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イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.16

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.16

 

ハムレットとして生まれ、ジュリエットを夢見る女『ハムイク』

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キム・ウンソン脚本家 ©ドゥサンアートセンター

今回は、今月、韓国演劇界で最も注目されている人を紹介したいと思います。劇作家キム・ウンソンです。彼の新作『ハムイク(함익)』(演出:キム・グァンボ 김광보)が9月30日から世宗(セジョン)文化会館Mシアターで、そしてもう一つの新作『サンシャインの戦士たち(썬샤인의전사들)』(演出:ブ・セロム 부새롬)が9月27日から、ドゥサン・アートセンター スペース111で上演されるからです。2作とも評論家と観客の両方から今月最高の期待作と言われています。

話題の主人公キム・ウンソン(김은성)は、1977年生まれ。2006年『シドン仕立て店(시동라사)』でデビュー以来、『スヌ伯父さん(순우삼촌)』(2010)、『延辺母さん(연변엄마)』(2011)、『月の国連続ドラマ(달나라연속극)』(2012)、『ロプンチャン流浪劇場(로풍찬유랑극장)』(2012)、『木蘭姉さん(목란언니)』(2012)、『ぐるぐるぐる(뺑뺑뺑)』(2014)等々、数多くの話題作を発表してきた劇作家です。特に、脱北して韓国に来た女性を主人公にした『木蘭姉さん』は日韓演劇交流センターが主催する「韓国現代戯曲ドラマリーディング」(2015年1月 世田谷パブリックシアター シアタートラム)で、日本語朗読上演され、両日満席を記録するほど日本の観客からも多くの支持を得ました。この『木蘭姉さん』のように彼のオリジナル戯曲も高く評価されていますが、彼が最も得意とするのは、西欧の古典戯曲を現代韓国社会に置き換え、緻密でユーモア溢れる脚色バージョンを書き上げることです。チェーホフの『ワーニャ伯父さん』を『スヌ伯父さん』に、リュボミル・シモヴィチ(Ljubomir Simovic)の『ショパロヴィチ流浪劇団(The Traveling Troupe Sopalovic)』を『ロプンチャン流浪劇場』に、テネシー・ウィリアムズの『ガラスの動物園』を『月の国連続ドラマ』にと、有名な原作を全く新しい作品に変身させる奇抜さは、ほかの作家は真似できない彼の武器です。今月の新作のなかでも、その系譜を継ぐ作品があります。シェイクスピアの『ハムレット』を脚色した『ハムイク』がそれです。

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『ハムイク』の主人公ハム・イク役のチェ・ナラ(左)と、幻覚のなかに登場するもう一人のハム・イクを演じるイ・ジヨン ©ソウル市劇団

『ハムイク』の最も大きな特徴は、ハムレットを女性にしたところです。韓国の財閥「マハ・グループ」オーナーの娘であるハム・イクは、イギリス留学で演劇(悲劇)を専攻した秀才です。彼女は、マハ・グループ傘下にある大学の教授に就任し、才色兼備な女性として上流社会の注目を浴びます。しかし彼女は長い間、復讐心を胸に秘めています。子どもの頃、自殺した母が、父と継母によって殺されたと思っているからです。しかし父の権威の前では一言も言えない彼女には、婚約者のオ・ピリョンも何の役に立ちません。その代わりに、ボンドを吸って幻覚の中だけで存在するもう一人の自分と会話しながら復讐を夢見ます。そんなある日、大学で『ハムレット』の上演に向け指導している中、ハムレットに夢中になっている学生「ヨヌ」が彼女の目に留まります。ヨヌの登場で、彼女の心は揺れ始めるのです。

先に稽古を見られる幸運を得て稽古場を覗いてみたら、まさに息詰まる100分でした。分厚い台本を消化した26名の俳優たちが、約100分間という短い時間の中に『ハムレット』と今の韓国を生きる人々を表現していたからです。そしてこの世界を作っていくのは、韓国屈指の演出家キム・グァンボです。彼が団長を務めているソウル市劇団は、今年の上半期の定期公演でもシェイクスピアの『ヘンリー4世』を上演して好評を得ましたが、素敵なチームワークは今回も舞台上で輝くだろうと感じられました。

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『ハムイク』制作発表より (写真左から)キム・ウンソン脚本家、ユン・ナム、チェ・ナラ、イ・ジヨン、キム・グァンボ演出家 ©ソウル市劇団

稽古の前には「たくさんの方々が期待してくださっているんですが、実は心配です」と自信なさげに語っていたキム・ウンソンさんも稽古を見ながら感嘆詞を連発!ソウル市劇団の団員でハム・イクを演じるチェ・ナラ、彼女の幻覚の中に現れるもう一人の自分を演じるイ・ジヨンは驚くほどの呼吸で悲劇の主人公を表現していました。また、劇団外から今回特別参加している人気俳優のユン・ナムは、明るく熱心で演技そのものにはまっている、普段の彼とほぼ変わらないようなヨヌを演じていました。三人だけではなく、26名の俳優の一人ひとりの集中力と熱気は本当にすごくて、見ているこちらも緊張するしかなかったほどです。でも決して嫌な緊張感ではなく、この物語の悲劇性にとても似ていて、一層この作品世界に入り込ませてくれました。

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『ハムイク』制作発表より ヨヌ役を演じるユン・ナム ©ソウル市劇団

学生たちに「あんたたちに悲劇がわかる?」と叫んだハム・イクは、結局最後には凄絶に壊れてしまいます。ヨヌを見て揺れ始めた恋心、彼女の陰によって執着やヒステリーのような醜い形になってしまいます。優柔不断なハムレットのキャラクターから彼の女性性に注目し、この作品を執筆をしたというキム・ウンソン。この作品はオリジナルの創作劇だと言ってもいいくらい原作を大胆に脚色していますが、『ハムレット』のストーリーを知った上で観劇すると、より面白くなる作品です。400年前にイギリスで誕生した物語が、ソウルのどこかで実際に今起こっていることと言っても違和感がないほど生々しい物語になっているからです。ハム・イクが客席に向かって、「生きるべきか死ぬべきかは問題ではない。“生きているか死んでいるか、それが問題だ”」と問う、『ハムレット』の有名なセリフを活用したシーンも胸を打ちます。

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『サンシャインの戦士たち』イメージ写真 ©ドゥサンアートセンター

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『サンシャインの戦士たち』チョン・バクチャン(左)と、シム・ジェヒョン ©ドゥサンアートセンター

