目の再演となる。今回は『プライド』『小人たち』『もしかしてハッピーエンディング』などの小劇場演劇、ミュージカルで、丁寧な演出が評価されているキム・ドンヨンを新演出に迎え、キャストも総入れ替えして上演される。

国家機密漏洩の疑いで法廷に立ったフランス領事の衝撃的実話をモチーフに舞台化された本作は、プッチーニのオペラ「蝶々夫人」を劇中劇に引用。西洋人が東洋の女性に持っている偏見やファンタジーを批判するとともに、人間の欲望と悲哀を描き出したストーリーは、特に女性の観客たちに支持されている。

妻がありながらリリンに魅了され、破滅へと向かう主人公のルネ役には、国立劇団などの演劇に多数出演してきたキム・ジュホンとソウル芸術団の団員で、8月開幕の『地球を守れ!』への出演も控えているキム・ドビンが務める。
一方、スパイの密命を負ってルネを誘惑するも、彼を愛してしまうリリン役には演劇『プライド』でゲイのオリバー役を演じて注目された新鋭チャン・ユルと、2016年に人気女優パク・ソダムと共演した演劇『レット・ミー・イン』で主役に抜擢され注目を浴びた新人オ・スンフンが演じる。

新演出家と俳優たちが「演劇列伝」の人気レパートリーに新風を吹き込む『M.Butterfly』は、1次スケジュールのチケットが7月27日(木)から発売される。

(写真上段左から)ルネ役:キム・ジュホン、キム・ドビン/リリン役:チャン・ユル、オ・スンフン (写真中段左から)トゥーロン/判事役:ソ・ミンソン、クォン・ジェウォン/チン/スズキ役:ソン・ヨンスク/マーク役:ファン・マニク (写真下段左から)マーク役:キム・ドンヒョン/ヘルガ役:キム・ユジン、キム・ダヨン


【公演情報】
演劇『M.Butterfly』(엠. 버터플라이)
2017年9月9日~12月3日 大学路アートワンシアター1館

<出演>
●ルネ・ガリマール役:キム・ジュホン、キム・ドビン
●ソン・リリン役:チャン・ユル、オ・スンフン
●トゥーロン/判事役:ソ・ミンソン、クォン・ジェウォン
●チン/スズキ役:ソン・ヨンスク
●マーク役:ファン・マニク、キム・ドンヒョン
●ヘルガ役:キム・ユジン、キム・ダヨン

原作:デヴィッド・ヘンリー・ファン/翻訳:パク・チョンヒュ/演出:キム・ドンヨン

写真提供:演劇列伝

 

[PLAY]オ・ジホ演劇初挑戦『アパルトマン』10月上演

[PLAY]オ・ジホ演劇初挑戦『アパルトマン』10月上演

 

演劇初主演のオ・ジホ

LGアートセンターが10月に上演する新作演劇『アパルトマン』の出演者が発表された。
海外の劇団、団体の招聘公演を中心に、独自企画の公演シリーズ「CoMPAS17」を実施しているLGアートセンターは年に1作、韓国の演出家、俳優を起用した演劇を上演している。今年は2015年に東亜演劇賞大賞を受賞した『趙氏孤児:復讐の種』やミュージカル『アリラン』などを演出し、韓国でいま最も注目を浴びる演出家コ・ソンウンを迎え、彼が率いる劇団「プレイファクトリー魔方陣(マバンジン)」と共同制作で『アパルトマン』(韓国語ではラパルトマンと表記)を上演する。

『アパルトマン』は、ヴァンサン・カッセル、モニカ・ベルッチ主演のフランス映画『アパートメント』(1996年 原題L’appartment)が原作。婚約者がありながら、過去に突然姿を消した元恋人の存在を忘れられずにいる男マックスと、彼をめぐる三人の女性との関係を描くラブサスペンスで、2004年にはジョシュ・ハートネット主演で『ホワイト・ライズ(原題:Wicker Park)』と題してアメリカでリメイク映画も制作された作品だ。この映画のファンだというコ・ソンウン演出家が、監督のジル・ミモ―二に直接会って上演権を獲得し、舞台化することになったという。

主人公のマックス役には『ファンタスティック・カップル』『オフィスの女王』などの人気ドラマに主演したオ・ジホ。マックスの“ファム・ファタール(運命の女)”とも言える、昔の恋人リザをミュージカル『ファントム』にも出演した、韓国を代表するバレリーナの一人、キム・ジュウォンが演じる。ともに演劇には初挑戦となる二人が、コ・ソンウン演出家のもと、舞台俳優としてどう変身するのか期待される。

エリス役のキム・ソジン(左)とリザ役のキム・ジュヨン

マックスの親友ルシアンの恋人エリス役にはミュージカル『あの日々』や演劇『プライド』『クローサー』など数々の話題作に出演してきたキム・ソジン。マックスの婚約者ミュリエル役には映画『哭声/コクソン』『ベテラン』やドラマ『アチアラの秘密』『密会』などに出演したチャン・ソヨンと実力派女優がこの作品のカギを握る女性キャラクターとして登場する。

(写真左から)チャン・ソヨン、チョ・ヨンギュ、イ・ジョンフン

また、マックスの親友ルシアン役のチョ・ヨンギュ、リザの現在の恋人ダニエル役のイ・ジョンフンと、「プレイファクトリー魔方陣(マバンジン)」の俳優も出演するなど、助演陣は舞台経験豊富な俳優たちが揃っている。

(写真左から)チョ・ヨンソン、ぺ・ボラム、キム・ヨンレ

コ・ウンソン演出家が初めて映画原作の舞台化に挑む野心作『アパルトマン』は10月18日~11月5日まで上演。10月18日~20日のプレビューチケットは7月20日(木)よりインターパークとLGアートセンター公式サイトで発売開始される。


【公演情報】
演劇『アパルトマン』(라빠르트망 L’appartment)
2017年10月18日~11月5日 LGアートセンター

<出演>
●マックス役:オ・ジホ
●リザ役:キム・ジュウォン
●エリス役:キム・ソジン
●ミュリエル役:チャン・ソヨン
●ルシアン役:チョ・ヨンギュ
●ダニエル役:イ・ジョンフン
ほか、チョ・ヨンソン、ぺ・ボラム、キム・ヨンレ

原作:ジル・ミモ―二/演出:コ・ソンウン

写真提供:LGアートセンター

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[PLAY]米・気鋭の劇作家が描く社会の縮図『グロリア』再演が開幕

[PLAY]米・気鋭の劇作家が描く社会の縮図『グロリア』再演が開幕

 

ニューヨークの雑誌出版社を舞台に、社会の縮図のような人間模様を描いたNONAME THEATER COMPANY制作の『グロリア』が昨年に続き再演されている。

同僚にグロリアの引っ越しパーティーの話をするディン(イ・ヒョンフン)

本作はアメリカの新進劇作家ブレンダン・ジェイコブス・ジェンキンスが2015年に発表し、2016年度のピューリッツァー賞ドラマ部門の最終選考まで残って注目を浴びた作品だ。

グロリア役のクァク・ジスク

 

タイトルにもなっている“グロリア”はニューヨーク、ミッドタウンにある雑誌編集部で働く最も社歴が長い女性社員の名前。会社と会社の人間関係がすべてだったグロリアは、長年貯金してようやく購入した自宅の引っ越しパーティーに同僚を招待するが、参加したのは男性社員のディン1人だけだった。パーティーの翌日、こわばった表情でオフィスに現れ、無言でたたずむグロリアをケンドゥラ、エニーら女性社員たちは無視同然の対応をする。やがて、再びオフィスに現れたグロリアが予想もできないような衝撃的な事件を起こし、同僚たちの人生を一変させるのだ。

グロリアを忌み嫌うケンドゥラ(ソン・ジユン)とエニー(コン・イェジ)

劇中グロリアの登場シーンは少ないが、同僚たちの会話から人物像を浮かび上がらせていく。地味だが真面目に働いているグロリアをあざ笑うような同僚たちの会話や態度は、学生時代には「いじめ」と称される特定の個人への迫害が一般社会においても同様に行われていることをまざまざと見せつける。

