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[Special Interview]イ・スンジュ【後編】

[Special Interview]イ・スンジュ【後編】

 

●今回はせっかくゆっくりとお話しを伺える機会なので、もっと遡って、演技を始めたきっかけの話もお聞きしたいです。
「学生の時は、哲学科に行きたかったです。哲学科に行くと、自分自身を知ることができるだろうし、いろいろと考えられるのではないか? そうすれば僕は本当に何がしたいのかを分かるだろうと。幼い頃から、自分が何をやりたいか、知りたかったです。人は皆、生まれた理由があると思うんです。それを知ってから死ぬのが人生の目標です。なるべくそれを早く知って生きていたい。それで漠然と哲学科に行きたかったです。格好いいし、当時好きだった歌手、詩人、アーティストが哲学科を出た人が多くて。自然と興味を持つようになりました」

●そういえば昨年別のカンパニーで上演した『セールスマンの死』に主演されたイ・スンジェ先生はソウル大学哲学科出身で有名ですよね。
「でも成績がよくなかったので、哲学科はただ、憧れだったんです。なぜかと言うと、僕は子どものときからスポーツをやっていたんです。テコンドーを。後から哲学科という目標が出来て、一所懸命に勉強しましたが、難しかった。でも映画を見たり本を読むのが好きだったので、ある日、映画を見て突然カッコいいと感じました。ある意味、俳優は哲学に似ていると思ったんです。結局、人を探求して、人について勉強するんです。哲学はそれを学問として接していき、演技は実践としてやっていくのではないか? と気付いたんです」

●ちょっと大人びた考えの子というか…不良じゃないけど、先生が結構手を焼くタイプの学生だったのでは?(笑)
「このエピソードを聞くとすぐわかると思います。高校のときだったんですが、試験の一週間前、突然海に行きたくなったんです。それで、先生に“海に行ってきます”って言ったんです。唖然としていた先生の顔を未だに忘れられません。”あ、こいつどうしよう”と言いそうな顔でした(笑)。
先生は“お父さんの許可をもらって来なさい”とおっしゃいました。つまり、“許さない”という意味ですよね。でも、父が許可書を書いてくれたんです。怒らないで、“どうした?”と聞いてくれました。“いま考えたいことがあって、こういう時間が必要だ”と答えたんです。すると“行ってきたら何か変わりそうなのか?”と聞かれたので“変わるように努力する”と、答えました。父は許可してくれそうな人ではないんですが、その時は男として通じた何かがあったかもしれません。それで“行ってこい”と。そして先生に電話して“自分が責任を取るから勝手にさせましょう”と話してくれました。結局、試験に間に合うように戻ったんですが、海辺にずっと寝ていたから一人だけ日焼けして真っ黒になってて(笑)。とにかく試験には間に合いましたけど、バカでしたね、バカ(笑)」

高校時代、試験前に突然海に行ったエピソードには爆笑!

●舞台での優等生イメージがだいぶ壊れました(笑)。これまで様々なキャラクターを演じてきましたが、実際の性格はどんな感じですか?
「最もよく言われるのは、シャイだとか。静かだとか。あと“もうちょっと何か言えよ”と、よく言われます。でも、両面性があると思います。結構喋ったりもするんですよ。親しい人たちと一緒にいる時や、話したいことがあったら良くしゃべります。ただ、話すことがないから黙っているんです。無理やりに沈黙を埋めようと意味のない会話をするのは嫌いなんです。だから、何も言わない時間があるんです」

父ウイリーに抱えていた苦悩を吐露する後半のシーンでは圧巻の演技を見せた。『セールスマンの死』2017年公演写真より ©芸術の殿堂

●そういう性格だと、俳優としてやっていくには大変なことも多いかと思います(笑)。
「演劇をやってていい部分は、他のジャンルに比べて稽古期間が長いじゃないですか。いくら主人公といっても、たった2時間の作品で、しゃべる言葉は限られているわけです。でもそれを、2カ月、3カ月と稽古をするんです。ある意味、非生産的ですね。でも、それほど深くその人物に近付くことができます。だから他のジャンルより演劇が好きなんです。
今回の『セールスマンの死』の場合も、ビフについて深く理解することができるんです。アーサー・ミラーが作り上げた人物ですが、僕自身についても感じるものがあるんです。あ、自分がこういう人だったんだ。そういう人物が一つ一つ(作品に)残るというか。だから、やっぱり演劇が好きです。哲学と似ているんです。本を読んで、音楽を聴いて、思想を勉強してやっと分かることもあれば、感情対感情で、舞台上でぶつかり合いながら得ることもあります。作品を一つ終えると、本を何十冊も読んだ気持ちになるんです。だいたい、戯曲に登場する人物は、極端なキャラクター、極限に向かうキャラクター、崩れ落ちるキャラクター、理想と現実の間で苦しむキャラクターが多いですね。そうじゃないと、戯曲にわざわざ登場する必要もないでしょう。そのような人物を研究するので、いろいろ考えるようになります。そんな人物を演じることが、僕にはよく合うと思います」

●作品してはとても見ごたえがある一方で、演じるには本当に難しい役柄が多いですよね。そういうキャラクターをあえて選んできたんですか?
「そうですね。僕がそういう人物にカタルシスを覚えるみたいです。ただ、これは単なる欲求解消ではないです。僕が求めている作品は、ある程度、考えさせる作品です。演劇を観て、自分を振り返ってみたり、自分の隣にいる人や自分が属している社会をもう一度見直してみたりしてほしいです。『セールスマンの死』が名作である理由は、家族の亀裂を描きながら、アーサー・ミラーは社会を批判しているんですね。当時、資本主義の考え方が蔓延していて、みんな良い暮らしをしているように見えるけど、こんな生き方はダメだと、語ってくれた作品です。戯曲が発表された当時は、非常にセンセーショナルだったそうですが、今の観客にとっては現実的過ぎる。当時は、未来を考えて書いた作品なのに、現代だと凄絶に共感するんです。でも、共感するだけで終わってはダメです。単なる解消ではなく、考えないといけない。
例えば、とても憂うつな日に劇場で思いっきり笑えたら、それはそれで価値のある作品だったと思います。そのような作品も必要ですが、僕は重くても作品が内包している何かを通して、観客とコミュニケーションしたいので、その結果、ほとんど重い人物を演じてきましたね」

2016年の演劇『二つの部屋』では、レバノンでテロリストに拉致された主人公マイケル役で出演。劇中のほとんどを目隠しされ、手を縛られた状態で演じた

●これまで出演した作品は、キム・グァンボ演出家の作品が多いです。「キム・グァンボのペルソナ」とも呼ばれていますが?
「演劇をちゃんとやり始めるきっかけになった作品が、クァンボさんの作品でしたから。ペルソナと言われたりもしますけど、違いますね。演出家と俳優の作業って、お互いに慣れてしまうのはもちろん良くないですが、演出家と俳優が初めて顔を合わせて作品を作る時は、お互いを把握する時間がどうしても必要になってきますよね。グァンボさんが僕を呼んでくださるのは、単純に僕のことをよく知っているからです」

●一度キム・グァンボさん演出作で、日本の舞台に立ったこともあるとか!?
「ええ。いつだったかもう正確な年度は覚えていませんが。その頃、偶然グァンボさんに会ったんです。で、“お前、今何やってる?”と聞かれて、“いきなり日本に行かなければならないんだけど行く?”と言われて。韓国人俳優が必要な状況で、誰が良いか悩んでいたところ、僕と会ったんです。だからペルソナではないんですよ(笑)。公演は北海道の札幌でした。美味しいものもいっぱい食べて、とても楽しかったです。劇場はコンテナを改造した感じで、風情のある屋根もあって。韓国では見たことがない、工場のような劇場で上演した覚えがあります。終演後には、地域の方々だと思いますが、老夫婦からパンをいただいたんです。そんな文化があるんですね! 韓国は主な客層が若い人ですので、そういうのがとても新鮮で羨ましかったです」

●それはどんな作品だったのでしょう?
『蟹と彼女と隣の日本人』(2011年6月、札幌座で上演)という作品で、劇中の僕の設定は日本に定住しようとする韓国人でした。日本語と韓国語を半分ずつ使いましたが、僕が日本語でしゃべると、観客はみんな笑うような、そんな日本語をめちゃくちゃに喋りました。台詞は覚えていませんが、『お~いお~い北海道』みたいな歌は覚えています。グァンボさんが、北海道に行くとこの歌が24時間流れているんだとおっしゃったので、まさかと思ったんですが、街で本当に流れてたんです!(笑)それがとても面白かったです」