キム・ウンソンのもう一つの新作『サンシャインの戦士たち』も、韓国の現代史の素顔をそのまま見せてくれる作品です。3年以上の時間をかけて執筆したというこの戯曲は、娘を失った小説家を主人公にし、彼の目に映る、繰り返される歴史の悲劇を描いています。彼が主宰する劇団「月の国椿の花」によって上演されるこの作品は、彼がドゥサン・アートセンターのヨンガン財団から受賞した「第3回ドゥサン・ヨンガン芸術賞」の副賞として企画・制作されました。ドゥサン・アートセンターは若手アーティストを継続的にサポートする活動をしているのですが、彼はそのサポートを受けている一人でもあります。今後ドゥサン・アートセンターが制作した彼の代表作『木蘭姉さん』もオーディションを行い新メンバーによる再演を計画しているそうですので、これからのキム・ウンソン脚本家とドゥサン・アートセンターのパートナシップにもご注目ください。


hamikposter【公演情報】
演劇『ハムイク』(함익)
2016年9月30日~10月16日 世宗文化会館Mシアター

<出演>
カン・シング、チェ・ナラ、イ・ジヨン、ユン・ナム、ファン・ソンデ、パク・ギドク、グ・ドギュン、イ・ウォニ、キム・ドゥボン、キム・スア、ナ・ソクミン、ソン・チョルホ、チョン・ウンジョン、イ・ジョンジュ、チョン・ボヨン、イ・セヨン、パク・ジンホ、ホ・ヒョホン、チョン・ソクファン、チョン・ユジン、ユ・ウォンジュン、ハン・ジョンフン、パク・ヒョン

脚本:キム・ウンソン/演出:キム・グァンボ/音楽監督:チャン・ハンソル/振付:クム・ベソプ/美術:パク・ドンウ/衣装:ホン・ムンギ/ヘアメイク:イ・ドンミン


sunshineposter演劇『サンシャインの戦士たち』(썬샤인의 전사들)
2016年9月27日~10月22日 ドゥサン・アートセンター Space111

<出演>
ウ・ミファ、キム・ジョンテ、イ・ファリョン、クァク・ジスク/クォン・テゴン・チョン・バクチャン/チョン・セビョル/イ・ジへ/シム・ジェヒョン/チョ・ジェヨン/ノ・ギヨン/チャン・ユル/パク・ジュヨン

脚本:キム・ウンソン/ドラマターグ:ソン・ウォンジョン/演出:ブ・セロム/美術:パク・サンボン/照明:チェ・ボユン/映像:チョン・ビョンモク/音楽:チェ・ゴウン、ファン・ヒョヌ/音響:イム・ソジン/衣装:ぺ・ウンチャン、リュ・ヘソン/小道具・ヘアメイク:チャン・ギョンスク

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[PLAY]チャン・ジン戯曲をキム・スロが上演『タクシー・ドライバー』10月開幕

[PLAY]チャン・ジン戯曲をキム・スロが上演『タクシー・ドライバー』10月開幕

 

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(写真上段左から)キム・スロ、キム・ミンギョ、カン・ソンジン (下段左から)チョ・ヘイン、キム・ドンヒョン、チョ・ガビ

昨年、キム・スロプロジェクトにより伝説の舞台を11年ぶりに上演した『タクシー・ドライバー』が1年ぶりの帰還を果たす。

演劇『タクシー・ドライバー』は、映画監督、劇作家として知られるチャン・ジンの作・演出で1997年に初演。当時“チャン・ジン師団”と呼ばれる常連俳優のひとりであったチョン・ジェヨンを主演に上演された。
タクシー運転手だったというチャン・ジンの父親の逸話を基に創作された本作は、チャン・ジン式ユーモアがたっぷりの言葉遊びも盛り込まれ、韓国での原題『タクシー・ドリボル(택시 드리벌)』は、劇中で運転手の“言い間違い”が発端となっている。

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2015年公演の様子

約1年ぶりの再演となる今回は、昨年のメインキャストを中心に、新旧メンバーを織り交ぜたキャストとなっている。
主人公のタクシー運転手、チャン・トッペ役には、コメディショー番組「SNL Korea」などで活躍中のコメディアン、キム・ミンギョ。チャン・ジンのオリジナル版時代にも本作に主演したカン・ソンジン。そして、昨年は本作で乗客となるチンピラ役で出演していたキム・ドンヒョンが、トッペ役に挑む。
そしてトッペの初恋の相手として登場するユ・ファイ役には新人女優のチョ・ヘインとチョ・ガビ。そして、タクシーの乗客となりひと騒動起こす3人のチンピラの“オッケ(=肩の意味)”1.2.3役を、キム・スロに加え、トッペ役のカン・ソンジン、キム・ドンヒョンが一人二役で出演する。
そのほか、劇中にはさまざまなタクシーの乗客が多数登場するが、パク・ジュンソ、アン・ドゥホら昨年に引き続き出演して芝居を盛り上げる。

笑いと涙の人情ドタバタ喜劇『タクシー・ドライバー』は、10月1日からドゥサンアートセンター ヨンガンホールで開幕する。


【公演情報】
演劇『タクシードライバー』(택시 드리벌)
2016年10月1日(土)~12月4日(日) ドゥサンアートセンター ヨンガンホール

<出演>
●チャン・トッペ役:カン・ソンジン、キム・ミンギョ、、キム・ドンヒョン
●ユ・ファイ役:チョ・ヘイン、チョ・ガビ
●オッケ(チンピラ)1・2・3役:キム・スロ、カン・ソンジン、キム・ドンヒョン

ハン・ウヨル、パク・ジュンソ、チェ・ソウル、パク・ジン、チョン・サンフン、チェ・ヨンドン、キム・ロサ、ソ・ジエ、リュ・ギョンファン、チョ・フン、パク・ソウン、ソ・へウォン、イム・ジュンワン、パク・ヒョヌ、キム・ソンジュン、キム・アヨン、キム・ウンジュ、アン・ドゥホ、チョン・ジェヒョク、ノ・スアほか

プロデューサー:キム・スロ、チェ・ジン/原作:チャン・ジン/演出:ソン・ヒョウォン

写真提供:ASIA BRIDGE CONTENTS ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.15

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.15

 

二人の女優の戦い―『短編小説集』

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演劇『短編小説集』主演のチョン・グッキャン(左)とキム・ソジン

