イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.22

 

キム・ジェヨプのドイツ体験記 『思想は自由』

5月23日からドゥサンアートセンターSpace111で、韓国演劇界を牽引する気鋭の劇作家、演出家キム・ジェヨプの新作演劇『思想は自由(생각은 자유)』が開幕しました。このタイトルはドイツの民衆歌謡「Die Gedanken sind Frei(思想は自由)」から借りてきたそうです。

この作品には「キム・ジェヨプ」を演じる俳優が登場し、実際に彼が2015年に一年間過ごしたドイツでの出来事を舞台で再現しながら、またそのときの記憶について語っていきます。ベルリンという都市、ドイツの演劇界、そしてそこで出会った韓国人の生活を舞台上に並べ、それらを通して今の韓国を客観的に見ようとした作品です。

新作が常に注目を浴びるキム・ジェヨプ

まるで私小説を連想させるこのような劇作術は、いつしかキム・ジェヨプを代表するものになりました。2013年に初演し、代表作となった『アリバイ年代記(알리바이 연대기)』は、彼と彼の父親の人生を描きながら、彼らが出会ってきた歴代大統領の話を、まるで目で見るエッセイのように表現した作品でした。また、去年発表した『検閲-彼らの言葉-(검열언어의 정치학: 두 개의 국민)』は、韓国演劇界に衝撃を与えた検閲問題に対し、関連した人々の言葉をそのまま集めて作りあげたものでした。
これら日本でも上演されて好評を得た作品や、韓国の近現代を生きた詩人キム・スヨン(김수영 1921-1968)が書いた詩の題名をそのまま使い、自分の中のキム・スヨン探しを試した『なぜ私は小さなことだけに憤慨するだろうか(왜 나는 조그마한 일에만 분개하는가)』など、彼の多くの作品が同様の形式で作られています。
ごく個人的な話をしているのに、作品全体が持つテーマはいつも社会的で政治的であるため、彼の作品は決して「私」的な物語という印象より、一種の「公」的な歴史のような印象を観客に与えます。そのため、よく「ドキュメンタリー」的だと説明されるキム・ジェヨプの作品は、実際に作品の素材だけではなく表現方法においてもドキュメンタリーのような作品が多いのです。

待望の新作だけに、すでに残席が少ない回もあるという『思想は自由』。台本の最初のページには、「演劇じゃなくてもいい演劇」と書いてありました。一般的な演劇の形式から離れた作品になりそうで、今回は、彼のどんな体験が描かれるのだろうか? と多くの観客に期待されるなか、開幕前の稽古場を訪ね、創作の背景を伺いました。

⇒キム・ジェヨプ インタビュー[前編]へ

【プロフィール】
キム・ジェヨプ(김재엽 Kim Jae-Yeoup)
劇団「ドリームプレイ テーゼ21」代表/世宗大学映画芸術学科教授
1973年大邱生まれ。98年に『9つの砂時計』で韓国演劇協会創作劇公募に当選。02年には『ペルソナ』が韓国日報 新春文芸に当選し、若手劇作家として頭角を現す。同年、故パク・クァンジョンが代表を務めた劇団「パーク」の創立メンバーとして参加し、『チェックメイト』を作・演出して演出家としても始動。03年に劇団の前身となる「ドリームプレイ プロジェクト」の活動をはじめ、05年には劇団「ドリームプレイ」を創立。劇団第1作の『幽霊を待ちながら(유령을 기다리며)』はゴチャン国際演劇祭大賞と演出賞をW受賞した。以降も『誰が大韓民国の20代を救うのだろうか(누가 대한민국 20대를 구원할 것인가?)』(09年)、『ここ、人がいる 여기, 사람이 있다』(11年)など演劇賞の受賞作も多く、新作戯曲は常に注目を集めている。13年に初演した『アリバイ年代記』は最も歴史ある東亜演劇賞の作品賞と戯曲賞を受賞。韓国演劇評論家協会「今年の演劇ベスト3」、月刊「韓国演劇」の「今年の演劇ベスト7」に選ばれるなど、主要な演劇賞を総なめした。
また11年には蓬莱竜太原作『まほろば(마호로바)』、14年には中津留章仁原作『背水の孤島(배수의 고도)』など、日本作品の演出も手がけている。
●劇団「ドリームプレイ」公式Facebook https://www.facebook.com/theaterdreamplay/


【公演情報】
ドゥサン人文劇場 2017:葛藤 Conflict
演劇『思想は自由』(생각은 자유)

2017年5月23日~6月17日 ドゥサンアートセンターSpace111

<出演>
●スンオク役:カン・イェシム
●ジョンホ役:チ・チュンソン
●イ・サンボク役:ハ・ソングァン
●ジェヨプ役:チョン・ウォンジョ
●ソヨン役:イ・ソヨン
●ツカサ役ほか:ユ・ジョンヨン
●コ・ナギョン役ほか:キム・ウォンジョン
●クォン・ユンビ役ほか:パク・ヒジョン
●インカ役ほか:ユン・アンナ(Anna Rihlmann)
●キュレーター役ほか:フィリップ・ヴィンディッシュマン(Philipp Windischmann)

作・演出:キム・ジェヨプ/美術:シン・スンリョル/照明:チェ・ボユン/音楽・音響:ハン・ジェグォン/小道具:イ・スビン/人形作家:キム・ギホン/衣装:オ・スヒョン/ヘアメイク:イ・ジヨン/映像撮影:イム・ソンア/映像:ユン・ミンチョル

取材協力:ドゥサンアートセンター


←コラム第21回 | コラム第23回→