『M.Butterfly』では、妻がありながらオペラ『蝶々夫人』で見染めたソン・リリンに惹かれていくフランス人、ルネを熱演。ファンが急増した。(2014年公演より)

『M.Butterfly』2014年公演より

 

●キム・グァンボ演出作といえば『M.Butterfly』で演じられたルネの人気は凄かったです。
「僕が出演した作品のなかでは一番大衆的な作品でした。初演には参加してなくて、再演から出たんですが、もう既に作品自体を愛するファンが多かったので、そのおかげですね。この作品に出たことでいろんな方々に出会えました。それから、キム・グァンボ演出家作品のファンもとても多いんです。『M.Butterfly』はまた再演されるそうですよ。4回目になりますが、今回はグァンボさんも参加しないそうですので、出演する俳優も全員変わるのではないかと思っています」


●2015年に出演された土田英生原作の『少しはみ出て殴られた』は、登場する囚人たちのなかでもちょっと間の抜けた面白い役でした(笑)
「僕はバカ専門俳優ですよ。大韓民国のダメ男はほとんど演じてみましたけど(笑)。実はいっぱいやってるんですよ。何が面白いか……見かたによっては意味も変わるかもしれません。ある人物が、一つの方向に向かって一所懸命にやっていく姿を傍から眺めると、ある意味とても滑稽ですよね。そういう人物をよく演じてきたなと思います。だからダメな人物を演じるのが好きなんです。恰好つけるような演技は苦手です」

LGアートセンターで上演されたキム・グァンボ演出作には2年連続で出演。ともにコミカルなキャラクターだった。『社会の柱』(2014年 写真左)、『少しはみ出て殴られた』(2015年 写真右)

●そういえば、韓国オリジナル作品よりも翻訳劇への出演が圧倒的に多いですね。そんな中で最も気に入っている作品は何でしょう?
「国立劇団で上演した『ガラスの動物園』。あとはいま出演している『セールスマンの死』です。作品の情緒が、自分に良く合っていると思います。テネシー・ウィリアムズ、アーサー・ミラーと、両方とも古典作品ですね。最も残像が強く残ったんです。今回も強く残る気がします」

●そしてスンジュさんが主演した作品は、好評で再演されることも多いです。
「正直、一番またやりたい作品が『ガラスの動物園』です。俳優として舞台上でやらなければならないことがあるんですけど、十分発揮できなかったんです。もっと複雑な人物だったのに断片的に考えてしまった。トムという人物を、親、自分の夢に対する気持ち、姉への愛憎…だけで作り上げようとしてたんです。原作者のテネシー・ウィリアムズはもっと大きい話がしたかったと思うんですが……。再演までやったので、もう僕がスーパースターにならない限り(笑)、3度目の再演する機会はなかなか得られないでしょうね。とても残念です」

●お話しを伺っていると、作品や役柄をとても深く考えられるタイプだと感じました。演出家や劇作家など、制作者にも向いているのでは? と思ったんですが。
「実は児童劇を作ってみたいんです。良い児童劇が何かはよく分かりませんが、音楽とかいろいろ使って、大人たちが純粋な気持ちで、本当に子どもたちのために作る作品を。そういう児童劇を作って子どもたちの人生の1ページを飾ってあげたいです。そうすればその子どもが成長後、自然に演劇を観に行ったりするでしょう? 今の子どもたちは、英語を使う幼稚園に通って、お芝居も英語演劇(のような教育的なもの)しか見ていないんですよ。そんな子供たちは大人になってダンスや音楽会に行こうとしても、いきなりそれを楽しめないと思うんです。良い映画や音楽などに触れて、休むことって大事だと思うんです。長期的に見て、韓国演劇の発展のためにも必要なことだと思っています」

●もしかして劇作にも興味ありますか?
「あります。たいしたことではないですが。劇作に関する本を読んでいます。でも劇作にはあまり自身がなくて、それよりは演出をやってみたいです。知識がないので、もっと勉強しなければならないですけど、俳優としても良い影響を与えられたらいいなーと。それが1次目標です。何かを始められる影響力というか。そのために、もっとがんばって演劇をやりたいです。とにかく演劇はこれからずっと頑張ってやっていきたいですから」

●3時間の公演を終えられた後で、とてもお疲れだったと思いますが、今日はいろんなお話を伺うことができて、とても楽しかったです!本当にありがとうございました!
「こちらこそ、ありがとうございました。食事も本当に美味しかったです!」

*     *     *

俳優の類型を大きく二つにわけるなら、このように分けられるのではないかと思います。輝きたくて俳優になるタイプ。一方、物語の世界が好きでその中に入ろうとして俳優になるタイプ。これまで稽古場で出会った俳優たちを見ると、意外にも後者のほうが多いです。有名になることにはあまり興味がなく、見られることを恥ずかしがるような人たちです(俳優なのに!)。その代わり、彼らは意味のある作品で、そのキャラクターとして存在するときには自信を持って舞台に立つのです。イ・スンジュさんもそんな俳優の一人。加えて彼は、作品を作るたびに共演した俳優のみならず、作品を裏で支えたスタッフとも良い仲間になれる人です。彼と一度仕事をすれば、またぜひ彼と一緒に仕事をしたいと思わせてくれるような俳優さんです。
私が今まで出会った俳優のなかで、最も丁寧に戯曲を読む印象があったスンジュさん。やはり演出にも興味を持っていて、児童劇を作りたいとは驚きました! その素敵な夢に向かってさらなる活躍を期待しています。

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【Profile】イ・スンジュ(이승주 Lee Seung-Joo)
東国大学演劇学科卒。2008年にKBS公式採用21期に合格し、数作のドラマに出演。10年の『追跡(추적)』から本格的に演劇中心の活動をはじめ、確かな演技力に加え、モデル並みの長身と甘いルックスで観客を魅了し、演劇界で一躍注目の若手俳優となる。その後も『私の心臓を撃て(내 심장을 쏴라)』(10年)、『ロマンチスト殺し(로맨티스트 죽이기)』(12年)、『戦場を盗んだ女たち(전쟁터를 훔친 여인들)』(13年)など公立劇場作品への出演が多かった彼が、14年に再演した『M.Butterfly』で主人公ルネを好演し、ファン層を大きく広げた。その後も『社会の柱たち(사회의 기둥들)』(14年)、『ガラスの動物園(유리동물원)』(14、15年)、『少しはみ出て殴られた(살짝 넘어갔다가 얻어맞았다)』『俺は兄弟だ(나는 형제다)』(15年)、『セールスマンの死(세일즈맨의 죽음)』(16、17年)『グロリア(글로리아)』『二つの部屋(두 개의 방)』(16年)など、演技巧者が揃う話題の演劇にコンスタントに出演している。

取材:イ・ホンイ/さいきいずみ 文:イ・ホンイ 撮影:キム・ジヒョン

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イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.20

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.20

 

翻訳劇制作の世界、演劇『ナミヤ雑貨店の奇蹟』

朗読公演『公演、出会う 同行』のポスター ©デミョン文化工場

南山アートセンターで今年初めて行われる朗読公演「サーチライト」2017 ©南山アートセンター

韓国では、1月から大学路では生まれたばかりの赤ちゃんのようなショーケース作品がたくさん上演されました。前回のコラムで紹介した「NEWStage」とほぼ同じ時期から始まった「創作産室(창작산실)」の作品群も2月まで上演が続きました。「創作産室」は、オリジナルの演劇・ミュージカルを公募し制作するプログラムですが、韓国は3月から年度が変わるため、2月は一種の成果発表の場になっているのです。

それと同時にソウル文化財団の助成金公募申請の締切りも2月にありました。大学路で活動する多くの演劇人は助成金をもらって作品を制作するため、2月は大学路のあちこちで申請書類を作成する演劇人を目にします。厳しい競争のなかで助成金を得て新しい作品を作るためには、入念な準備が必要なのです。