いつからなのか分かりませんが、ソウルの劇場には圧倒的に女性の観客が多くなりました。だいたい20代~40代の彼女たちのために、即ち、彼女たちをターゲットにして作品を制作するのは、今では普通のことになっています。例えば、魅力的な男性が主人公で、ドラマが強い作品が多くなったのです。女優たちは危機感を感じ始めました。それは、自分が演じる役が、定型化した誰かの恋人、姉、妹、母・・・しかないかもしれないという、一種の不安から来たものだと言えるでしょう。去年、本谷有希子作(「劇団、本谷有希子」主宰)の『来来来来来』(この作品も女優6人だけが出演します)の韓国版『데리러 와 줘!(迎えに来て!)』制作に参加した時、出演者の一人から「今回みたいに悩んだり考えたり分析する役をもらったことがないから、とっても嬉しい」と言われ、ショックだったことを覚えています。

tanpen2このような環境のなかで、8月12日からアメリカの作家ドナルド・マーグリーズが1996年に書いた演劇『短編小説集(단편소설집)』が、韓国で初演されます。この作品は私も所属している創作ユニット「DIRECTURG 42」のメンバー、マ・ジョンファがドラマターグを務めている作品です。20年も前に書かれたこの戯曲を今、韓国で上演する理由は何でしょうか? 彼女に訊いてみたところ、やはり「最初に挙げられるのは、女優だけが出演する二人芝居ということです」と答えました。そして「今も女優二人だけが出る作品があまりないです。だから今、この作品を見ると新鮮だと思える。しかも、劇中この二人の関係は先生と弟子です。普通、女性二人の関係がメインに扱われる作品は、母と娘という設定が多かったですよね」と続けました。

確かに、今まで韓国で女性が主人公だった作品を考えてみると、『実家の母(친정엄마)』『お母さんをお願い 엄마를 부탁해)』など、母と娘の関係を描いていました。それでなくとも、女性のキャラクターは、主に誰かとの関係によって葛藤を抱き、決定的な選択をし、癒されたり、壊されたりする作品が多いです。しかし、この『短編小説集』は、登場する人物のプライベートな悩みは一切触れず、二人のキャリアの争いのみにフォーカスを当てています。自身の仕事に対する野望が、大きな事件・葛藤の原因になっているのです。

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稽古場の様子より。人気作家のルース(左)と、学生リサ。師弟関係は当初和気藹々としていたが……

物語の舞台はニューヨークのグリニッジヴィレッジです。成功した女流作家で大学教授でもあるルース・スタイナーのところに、彼女のゼミの学生で作家志望のリサ・モリスンが訪れます。リサは、憧れの作家ルースのアシスタントとして仕事をしながら、彼女のアパートで個人レッスンを受けることになったのです。それから6年が経ち、リサは小説を発表して、新聞に批評も掲載されるようになります。そして、リサが初めて長編小説を書いた後、二人は喧嘩をすることになります。その小説の内容が、ルースがリサだけに話した自分の過去の傷を基にしていたからです。「泥棒だ!」と叫ぶルース、「先生に教えてもらった通りにしただけだ」と言い張るリサ……二人の関係は、壊れてしまうのです。

マ・ジョンファは、「去年、韓国には著名な作家たちの盗作が次々と発覚されて、多くの人々が衝撃を受けました。この作品にも、“盗む”というキーワードが出てきます。ある意味、芸術作品を作ること――つまり“インスピレーションを受けること”は、何か自分のものではないものを持ってくることですね。それはどこまで許されるのか? それを考えさせる作品だと思います。それから、先生と弟子との葛藤というのは、今の韓国社会での世代の葛藤も連想させます。全ての先生は弟子によって必ず何かを奪われます。それは否定できないことです。だからこの作品は“教えるというのは何か?”を問い直す作品でもあります」と話していました。

tanpen4主人公の二人を演じるのは、演劇だけではなく、映画やテレビドラマでも活躍しているという共通点を持っている女優たちです。ベストセラー作家ルース役は、コラム第10回で紹介した、従軍慰安婦を取り上げた演劇『はなこ(하나코)』でレンお婆さんを演じていたチョン・グッキャン。そして、作家志望のリサ役は、ミュージカル『あの日々』2015年公演では司書役を、2014年に韓国版を上演した『背水の孤島』(劇団TRASHMASTERS中津留章仁原作 イ・ホンイ翻訳)では主人公の女性ユウを演じたキム・ソジンです。演技の強弱をうまく調節しなければならない難しい二人芝居で、死に向かっている年老いた人気作家と、成功に向かって疾走を始める新人作家をどのように表現してくれるでしょうか?
さらにこの作品は知的な演出家と評判のイ・ゴン(劇団「的(チョク 적)」主宰、劇団「小さな神話」演出部出身)とのコラボレーションも期待されています。特に彼は、劇中に映像を使う演出家としても知られていて、物語のなかで経過する6年の時間と二人の変化を表現するのに、どのような映像が登場するのか? それもきっと重要な見どころとなるでしょう。彼はコロンビア大学に留学後、主にアメリカの若手作家の作品を翻訳して演劇を制作したり、逆に韓国の優れた戯曲を翻訳して欧米に紹介する活動も行っているのですが、そんな彼が選んだ作品らしく、この戯曲はドラマもキャラクターもとても緻密に描かれています。気鋭の若手演出家が創り上げる本作が、どのように韓国の観客に伝わるかを想像しながら、二人の女優の戦いを応援したいと思います。


tanpenposter【公演情報】
演劇『短編小説集』(단편소설집)
2016年8月12日~8月21日 大学路芸術劇場 小劇場

<出演>
●ルース・スタイナー役:チョン・グッキャン
●リサ・モリスン役:キム・ソジン

原作:ドナルド・マーグリーズ(Donald Margulies “Colledted Stories”)/演出:イ・ゴン/翻訳・ドラマターグ:マ・ジョンファ/助演出:パク・セリョン/舞台:イム・ゴンス/照明:シン・ジェヒ/衣装:チョン・ミンソン/ヘアメイク:キム・グンヨン/音楽:ピ・ジョンフン/音響:イ・ハンギュ、ソ・ヒスク

写真提供:劇団「的(チョク)」 ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。


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[PLAY]『私に会いに来て』20周年記念プロジェクト第2弾キャスト発表

[PLAY]『私に会いに来て』20周年記念プロジェクト第2弾キャスト発表

 

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『私に会いに来て』20周年記念公演第2弾に出演するキャストたち

今年で初演から20周年を迎えた演劇『私に会いに来て』が、1月に行われた特別公演に続き、20周年記念プロジェクトの第2弾を発表し、キャストを公開した。

『私に会いに来て』は、劇作家・演出家のキム・グァンリムが、韓国で有名な迷宮入り事件のひとつとして知られる「華城(ファソン)連続殺人事件」をモチーフにシナリオを執筆し、1996年に初演された。本作をもとにポン・ジュノ監督が2003年に発表したが、ソン・ガンホ、キム・サンギョン、パク・ヘイルらが出演した大ヒット映画『殺人の追憶』だ。

今回の記念公演第2弾は、20周年プロジェクトを立ち上げた当初から企画されていたもの。“過去20年に近づく新たな20年”と銘打ち、全キャストが本作に初参加する俳優ばかりという大胆な試み。真っさらな俳優たちが作品の魅力を最も知る原作者のキム・グァンリム演出によって、どのように変貌していくのか期待される。