事件後、出版社を辞めて堕落した生活をおくるディン

2幕では舞台をコーヒーショップに移し、以前は社内で“勝ち組”的存在だったディンやケンドゥラがグロリアが起こした事件の後、堕落した“負け組”の人生を送っているさまが描かれる。そしてグロリアを唯一理解していたローリンは出版社を退社後、契約社員として入ったLAの出版社でグロリアの事件の当事者であることを明かすと、社員たちはその逸話を出版しようと躍起になるのだ。

契約社員のローリン(チョン・ウォンジョ)を出版社社員らは利用しようとする

本作はNYの出版社-コーヒーショップ-LAの出版社と3場で構成されている。1場ではグロリアを演じていたクァク・ジスクが、3場ではLAの出版社の編集長ナン役と対照的なキャラクターを演じて、社会の無常さをアイロニカルに際立たせている。

グロリア役から“勝ち組”の編集長ナン役に変身するクァク・ジスク

出版社というメディアの宿命とその中における人々の姿に、観客は自分の身の回りでも起きうる(起きている)ストーリーに共感しつつも何とも言えない葛藤が心に残るだろう。
NONAME THEATER COMPANY作品の常連である実力派俳優たちによる好演も光る『グロリア』は8月13日まで、大学路のアートワンシアター3館で上演される。

ローリン(チョン・ウォンジョ)の存在が、皮肉な物語を浮き彫りにする


【公演情報】
演劇『グロリア』(글로리아)
2017年7月14日~8月13日 大学路アートワンシアター3館

<出演>
●ローリン役:チョ・ウォンジョ
●グロリア/ナン役:クァク・ジスク
●ケンドゥラ/ジェンナ役:ソン・ジユン
●ディン/デヴィン役:イ・ヒョンフン
●マイルズ/ショーン/ラシャード役:オ・ジョンテク
●エニー/サーシャ/キャリー役:コン・イェジ

プロデューサー:ハン・へヨン/原作:ブレンダン・ジェイコブス=ジェンキンス/翻訳:イ・ジヒョン/演出:キム・テヒョン/脚色・ドラマターグ:イ・インス/舞台:シン・スンリョル/照明:イ・ドンジン/音響:ユン・ミンチョル/衣装:ホン・ムンギ

取材協力:NONAME THEATER COMPANY

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[PLAY]男たちのリアルな友情と葛藤のストーリー『サンドバッグ』開幕

[PLAY]男たちのリアルな友情と葛藤のストーリー『サンドバッグ』開幕

 

ケ・マンド役のキム・ジフン(左)とチェ・ホジュン

ボクシングジムを舞台に、男たちの友情と葛藤、兄弟愛を描いた新生制作会社「内柔外剛カンパニー」の第1作となる演劇『サンドバッグ』が開幕し、7月11日にプレスコールが行われた。

マンド(左)とホチョルは、ともにプロボクサーを目指していた親友同士だった

片思い中のジュンスに兄のごとく恋愛指南をするマンドとホチョル

本作は男性キャラクターのみが登場する、いわば“男臭い”作品だ。将来有望なボクサーだったが、けがでその道を諦め高利貸しとなったケ・マンド。肝臓の手術後、食べていくためにストリートボクサーとなったパク・ホチョル。そしてホチョルに憧れ、兄を支えようと尽くす気弱な弟パク・ジュンスと、3人の関係性が物語の軸となる。マンドとホチョルはかつてともにプロを目指す親友同士だったが、マンドの脱落により友情に溝ができた状態。しかしジュンスにとっては二人とも兄のような存在だ。彼らはそれぞれに、明かしていない秘密を抱えているのだ。

ソ・ジンウォン脚本家は「もともと短編映画用に準備していたものを演出家の提案で舞台化することになった。3人の友情と裏切り、そして陰謀を“天使の血で悪魔を生かす”という言葉のごとくストーリーを構成した」という。表面的にはホチョルが悪魔、ジュンスが天使で、マンドは犠牲者のように見えるが、「誰が天使で誰が悪魔かの判断は観客に委ねたい」と語った。

ホチョル役のイ・ジュニョク(左)とマンド役のチェ・ホジュンは人気作『女神様が見ている』にも出演した

マンド役にミュージカル『パルレ(洗濯)』で名を上げたチェ・ホジュンとキム・ジフン。ホチョル役には『ファリネッリ』のイ・ジュニクと、『済州日記』『シア・マッドネス』に出演したキム・ジュイル。ジュンス役は『花郎(ファラン)』に出演していたキム・テミンとユン・ヒョンソクと、いずれも劇場街大学路では、若くして経験豊富な実力派たちが揃っている。

ジュンス役のユ・ヒョンソク(左)とキム・テミンは、大学路の定番作『花郎(ファラン)』で経験を積んだ

劇中では本格的にサンドバッグやミットを打つシーンもあり、俳優たちは全員稽古中から毎日ボクシングのトレーニングを重ねてきたという。その結果、マンド役のチェ・ホジュンは役柄同様手にケガをし、他のキャストも日々小さなケガは絶えないそうだ。

ホチョル役のイ・ジュニョク(左)とキム・ジュイル

映画のシナリオがベースになっているため、劇中には演劇らしくないナチュラルでリアリティ溢れるシーンも多い。観客はボクシングジムの傍らで主人公たちのやり取りを見ているような錯覚に陥りつつ、役者たちの芝居を楽しめることだろう。
斬新な題材で大学路に新風を吹き込む『サンドバッグ』は、9月3日まで、大学路の新しい劇場ビル、ドリームアートセンターの3館で上演される。


【公演情報】
演劇『サンドバッグ』(샌드백)
2017年7月5日~9月3日 大学路ドリームアートセンター3館

<出演>
●ケ・マンド役:チェ・ホジュン、キム・ジフン
●パク・ホチョル役:イ・ジュニョク、キム・ジュイル
●パク・ジュンス役:キム・テミン、ユ・ヒョンソク

脚本:ソ・ジンウォン/演出:キム・ジェハン

取材協力:内柔外剛カンパニー


イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.23

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.23

 

カナダの人気ドラマを舞台で上演!『キムさんのコンビニ』

(写真中から時計回りに)チャン・ヨンチョル、パク・ヨンギュ、アン・ジェヨン、チェ・ヨンミ、イ・ファジョン ©国立劇団

韓国国立劇団では、いま「韓民族ディアスポラ展」と題したシリーズ演劇を5作連続で上演しています。“ディアスポラ(diaspora)”とは、元々パレスチナを離れて暮らしながらも、ユダヤ教の規範と生活慣習を守っているユダヤ人の総称でしたが、最近は故国を離れ、その地に定住している共同体を指す言葉としてよく使われています。
6月1日から始まったこの演劇シリーズでは、アメリカ、イギリス、カナダ、フランスで活動している韓国系作家を招き、これまでに4作、上演してきました。
●ヨンジン・リー(Young Jean Lee)
『龍飛御天歌(용비어천가/Song of the Dragons Flying to Heaven)』
●インスク・チャペル(In-sook Chappell)
『これはロマンスではない(이건 로맨스가 아니야/This isn’t Romance)』
●ジュリア・チョ(Julia Cho)
『茄子(가지/Aubergine)』
●ミア・チョン(Mia Chung)
『あなたのための私のためのあなた(널 위한 날 위한 너/You For Me For You)』

そしてシリーズ最後となる5作目の作品が、今回紹介する『キムさんのコンビニ(김씨네 편의점/Kim’s Convenience)』です。
この作品はカナダではテレビドラマとしてのほうが有名です。2016年にカナダの国営放送CBCのテレビシリーズで、2017年カナディアン・スクリーン・アワード11部門にノミネートされ、話題となったシットコム(=シチュエーション・コメディ)です。

演劇からドラマ化の過程を語る出演者&スタッフインタビュー(カナダCBC公式YouTubeチャンネルより)

原作者のインス・チェ ©国立劇団

この脚本を書いたのは、幼少時に韓国からカナダへ移民したインス・チェ(Ins Choi)。彼は俳優でもあるのですが、アジア人であるがゆえになかなか役に恵まれない日々が続き、自身を含めアジア系の俳優がたくさん出演できるような作品を作ろうと、直接脚本を書いてみたそうです。そして2011年に、最初は演劇として作ったこの作品を「トロント・フリンジ・フェスティバル」という総合芸術祭で上演し、見事に「ベスト・フリンジ10」に選ばれ、パトロンズ・ピック(PATRON′S PICK)賞(≒観客賞)を受賞。翌年には、トロント演劇批評家協会の「最優秀カナダ演劇」としても選定され、彼の脚本家デビュー作は、その後もカナダのみならず、イギリス、アメリカなどでも上演されています。さらに2016年からはテレビ・シリーズへと発展し、ますます多くの人に愛される作品になったのです。