韓国にはさまざまな助成金プログラムがありますが、どうやって選定作を決めるか気になる方もいらっしゃると思います。例えば、ソウル文化財団は書類審査を通して、「創作産室」は書類審査とショーケースを通して作品を選定します。加えて、最近は、“朗読公演”という形式を活用するケースが増えています。ショーケース公演に比べて制作期間と予算を節約でき、事前に観客の反応を見ることができるからでしょう。去年から試験的に朗読公演を行い、今年からは定期的なプログラムとして編成する予定のドゥサン・アートセンター、加えて今年3月に行われる南山アートセンターの「サーチ・ライト」がそれです。以前からアート志向の強い作品をサポートしているこの二つの劇場だけではなく、このような試みは一般観客の反応に、より敏感な商業劇の世界では実はもっと前から行っています。日本でも上演された『女神様が見ている』などを生んだ、CJ文化財団が実施している「CJクリエイティブマインズ」がその代表的なプログラムです。
そして、2014年のオープン当初から話題の小劇場作品を多数上演し、新たな大学路のメッカとなっている「デミョン文化工場」も去年から新作発掘プログラム「公演に出会う、同行(공연, 만나다 동행)」(以下「同行」)を始めています。「同行」は創作劇と翻訳劇を問わず、デミョン文化工場が制作できそうな良い脚本があれば誰でも応募できるプログラムで、書類審査を受けて選ばれた3作品は、全2回の朗読公演を行い、観客からのフィードバックを検討した上で、一つの作品を選定。その作品は正式にデミョン文化工場のレパートリーとして本公演になるのです。

今年行われた第2回「同行」には、一つ特徴がありました。それはミュージカル『Boys in the band(보이즈 인더 밴드)』以外の二つの作品、音楽劇『曲がれスプーン(구부러져라, 스푼)』と演劇『ナミヤ雑貨店の奇蹟(나미야 잡화점의 기적)』は、日本の作品を原作にしていることでした。『曲がれスプーン』は劇団ヨーロッパ企画の上田誠による同名原作をミュージカル『洗濯(パルレ)』の作・演出家チュ・ミンジュが脚色と演出を務めた作品。一方、東野圭吾の同名小説が原作の演劇『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は劇団キャラメルボックスの成井豊の脚本を、『女神様が見ている』の演出家パク・ソヨンが演出した作品です。
翻訳劇の場合は、ある程度、既に検証されたコンテンツだと思われることが多く、なかなか新作のためのサポートは受けられないのですが、数少ない創作支援の機会の中で、韓国演劇界とミュージカル界の全体的な翻訳劇の比率を考えてみても、日本の作品が二つも入っていたのは、やはり珍しいことでした。

『同行』で上演された『曲がれ!スプーン』(写真左)と『Boys In The Band』 ©デミョン文化工場

2014年に上演された演劇『容疑者Xの献身』のポスター

今回、演劇『ナミヤ雑貨店の奇蹟』を準備したのは、実は去年の第1回「同行」で朗読上演されたミュージカル『容疑者Xの献身』も制作した「ダル・カンパニー」でした。同じく東野圭吾の原作小説/成井豊の脚本をベースに、2014年に上演された演劇『容疑者Xの献身』(イ・キプム演出)を見て「同行」の朗読公演につなげたダル・カンパニーが、再び力を入れて作ったのです。
ちなみに、東野圭吾は韓国で最も愛されている日本の小説家の一人です。韓国を代表する大型書店、教保(キョボ)文庫によると、2007年~2016年の間、日本の小説で最も売れたのが「ナミヤ雑貨店の奇蹟」で、特に2014年からは3年連続1位を記録したほどのベストセラーになっているそうです。「容疑者Xの献身」も6位に入るほど、東野作品は韓国で親しまれているのですが、それゆえに、今年の「同行」は期待と共に心配の声も高かったのも事実でした。そんななかで最も反応が良かったのは、やはり『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の朗読公演で、特に俳優の力が大きかったと評判になりました。ナミヤ雑貨店に盗みに入る、敦也、翔太、幸平を演じたホン・ウジン、チュ・ミンジン、チェ・ソンウォンは、まるで本公演のように台本を持たず台詞を全て覚え、動きもつけて演じました。何よりも、ドラマ『応答せよ1988』出演後、白血病が発覚して舞台を離れていたチェ・ソンウォンが9カ月ぶりに復帰するとあって、舞台ファンのみらなずマスコミも注目していました。また、この作品は登場人物がとても多いのですが、前出の3人以外の26名の登場人物を7名の俳優が巧妙に演じ分けました。朗読公演ながらも俳優全員にとって、とても負担が大きい作品でしたので、それを見事にこなした俳優への拍手が大きかったのです。

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』朗読公演より。(写真左から)チュ・ミンジン、チェ・ソンウォン、ホン・ウジン ©デミョン文化工場

『ナミヤ』チームが稽古を始めたのは1月23日で、朗読公演の2月10日~11日まで約3週間の時間がありました。翻訳者として参加した私もこの期間の間、たくさん学び、またいろんなことを感じることができました。

  1. 多くの観客に既に読まれた小説を舞台化するにあたり、どうすれば新鮮だと感じてもらえるか。
  2. 大劇場用として作られた脚本を小劇場、それに朗読公演という形式にうまく作れるかどうか。
  3. 日本人の人物名が、韓国の観客には難しくて覚えにくいが、30名に近い登場人物をどのように整理すれば良いか。
  4. 日本語だからこそ可能な駄洒落のようなセリフをどうするか。
  5. 韓国の観客には受け入れがたい日本独特の部分をどうするか。

などの課題があり、それをスタッフや俳優とみんなで悩む時間でもありました。
は、演出家パク・ソヨンの奇抜なアイデアで、朗読するときに俳優が台本を置く譜面台の前に役名とキャラクターイメージの絵を描いた紙を掛けておき、紙芝居のような楽しさとともに、役柄の情報を観客に提供しました。
は、原作を最大限変更しない、という方針になりました。

全ての翻訳劇がそうですが、このように翻訳の過程は翻訳者一人の作業だけでは終わりません。俳優に読んでもらってからわかることもありますし、今の韓国社会の雰囲気に影響される場合もあります。例えば、2014年に翻訳を担当し、ドゥサンアートセンターで上演した『背水の孤島』(中津留章仁原作)は、東日本大震災を取り上げた作品でしたが、稽古が始まるころにセウォル号事件が起こったことで、観客たちの作品の解釈に大きな影響を与えました。ほかにも、去年、著名な芸術家によるセクハラや性的暴行事件が相次いで話題となったため、最近は性的な冗談や女性を卑下する表現などに観客が敏感となってしまい、抗議をすることも多くなりました。このような背景もあり、①から⑤までを慎重にクリアしていくことは制作陣にとってとても大事な作業となりました。

このように、さまざまな試行錯誤を経て、作品はようやく観客に出会うことができるのですが、翻訳者には、最後の仕事が残ります。一所懸命に楽しく観劇すること。加えて観客の反応をつぶさに観察することです。トイレやロビーで観客たちが交わす対話、SNSでのつぶやきの全てを丁寧にモニターして、特定の台詞が気に入らなかった、とか、逆に良かった、などのコメントが出ていないか確認するのです。このモニタリングで特に指摘がなければ、作品は観客に何の違和感もなく、自然に受け入れられたことを意味するので、翻訳者として安心しても大丈夫だという証拠になるとも言えます。

2015年にLGアートセンターで上演『少しはみ出て殴られた』プレスコール写真より

そういえば昔こんなことがありました。2015年にLGアートセンターで上演した演劇『少しはみ出て殴られた』(土田英生原作)を観劇したミュージカル俳優のホン・グァンホさんが、終演後に「これ翻訳劇だったんですか? 全然分からなかった。オリジナル脚本だと思いました」と言ってくれたのです。これは、個人的には最高の褒め言葉でした。アイロニーですが、翻訳者は存在感が薄ければ薄いほど、嬉しいのです。今回の『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の朗読公演も、翻訳者として少しでも成長する機会を与えられたことを心から感謝しています。

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イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.19

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.19

 

地球と私のパラレルワールド『わが星』

地球ちゃん役のキム・ヒジョンと姉役のチョ・ハナ

日本の演劇関係者と話をすると、時々、韓国演劇は助成金制度が日本より充実していると言われたりします。大学路の多くの作品が国からサポートを受けて上演していることを考えると、ある意味、それは本当かもしれません。特に、毎年1月には上演作自体は少なくなる代わりに、厳しい審査を受けて生き残った期待の新人の作品が集中的に上演の機会を得ます。その中でも、代表的なプログラムが「NEWStage」ではないかと思います。