主にミュージカルに出演してきたカン・ジョンウ(『共同警備区域JSA』『小人たち』)、イ・ギュヒョン(『ビースティ』『隠密に偉大に』)は、劇中で複数のキャラクターを演じ分ける容疑者役。パク・ジョンボク(『カーサ・バレンティナ』『RED』)とイ・チュンジュ(『ママ、ドント・クライ』『ノートルダム・ド・パリ』)はソウル大学卒の若きエリート、キム刑事役にと、この4人は早々に出演を確定したという。

さらにソン・ジュンギ主演の大ヒットドラマ『太陽の末裔』に出演して注目を集めたパク・フンとキム・ビョンチョルも出演。パク・フンは血の気の多い若手、チョ刑事役。キム・ビョンチョルは、捜査チームを率いるキム班長役で出演する。

そのほか、お調子者のパク刑事役にキム・デゴン、1シーンのみの登場ながら強烈な印象を残すナム氏夫人役に『洗濯(パルレ)』のキム・グッキなど、大学路の舞台作品には欠かせない実力派が多数参加している。

また、エリートのキム刑事に惚れ込む出前コーヒー店の店員、ミスキム役のチョン・ソンヒら、新人も起用されており、多彩な個性を楽しめる公演となりそうだ。

キャスト総入れ替えで、新たな20年に向かう演劇『私に会いに来て』は9月21日から大学路のDCFデミョン文化工場2館で上演される。


【公演情報】
演劇『私に会いに来て』(날 보러와요)
2016年9月21日~12月11日 DCFデミョン文化工場2館

<出演>
●パク刑事役:パク・ジョンボク、イ・チュンジュ、キム・ムンシク
●キム班長役:キム・ビョンチョル、キム・ワングン
●容疑者役:カン・ジョンウ、イ・ギュヒョン
●チョ刑事役:パク・フン、ぺ・ユンボム
●パク刑事役:キム・デゴン
●パク記者役:チョン・ジユン
●ミスキム役:チョン・ソンヒ
●ナム氏夫人:キム・グッキ、チャ・チョンファ
●キム・ウチョル/男役:キム・ジョンジュ

写真提供:Pro’s LAB ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.14

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.14

 

今を生きる韓国の若者を慰める言葉「おやすまなさい」

neruna3今年1月、大学路では「素敵な新人が現れた!」という噂が広がりました。その主人公は、若手劇団「偉大なる冒険(위대한 모험)」を主催する俳優・演出家キム・ヒョンフェ(김현회)です。元々「サンスユ(산수유)」(女性演出家リュ・ジュヨン主宰)という劇団の俳優だった彼は、2014年12月、日本で劇団「五反田団」を主催する前田司郎作『偉大なる生活の冒険』をワークショップ公演として上演したあと、劇団「偉大なる冒険」を旗揚げしました。

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1役のキム・ミンジ(左)と、2役で劇団を主宰するキム・ヒョンフェ

彼がこの作品と出会ったのは、2014年に「韓日演劇交流協議会」が主催した「現代日本戯曲朗読公演」の時でした。この協議会は、日本の「日韓演劇交流センター」とともに、隔年で互いの国の現代戯曲を紹介する事業を行っています。毎回5作品を選定して翻訳・出版すると同時に、そのうち3作品は朗読公演として上演しています。当時、佃典彦作/リュ・ジュヨン演出の朗読公演『ぬけがら』に俳優として参加したキム・ヒョンフェは『ぬけがら』と一緒に紹介された前田司郎の戯曲『偉大なる生活の冒険』を読んで一目ぼれ。その時から自らの演出による上演を準備したそうです。そしてその公演は好評を得て、東京でも上演されることになったのです。2015年4月、前田司郎の劇団「五反田団」の拠点とも言えるアトリエ・ヘリコプターにて無事に上演。その後、初演から約2年間の旅程を経て今年1月、再び大学路で上演し、ベテラン演出家並みの巧みな舞台を披露して、「まるで役者ではなく本物の普通の人の生活を見ているようだ」と評判になりました。元カノの家に居候して、ゲームばかりしている男が主人公のこの作品は、将来のことは全く考えていないダメ男が、ついに彼女にプロポーズをするまでの日常を描いています。一見何の希望も情熱もないように見えますが、ただ生きていることが“偉大なる冒険”になってしまう主人公の日常は、今の韓国の若者の自画像を見ているようだと評価され、何よりも、若い観客から大きく支持されました。

その後、彼が劇団の第2弾作品として選んだ戯曲が『おやすまなさい』です。同じ作家、しかも日本人作家の作品を続けて上演することに対し、周りから心配もされたそうですが、彼が今回も前田司郎の戯曲を選んだ理由は、今の自分をありのまま表現してくれる、と言っても単純に劇中人物のキャラクターに似ているということではなく、素直な日常の姿や頭の中の小さな悩みに共感できる作品だと感じるからだそうです。

この戯曲は2003年に前田司郎の作・演出で初演された二人芝居です。登場人物は1と2。二人の性別も年齢も、人物に関する情報は一切書いてありません。ただ、寝ようとしている2と、そんな2が眠れないように邪魔をする1がいるだけです。1は2に、延々と話しかけます。

1:寝るのもったいない、、なんか、なんも出来ないじゃん、寝ちゃうと
2:寝てるじゃん
1:え
(中略)
1:じゃあずっと寝てろって言われたら寝てる
2:寝てる
1:、、、1年とかだよ
2:うん
1:100年とかだよ
2:え、うん
1:じゃあ、100年寝なよ

こんな感じで1時間以上、二人の対話が続くなか、途中でいきなりヒトデや貝などが現れたりして、妙なオフビート感を感じさせます。1は2に、はっきりと「寝ないで」とは言いませんが、その代わり最後にやっと「おやすまなさい」という言葉を投げるのです。この作品のタイトルでもある「おやすまなさい」は、原作者の前田司郎が「寝て欲しくないときのあいさつ」という意味で作った新造語だそうです。韓国版では、この最後の台詞をどう翻訳するか? いろいろと試してみたのですが、作品のタイトルは1の本音をそのまま現す『寝ないで(자지마)』にしてあります。タイトルとしてのインパクトなども考慮しながら、無理やり訳した感じに見えないよう、このタイトルにしてみました。でも劇中で1がずっと言えなかった言葉をタイトルにしてストレートに言ってしまうのは、韓国人らしい発想かもしれないですね。

neruna2この戯曲のように、主人公のキャラクターや背景に具体的な設定が何もないことは、作り手が自由に解釈できることを意味します。日本国内でも本作は、初演以降、これまで詩森ろば(劇団「風琴工房」)、岩井秀人(劇団「ハイバイ」)、多田淳之介(劇団「東京デスロック」)などの演出家によって上演されてきたそうです。演出はそれぞれに異なり、眠ることを「死」と象徴した演出もいれば、一度の公演で同じストーリーを3回繰り返す演出もあったそうです。そのほか、女性二人が主人公のバージョンや、1を女性、2を男性が演じたり、その逆のバージョンもありました。また、韓国で去年の夏、とあるカフェで朗読公演したユン・へジン(윤혜진、若手女性演出家、代表作は『ほこりの島(먼지섬)』『美青年になる(미성년으로 간다)』など)演出版では、主人公二人を男性が演じて、初の男性版が誕生しました。そして今回のキム・ヒョンフェ演出版は、1役を女、2役を男の配役で上演されます。キム演出家ならではの特徴は、完全に“韓国の若者の物語”として描いているところです。