この物語の主人公は、妻、娘とコンビニを経営している韓国系カナダ人のミスターキム。移民して数十年が経ちましたが、ミスターキムはまだまだ韓国人です。典型的な家父長主義で、韓国を愛し、日本が嫌いで、黒人は信用できません。そんな彼が自分の人生について真剣に考えていたある日、不動産屋の知り合いから、世界最大のスーパーマーケットチェーン「ウォルマート(Wal-Mart Stores)」が出店する前に店を売って、安定した老後を準備しなさいと忠告されます。しかし、彼にそんな気はさらさらありません。娘のジャネットに店を継いで欲しいとさえ思っているのです。そんな中、彼の頭の中には自分と不仲のため、家を出て暮らしている息子ジョンが思い浮かびます。

移民である作家自身の人生を反映しているこの戯曲は、移民が多い国だけにカナダの観客たちに「うちの家族も同じだ」と大きな共感を呼んだそうです。
この作品の演出を務めるのは、ミュージカル『僕とナターシャと白いロバ(나와 나타샤와 흰 당나귀)』『ラフマニノフ(라흐마니노프)』や、演劇『年老いた少年たちの王国(늙은 소년들의 왕국)』『報道指針(보도지침)』などの話題作を次々と手がけ、いま韓国の舞台シーンで最も注目を集めている若手劇作家・演出家のオ・セヒョクです。彼は特に、コミカルな描写に才能を発揮する人なのですが「台本を読んだときに何の違和感もなく、まるで自分が書いた本みたいだと感じました」と話していたそうです。

『夫婦』朗読公演の模様 ©創作集団LAS

『夫婦』朗読公演の模様 ©創作集団LAS

この『キムさんのコンビニ』をはじめ、「韓民族ディアスポラ展」で上演した作品は、厳密に言うとすべて“翻訳劇”になりますが、ちょうど同じ時期にドゥサン・アートセンターでも「DAC戯曲リサーチ」というタイトルで海外の戯曲に焦点を当てた企画上演が行われました。
「DAC戯曲リサーチ」はアメリカ、イギリス、日本の最新戯曲を6人の翻訳家が企画・翻訳し、朗読公演として上演。カンファレンスも行われました。
上演作のひとつだった岩井秀人原作の『夫婦(부부)』は、私が翻訳者として参加し、同じく岩井原作の『て(손)』を2015年から韓国で翻訳上演している創作集団LASと朗読上演しました。
『夫婦』『て』ともに脚本家自身の家族の物語を舞台化した作品でしたが、観客からは「まるで自分の家族を見ているようだ」「これは韓国の脚本家が書いたと言っても信じられる」「生々しくてびっくりした」という反応がありました。国は違っても、やはり家族の物語は万国共通の普遍性があるようです。翻訳劇を見るときには、例えば“日本色が強い”“いかにもアメリカっぽい”とか、“フランス作品は難解だ”など、原作の国に対する多少偏見混じりの視線を持つことが多いですが、国籍は一旦忘れて作中のキャラクターに集中すれば、まるで自分のことのように物語を受け入れられることでしょう。カナダに住む韓国人一家の物語、『キムさんのコンビニ』も、近所のコンビニでの出来事を見るように面白さを感じられるのではないかと、期待しています。


【公演情報】
「韓民族ディアスポラ展」
演劇『キムさんのコンビニ』(김씨네 편의점)
2017年7月14日~7月 国立劇団ペク・ソンヒ チャン・ミンホ劇場

<出演>
●父(ミスターキム)役:チャン・ヨンチョル
●母役:チェ・ヒョンミ
●娘ジェニー役:イ・ファジョン
●息子ジョン役:アン・ジェヨン
●マルチマン(一人多役):パク・ワンギュ

作:インス・チェ(Ins Choi)/翻訳:イ・オジン/演出:オ・セヒョク/ドラマターグ:ソン・ウォンジョン/舞台:キム・スヒ/照明:マ・ソンヨン/衣装:イ・ユンジョン/小道具:ペク・へリン/ヘアメイク:イ・ジヨン/音楽:オム・ブレ/音響:チョン・ユンソク

写真提供:国立劇団、創作集団LAS


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イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.23

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.23

 

オ・ダルス主宰劇団3年ぶりの新作『キャベツの類』

近年は、出演作が次々と1000万観客動員を超える大ヒットを記録し「千万妖精(천만요정)」の異名をもつ、韓国映画界を代表する名バイプレイヤーのオ・ダルス。名優たちの例にもれず、彼も元々は演劇出身俳優です。いま最も忙しい俳優の一人である彼が、劇団を主宰していることは、おそらく日本ではあまり知られていないのではないでしょうか?

彼が主宰する劇団の名前は「蜃気楼万華鏡(신기루 만화경)」
このちょっと風変わりな名前をもつ劇団の俳優たちが3年ぶりに集まり、新作を上演します。6月15日から大学路のソンドル劇場で上演される『キャベツの類(양배추의 유례)』という作品です。
戯曲を書いたのは日本の作・演出家で、劇団「五反田団」を主宰している前田司郎。彼は小説家・ドラマ脚本家・映画監督としても活動しています。「脱力系作家」と呼ばれている彼は、観客の虚をつく発想で観客を笑わせる、独特な世界観を持っている作家です。
これまで『偉大なる生活の冒険(위대한 생활의 모험)』と『おやすまなさい(자지마)』(⇒コラム第14回で紹介)が韓国語に翻訳・上演され、彼の独特なユニークさは、特に若い観客からも支持されてきました。

「女」役のオ・ミンジョン(左)と「男」役のチョン・ジェソン

物語は、記憶を全部キャベツに取り出した「男」の話から始まります。「男」の前には、頭の中に青虫が住み着いて記憶が虫食い状態である「女」が現れます。そして二人の息子と娘のような「兄」と「妹」、彼らを威圧する「先生」が出てきます。そこで「先生」はいきなり来客を迎える準備を進むのですが、その客とは「神」です。「男」は「神」に、「女」の頭の中の虫を殺してほしいとお願いをして、とんでもない結末を迎えます。

「息子」役のパク・ギョング

もしかしたら全てが「男」の夢かもしれない、あるいは生々しい残酷な現実に対する隠喩かもしれないこの物語を演出するのは、今までは主に韓国の若手作家の創作劇を演出したユン・ヘジンです。

詩的な舞台言語を具現する演出家として評価されている彼女は、アルコ次世代演出家選定(2013)、有望芸術育成支援NArT支援事業選定(2014)、スタートアップ‐大学路芸術生態プロジェクト・アーティスト選定(2015)、ソウル芸術治癒ハーブ入居作家選定(2017)などで、こつこつと自分の作業を認められてきた女性演出家です。

今回彼女は、たった二つのブランコを置き、袖幕も無くした舞台装置が一切ない大胆な舞台を披露します。よって普段より舞台を広く使っているのですが、観客は、必然的に俳優に集中して目を向けることになるため、俳優にとっては非常に負担の大きい舞台になっています。
そんな舞台に立つのは、チョン・ジェソン(映画『朝鮮名探偵~トリカブトの秘密~(조선명탐정-감기투구꽃의 비밀)』、ドラマ『マスター・ククスの神(原題)(마스터-국수의 신)』、演劇『笑の大学(웃음의 대학)』)、チェ・ジェソプ(映画『国際市場で逢いましょう(국제시장)』『オールド・ボーイ(올드보이)』、演劇『ちゃんぽん(짬뽕)』)、イ・ソンヒ(映画『哭声/コクソン( 곡성)』、ドラマ『推理の女王( 추리의 여왕)』)、オ・ミンジョン(映画『明日へ(카트)』、演劇『カルメギ(갈매기)』)といった、映画・ドラマでも活躍中のベテラン俳優たち。加えて、小劇場演劇を中心にミュージカルなどの振付も担当しているパク・ギョング、新人のソン・ジェイク、キム・ユンジと若手俳優も登場します。