「NEWStage」は、ソウル文化財団ソウル演劇センターがデビュー10年未満の若手に対し、作品の創作から上演までをサポートするプログラムです。公募を通して選ばれた3~4人の若手演出家は、上演劇場が提供されるだけではなく、中間発表の場でフィードバックももらえ、宣伝までも担当してもらえる貴重な機会を得るのです。そのため、応募作も多く、競争が激しいのはもちろん、特にこれまでは創作劇(オリジナル演劇)が選考対象になっていました。

このプログラムに今年は、4人の若手演出家の作品が選ばれました。
①イ・ヨンジュ(이연주)『電話のベルが鳴る(전화벨이 울린다)』(1月5日~8日 トンスンアートセンター トンスン小劇場)
②キム・ジョン(김정)『お客たち(손님들)』(1月12日~15日 トンスン小劇場)
③イ・ウンソ(이은서)『I’m an artist』(1月14日~18日 萬里洞[マンリドン]芸術人住宅)
④シン・ミョンミン(신명민)『わが星(우리별)』(1月19日~22日 トンスン小劇場)
①コールセンターの労働者問題、②親を殺した少年の事件、③芸術家の視点から見た育児の問題など、4作品のうち、3作品は今の韓国社会の空気を反映するような作品が選ばれました。そして今回ご紹介する4番目の作品だけが、他の作品とは違い、何も起こらない日常を明るく楽しく描きます。きっと最後は作り手にも観客にもみんな笑顔になってほしいからでしょう。しかし、それよりも本作品にもっと注目すべき理由があるのです。「NEWStage」では珍しく、日本演劇の翻訳劇が選定されたからです。

地球ちゃん一家(写真左から、おばあちゃん役イ・セロム、地球ちゃん、姉、母役キム・スア、父役パク・ギドク)

『わが星』は、日本で2009年に初演された、劇団「ままごと」を主宰する柴幸男作・演出の作品です。彼はこの作品で、岸田戯曲賞を最年少で受賞しました。再演とワークショップを繰り返している作品ですので、日本でご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。本作の大きな特徴は、多くの台詞がラップになっていることです。口ロロ(クチロロ)というバンドと一緒に作ったそうで、そのためかこの作品はまるで一つの歌のように構成されていて、見終わった後もずっと頭の中で劇中のメロディーが流れてしまいます。今回の韓国版では、新たに若い韓国の音楽監督を招きました。戯曲の設定を韓国人の物語にする以外は、セリフなどはほとんど変えず、韓国語に合わせたラップを作りました。

地球ちゃんと月ちゃん役のホ・ジン

物語は、“地球”という少女の一生と、わが星である地球の誕生から消滅までをリンクさせた内容です。コスモス団地に引っ越してきた地球ちゃん。彼女には祖母、父、母、姉の家族がいます。いつもうるさくて、喧嘩もよくするんですが、いつの間にか仲直りして……と、こんな毎日を繰り返しています。地球ちゃんには、隣に住んでいる月ちゃんという友達がいます。二人は毎日のように遊んでは喧嘩し、また仲直りして遊んでいますが、徐々に二人の距離は少しずつ離れていきます。

同じ形の建物が並ぶ団地、でもその中にある、遠くから見てもすぐ分かる我が家の明かり、友達に送った手紙、誕生日プレゼント、父の帰りを待っている母、祖母が教えてくれること、姉ちゃんとの喧嘩、受験勉強などなど。決して特別ではないけれど、地球ちゃんにとっては大切な記憶が繰り返されたり、その記憶自体が遊びになったり、いきなり宇宙に飛んでしまったりする不思議な体験です。それを見ている観客の人生まで美しく輝く、魔法のような100分間。普段は感じ取れない日常の小さい幸せにメロディーをつけるために、演出家と俳優は細かいところまで計算しながら、ラップ作りに挑戦しているのですが……セリフは殆ど変わっていないとはいえ、音節の数や音の響きや言葉のニュアンスが違う韓国語版の台本にピッタリのラップを作り出すのは簡単ではありません。たった4日間という短い上演期間が惜しいくらいの苦労をしていて、その努力には大きな拍手を送ってあげたいです!

この韓国語版『わが星』の演出を務めるシン・ミョンミンは創作集団LASの演出部に所属しています。LASについては、私の第9回コラムでも紹介しましたが、大学路で最も期待されている若手劇団で、主宰のイ・キプム(이기쁨)はハイバイの岩井秀人作『て(손)』や、東野圭吾の同名小説が原作の『容疑者Xの献身(용의자 X의 헌신)』を演出し、日本の作品とも縁が深い演出家です(ちなみに、イ・キプム演出の『て』は5月末に大学路アルコ小劇場で再演予定です)。
シン・ミョンミン演出家が日本の戯曲を演出するのは『わが星』で二回目です。『わが星』の戯曲がとても気に入った彼は「NEWStage」に申請した後、勉強のために柴幸男のもう一つの戯曲『少年B』を読み、それを去年の6月、劇団制作公演として先に上演しました。『少年B』は第6回コラムで紹介した作品です。


『少年B』も『わが星』も、ものすごく幸運でもなく、かと言って不幸のどん底を経験したこともない、登場人物たちの平凡な人生を“物語”にしていた作品です。日常の中の何気ない出来事をキャッチし、それを繊細に変奏していきます。特に、劇的な展開や俳優たちの爆発しそうな熱演、社会・共同体としての問題意識が満ちている韓国の演劇界で、この柴幸男の小さな世界は一層特別な存在です。海の向こうから私をずっと見てくれたんだと感じさせる暖かい作品は、きっと多くの韓国の観客から愛されることでしょう。トンスン小劇場で起こる小さな奇跡を、ぜひご期待ください。


【公演情報】
演劇『わが星』(우리별)
2017年1月19日~1月22日 トンスンアートセンター トンスン小劇場

<出演>
●地球:キム・ヒジョン
●姉:チョ・ハナ
●父:パク・ギドク
●母:キム・スア
●月:ホ・ジン
●先輩:イム・ヨンウ
●男:チョ・ヨンギョン

原作:柴幸男/演出:シン・ミョンミン

●創作集団LAS 公式サイト⇒http://www.las.or.kr

写真提供:創作集団LAS ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。


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[PLAY]人気作家が突然の失踪…その理由は?『盗まれた本』開幕

[PLAY]人気作家が突然の失踪…その理由は?『盗まれた本』開幕

 

人気脚本家ソ・ドンユン役のイ・シフ(左)と彼を拉致した元アシスタント、チョ・ヨンラク役のチョ・サンウン

『ピローマン』『私に会いに来て』『報道の指針』などの話題作を手掛け、韓国の演劇ファンに支持されているビョン・チョンジュ演出家が実力派俳優を揃えておくる『盗まれた本』が4度目の再演初日を前にプレスコールを開催した。

ビョン・チョンジュ演出家

『盗まれた本』は映画『コ死-二番目の話』『ミスター主婦クイズ王』などを作・演出したユ・ソンドン監督が、2011年に「大韓民国ストーリー公募」で大賞を受賞した同名映画シナリオが原作となっている。
長らくスランプに陥っていた脚本家ソ・ドンユンが、才能ある作家志望の若者チョ・ヨンラクが書いたシナリオを盗んだことから巻き起こる拉致事件と、その背景を描き出したスリラー作品だ。

劇中映し出されるアニメーションを芝居とシンクロさせたユニークな演出も見どころの本作。ビョン・チョンジュ演出家は、9月に上演した3度目の再演からさらにバージョンアップし、今回の上演をVer.3.5と呼んでいる。「前回と大きな変化はありませんが、一番最後のシーンにアニメーションを追加しました。原作にはなく、この原作を基にしたウェブトゥーン(ウェブ漫画)にあるシーンですが、原作とウェブトゥーン、演劇が互いに影響を受けつつ構成できて個人的には満足しています」と今回のバージョンに手ごたえを感じているようだった。

確かな演技力で存在感を見せるイ・シフ

長年の沈黙を破って脚本を執筆した映画が大ヒットしたものの、映画賞の授賞式後に拉致され、で一気に栄光から奈落の底に落ちるソ・ドンユン役には今年ソウル芸術団から独立後、ミュージカル、演劇と精力的に出演しているイ・シフが新たに加わった。
「ドンユン役はほとんど出ずっぱりで退場するシーンがないので、稽古に入る前は“ああ、どうやって進行させよう?”と強迫観念に囚われていましたが、一旦芝居が始まってヨンラクとやり取りし始めたら、ある瞬間からそんな心配は忘れて芝居に入り込んでしまいます」と、体調管理に気を付けてひたすら役に没頭するだけだと語っていた。