1:動物って、、、なんで生きてんだろう、生きてる意味なくない、、楽しいのかな、
2:、、、どうだろうね
1:別に、きれいなもの見てもきれいって思わないし、おいしいとかも思わないんでしょ
2:、、でも悲しいとも思わないかもよ

neruna4いま韓国では、日本の「さとり世代」のように「3放世代〈3포세대)」という言葉があります。若年層の失業率が深刻な社会問題になり、20~30代の若者たちが「恋愛」「結婚」「出産」を諦めている現象を示す俗語です。自分を諦めることが当たり前のようになった時代だからでしょうか? 最近は、諦めなければならない項目がどんどん増えて、「5放世代」「7放世代」…次々と新しい流行語が更新されています。
この作品を見た観客のなかには、主人公1と2の状況をそのまま素直に受け取る人もいるでしょうが、キム・ヒョンフェ演出家は、劇中の「寝る/休む」という行為を「放棄する/諦める」という意味に捉えたのではないかと思います。「休みたい(=諦めたい)」2に向かって散々話しかけてもどうしようもなく、最後にはただ手を握って一緒に寝ることしかできない1の姿は、涙が出るほど切なく映るのです。
例えば、原作者・岩井秀人のひきこもり体験を基にした『ヒッキーソトニデテミターノ』や、14歳の少年のいわゆる“中2病”を描いた柴幸男原作『少年B』など、去年韓国版が上演され、若い観客たちに共感を得た日本の戯曲を見てみると、彼らは辛い日常をおくるなかで、自分を慰めてくれるような言葉を求めているかのようにも思えます。
キム・ヒョンフェ演出版の『おやすまさない』も、再び韓国の若者たちに共感を得られればいいなと、期待しています。


【公演情報】
演劇『おやすまなさい』(韓国題『寝ないで(자자마)』)
2016年7月13日(水)~7月24日(日) 背の低い松の木劇場(키작은 소나무 극장)

<出演>
1役:キム・ミンジ、イ・へイン
2役:キム・ヒョンフェ

原作:前田司郎(『おやすまなさい』)/翻訳:イ・ホンイ/演出:キム・ヒョンフェ/美術:チャン・ハ二/照明:イ・ギョンウン/音楽:キム・ソンテク/広告美術・写真:普通の現象(キム・ソル)/企画:キム・シネ/助演出:キム・へイン

写真提供:劇団「偉大なる冒険」 ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。


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イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.13

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.13

 

こんにちは、私は「演劇実験室 恵化洞1番地」です。

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演劇実験室恵化洞一番地 6期同人 春フェスティバル「シムシティ~都市ライフの費用」ポスター

韓国の演劇村と呼ばれている大学路(テハンノ)には100館を超える劇場が集まっています。ほとんどが客席数100席前後の小劇場ですが、その中でも客席数が50席しかない小さな劇場があります。「演劇実験室恵化洞(ヘファドン)1番地 연극실험실 혜화동1번지」という劇場です。本当の住所は恵化洞88番地だそうですが、大学路を代表する劇場の一つとして存在しています。その理由は、韓国で唯一、演出家の同人システムで運営されている劇場だからです。昔、小説家や詩人などが同人誌を通じて創作活動をすることは多かったですが、演劇の演出家たちが同人制度で劇場を運営するのは、世界的にも珍しいことではないかと思います。

1994年から始まったこのシステムは、商業的な演劇から離れ、個性の強い実験劇を追及することを目標とし、この劇場を中心に若手演出家が自由に新しい演劇を制作してきました。現在6期メンバーが活動中ですが、1期ごとに約6~7人のメンバーが集まり、3~5年間同人として活動したら、その後は後輩の演出家を推薦して同人を卒業する形で運営されてきました。

これまで、「演劇実験室恵化洞1番地」には、いまでは自身の劇団内外の作品を多数手がけ、活躍している演劇界で広く名を知られた演出家たちが同人として活動していました。以下に演出家名と近年の代表作を挙げてみます。
●イ・ユンテク(이윤택 劇団「演戯団コリぺ」代表)『問題的人間、燕山』『宮裏』
●パク・グニョン(박근형 劇団「コルモッキル」代表)『青春礼賛』『キョンスクとキョンスクの父』
●キム・グァンボ(김광보 ソウル市劇団芸術監督)『少しはみ出て殴られた』『M.Butterfly』
●キム・ジェヨプ(김재엽 劇団「ドリームプレイ」代表)『アリバイ年代記』『背水の孤島』
●ユン・ハンソル(윤한솔 劇団「グリーンピグ」代表)『インターネット・イズ・シリアス・ビジネス』
●キム・ハンネ(김한내 劇団「パーダバプ」代表)『テンペスト』『来来来来来』(コラムVol.9参照)

去年から開始した第6期には、チョン・ユンファン(전윤환 劇団「アンド・シアター」代表)、ソン・ギョンファ(송경화 劇団「浪漫流浪団」代表)、シン・ジェフン(신재훈 劇団「小さな部屋」代表)、ペク・ソキョン(백석현 劇団「チャンセ」代表)、キム・スジョン(김수정 劇団「新世界」代表)、ク・ジャヘ(구자혜 劇団「ここは当然、劇場」代表)が活躍をしています。彼らはこれまで「2015春フェスティバル:総体的難劇」「2015企画招請公演:セウォル号」「2015秋フェスティバル:商業劇」と題したシリーズ演劇を上演し、今年の春は、4月7日から6月26日まで「2016春フェスティバル:シムシティ~都市ライフの費用」を上演しました。今回は、そのなかの最後の一作だった女性演出家ク・ジャへによる『演劇実験室恵化洞1番地』をご紹介したいと思います。

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南山(ナムサン)芸術センターで上演された『Commercial, definitely~マカダミア、検閲、謝罪、そしてマンスプレイニング』舞台写真より