「先生」役のイ・ソンヒ

稽古初日から笑いが止まらず、俳優たちが滞りなくすらすらと戯曲を読んでくれたのが印象に残っていますが、具体的な空間や設定の説明もなく、ヒントになる舞台セットもないこの作品は、結局この俳優たちの力で説得力を築いていくことでしょう。客席の反応によって作品の様子も毎日変わっていくのではないかと思います。まるで生き物のような演劇『キャベツの類』を体験してみてほしいです。

最後に、初日を前に俳優たちと共に今ドキドキ、ハラハラしているオ・ダルスさんと演出家のユン・ヘジンさんがお忙しいなか、劇団設立秘話、そして新作の魅力を教えてくれました。貴重なミニインタビューをご堪能ください。


劇団「蜃気楼万華鏡」を主宰するオ・ダルス

●「蜃気楼万華鏡」とは、とても神秘的な名前の劇団だと思います。劇団を始めようと思ったきっかけを、教えていただけますか?
オ・ダルス:「それは簡単です!」
「作・演出家のイ・へジェさん(이해제 ※注)と十年間、一緒に演劇を作りながら、ほとんどの劇団が同じだと思いますが、演劇の本質にもっと近づける道とは、共同体意識だと考えるようになりました。“粉々になっている日常と様々な思いを「共に集めて遊んでみよう」”という素朴な気持ちで、2001年1月にイ・へジェさんが自分の部屋を整理して、小さな稽古場を作って、(彼自身が書いた戯曲のタイトルでもある)「蜃気楼万華鏡」が始まりました。
それから多くの作業と紆余曲折を経て、今の姿になり、生き続けています。素朴ですが、すごい勇気と決意が必要でした」

※注:イ・へジェは、近年演劇『TOC TOC』『キサラギミキちゃん』『笑の大学』などを演出。

●久々の新作は、日本原作です。なぜこの作品を上演しようと決められましたか?
オ・ダルス:「それは簡単ではありません!!」
「個人的な見解としては、日本は隣の近い国ですが、小さい情緒でも、それに接していく方式が私たちとは異なるので、興味が湧きます。些細な物語のなかに含まれているメッセージの深さが魅力的ですね。特に、作家の前田司郎さんの日常と非日常の間での綱渡りは、難しいけど、その倍、面白いです。
詳しくは、演出家のユン・へジンさんがより詳しく話してくれるでしょう!(笑)」

ユン・へジン:「何年か前に、韓日演劇交流協議会を通して前田司郎さんの『偉大なる生活の冒険』という作品の戯曲を初めて読みました。簡単に書かれているように思えて、スルスルと読むのもすごく楽でした。でも、戯曲を読み終えた後、決して簡単ではない堅固さを感じたんです。それから、前田さんの他の作品を読むことになりました。彼の戯曲には、一回夢中になるとなかなかそこから離れられないような魅力があります。作品の中に入ってみると、結局“私”の物語になるんです。
前田さんの戯曲は“今”を語っています。人や時間や物語など全部。今、“存在”しているものが舞台に並ぶんです。『キャベツの類』もそうで、まるで一人の男の“夢”でもあるように、バラバラに散らばっている記憶がこの物語の全てです。でも、単にそれは夢ではなく現実でもあるのです。
特に、日本の戯曲だからではなく、今の時代を表現する作家の言葉が私を刺激しました。人間が消えない限り、常に享有できる「人間の人生と時間に対する探求」がストーリーの背景にあります。その支点が「現在性」「同時代性」を備えています。彼の作品は、じっと自分に向き合う時間をくれます。このような前田さんの作品が韓国に紹介されたらいいなと思い、作品を準備することになりました。『キャベツの類』に登場する「男」が、どこか分からない空間を歩きながら、出会う誰かの記憶のように、私たちの記憶のひとかけらに記録されるために、今この作品に出会ったような気がします。
加えて、愉快でありつつも真摯な「蜃気楼万華鏡」の俳優たちが、その記憶のかけらをもっと堅固にしてくれることを楽しみにしています」


【公演情報】
演劇『キャベツの類』(양배추의 유례)
2017年6月15日~25日 大学路ソンドル劇場

<出演>
●男役:チョン・ジェソン
●女役:オ・ミンジョン
●シン役:チェ・ジェソプ
●先生役:イ・ソンヒ
●息子役:イ・ギョング
●娘役:キム・ユンジ
●店員役:ソン・ジェイク

作:前田司郎/翻訳:イ・ホンイ/演出:ユ・へジン/舞台:ソン・アルム/照明:ソン・ミリム/音声:ペク・インソン/衣装:アン・へウン/ヘアメイク:キム・グニョン/プロデューサー:イ・ユンジン

写真提供/取材協力:劇団「蜃気楼万華鏡」


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[PLAY]『思想は自由』作・演出家 キム・ジェヨプ インタビュー[後編]

[PLAY]『思想は自由』作・演出家 キム・ジェヨプ インタビュー[後編]

 

ジェヨプ夫妻と幼い息子との一場面。イ・ソヨン(左)とチョン・ウォンジョ(右)

●ドイツ演劇シーンの事情が良くわかりました。では、その経験をどのように作品に落とし込まれるのでしょうか?
「それがまだうまく行かなくて……今みたいに自分でしゃべれればいいのに(笑)」

●(笑)。作品資料には「コメンタリー形式」にすると書いてありましたが、どんな感じですか?
「映画のDVDなどを見ると、監督や俳優が、あのシーンを撮ったときにはこうだった、みたいに副音声でコメントをするのがありますよね。それと似た感じで、2015年に起きたことに対して、距離を持ってコメントをしてみるのです。今回も(『アリバイ年代記』などと同様に)ジェヨプというキャラクターがいて、またチョン・ウォンジョがジェヨプを演じます。もう彼とは生涯契約しないといけませんね(笑)。彼が旅をするシーンを見せながら、コメントをしていくスタイルです。あとは、ドイツ人の俳優も出演するんですが、ドイツ語でセリフを言ったあと、いきなり韓国語で、これはこういう意味です、と教えてくれたりもします」

チョン・ウォンジョ(右)は、キム・ジェヨプ作品にはジェヨプ役、もしくはナレーター役で必ず登場する

●チョン・ウォンジョさんは、キム・ジェヨプ作品には欠かせない存在ですね。見た目などは全く違うイメージですが(笑)、ペルソナとも言われています。彼をいつも起用する理由を教えていただけますか?
「まず、観客の反応が良いですね。興行にとても役立つ人です(笑)。実は、大学時代から友達なんです。昔『朝鮮刑事ホン・ユンシク(조선형사 홍윤식 2007年作)』という作品でも一緒にやったことがありましたし。実は『アリバイ年代記』を作る前に、ウォンジョ君が何年か演劇をやめていた時期がありました。ある日、2年ぶりくらいに偶然劇場で会って、“いま何やってる?”と聞いたら、“何もやってない”と言うんです。当時は制作の仕事や地方の仕事もしていたようで。ちょうどそれが『アリバイ年代記』を上演する1年前くらいだったので、彼をキャスティングしようと決めました。父親役にはナム・ミョンリョル先輩をキャスティングしていたので、彼も格好いいから血統を考えると息子も格好良くないと、と思って(笑)。
チョン・ウォンジョが持っている最大の魅力は、真摯すぎる部分を少し薄めてくれるところです。僕もそういう意味でウォンジョ君と似ていますが、社会批判的な話をするとき、重くなったり、悲壮になったり、啓蒙的な態度になってしまうのが大嫌いです。そうなりそうな話を軽くて楽しいものだと考える感覚を、ウォンジョ君は持っているんです。
個人的な話ですが、ウォンジョ君は今、緑の党(녹색당)の党員です。彼自身が自分のやり方で、個人主義的な方法で、生活政治を実践しているんですね。その態度も僕とよく合うと思います。そして親近感と彼が持っている魅力ですかね。とても魅力的な人ですね」