穏やかな面持ちだが、時に狂気を見せるヨンラクを演じるカン・ジョンウ

劇中ではヨンラク以外のサブキャラクターを一人多役で演じるチョ・サンウン

自身が執筆した脚本を盗んだドンユンを拉致監禁し、脚本執筆をさせようとするチョ・ヨンラク役はトリプルキャスト。プレスコールでは、9月公演にも出演していたチョ・サンウンと今回初出演となるカン・ジョンウが出席した。

カン・ジョンウは「誰かを閉じ込めたり、傷つけたりしてみたいとちょっとでも思ったことがある人がいたら、悪いことはせずにこの作品を見に来てストレス発散してほしいです」とユニークな推薦コメントを。一方チョ・サンウンは「9月の公演よりもよりこなれた演技を舞台と近い距離で見られると思います。すべての俳優がそれぞれに違ったカラーを持っているので、すべてのペアの公演を見に来てくださればありがたいです」とアピールしていた。

芝居とアニメーションをシンクロさせた演出が見もの

9月の上演ではドンユンとヨンラクのペアを固定していたが、今回は2人のドンユン役と、3人のヨンラク役がランダムに出演し、組み合わせの妙が楽しめるとのこと。
拉致事件の裏に隠されていた秘密を紐解く醍醐味と、実力派俳優たちによる熱演が堪能できる『盗まれた本』は、大学路芸術劇場 木と水(旧、木と水(나무와 물)劇場)で、2月26日まで上演される。


【公演情報】
演劇『盗まれた本』(도둑맞은 책)
2016年12月16日~2017年2月26日 大学路芸術劇場 木と水

<出演>
●ソ・ドンユン役:パク・ホサン、イ・シフ
●チョ・ヨンラク役:カン・ジョンウ、イ・ギュヒョン、チョ・サンウン

プロデューサー:チョン・ユラン/原作:ユ・ソンドン/演出・脚色:ビョン・チョンジュ/音楽:オム・ブレ/イラスト:イ・ギュヒ/映像:シン・ジョンヨプ/舞台・小道具:チョン・スギャン/照明:イ・ジュウォン/衣装:オ・ヒョニ/音響:チャン・ギヨン/写真:チェ・ヨンソク/助演出:パク・ジュニョン

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[PLAY]お茶の間で人気のおじさま俳優が集結!『僕らの女たち』開幕

[PLAY]お茶の間で人気のおじさま俳優が集結!『僕らの女たち』開幕

 

 

サイモン役のウ・ヒョン(左)とポール役のユ・ヨンス

サイモン役のチョン・ソギョン

韓国でいまトレンドになっている“アジェファタール”なベテラン俳優たちによる演劇『僕らの女たち』が開幕し、プレスコールが開催された。

(※注 アジェファタール=아재파탈。おじさん(アジェ)+オムファタールを組み合わせた流行語。「素敵なおじさま」の意味。)

35年来の親友である、ポール、サイモン、マックスという3人の中年男性が“妻抜き”で集まった、ある一夜の出来事を描く本作は、フランスで最も権威ある戯曲賞モリエール賞を二度受賞経験のある劇作家エリック・アスーが2013年に発表したコメディ。仏初演時には、リシャール・ベリー、ジャン・レノ、ダニエル・オートゥイユなど、日本でも映画を通じて知られている有名俳優を起用して上演。その後、映画版も2015年に制作されたというヒット作だ。

(写真左から)ポール役のユ・ヨンス、サイモン役のウ・ヒョン、マックス役のキム・グァンシク

アジア初演となる今回、俳優チョ・ジェヒョンが主宰するスヒョンジェカンパニーの制作作品だけあって、ドラマ、映画界で“シーンスティーラー”と呼ばれる名優たちがズラリと揃った。なかでも注目は、名門、延世(ヨンセ)大学神学科の同級生で、大親友を公言しているアン・ネサンとウ・ヒョンの舞台初共演だ。(ドラマ撮影の都合でアン・ネサンはプレスコール不参加)
しかし、ウ・ヒョンは当初舞台出演を躊躇していたという。「ネサンがこの作品の台本を読んで“これは演らなきゃならない”と執拗に誘ってきた。意外にもテレビで『SHOW ME THE MONEY』(※注 ヒップホップのラッパーが多数出演する大人気サバイバル音楽番組)か何かで、失敗しても果敢に再挑戦するスターたちの姿を見て“人生は常に挑戦するものなんだ、諦める必要はない”と思って出演を決めた」とあくまで親友の誘いに乗ったわけではない点を強調。「見た目では演劇出身で長年苦労してきた俳優だと思われがちだが、18年くらい前に一度出ただけで今回が舞台デビューのようなもの」と語り、笑いを誘っていた。

(写真左から)マックス役のイ・ウォンジョン、サイモン役のチョン・ソギョン、ポール役のソ・ヒョンチョル

本作は『僕らの女たち』というタイトルに反して、女性キャラクターはひとりも登場しない。マックス役のイ・ウォンジョンは「男3人しか出てこないので、息つく暇もない。女優が一人でもいれば稽古も楽しいのに、男しかいないからつまらないし大変だ。加えてマックスは後半にラップをやるシーンがあるが、生まれて初めてラップをやった。でもダメなものはダメだ(笑)」と自らダメ出ししていたが、おじさまたちのラップシーンは見どころのひとつとなるだろう。

サイモン役のウ・ヒョン

劇中冒頭で、「妻を殺してしまった!」と青い顔をしてやってきたサイモンのため、親友ポールとマックスは一緒にさまざまなアリバイ工作を考えようとする。その間、3人は過去の恨みごとを掘り返したりと、すったもんだの展開となっていく。イ・デウン演出家は「普遍的情緒を盛り込みながら、騒動を通して彼らが再び友情を確かめ合い、人生を振り返るような話だ。タイトルのように、3人の男たちが嫉妬や猜疑心などまるで女性のような姿を見せるところが観客の共感を得られるのではないか?」と作品の魅力を紹介していた。

脚色を担当しているのは、ミュージカル『ラフマニノフ』『僕とナターシャと白いロバ』の演出など、今年は八面六臂の活躍で、韓国舞台シーンでいま最も注目を浴びる劇作家、演出家のオ・セヒョク。「海外の戯曲は初めて脚色したが、言葉は違ってもコメディの言語は同じだと感じた。人間は完璧ではなく足りない部分が多くて厄介なものだということを、可愛らしく包み隠してあげたかった」と原作への共感と愛着を見せていた。

イ・デウン演出家(左)と脚色を担当したオ・セヒョク

また、大統領についての会話が出てくるなど、セリフには原作にはない時事風刺が多数盛り込まれている。イ・デウン演出家は「面白い作品を良い先輩たちと準備している間に、時局が良くなくなった。週末の抗議集会にも行けず、稽古した。その無念な思いを作品に反映してみてはどうか、と観客が共感できるセリフを追加した。観客の反応も良い」と説明していた。

最後にウ・ヒョンは「男性の観客が見たいと思う作品はヒットするらしいので、男性に見てもらいたい。そしてお金がある方は、キャストの組み合わせでまったく違った印象があると思うので、何度も見に来てほしい(笑)」と、ユーモアたっぷりにアピールしていた。

お茶の間でも人気のベテラン俳優たちの名演を、直に堪能できるヒューマンコメディ『僕らの女たち』は、2017年2月12日まで、大学路のデミョン文化工場3階にあるスヒョンジェシアターで上演される。


【公演情報】
演劇『僕らの女たち』(우리의 여자들)
2016年12月2日~2017年2月12日 スヒョンジェシアター

<出演>
●ポール役:アン・ネサン、ソ・ヒョンチョル、ユ・ヨンス
●サイモン役:ウ・ヒョン、チョン・ソギョン
●マックス役:イ・ウォンジョン、キム・グァンシク

原作:エリック・アスー(Eric Assous)「Nos Femmes」/翻訳:イム・スヒョン/演出:イ・デウン/脚色:オ・セヒョク

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[PLAY]ぺ・ジョンオク、ソ・ユジン、イ・チョンア出演『花の秘密』3度目の再演