まず、劇場の名前そのものを演劇のタイトルにしていること自体が、好奇心を刺激します。彼女は去年の秋フェスティバルで発表した『Commercial, definitely~マカダミア、盗作、マーズ、そしてマンスプレイニング』を、今年4月に南山(ナムサン)芸術センターで『Commercial, definitely~マカダミア、検閲、謝罪、そしてマンスプレイニング』というタイトルで再演していました。上演当時に最も話題になっていたキーワード……例えば、大韓航空の「ナッツリターン」事件、有名演出家の戯曲が検閲された問題、韓国の有名小説家による盗作、男性が女性に対してまるで「教えてあげるような」しゃべり方で対話をする現象から生まれた新造語「マンスプレイニング(Man+Explain=Mansplaining)」などを取り上げ、俳優たちにはその問題の主人公を演じさせて、堂々と客席に向かって弁解をする機会を与えた作品でした。それと同時に、この作品を初演した、50席しかなく資金が乏しい民間劇場である恵化洞1番地と、規模を膨らませて再演した、公共劇場で450席もある南山芸術センターで公演を準備しながら感じたことや、上演環境の違い、助成金の金額と予算まで暴露した作品でもありました。

作・主演のイ・リ

開演前には女優自らチケットを販売

今回上演された『演劇実験室恵化洞1番地』は、ある意味、この前作の延長線上にある作品とも言えます。本作には、『Commercial, definitely…』にも出演していたイ・リという女優が登場します。開演前には自らチケットの受付、販売をし、劇中では照明や映像のオペレーションまで全部一人でこなしながら一人芝居をしなければならない彼女はボヤキ始めます。「いったいなんで私なんだろう?」と、どうしてこの空間で一人で90分もしゃべらなければならないのか、彼女は理解できず観客に向けて疑問を投げかけるのです。また、彼女は“ソウルで一人暮らしをしている40歳の女優”という設定なのですが、劇場を運営するための費用や家賃事情、ネコを飼うために必要な品物と費用、俳優業とは別にやっている副業の話、セックスの効能や自慰行為についてなど、短いエピソードをオムニバスドラマのように構成し、本音満載で赤裸々に語っていきます。

 

このように演出家ク・ジャへは、いまソウルで一人で生きている女性の実情と、狭い舞台の上で一人で演技をしている女優の姿をオーバーラップさせ、実験劇に仕上げたのです。起承転結のドラマはありませんが、約30年の歴史を持っている劇場と、約40年の人生を生きている女優の率直なエピソードが生々しく描かれ、イ・リのセリフに共感した観客たちの笑い声が絶えませんでした。公演スタイルもかなり斬新でしたが、最後には実際に飼っているネコを登場させて芝居を終わるなど、若手演出家らしい挑戦がさまざまな点で見られた作品でした。

そういえば、彼女が主宰している劇団の名前は、「ここは当然、劇場(여기는당연히, 극장)」。大胆な風刺とユーモアで韓国の若者の日常そのものを舞台上で表現しながら、“当たり前のように居続けている”劇場で彼女がこれからどんな舞台を見せてくれるのか、楽しみです。なお、11月には同じ劇場で別役実原作の舞台を上演することが決定しているそうですよ!


hefadon5【公演情報】
2016春フェスティバル:シムシティ~都市ライフの費用
演劇『演劇実験室恵化洞1番地 』(연극실험실 혜화동1번지)
2016年6月16日(木)~6月26日(日) 演劇実験室恵化洞1番地

出演:イ・リ

作:ク・ジャへ、イ・リ/演出:ク・ジャへ/美術:キム・ウンジン/音楽:目笑(モクソ)/衣装:キム・ウソン/ヘアメイク:チャン・ギョンスク/写真:キム・ドウン

写真提供:劇団「ここは当然、劇場」 ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。


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[PLAY]劇団メンシアター新作『デビル・インサイド』7月上演!

[PLAY]劇団メンシアター新作『デビル・インサイド』7月上演!

 

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(写真上段左から)キム・テフン、ウ・ヒョンジュ、パク・ホサン (同中段左から)チョン・スヨン、イ・チャンフン、グ・ドギュン (同下段)イ・ウン

『ディナー』『SOME GIRL(S)』『隠密な喜び』など、優れた海外戯曲を韓国に初めて紹介し、『ターミナル』『フフフ、ヒヒヒ』などオリジナル作品でも洗練された舞台を披露して、常に観劇ファンに厚い支持を得ている劇団メンシアターが、新作『デビル・インサイド』を7月に上演する。

『デビル・インサイド』の原作者、アメリカの劇作家デヴィッド・リンゼイ=アベアーは、ブロードウェイでいま注目を浴びる劇作家の一人。2006年発表の『ラビット・ホール』でピューリッツァー賞を受賞しており、同戯曲は『ヘドウィグ』で知られるジョン・キャメロン・ミッチェルが監督し、ニコール・キッドマン主演で2010年に映画化されている。

アベアーが1997年に発表した処女作である『デビル・インサイド』は、母子家庭で育ったジンが主人公。誕生日を迎え、成人となった朝に、母親から突然14年前に登山中に心臓麻痺で死んだと聞かされていた父が、実は他殺だったと明かされる。さらに犯人を捜して復讐しろと命じられ、困ってしまうジン。彼は復讐よりも大学でロシア文学の講義を一緒に受けているケイトリンに夢中。しかし、ケイトリンは講義をするカール教授が好きで……と、ジンから派生した奇妙な人間関係のなかで、ある日予期せぬ事故が起こり、復讐の連鎖となっていく。サブタイトルに“誰もが心の奥底に悪魔のひとつくらいは持っている”とついているように、人間の心の闇をユニークな方式で暴き出すブラックコメディだ。

青年ジン役には、独特の間合いととぼけたキャラクターで『ターミナル』『フフフ、ヒヒヒ』など、近年のメンシアター作品には欠かせない存在となりつつあるイ・チャンフン。そしてジンに復讐をけしかける母スレイター夫人役には劇団代表のウ・ヒョンジュ。ジンが片思いするケイトリン役には、『ターミナル』などで、イ・チャンフンとの絶妙な相性を見せてきたイ・ウン。ケイトリンが執着するカール教授役は、『桜の園』『14人(in)チェーホフ』『ターミナル』などのメンシアター作品に客演してきたキム・テフンと、ミュージカル『イン・ザ・ハイツ』『ラブレター』『氷』『デストラップ』と舞台シーンで精力的に活動し、メンシアター作品にも多数出演しているパク・ホサンがWキャストで演じる。
そのほか、彼らの複雑な人間関係に絡んでくるキャラクターとして、ミステリアスなアーティスト、リリー役に『M.Butterfly』に出演していたチョン・スヨン、常に「違う何か」を求めている平凡な男、ブラック役は『望ましい青少年』や鄭義信演出『歌うシャイロック』などで、抜群のコメディセンスを見せていたグ・ドギュンが演じる。