淡々としていながらも、印象的な低音の声と存在感が光るチョン・ウォンジョ

●ウォンジョさんは、何もせずただ舞台に立っているだけでも、すごく雰囲気がある方ですよね。
「そうなんです。舞台上に立つ演技、人の話を聞いている演技、どこかを眺めている演技は、天才的です!(笑)。彼みたいにナレーターを務めてくれる俳優はあまりいないです。俳優は緊張したり、表現欲求があるから、自分が知っている以上のことを入れやすいですね。でも、ウォンジョ君はまずそういう性向ではないし、人の話をよく聞いて自分化する能力を持っているんです。元々学生の時からそうでしたし。だからとても信頼する俳優です。あと、今が演技の黄金期です。最近の出演作で、彼の俳優人生に残るような演技を何回か披露して、もうルネサンスですね(笑)。僕と始めたころは最悪の状態で出会ったのに(笑)」

●シーンスティーラー的存在の、チ・チュンソンさんもよく出演されますね。彼の魅力は何だと思いますか?
「彼は、懐がとても広い人です。権威的ではなく、深さとサイズを両方持っている人です。表現方式はとても堅実です。何よりも話術。年齢的には大先輩なのですが、彼の世代の演劇では、そんな話術で演技をする人はほとんどいなかったです。とても演劇的なしゃべり方、演劇的なエネルギーがたくさん入った演技をしたんですね。なのに、彼はとても現代的なんです。全ての点で僕とよく合いますし。今回はすごいアクション演技を見せますよ。期待しててください(笑)」

ハ・ソングァン(右)は、2014年にはキム・ジェヨプが演出し、ドゥサンアートセンターで上演した『背水の孤島』に出演した

●コメンタリー方式ということは、劇中で映像を使われるのでしょうか?
「映像をたくさん撮ってきました。2015年にもたくさん撮ったんですが、それは主に作品の材料になって、今年1月に3週間くらい、必要な部分を撮りに行ってきました。今回は実際に舞台で流せる風景を主に撮ってきたので、映像はたくさん使う予定です。観客と一緒にドイツツアーする感じにしたいと思います。異国の風景、例えば、カフェの映像があって、カフェの前を通る人たちも映っていて、それを見ていたらまるで自分がその場所に来ているような気分になるように、です」

●『思想は自由』というタイトルだけに、大統領選挙が終わったいま、この作品が上演される特別な意味もあると思います。
「2015年にこの作品を書いたときには、ベルリンでとても幸せな時間を送っていました。でもそのころ韓国では悪いことばかりで。MERS(マーズ)もありましたし、セウォル号事件から1年経っても何も解決できていなかったし、演劇界も…。僕はとても気楽に過ごしていたので、Facebookなどを通してでも、一所懸命に活動をしたいと思っていましたが、妻が言うには韓国に戻る前には暗く、気力もなくなり、うつ病みたいになってたと。帰りたくないんだなと(笑)。
1年間、ベルリンで暮らしながら150作品ほど演劇を見たんです。でも、それにくらべると整理はうまく出来ていない状態でした。韓国に戻って向かい合わねばならない状況が悲惨でしたし、『検閲-彼らの言葉-』の準備もしなければならなかったからです。でも2016年、17年と、時間が経つにつれ、今は稽古をしながら、どのように距離を調整するかを探っています。演劇は同時代的でないといけませんので、今の観客にどのような意味を持つか、その視線で、稽古をしつつ台詞を修正しています」

稽古中も以心伝心という感じの二人

●稽古では俳優と一緒に創りあげている感じですか?
「はい。稽古では僕があるシーンの説明をするんです。すると俳優から、今僕が話した内容が台本にはないと言われるんです(笑)。おかしいな、でもこのシーンはこのように書かれているんだと、僕が言うと、じゃぁ、と反応が来るんですね。特にチョン・ウォンジョは、僕の頭の中が見えているような気までするんです。“ここであの話をしないといけない。この台詞を入れよう”とか。“この台詞は早すぎる、もっと後で語ることにしよう”とか。それで僕は“あの時点ではこう感じた”と言い張ると、彼は“物語の流れを考えると後の方が良い”と言う。それで結局後にすると決めたら、今回はなかなか台詞を入れるタイミングがない。“じゃあ、お前が決めてくれ”と(笑)。こんな風に、対話し続けています。何でウォンジョ君といつも一緒にやっているか、その理由を考えると、彼とは演劇を作る方法が共有できているからだと思います」

●ウォンジョさんはもはや分身みたいな存在なんですね(笑)。
最後に、日本公演のお話を伺いたいです。特に昨年は、検閲などの問題に焦点が当たるあまり、作品自体の魅力がうまく伝わっていない印象も受けました。日本の演劇人とはどんな交流をされましたか?
『アリバイ年代記』(2015年)も『検閲-彼らの言葉-』(2016年)も同じ上野ストアハウスという劇場で上演しました。『背水の孤島』の原作者、劇団TRASHMASTERSの中津留章仁さんの作品と二本立てで上演したんです。
『アリバイ年代記』を見て、『検閲-彼らの言葉-』を見てくださった観客は、これが同じ脚本家の作品なのか! と驚いたようです(笑)。よく見ると似ているんですけどね。
やっぱり日本の観客には、今の韓国の現実に直接反応をしていることが衝撃的だったようです。評論家の西堂行人先生も見に来てくださって、日本はいま自己検閲が内面化されているため、韓国と本質的な状況は変わらないのに、それに対応する方式が確実に違うと、おっしゃっていました。
韓国の演劇人たちが光化門広場に作ったブラックテントも、日本のアングラ世代、つまり60~70年代の学生運動の時に日本では黒テントがあったんですね。ただ、その時日本は世界史的な流れと同時に動いたんです。68革命(フランスで1968年に起きた「五月革命」)もありましたし。

ユ・ジョンヨン(左)は、カン・エシム(右)扮する在独韓国人スンオクと親しい日本人ジャーナリスト「ツカサ」役で登場

韓国は20年くらい後の80年代にそういう動きがあって、最近またそれがフラッシュバックして朴槿恵まで至り、いま新たに変化しているところです。このように韓国が持っている力動性、そしてその力動性が演劇に反映されることに興味を持ってくださっていると思います。ちょうど劇団コルモッキルのパク・グニョン先輩が僕が日本に行く1カ月前にフェスティバルトーキョーで『哀れ、兵士』を上演したこともあって、より関心が高かったと思います。日本では検閲がないと思っていたけど、韓国と同じだ、似ているとおっしゃるんですよ。安倍も朴槿恵も。細かな部分では違うでしょうけど、韓国ではあまりにも問題が出てきましたから。韓国では日本に比べると韓国人は市民革命に対する記憶や想像力を持っていますから、それを舞台に再現させる方法もより積極的なんでしょう。劇場の方々ともたくさん話しましたが、確かに、日本が韓国に興味をたくさん持っていることを知りましたね」

*     *     *

本公演の模様 ©ドゥサンアートセンター

おそらく日本の舞台ではなかなか見られないやり方で、今も自分の演劇を作っているキム・ジェヨプさん、そして彼の素敵な仲間たちである俳優とスタッフ。幕が上がる前から既に話題作となっていた『思想は自由』が、また海を越え、日本で上演されるかも? と期待しながら、愉快なインタビューを終えました。彼の3年ぶりのドゥサンでの新作上演に、皆さんも足を運んでみてください。

⇒キム・ジェヨプ インタビュー[前編]へ

⇒『思想は自由』作品紹介コラムへ

取材・文:イ・ホンイ 取材協力:ドゥサンアートセンター

[PLAY]『思想は自由』作・演出家 キム・ジェヨプ インタビュー[前編]

[PLAY]『思想は自由』作・演出家 キム・ジェヨプ インタビュー[前編]

 

ジェヨプ役のチョン・ウォンジョ(右)と、在独韓国人イ・サンボクを演じるハ・ソングァン(左)

稽古ではシーンごとにフロアに出向き、俳優の立ち位置や動きを決めていた

●まず、作品の舞台であるドイツに行かれることになったきっかけを教えてください。
「大学で“研究年”というのがあります。6年大学で教授として勤務すれば、1年休ませてくれる。韓国の大学にはこのような制度があります。それで、1年くらい海外で暮らしてみたいなと思ったんです。旅行は行ったことあるんですが、海外で暮らした経験はなかったので。今回は、ベルリン芸術大学から訪問教授として研究員ビザが出て、妻と息子と一緒にベルリンで一年間過ごせました」