[PLAY]ぺ・ジョンオク、ソ・ユジン、イ・チョンア出演『花の秘密』3度目の再演

 

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(写真左から)モニカ役のソ・ユジン、ジャスミン役のぺ・ジョンオク、ソフィア役のイ・ソンジュ、ジーナ役のキム・ボジョン

モニカ役のソ・ユジン

モニカ役のソ・ユジン

映画、テレビ、舞台と、ジャンルレスに活躍するチャン・ジン監督の作・演出で2015年に初演した演劇『花の秘密』が3回目の再演を迎え、開幕を前にプレスコールが開催された。

個性豊かなキャラクターたちと、シニカルなセリフを散りばめたチャン・ジン監督ならではのコメディが楽しめると評判になった本作は、わずか1年の間に再演から地方公演まで行うヒット作となった。今回3回目の再演ではキャストをほぼ総入れ替えし、ぺ・ジョンオク、ソ・ユジン、イ・チョンアなど、テレビドラマで活躍中の女優たちが顔を揃えている。

物語の舞台は、イタリア北西部にある田舎町ヴィラールペローザ。主要産業はブドウ栽培とワイン造りというこの村に住む女性たちが主人公。年長で皆のまとめ役のソフィアに、酒浸りのジャスミン、一時は女優を夢見た美貌のモニカ、そして工科大を主席で卒業した才女でありながら、田舎暮らしを余儀なくされているジーナの4人だ。彼女たちはそれぞれに夫への不満を抱えながら暮らしてきたが、サッカー観戦に行った夫たちが事故に遭ったことで、夫の保険金を受け取るためにある作戦を実行することになる。

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名女優の酔った演技は必見、ジャスミン役のぺ・ジョンオク

チャン・ジン監督は、今春の再演終了後しばらくはこの作品を上演しないつもりでいたそうだが、初演を見たジャスミン役のぺ・ジョンオクが出演を熱望したことが今回の再演への契機となったという。
当のぺ・ジョンオクは「チャン・ジン監督とは7、8年ぶりに一緒に仕事をすることになったが(これまで演じてきた役柄のためについた)、シリアスなイメージから抜け出してコメディに挑戦したかった」と語った。舞台では赤ら顔でコミカルなキャラクターを演じている彼女は、イメージチェンジした姿で観客と対面できることへの期待感を表していた。
モニカ役のソ・ユジンは4年ぶりの舞台復帰となった。「ドラマ『子供が5人』が終わったあと、年内は休もうと思っていたが(本作の制作会社スヒョンジェカンパニーを主宰する)チョ・ジェヒョン先輩に推薦され、チャン・ジン監督のコメディを演ってみたいという欲から出演を決めた」と、ミュージカル、演劇と舞台経験は豊富な彼女らしいコメントを披露した。

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初舞台とは思えない落ち着いた演技を見せたモニカ役のイ・チョンア(左)と、ソフィア役のグ・ヘリョン

同じくモニカ役のイ・チョンアは本作が舞台初挑戦となる。「父(演劇俳優イ・スンチョル)が長年演劇をやっているのを見て来たので、常に興味はあったが数年前にドラマで知り合い、出演舞台を見て来たぺ・ジョンオク先輩が出演されると知って、チャン・ジン監督の良い作品を良い先輩方と一緒にできることはまたとないと思った。このプレスコールで初めて観客の前に立って演じたが、とても気持ちがいい」と充実した表情を見せていた。

時事ネタを封印した演出意図を語るチャン・ジン監督

時事ネタを封印した演出意図を語るチャン・ジン監督

作品に鋭い風刺を盛り込むことで知られるチャン・ジン監督だが、「最近は痛快さを通り越して、国民はあまりにも大変だ」と言い、(韓国内外で大きな話題となっている大統領問題などの)時事ネタは悩んだ末、今回あえて取り入れなかったという。
「(ホリデーシーズンの)12月に上演する演劇には特別な意味がある。1年の締めくくりに私たちができるのは、観客にとって印象深い休暇や癒しとなること」と、作品を純粋に楽しんでもらいたい様子が伺えた。
「『花の秘密』は女性たちの秘密の一夜の物語。“ある女性の秘密のため、非常に多くの人々が苦しんでいる今、この作品が小さな癒しになればいい”と書いたが、書いておきながら自分で鳥肌が立った。そんな能力もない奴が、偉そうにいたずら書きしたようだったからだ。最後の観客がいらっしゃるまで、作品がより良くなるよう努力する」と、最後にはチャン・ジン監督らしいアイロニーも込めた言葉で締めくくっていた。2016hananohimitu6

劇中には思わずクスッと笑ってしまうようなセリフや描写が満載で、特にチャン・ジン監督の映画ファンならばもれなく楽しめる『花の秘密』は、11月30日から、大学路のデミョン文化工場1館で上演される。


2016hananohimituposter【公演情報】
演劇『花の秘密』(꽃의 비밀)
2016年11月30日~2017年2月5日 デミョン文化工場1館ビバルディパークホール

<出演>
●ソフィア役:イ・ソンジュ、グ・へラン
●ジャスミン役:ぺ・ジョンオク、チョ・ヨンジン
●モニカ役:ソ・ユジン、イ・チョンア
●ジーナ役:キム・ボジョン、パク・ジエ
●カルロ役:イ・ドンヒョン、チェ・テウン
●サンドラ役:ハン・アリョン、チョン・ユンミン

作・演出:チャン・ジン

取材協力:スヒョンジェカンパニー ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。


イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.17

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.17

 

韓国語版『女優の魂』そして、『続・女優の魂』

joyunotamasii1今年の1月、私のほか、演出家マ・ドゥヨンと翻訳家マ・ジョンファがメンバーになっている劇団ディレクターグ42は、大学路の恵化(ヘファ)洞1番地という劇場で、『岡田利規短編小説選―女優の魂、続・女優の魂』(오카다 토시키 단편소설전-여배우의 혼, 여배우의 혼 속편)という演劇を上演しました。
これは、岡田利規が2012年に『美術手帖』で発表した短編小説「女優の魂」と、新しく執筆中の未発表/未完成の小説「続・女優の魂」の一部をひとつの演劇作品にしたものでした。「女優の魂」は、日本で佐々木幸子による一人芝居として舞台化(2012年、横浜STスポット初演)されたことがありましたが、韓国版では女優一人と美術作家一人が出演する、パフォーマンスとインスタレーションをミックスした二人芝居として制作しました。

この演劇が11月23日から27日まで、東京・アトリエ春風舎にて上演されます。韓国の演出家と俳優による韓国語上演で、日本語字幕が提供されます。この公演が実現できたのは、日本では岡田利規の戯曲が他の演出家によって制作された事例はほとんどなく、珍しいからではないでしょうか? その理由は、作・演出家としての岡田利規の世界/芸術観が非常にユニークで堅固なもののため、彼の戯曲を読んで新しい演出を試みることがなかなか難しいからかもしれません。個性の強い岡田利規の演出は韓国でも話題となり、多くの若手アーティストや舞台関係者が刺激を受けました。そのためか、1月の本作品上演後、韓国のある評論家が、翻訳とドラマターグを務めた私に「これは岡田作品の演出らしくない!」とわざわざ電話してきたくらい、演出家の岡田利規は韓国でも愛され、支持されているのです。

この作品には、約10年間、演劇俳優をしてきた女優小山サダ子が登場します。彼女は自分の職業を愛していますが、もう続けることはできません。何故ならば、死んでしまったからです。彼女に役を奪われた後輩の女優が彼女を嫉妬し、殺してしまったのです。仕方なく死後の世界に入ろうとしたとき、彼女はそこで、芸術家になりたいけどなれなくて、しかも芸術家の意味もわからずに自殺した男性、和歌山に会います。二人は死後の世界への転入申告をするために書類を書きます。そのなかに、職業を継続することを希望するか/しないかを問う質問を発見する二人。女優を続けられることが嬉しい小山。一方、和歌山は「人種を変えることはできるか?」と聞きます。彼は日本人のままならば、芸術家を希望しないというのです。

joyunotamasii2「女優の魂」はここで終わります。実は真剣な話をこんなに愉快な想像力で描き出すことができるなんて! と、驚きつつ、演出家マ・ドゥヨン、女優チョ・アラ、美術作家イ・サンホンはこの小説を舞台化しながら、たくさん話し合いました。いくつかの単語だけ変えれば、自分自身を見ているような生々しい物語だからです。私たちは公演を準備しながら約40分の「女優の魂」とともに上演するもう一つの作品を探しました。この願いに答えてくれたのは、やはり作家の岡田利規! ちょうど続編を書く予定だったと話してくださり、「続・女優の魂」の原稿を少しずつ送っていただきました。その原稿には、死後の世界で大劇場の舞台女優になり演技を錬磨する小山がまた登場します。そして落ち込んだ状態から逃れられず、さらに奈落の底に落ちてしまった和歌山がもう一度蘇る過程が描かれます。死後の世界では、また書類を出せば生き返ることも可能だったのです。