演出は、韓国演劇界で由緒ある「イ・へラン演劇賞』を今年受賞したキム・グァンポ。彼は2015年にメンシアターが上演した『フローズン』の演出も手掛け、全公演が完売する大ヒット作に導いている。

韓国の舞台シーンでは一目置かれている演出家と俳優たちが揃い、期待がふくらむ『デビル・インサイド』は7月8日から、大学路アートワンシアター2館で開幕する。


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演劇『デビル・インサイド』(데블 인사이드/A Devil Inside)
2016年7月8日(金)~7月31日(日) 大学路アートワンシアター2館

<出演>
キム・テフン、パク・ホサン、ウ・ヒョンジュ、チョン・スヨン、グ・ドギュン、イ・チャンフン、イ・ウン

原作:デヴィッド・リンゼイ=アベアー(David Lindsay-abaire) 演出:キム・グァンポ

写真提供:劇団メンシアター ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。

[PLAY]CJ文化財団が大学路に新劇場「CJ Azit大学路」をオープン

[PLAY]CJ文化財団が大学路に新劇場「CJ Azit大学路」をオープン

 

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CJ Azit大学路 外観

2006年に設立され、2010年からミュージカル、演劇の若手制作者の発掘・支援事業を本格的に行ってきた「CJ文化財団」が、設立10周年を迎えて大学路(テハンノ)の旧SMアートホールを改装し、この4月から専門劇場「CJ Azit大学路」をオープンした。

ミュージカルや演劇の作品公募から、制作支援、ショーケース公演などを行う「CJ CREATIVE MINDS」や、音楽ライブなど、これまでは麻浦(マポ)区にある多目的ホール「CJ Azit広興倉(クァンフンチャン)」で、主に公演を行ってきたが、公演のメッカ大学路に舞台専門劇場と制作スペースを設けて、さらに事業の拡大と充実をはかる。

入口からモダンに改装された劇場は、同ビルの地下1、2階にある。席数は200席程度と小規模ながら、2階には客席としても、ステージとしても使えるベランダのようなスペースが設けられ、1階の舞台と客席は可変式となっており、制作者が作品に合わせ、自由に創作できるよう設計されているという。

4月24日に若手舞台俳優によるミュージカルコンサート「UNSUNG(언성)」でこけら落とし公演を行った後、「CJ CREATIVE MINDS」2016年の演劇部門の作品が2作品連続で上演されている。

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ピンキーとクランジョ姉弟を演じた、イ・ヒョンジュ(左)とキム・ヨンテク

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『ピンキーとクランジョ』ポスター

まず、5月3日~15日まで上演されたのは『ピンキーとクランジョ』(핑키와 그랑죠)。この作品は、新鋭シン・チェギョン脚本家がアウトサイダー・アートの代表的作家とされる、ヘンリー・ダーガーが遺した『非現実の王国で』にインスパイアされて創作戯曲として執筆。『蜘蛛女のキス』など多数の演劇を手がけたベテラン、ムン・サムファが演出した。

モチーフとなった『非現実の王国で』は、幼いころに孤児となり、晩年まで貧しい掃除夫として孤独な生涯を送ったヘンリー・ダーガーが少女戦士たちの戦闘記を60年にわたって人知れず挿絵とともに執筆し続けた長編小説。本作では、ダーガー自身の実話と、小説のストーリーを織り交ぜ、掃除夫ヘンリーが孤児院から引き取った姉弟を自身が執筆する小説の主人公に仕立てて物語が展開する。14年もの間、いわば幽閉され、子供のまま成長が止まったような姉ピンキー。8年前に家を飛び出し戻ってきた弟クランジョとの葛藤。そして二人の人生を結果的に狂わせたヘンリーの狂気など、原作の世界観を随所に生かした作品となっていた。

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脚本のシン・チェギョン(左)と、演出のムン・サムファ

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掃除夫ヘンリー役は、演劇界の重鎮キム・ジェゴンが演じた

そして6月4日まで上演中の『クレシェンド宮殿』は弟を亡くし、両親に対する負担を一人背負うことになった「女」が主人公。新たに家庭をもつ勇気もなかった彼女が、SNSを通じて知り合った、ある「男」と関係を持ち始めたことで、母が築いた一見平和に見える宮殿のような家庭の呪縛から逃れようとする姿を描く。

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母親役には過去に「CJ CREATIVE MINDS」に選定され、国立劇団でも上演された『少年Bが住む家』での演技が高く評価され2014年度の「大韓民国演技大賞・演技賞」も受賞したカン・イェシム。娘役には、ミュージカル『あの日々』『月光妖精と少女』や、演劇『プライド』『晩秋』など話題作にひっぱりだこの実力派キム・ソジン。演出は、近年韓国演劇界で注目を浴びた『木蘭姉さん』『黄色い封筒』のチョン・インチョルが担当し、二人の名女優とともに、一段と深みのある作品に仕上げている。

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SNSを通じてモーテルで出会った「男」役のクォン・イル(左)と、「女」役のキム・ソジン

CJ Azit大学路では、今後も「CJ CREATIVE MINDS」のミュージカル制作支援選定作のショーケースや、外部劇団、制作者の作品も含め、韓国オリジナルのミュージカル、演劇作品も上演していくとのこと。劇場ひしめく大学路の新たなランドマークとなることに期待したい。


CJcmposter2【公演情報】
演劇『クレシェンド宮殿』(크레센도 궁전)
2016年5月24日~6月4日 CJ Azit 大学路(旧SMアートホール)

<出演>
母役:カン・イェシム
娘役:キム・ソジン
男役:クォン・イル
息子役:キム・ミンハ

脚本:キム・スルギ/演出:チョン・インチョル

写真提供:CJ文化財団 ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。

[PLAY]ワケアリメンズたちの欧州珍道中!音楽劇『ヨーロッパ・ブログ』7月開幕

[PLAY]ワケアリメンズたちの欧州珍道中!音楽劇『ヨーロッパ・ブログ』7月開幕

 

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フランス、スイス、イタリアを回ったヨーロッパ旅行写真も公開

大学路を中心に精力的にプロデュース作を上演しているキム・スロプロジェクトの第17弾作品となる『ヨーロッパ・ブログ』が7月、約1年半ぶりに3度目の再演を行う。

『女神さまが見ている』の劇団ヨヌ舞台から誕生した『インディア・ブログ』『トーキー・ブルース』などの“旅行ブログシリーズ”から派生した本作は、俳優たちが実際にヨーロッパ旅行に向かい、体験したさまざまなエピソードを盛り込みながら、観客もまるで旅行に行ったような気分が味わえるヒーリング音楽劇だ。
2013年の初演から演出を担当するイ・ジェジュンは、「今回初参加するキャストによりイメージも大きく変わり、旅行中のエピソードも積極的に活用する」と、2016年版ならではの新鮮味溢れる公演になることを予告している。