●演劇の本場であるイギリスやアメリカではなく、なぜドイツに?
「2回ほどベルリンに行ったことがありました。最初に行ったのは、あるリサーチプログラムがあって、僕は演劇担当者として10日くらいベルリンに行き、いろいろと調べる仕事をしました。あの時、やっぱりここは違うな~と感じられたんです。リサーチをするために行ったので、報告書も書かなければならなかったのですが、その経験を経て僕に合う場所だと思ったし、もっと知りたいと思いました。その後、ドゥサンアートセンターで2014年に演出した『背水の孤島』が終わってすぐドイツ語が勉強したくて行ってきました。実は、高校のときに第2外国語もドイツ語だったんです。みんな留学は英語圏によく行くんですが、最近アメリカ演劇は、新しいというか前世代を超える何かが出てこないんですね。イギリスも戯曲はいいものがたくさん出ていますが、演劇を作ることにおいては自由ではないというか、演劇が公共的な産物である認識があまりないんです。でも、ドイツに行ってみたら、社会が力動的に動いているように見えて、演劇とか公共性のシステムが互いに影響を与え合いながら動いていたので、演劇人は自分の仕事に対して公共性、つまり公的なサポートを受けて作品を作っていることをちゃんと考えていたのが印象的でした」

街の壁にはいたるところでさまざまなストリートアートが。ストリートミュージシャンも多数 ©ドゥサンアートセンター

●ドイツでは、韓国の演劇とはどのような点が違いましたか?
「リサーチプログラムの時に色々と分かったんですが、首都ベルリンには、公共劇場が50館くらいあるんです。ベルリンだけで、です。もちろん、演劇だけではなくてオペラなども上演できる公立劇場ですね。その劇場を回りながら、いわゆるメジャーな作品を見たんです。でも、今度は実際に暮らしながらマイナーな作品も見始めたんです。すると、マイナーな作品は地域的な特性がとても強い。韓国は大学路とか明洞みたいに、スポットがぎゅっと集まっているんですね。一方ドイツは、地域ごとにコミュニティーが形成されているんです。例えば、旧東ベルリンの国境地帯は少数民族や貧しい人々が住む危なくて汚いところで、移民の地域なんです。それがベルリンの壁崩壊後、統一されてからそこに芸術家が暮らすようになり、新しくよみがえったんです。芸術家がいろんな役割を果たしているから、地域政府や国家もたくさん支援をしていました。

ジェヨプが妻とイベントを見に出かけるシーンも (写真左から)ユ・ジョンヨン、イ・ソヨン、チョン・ウォンジョ

今も、ノイケルン(Neuköln ※地名)辺りに行くと、しまった、来なければ良かったと、一瞬思うのですが、それでも昔に比べるとずいぶん変わりました。劇場もあるし、子ども博物館もある。そのなかの上演作を見てみると、例えば、オペラを作っても「オペラ」ではなく、「ノイケルンオペラ」と呼びます。自分たちは、オペラを良く知らないから、正統派のオペラは作れないと言って、独自のオペラを作るんです。劇場に行くと、クーラーもないから扇子を配っていて(笑)。でも見てみるといい作品なんですよね。とてもオルタナティブで、韓国で言うなら、アングラミュージカルみたいな感じで。ドイツではミュージカルという呼称は海外のライセンス作品を指すようで、彼らが作る作品は“音楽劇”と呼んでいました。
それにノイケルンという地域の特性を生かす芸術家が多いです。なぜかというと、芸術監督たちが移民2世だからです。歴史的に見ても、ベルリンには移民の労働者が多いのですが、その人たちはベルリン人、ドイツ人にならなければという意識もあまりなかったです。ドイツはヒトラー/ナチスの時代があったので、誰にも全体主義を強要してはいけないことをよく知っていますから。だから、多文化コードを生かした方が、より自分のアイデンティティとか競争力になると見ているんです。

劇中ではドイツ人俳優も登場。フィリップ・ヴィンディッシュマンは一人多役で登場する

それから、クロイツベルグ(Kreuzberg)辺りもアンダーグラウンドですね。ここで成功した芸術監督がマクシム・ゴーリキー劇場(Maxim Gorki Theater)の芸術監督としてスカウトされている。この劇場はドイツで最もメジャーな観光客が一番よく行く劇場ですね。以前行ったときにはとても古い印象を受けたんですが、新しい監督になってからは、かなり変わりました。彼は今はまたシャウビューネ(Schaubuehne)という劇場に移ったのですが。
とにかくドイツで分かったことは、アンダーグラウンドでうまくやっていけば、アンダーグラウンド的なハードウェアやソフトウェアをそのままオーバーグラウンドに持っていけることです。それが同時代のイシュー(話題)であり重要な作品なので。アンダーとオーバーの世界が区分されていないことでしょう。公共劇場の芸術監督たちが集まって国の政策を批判する記者会見を開き、宣言文を読み、デモしに行くんです。この人たちみんな税金もらって働いている人たちです。それが、韓国ととても違うなと思いました。

移民差別反対集会に参加している父娘 ©ドゥサンアートセンター

ベルリンに行ってみたら、すべての劇場が公立で、公共性を持っていて、彼らは今の政策の話をしていました。ドイツ座(Deutsches Theater)は、最も保守的な劇場なんですが、帰国する前にその劇場でドラマターグ協会が開くフェスティバルがあって行ってみたら、演劇人が政治的に何をするべきかについて5日間カンファレンスや公演をしていたんです。
よく見ると、すべての劇場が政治的な演劇をやっているようでした。それで“何でみんな政治的な演劇をするのか?”と聞いてみたら、“政治的な演劇をやらないと何をするんだ?”と言われました。もちろん、商業劇をやっている劇場もあるんですが。要は、彼らは政治的なイシュー、今一番問題になっているイシューを扱って作品を作るのが自分たちの義務だと思っているようでした。公共劇場で、旬の話題を扱う作品をやらないのは無責任だと思っているんでしょう。
公共劇場も、韓国の公共劇場よりずっと汚れています。なぜかというと、シャウビューネやドイツ座みたいな権威ある劇場に行っても、朝から子どもたちが遊んでいるんです。昼間には町の人たちが講演、朗読会、出版記念会などで使っていて、夜にはプロ劇団が使います。とても有名な俳優も地域の住民のためにワークショップをしないといけません。国立団体に所属する俳優は、契約期間の間、例えば5年間は外部の仕事は絶対してはいけません。出演料とは別に月給を400万ウォンくらいもらいますから。あと、終演後には俳優は観客と一緒にビールを飲むんです。義務ですね。地域ととても密接な関係なんです」

(写真左から)ジェヨプの妻ソヨン役:イ・ソヨン、スンオク役のカン・エシム、ナギョン役のキム・ウォンジョン

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取材・文:イ・ホンイ 取材協力:ドゥサンアートセンター

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.22

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.22

 

キム・ジェヨプのドイツ体験記 『思想は自由』

5月23日からドゥサンアートセンターSpace111で、韓国演劇界を牽引する気鋭の劇作家、演出家キム・ジェヨプの新作演劇『思想は自由(생각은 자유)』が開幕しました。このタイトルはドイツの民衆歌謡「Die Gedanken sind Frei(思想は自由)」から借りてきたそうです。

この作品には「キム・ジェヨプ」を演じる俳優が登場し、実際に彼が2015年に一年間過ごしたドイツでの出来事を舞台で再現しながら、またそのときの記憶について語っていきます。ベルリンという都市、ドイツの演劇界、そしてそこで出会った韓国人の生活を舞台上に並べ、それらを通して今の韓国を客観的に見ようとした作品です。

新作が常に注目を浴びるキム・ジェヨプ

まるで私小説を連想させるこのような劇作術は、いつしかキム・ジェヨプを代表するものになりました。2013年に初演し、代表作となった『アリバイ年代記(알리바이 연대기)』は、彼と彼の父親の人生を描きながら、彼らが出会ってきた歴代大統領の話を、まるで目で見るエッセイのように表現した作品でした。また、去年発表した『検閲-彼らの言葉-(검열언어의 정치학: 두 개의 국민)』は、韓国演劇界に衝撃を与えた検閲問題に対し、関連した人々の言葉をそのまま集めて作りあげたものでした。
これら日本でも上演されて好評を得た作品や、韓国の近現代を生きた詩人キム・スヨン(김수영 1921-1968)が書いた詩の題名をそのまま使い、自分の中のキム・スヨン探しを試した『なぜ私は小さなことだけに憤慨するだろうか(왜 나는 조그마한 일에만 분개하는가)』など、彼の多くの作品が同様の形式で作られています。
ごく個人的な話をしているのに、作品全体が持つテーマはいつも社会的で政治的であるため、彼の作品は決して「私」的な物語という印象より、一種の「公」的な歴史のような印象を観客に与えます。そのため、よく「ドキュメンタリー」的だと説明されるキム・ジェヨプの作品は、実際に作品の素材だけではなく表現方法においてもドキュメンタリーのような作品が多いのです。