1月の韓国初演では、演劇・芸術をめぐる愛情、風刺、皮肉が効いたブラックコメディーとして客席を揺らしました。レビューのなかには「現実的な論理を軽く超えてしまう自由な想像力が、すっきりした気分を感じさせる」「自分たちが持っているものを自由に表現し、観客に声をかける方法を知っている劇団だ」(演劇評論家キム・オクラン/月刊『客席』2016年3月)というような劇評も出て、とても嬉しかったです。俳優、演出家、美術作家、翻訳家だけではなく、舞台・衣装・照明デザイナーまで、「私たちそれぞれが、自分の芸術を精一杯やっていますねー」と言い交わしたくらい、私たちは50席しか置かれていない小さな劇場のなかで、無限に自由を感じることができたのです。
10カ月ぶりの再演となる日本公演では、少し形を変えていますが、日本の観客の皆さんが岡田利規の演出を見られない失望の代わりに、“作家”岡田利規が生み出した鋭くて奇抜なセリフから新しい発見ができる機会になればいいなと思っています。もし、まだ岡田利規の作品をご覧になったことがないようでしたら、何の先入観もないうちにこの愉快な作家による死後の世界を満喫していただけたら嬉しいです。ご期待をよろしくお願い致します。

韓国語翻訳版「わたしたちに残された時間の終わり」

余談ですが、1月の韓国初演を見に来てくださった観客の中には、韓国の出版社アルマの方々もいらっしゃいました。岡田利規の作風にひとめぼれしたという出版社の代表から、翻訳・出版の提案をいただき、異例の猛スピードで今年の8月に『わたしたちに許された特別な時間の終わり』(우리에게 허락된 특별한 시간의 끝)韓国版を出版しました。韓国で出版された初の単行本であるこの本のカバーは、和歌山を演じた美術家イ・サンホンがイラストを担当しました。(そのイラストはシールにもなりました)この単行本を始め、岡田利規の小説はこれからも韓国で翻訳し紹介されていく予定です。


【公演情報】
フェスティバル/トーキョー16連携作品
ディレクターグ42
岡田利規 短編小説選 『女優の魂』『続・女優の魂』
2016年11月23日~11月26日 アトリエ春風舎(⇒劇場アクセス)

<出演>
チョ・アラ/イ・サンホン

原作:岡田利規/演出:マ・ドゥヨン/翻訳・ドラマターグ:イ・ホンイ

●こまばアゴラ劇場公式サイト⇒ http://www.komaba-agora.com/play/3685

写真提供:ディレクターグ42 ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。


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[PLAY]上野で上演「日韓演劇週間 Vol.4」韓国から2劇団が来日

[PLAY]上野で上演「日韓演劇週間 Vol.4」韓国から2劇団が来日

 

nikkanengeki4poster韓国の劇団を精力的に招聘・上演している上野ストアハウスで、今年も「日韓演劇週間 Vol.4」が開催。2つのプログラムに分けて実施され、韓国から2劇団が来日する。

11月23日から上演のAプログラムでは、創作集団Choc.24(창작집단 쵸크24)の『6月26日』が上演される。

物語の舞台は日本統治時代の1938年、江原道(カンウォンド)出身の二人の青年、ソンニョンとヨンチュンが主人公。日本軍に徴用された二人はその後、ソ連軍~ドイツ軍と戦況の変化に伴い捕虜となり、ついにはドイツ軍の捕虜として徴用されて戦ったフランス・ノルマンディ戦で連合軍の捕虜となり、二人は離れ離れに。やっとの思いで故郷に戻り、二人が再会したのは、皮肉にも朝鮮戦争が開戦した(6・25)翌日、1950年6月26日だった。
実話をもとに作・演出のチャン・テジュンが2009年にモノドラマとして大学路で初演したという本作。二人芝居にリメイクして上演した2015年の「春川国際演劇祭」で大賞、演出賞、男性主演賞を受賞している。

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創作集団Choc.24『6月26日』

同期間に上演される『たったいま八月の冥王星でたったいま八月の地球では』は、現代詩を用いた作品を多数上演している劇団「遊戯空間」の作品。福島県在住で、東日本大震災以降、大きな注目を集めた詩人・和合亮一の2編の詩をベースに、震災から6年が経過しようとするなかで風化しつつあるこの問題に和合氏の言葉とともに向き合うという。

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遊戯空間『たったいま八月の冥王星でたったいま八月の地球では』

そして、11月30日から上演するBプログラムでは、Dreamplay these21(드림플레이 테제21)『検閲-彼らの言葉-』が上演される。

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Dreamplay these21『検閲-彼らの言葉-』

本作は、今年6月~10月に大学路で上演された連続上演シリーズ「権利長戦2016_検閲却下(권리장전2016_검열각하)」で『検閲言語の政治学:二つの国民』というタイトルで上演された劇団の最新作だ。2013年に国立劇団で上演された『カエル』以降、作・演出したパク・グニョン作品をはじめ、反政府的表現をした作品に韓国文化芸術委員会が上演を中止させたとする検閲問題について再考する内容となっている。10月にフェスティバル/トーキョー16で『哀れ、兵士』を上演して注目を浴びたパク・グニョンらとともに、国が極秘に作成した「公演芸術家ブラックリスト」に名が挙がっていたという劇団代表のキム・ジェヨプ。奇しくも国家を揺るがすほどの大事件に発展した朴槿恵大統領の問題が世界的なニュースとなっているなか、検閲問題にどう切り込んでいるのか注目される。

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中津留章仁Lovers『水無月の云々』

同期間には、劇団TRUSHMASTERSの中津留章仁が、作品の上演ごとにオーディションを実施して無名の若手俳優を起用しているというユニット「中津留章仁Lovers」の『水無月の云々』を上演。ある寂れた商店街にある店を営む一家を主人公に、かつて殺人が起きたこの一家の複雑な人間模様が描かれる。
ちなみに、Dreamplay these21のキム・ジェヨプは、2014年に韓国で上演された中津留章仁原作『排水の孤島』を演出している。昨年の「日韓演劇週間Vol.3」に続き、日韓を代表する“社会派”演劇人が、今年も同時上演して交流を続けている。

A、Bプログラムともに演出家らによるポストパフォーマンストークなどのイベントも開催。韓国作品は日本語字幕付きで見られるため、より深く作品世界を理解でき、韓国演劇の魅力に触れる、絶好の機会となるだろう。


【韓劇.com読者を「日韓演劇週間 Vol.4」公演にご招待!】

韓国劇団の公演のみ、各回2組4名様をご招待致します。(先着順)
ご希望の方は、上野ストアハウスの下記メールアドレス宛に、①~④の必要事項を明記の上ご応募ください。

メールの件名は「日韓演劇週間・招待応募」と記入
①お名前 ②ご連絡先(電話番号) ③希望日/時間 ④ご覧のサイト名(韓劇.com)

●応募先メールアドレス: info@storehouse.ne.jp


nikkanengeki4poster【公演情報】
ストアハウスコレクションNo.8
日韓演劇週間Vol.4「見えざるコミュニティをめぐって」
会場:上野ストアハウス (⇒公式サイト

●Aプログラム:2016年11月23日(水)~27日(日)
・創作集団Choc.24(韓国)『6月26日』
作・演出:チャン・テジュン 出演:ヤン・フンジュ、ユン・グクジュン

・遊戯空間(日本)『たったいま八月の冥王星でたったいま八月の地球では』
出演:藤田三三三、三田直門(劇団銅鑼)、草野峻平、佐藤辰也、小野田由紀子、篠田悦子、杉村誠子、中込里菜