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(写真左から)ベテランバックパッカー、ジョンイル役のキム・スロ、カン・ソンジン、キム・ドンヒョン

韓国語ではバックパックを担いだ貧乏旅行を(배낭여행 ペナンヨヘン)と呼ぶが、劇中には3人の男性バックパッカーが登場する。
旅行7年目のベテラン、ジョンイル役にはプロデュースのみならず、ドラマなどで俳優としても精力的な活動を続けるキム・スロとカン・ソンジン、そして近年はキム・スロプロジェクト作品の顔となりつつある演劇俳優のキム・ドンヒョンが演じる。

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(写真左から)エリートの道を捨てて旅するドンウク役のカン・テウル、チョ・ブンレ、チュ・ジョンヒョク

名門大学卒、一流企業の入社と、誰もが憧れるエリートコースを歩みながら、それをすべてリセットして旅を続けるドンウク役は、『三銃士』『マーダー・バラッド』『あの日々』などのミュージカルで安定した演技と歌唱力を披露しているカン・テウルと、『尹東柱、月を射る』『風月主』などで繊細な演技を見せたソウル芸術団団員のチョ・ブンレ、そして近年は『アガサ』『デストラップ』など、さまざまなキャラクターに挑み、俳優として充実した活動を続けるチュ・ジョンヒョクが起用された。

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(写真左から)彼女を探しにヨーロッパにやってきたソクホ役のキム・ギバン、キム・ナムホ、キム・ボガン

身を粉にして働き、パリに住む恋人に送金していたものの、彼女は浮気。愛を取り戻すためにヨーロッパに飛んできたソクホ役には、ドラマや映画の名脇役として知られるキム・ギバンと、日本でのタレント活動を終えて韓国で本格再始動したキム・ナムホ、そして『ゴレゴレ』『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』などで好演したキム・ボガンが三者三様のコミカルなキャラクターを見せてくれる予定だ。

5月上旬には、カン・テウル、チョ・ブンレ、チュ・ジョンヒョク、キム・ギバン、キム・ナムホ、キム・ボガンの6人がフランス、スイス、イタリアの3カ国をバックパッカーとして旅し、有名な観光スポットを訪ねた“認証ショット”も公開している。

見れば旅立つ衝動にかられることは必至の楽しい旅行劇、『ヨーロッパ・ブログ』は7月8日から大学路TOM1館で開幕。1次チケットは6月9日(木)にオープン予定だ。


2016europeposter【公演情報】
演劇『ヨーロッパ・ブログ』(유럽블로그)
2016年7月8日(金)~10月2日(日) 大学路TOM1館

<出演>
●ジョンイル役:キム・スロ、カン・ソンジン、キム・ドンヒョン
●ドンウク役:カン・テウル、チョ・ブンレ、チュ・ジョンヒョク
●ソクホ役:キム・ギバン、キム・ナムホ、キム・ボガン

プロデューサー:キム・スロ、ユ・インス、チェ・ジン/演出・脚色:イ・ジェジュン/原作:チョン・ミナ/作曲・音楽監督:イ・ジヌク

写真提供:ASIA BRIDGE CONTENTS ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。

[PLAY]大学路スヒョンジェシアター屋上で無料10分演劇を試験的にスタート

[PLAY]大学路スヒョンジェシアター屋上で無料10分演劇を試験的にスタート

 

soohyunjae10min俳優チョ・ジェヒョンが主宰する制作会社「スヒョンジェカンパニー」が、“屋上で楽しむ”新概念演劇『スヒョンジェ10分劇場』を来る20日、大学路のスヒョンジェ劇場が入るDCFデミョン文化工場の7階屋上で行う。

「スヒョンジェカンパニー」は、会場に早く到着した観客に新たな楽しみを提供するとともに、若い制作陣に公演の機会を与えようと屋上演劇を企画したという。大学路を一望できる劇場ビルの屋上スペースを野外ステージとして活用し、ビル内の3つの劇場(デミョン文化工場1館、2館、スヒョンジェシアター)を含む、大学路を訪れた人ならば誰でも無料観覧できるという嬉しい企画だ。

屋上庭園のようなスペースの雰囲気を生かし、照明とスピーカーがセットされただけの自由な空間と、少しずつ日が暮れていく夜7時の空と街を背景にした、屋内では体験できない魅力的な舞台となりそうだ。

『スヒョンジェ10分劇場』は、毎週金曜日の夜7時から、10分程度の短編2編を披露する予定だ。5月20日(金)に第1回を試験的に実施した後、さまざまな意見を取り入れて制作面を補完し、本格的な開始時期を決定するという。

第1回では、死んだ夫の荷物を整理する母と息子の会話で構成する『整理(정리)』(ウォン・アヨン脚本、オ・セヒョク演出)と、昔の恋人を思い出す女性たちの話『愛は粉に乗って(사랑은 가루를 싣고)』(オ・セヒョク脚本、チェ・ヒョンミ演出)の2作が上演される。

観客の立場からは俳優たちの演技を間近で体感できるこの試みは、制作者にとっては観客の反応を目の前でダイレクトに確認できるという利点がある。短編の上演を発展させて、本公演化の可能性を探るとともに、新進作家、演出家にとっては力試しができる絶好の場となる。また、出演する俳優にとっても、既成の舞台を抜け出した空間で演技が出来る好機となるだろう。

本公演は、事前予約なしに誰もが無料観覧できる。ただし、雨天・荒天時には、公演が中止となる予定だ。公演の情報は「スヒョンジェシアター」の公式Facebook公式ツイッターを通じて随時公開される。

【5月20日更新】 「スヒョンジェ10分劇場」の公演の様子

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「愛は粉に乗って」

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開演前には作・演出のオ・セヒョクが挨拶

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『整理』


【公演情報】
演劇『スヒョンジェ10分劇場』(수현재 10분 극장)
第1回 2016年5月20日(金) 午後7時より DCMデミョン文化工場屋上(7階)

<上演作品>
●午後7時10分~20分『整理(정리)』(ウォン・アヨン脚本、オ・セヒョク演出)
●午後7時30分~40分『愛は粉に乗って(사랑은 가루를 싣고)』(オ・セヒョク脚本、チェ・ヒョンミ演出)

※第2回以降の実施時期は未定。公演当日雨天、荒天時は中止。

写真提供:スヒョンジェシアター ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。