待望の新作だけに、すでに残席が少ない回もあるという『思想は自由』。台本の最初のページには、「演劇じゃなくてもいい演劇」と書いてありました。一般的な演劇の形式から離れた作品になりそうで、今回は、彼のどんな体験が描かれるのだろうか? と多くの観客に期待されるなか、開幕前の稽古場を訪ね、創作の背景を伺いました。

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【プロフィール】
キム・ジェヨプ(김재엽 Kim Jae-Yeoup)
劇団「ドリームプレイ テーゼ21」代表/世宗大学映画芸術学科教授
1973年大邱生まれ。98年に『9つの砂時計』で韓国演劇協会創作劇公募に当選。02年には『ペルソナ』が韓国日報 新春文芸に当選し、若手劇作家として頭角を現す。同年、故パク・クァンジョンが代表を務めた劇団「パーク」の創立メンバーとして参加し、『チェックメイト』を作・演出して演出家としても始動。03年に劇団の前身となる「ドリームプレイ プロジェクト」の活動をはじめ、05年には劇団「ドリームプレイ」を創立。劇団第1作の『幽霊を待ちながら(유령을 기다리며)』はゴチャン国際演劇祭大賞と演出賞をW受賞した。以降も『誰が大韓民国の20代を救うのだろうか(누가 대한민국 20대를 구원할 것인가?)』(09年)、『ここ、人がいる 여기, 사람이 있다』(11年)など演劇賞の受賞作も多く、新作戯曲は常に注目を集めている。13年に初演した『アリバイ年代記』は最も歴史ある東亜演劇賞の作品賞と戯曲賞を受賞。韓国演劇評論家協会「今年の演劇ベスト3」、月刊「韓国演劇」の「今年の演劇ベスト7」に選ばれるなど、主要な演劇賞を総なめした。
また11年には蓬莱竜太原作『まほろば(마호로바)』、14年には中津留章仁原作『背水の孤島(배수의 고도)』など、日本作品の演出も手がけている。
●劇団「ドリームプレイ」公式Facebook https://www.facebook.com/theaterdreamplay/


【公演情報】
ドゥサン人文劇場 2017:葛藤 Conflict
演劇『思想は自由』(생각은 자유)

2017年5月23日~6月17日 ドゥサンアートセンターSpace111

<出演>
●スンオク役:カン・イェシム
●ジョンホ役:チ・チュンソン
●イ・サンボク役:ハ・ソングァン
●ジェヨプ役:チョン・ウォンジョ
●ソヨン役:イ・ソヨン
●ツカサ役ほか:ユ・ジョンヨン
●コ・ナギョン役ほか:キム・ウォンジョン
●クォン・ユンビ役ほか:パク・ヒジョン
●インカ役ほか:ユン・アンナ(Anna Rihlmann)
●キュレーター役ほか:フィリップ・ヴィンディッシュマン(Philipp Windischmann)

作・演出:キム・ジェヨプ/美術:シン・スンリョル/照明:チェ・ボユン/音楽・音響:ハン・ジェグォン/小道具:イ・スビン/人形作家:キム・ギホン/衣装:オ・スヒョン/ヘアメイク:イ・ジヨン/映像撮影:イム・ソンア/映像:ユン・ミンチョル

取材協力:ドゥサンアートセンター


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[Special Interview]イ・スンジュ【前編】

[Special Interview]イ・スンジュ【前編】

 

『M.Butterfly』『ガラスの動物園』『セールスマンの死』など、なかなか大劇場では演劇が上演されない韓国で、中劇場以上の大きな舞台に立った経験が多いイ・スンジュは、キム・グァンボ、ハン・テスクという、韓国演劇界の巨匠演出家が手掛けた作品への出演が非常に多い俳優です。舞台俳優は二つ以上の作品に掛け持ちで出演したり、芸能事務所に所属してドラマや映画界に進出することが、決められた成功の道のように思われていますが、そんな中、マイペースを維持している珍しいスターでもあります。彼はいま何を考え、何を目指しているのか? 現在出演中の『セールスマンの死』の公演を終えた彼と気楽に食事をしながら、韓劇.com初の“モクバン”(먹방=食事をする様子を見せる(放送する)という意味の流行語)スタイルでお話しを伺いました。

*     *     *

●『セールスマンの死』今日もお疲れ様でした! この作品は昨年に続き再演となりますが、今回はいかがですか?
「戯曲自体が古典ですし、発表されてから長い時間が経っていますが、世界中で上演され続けている文学的な価値もある作品ですね。やはりそうなる理由があると実感しています。抜け目がない。よく書かれている戯曲なんだなーと。俳優としてそんな作品に出演するのはプレッシャーも大きいです。最近書かれたオリジナル作品だと、俳優それぞれの個性を付け足したり、自分の呼吸でやっていけるんですけど、このような古典は長く上演されながら、正解のような何かが形成されているじゃないですか。それが難しいと思います」

※注:『セールスマンの死』は、アメリカの劇作家アーサー・ミラーが1949年に発表した代表作。かつては敏腕セールスマンだったが、今では昔のような成果を出せなくなった63歳のウイリー・ローマンが、家族の問題や過去の幻影に悩まされ続ける。イ・スンジュは、高校時代にドロップアウト後も定職に就かず、父親の期待に応えられないことに葛藤するローマン家の長男ビフを演じた。

老いたセールスマン、ウイリーは息子ビフとハッピーの将来に期待していたが…。『セールスマンの死』2017年公演写真より ©芸術の殿堂

●このハン・テスク演出版は、昨年の初演からとても好評でした。今回の再演で変わった点はありますか?
「初演のときは、ウイリーの頭の中を連想させるオブジェが吊られていました。ウイリーの自殺と同時にそのオブジェが落ちたんですが、今回はそれが無くなりました。あとは、初演の時はもっとウイリーの異常行動とか彼の精神的なものにフォーカスを当てていたとしたら、今回は、息子のビフとハッピーの彷徨や苦悩にもっと注目しているんです」

ビフはアメリカンフットボールに熱中するなど、華やかな学生時代を送っていた。 『セールスマンの死』2017年公演写真より ©芸術の殿堂

●スンジュさんがアメリカンフットボールの防具をつけて快活に登場する学生時代の回想シーンと、その後苦悩するビフのギャップが印象的でした。
「日本でも似ていると思いますが、最近韓国は若年層の失業問題など、とても深刻な状況ですから。初演を見た多くの観客が、(親の期待に応えられずにいる)ビフとハッピーの兄弟にとても共感してくださったそうです。この作品を見て、自分の生活を振り返ってみた方も多いと思います。それで演出のハン・テスク先生も、新しく若者にフォーカスを当ててみる方向を提案してくださいました。でも、僕ら若手が演じるキャラクターの台詞を変えたり、何かを変えたわけではないんですよ。もっと切実に演じる、というか、演じ方を変化させた感じですかね」

成人後、父の期待に反して定職に就けずにいるビフ。やっとこぎつけた就職の面接を受けてもうまくいかない。『セールスマンの死』2017年公演写真より ©芸術の殿堂

●スンジュさん=生粋の演劇俳優のイメージがありますが、意外にもKBS公開採用俳優(テレビ局の専属俳優制度。現在は廃止されている)として活動を始めたそうですね。
「あの頃は、演劇のオーディションを受けても落ちてばかりで、そもそも演劇は劇団による上演が多かった時期でした。劇団に入るためには人脈も必要でしたし。演技したいのにできないので、KBSのみならず、とにかくオーディションがあったら全部書類を出してみました。その中でたまたまKBSに受かっただけです。特にドラマをやりたいと思ったわけでもなくて。同じころ演技塾の講師にも応募していたんですよ。今すぐ役者になれないなら、役者みたいな仕事をしようと。全く違う仕事をするよりはマシだと思ったんです。それで講師、モデルまで、全部書類を出しました。KBSに受かって、3カ月くらい研修を受けたんですけど、合わないなーと思ってやめました(笑)。俳優の活動として一番いいのは、ジャンルを問わず力量を発揮することですが、僕には演劇が最も合っていると思います」