●ポストパフォーマンストーク①:11月26日(土)
参加者:チャン・テジュン(Chok.24代表)/篠本賢一(遊戯空間)/ファン・ウンギ(春川国際演劇祭)/七字英輔(演劇評論家)
●座談会:11月27日(日) ゲスト:詩人・和合亮一

●Bプログラム:11月30日(水)~12月4日(日)
・Dreamplay these21(韓国)『検閲-彼らの言葉-』
作・演出:キム・ジェヨプ 出演:ぺク・ウンチョル、ソン・ジンホ、クォン・ミニョン、チョン・ユミ、ソ・ジョンシク、ユ・ジョンヨン、ハン・サンワン、パク・アルム、キム・ウォンジョン、キム・セファン

・中津留章仁Lovers(日本)『水無月の云々』
作・演出:中津留章仁 出演:柘植裕士、米田敬、堤千穂、梅田麻衣、小谷友里恵、北野雄大、上西愛理、宮本行庸、古越千香子、勢古尚行、細身慎之介、樋田洋平

●ポストパフォーマンストーク②:12月3日(土)
参加者:キム・ジェヨプ、中津留章仁、木村真悟(上野ストアハウス)

●日韓演劇週間 Vol.4公式サイト

写真提供:上野ストアハウス ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。

[PLAY]ヤンソンプロジェクト新作『My Eyes Went Dark』開幕

[PLAY]ヤンソンプロジェクト新作『My Eyes Went Dark』開幕

 

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主人公ニコライを演じるヤン・ジョンウク

ドゥサンアートセンターが、40歳以下のクリエイターを3~5年かけて支援する「創作者育成プログラム」アーティストに選定されている、ヤンソンプロジェクト(양손프로젝트)の新作演劇『My Eyes Went Dark(マイ・アイズ・ウェント・ダーク)』が開幕した。

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ヤンソンプロジェクトは、俳優ソン・サンギュ、ヤン・チョア、ヤン・ジョンウクと、演出家パク・ジへの4人で結成された演劇グループ。4人で作品選定から制作までを行う共同制作スタイルで作品を発表している。ドゥサンアートセンターで支援開始後、2014年に『死と乙女(죽음과 소녀)』、2015年に『フォックスファインダー(폭스파인더)』 と、毎年新作を発表している。

今回上演する『My Eyes Went Dark』は、イギリスでは『きかんしゃトーマス』の声優として知られている俳優・劇作家のマシュー・ウィルキンソン(Matthew Wilkinson)が、彼が主催する創作集団107グループで2015年に発表した作品だ。

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went1実話をもとに制作されたという本作は、ロシアからスペインに向かう旅客機がドイツ上空で貨物機と衝突して墜落。この事故で妻と二人の子供を失った男性ニコライ・コズロフが主人公だ。事故の原因は管制塔のミスと発表されたが、コズロフは、関係者を探し出して殺害しようとする。

「トラウマを抱える人物の変化と、他人の苦痛を通して人間の“生”とは何か」を追求したという今回の作品は、ヤンソンプロジェクトが発表してきた過去の作品と共通する、登場人物たちの息詰まるような緊張感あふれる会話で展開される。

 

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斬新なセットデザインも彼らの作品の注目すべきポイント。今回は、深い闇のなかで最小限の照明を用い、3人の役者を囲むように座席が組まれ、観客は舞台の中心にいる役者たちを傍観、または監視しているような感覚が味わえる。

公演は11月27日まで、ドゥサンアートセンター Space111で上演される。


wentposter【公演情報】
ヤンソンプロジェクト
演劇『My Eyes Went Dark(マイ・アイズ・ウェント・ダーク)』(마이 아이즈 웬트다크)
2016年11月8日~11月27日 ドゥサンアートセンター Space111

<出演>
ソン・サンギュ、ヤン・チョア、ヤン・ジョンウク

原作:マシュー・ウィルキンソン(Mattew Wilkinson)/翻訳:ソン・スジョン/演出:パク・ジエ/美術:ヨ・シンドン/衣装:フランソワ・ルチアーニ(Francois Luchiani)/音楽:イム・ソジン

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[PLAY]パク・ジョンミン&ムン・グニョン主演『ロミオとジュリエット』全キャスト発表

[PLAY]パク・ジョンミン&ムン・グニョン主演『ロミオとジュリエット』全キャスト発表

 

2016romijuri1シェイクスピア没後500年の2016年は多数のシェイクスピア作品が上演された1年だったが、その真打とも呼べる演劇『ロミオとジュリエット』が破格のキャストを揃えて上演される。

14世紀イタリアを舞台に、敵対する派閥の家庭に生まれたロミオとジュリエットの障害多き恋を描く本作で、主人公ロミオ役を演じるのはパク・ジョンミン。2016年2月に公開されたイ・ジュニク監督作『東柱(ドンジュ)』で主人公の親友ソン・モンギュを演じて「百想芸術大賞 映画部門男性新人賞」を受賞。デビュー当時から演技力を高く評価されていた彼が、どんなロミオ像を見せてくれるのか、期待が膨らむ。

一方、ジュリエット役には、国民の妹から演技派女優に見事成長したムン・グニョン。演劇初挑戦した2010年の『クローサー』以来、6年ぶりの舞台となる。周囲の反対やさまざまな障壁をものともせず、ロミオへの愛を貫く魅力的なジュリエットを見せてくれるに違いない。

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ロミオ役のパク・ジョンミン(写真左)と、ジュリエット役のムン・グニョン

さらに、助演陣も、期待値を上げざるを得ない顔ぶれが並んでいる。

ロミオの親友マキューシオ役にはキム・ホヨンとイ・ヒョンギュン。今年は『キンキーブーツ』で新たな一面を見せたと評判のキム・ホヨンが、約1年ぶりに演劇に出演する。一方のイ・ヒョンギュンは過去、演劇『フランケンシュタイン』や『望ましい青少年』などに出演して存在感を見せていた実力派だ。

ジュリエットがロミオを愛していることを知りながら彼女を愛し続ける婚約者パリス役はミュージカル『サリエリ』のジェラス役が評判だったキム・チャンホ。ジュリエットのいとこ、ティボルト役は『ファンレター』『スルー・ザ・ドア』などで活躍し、長身と低音の声が印象的なヤン・スンリ。そして、ロミオのいとこで気弱な青年ベンヴォーリオ役は『スウィーニー・トッド』『ウェルテル』などの大作から小劇場作品まで、どんな役も柔軟に演じこなすキム・ソンチョルが演じる。

加えて、ロミオとジュリエットに救いの手を差し伸べるキャラクターを、舞台俳優出身でブラウン管からスクリーン、舞台と幅広く活躍するベテラン俳優が引き受けている点にも注目だ。秘密の結婚式に立ち会うローレンス神父役は、劇団木花(モッカ)出身のソン・ビョンホ。ジュリエットが実母のように慕う乳母役をソ・イスクとぺ・へソンがWキャストで務める。

演出・脚色は、本作を制作するSEMカンパニーが昨年1月~3月に上演したカン・ハヌル主演『ハロルドとモード』の演出家、ヤン・ジョンウンが再登板する。昨年はミュージカル『オケピ!』を上演した同カンパニー代表でプロデューサーのキム・ミヘは、映画俳優ファン・ジョンミン夫人としても有名だ。彼女がプロデューサーとしての力を存分に発揮し、豪華キャストで上演するこの冬最高の話題作『ロミオとジュリエット』は、12月9日から国立劇場ヘオルム劇場で開幕する。

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(写真上段左から)パク・ジョンミン、ソ・イスク、ソン・ビョンホ、キム・ホヨン、ヤン・スンリ(下段左から)ムン・グニョン、ぺ・へソン、キム・ソンチョル、イ・ヒョンギュン、キム・チャンホ


2016romijuriposter【公演情報】
演劇『ロミオとジュリエット』(로미오와 줄리엣)
2016年12月9日~2017年1月15日 国立劇場タルオルム劇場

<出演>
●ロミオ役:パク・ジョンミン
●ジュリエット役:ムン・グニョン
●マキューシオ役:キム・ホヨン、イ・ヒョンギュン
●パリス役:キム・チャンホ
●ベンヴォーリオ役:キム・ソンチョル
●ティボルト役:ヤン・スンリ
●ロレンス神父役:ソン・ビョンホ
●ジュリエットの乳母役:ソ・イスク、ぺ・へソン

プロデューサー:キム・ミヘ/演出・脚色:ヤン・ジョンウン/美術:チョン・スンホ

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