●KBSドラマ「ザ・スリングショット~男の物語~」と「パートナー」に出演歴があります。
「それは研修の時ですね。採用されると最初に研修期間があるんです。だから義務的に出演した研修作品で、正式な出演ではなかったです。出演しないと修了できませんので。その後『ブレイン』という医療ドラマにも出演しました」

●最近、映画にも出演したそうですが、どんな作品ですか?
『悪女(악녀)』(⇒NAVER映画情報)という映画です。ちょっとだけ出るんですけど。『殺人の告白(내가 살인범이다)』『俺たちはアクション俳優だ(우린 액션배우다)』のチョン・ビョンギル監督の映画です。主人公の殺し屋スッキを演じるのがキム・オクビンさんで、彼女が悪女になる原因は、ある男のせいなんですが、その男ジュンサンを演じるのがシン・ハギュンさんです。僕はチュンモという彼の右腕の役です」

●右腕ということは、ヤクザみたいな役ですか? スンジュさん、全然悪い男には見えないのに!?(笑)
「逆に、だから監督が興味を持ってくれたと思うんです。悪そうに見えない人に、こんな役を演じさせようと。それは僕も同感します。勿論、映画の場合は、演劇やドラマとも違って、一瞬で、ある人物を説明しなければなりませんよね。それでキャスティングに俳優のイメージが大きな影響を与えるのだと思います。特に韓国では見た目でいい人っぽい、悪い人っぽい、みたいな。すぐ分かるようにです。
でも、監督さんは、そういう典型的なイメージでキャストを決めるのが面白くないと判断されたと思います。元々、常に新しさを求める方ですので。やっている行動が悪いだけで、見た目まで悪そうな人が演じる必要はないと」

●じゃ、衣装とかもチンピラっぽく…?(笑)
「そうですねー黒い服着て…(笑)。なんでいつも悪党は黒い服を着るんですかね? むしろ映画とかテレビは、そういう偏見というか慣習みたいなのを持っている気がします。もっと新しいことをどんどんやっていかないといけないのに、ひどいと思います。勿論、最近は多様なコンテンツが生産されていますが」

素顔は穏やかなスンジュさんが悪い男(?)に変身!?

●普段のイメージと全く違うキャラクターを見られるのはとても楽しみです!
「公開されたら海外に逃げようかと思っているんです(笑)。僕は演劇が一番好きですが、演劇が一番好きだといえるのは、演劇と映画は違うという意味が含まれているからです。映画はやっぱり違うんです。感情を表現する演じ方も、話術も違うし。今こんな風にしゃべっている声より、もっと小さな声で話しても、息をする音まで伝わりますから。むしろ小さくしゃべったほうが、もっとエネルギーが伝わったりもするんです。僕は大学で演劇映画学科を専攻しましたけど、学校ではこういうことを教えてくれません。だから、そういうコツを知る方法は、経験のみです。その経験を、僕は短編映画ではなく、最初からいきなり商業映画でやったのですから。現場で初めていろいろ経験して、僕はまだまだだなと……あー、演劇がいいです。だから海外に逃げようかと思ったんです。(笑)冗談です。とてもいい経験でした(笑)」

●映画は、今回が本当に初めて?
「大学の時、同期の卒業作品に一回出演したことがあります。友達同士で楽しく撮ったもので。あれはまぁ、独立(インディーズ)映画とでも言えない…ワークショップみたいなものでした」

●これからは映画やドラマなど、映像でも活動したいですか?
「機会があれば……。でも、今回映画を撮ったのは本当に偶然で、実は映画出演は一度も考えたことがなかったです。良い俳優になれば、40、50、60歳になっても、必ずどこからか呼ばれると思うんです。やはり舞台上でやり続けた力は無視できないと思います。『セールスマンの死』で僕の母リンダを演じているイェ・スジョン先輩も、最近はドラマや映画で活躍されています。先輩は30~40代の頃は、わざとテレビや映画の仕事はしなかったそうです。ドラマに先輩が出演されているのをたまに見たりすると「あ! お母さんだ!」と、画面に見入るんですが、先輩は何もせず、ただ息をしているだけでも、すごい存在感を表現できるんです。それは、舞台で作られた力だと僕は思っています。先輩のように、上手く演れたらいいなと思っていますが、僕はまだ、それを挑戦するには早いですね。自分のカラーを見つけ出せる日が来たら、僕がカメラを見るだけでも何かを伝えられると思います。だから、まだ、映画の出演とか興味がなかったんです」

●では、『悪女』にはどうやって出演することになったんでしょうか?
「監督が演劇を観て、連絡をくださったんです。周りからは理解してもらえなかったですが、実は最初は断ったんです。でもとても情熱的な監督で、彼といろいろとお話をしたら、この方なら、まだ未熟な僕がぶつかってみてもいいのではないかと思いました。結果が良くなくても仕方ないと。そう信じるように、監督が声をかけてくださいました」

●最近は演劇俳優が出演するテレビドラマもどんどん増えていますよね。
「ドラマのディレクターがよく劇場に足を運んでいるそうです。でも舞台俳優も、もっと賢くなる必要があると思います。自分がうまく発散できるものは何か。下手したら消耗するだけで終わってしまう可能性もあるんです。舞台でずっと築いてきたものが、テレビ画面の中ではある種の類型として使われてしまうかもしれないのです。
演劇とは……僕にとっては最高の芸術なんです。ほとんどの人の目には、演劇というと“辛い”というイメージがあって…。そうですね。確かに辛いし、厳しい道です。でも自分の信念を持って、自分が本当に舞台の上で地球を、宇宙を作るんだと信じてやっていけたらいいなと思っています。こんな舞台を作る俳優が何人かいた方が良くないか? そんな俳優が僕だったらいいなと。とても良い機会があって、タイミングもちょうど合って。僕もやりたいと思った時には、テレビや映画に挑戦すると思いますが、それが今ではない気がします。一度経験してみたから、もっと演劇を頑張らなきゃ。
でも、よく考えてみてください。今回映画に出演できたのも、僕が演劇をやっていたから可能だったことですよね? だから僕はずっと舞台やらないといけません」

*     *     *

演劇について話し出すと止まらなくなるほどの愛と情熱を傾けていることが伝わってきたスンジュさん。自身の演技をとても謙虚に評価していた映画『悪女』は、5月に開催される「第70回カンヌ映画際」に公式招請作として選定され、大きな注目を集めています。韓国での公開日はまだ決まっていませんが、大きなスクリーンに映るスンジュさんを見る日も遠くありません。期待しましょう!

⇒インタビュー後編では、俳優イ・スンジュの意外な!? 学生時代と将来の夢などを伺います。


【公演情報】
演劇『セールスマンの死』
2017年4月12日~4月30日 芸術の殿堂CJトウォル劇場

<出演>
●ウイリー・ローマン役:ソン・ジンファン
●リンダ・ローマン役:イェ・スジョン
●ビフ・ローマン役:イ・スンジュ
●ハッピー・ローマン役:パク・ヨンウ
●チャーリー役:イ・ムンス
●ベン役:イ・ナミ
●バーナード役:イ・ヒョンフン
ほか、ミン・ギョンウン、イ・ファジョン、キム・ヒョンギュ、チェ・ジュヨン

脚色:コ・ヨノク/演出:ハン・テスク/ドラマターグ:キム・テギョン/振付:クム・べソプ/音楽監督:ジミー・サート/衣装:キム・ウソン、チョン・ヨナ/ヘアメイク:ペク・ジヨン/小道具:キム・サンヒ/映像:キム・チャンヨン/照明:キム・チャンギ/技術:ユン・デソン/音響:ハン・グクラン、イ・ガンジン/助演出:キム・ソヒ、クン・ジョンチョン/舞台監督:ソン・ミンギョン


取材:イ・ホンイ/さいきいずみ 文:イ・ホンイ 撮影:キム・ジヒョン

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