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さいきいずみの「韓劇日誌」Vol.6

さいきいずみの「韓劇日誌」Vol.6

 

「イ・ジェフン映画『番人』GVに4年ぶりに登壇!」

psk1久々のコラム更新は映画ネタです。
映画『建築学概論』やドラマ『秘密の扉』の主演で知られるイ・ジェフンさんが、彼の出世作となった映画『番人(파수꾼/Bleak Night)』(⇒公式ブログ)の上映会でGVに立つというので、6月6日に見に行って来ました。

映画『番人』予告編映像(Daum Movieより)

映画『番人』は、2010年の釜山映画祭でプレミア上映され、翌2011年に劇場公開されました。日本では福岡のアジアフォーカスで上映されたのみかと思うのですが、公開当時韓国の劇場で見たときの衝撃といったら……近年見た韓国インディーズ映画のなかでは、例えばヤン・イクチュン監督・主演の『息もできない(똥파리)』を見たときのインパクトに並ぶほど、個人的ベスト5に入る素晴らしい作品でした。日本で劇場公開されていないのがとても残念な作品のひとつです。

高校生の息子ギテが突然の自殺。その理由が分からず苦悩している父親が、息子のクラスメイトたちひとりひとりに、手がかりを探るべく話を聞いていくのですが、そのなかに過去のギテたちの様子をフラッシュバックさせて織り込みながら、答えを紐解いていきます。派手な展開があるわけではないものの、劇中のギテのようにジリジリと追い詰められていくような緊迫感で胸が締め付けられるよう……観終わった後で、心の中にズシリとした何かが残る作品でした。DVDが韓国でリリースされているようですので、もし見つけたらぜひ入手して見てほしいです。

psk2イ・ジェフンさんは本作で大鐘賞、青龍賞の2大映画賞で新人男優賞を受賞し、まさしく映画界期待の新星となったのはその後の活躍を見ても分かる通り。しかし、この作品で注目されたのは彼だけではありません。ギテの父役、チョ・ソンハさんはは長年ドラマや映画の助演俳優としておなじみですが、数々のインディーズ映画にも出演してきた方。なかでも本作は大きな飛躍のきっかけになったと思います。昨年ソンハさんはドラマ『ワン家の家族たち』で“花中年”と呼ばれて大人気となり、ミュージカル『プリシラ』にも挑戦して話題を呼びましたよね。
ギテのクラスメイト役にはドラマ『魔王』や映画など数々の作品で子役時代から安定した演技を誇るソ・ジュニョンさんと、演劇『キサラギミキちゃん』の初代スネーク役や、ドラマ『君たちは包囲された』にも出演していたパク・ジョンミンさんなどなど。主要キャラを演じていた俳優はみな現在まで着実にキャリアを積んでいます。

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ユン・ソンヒョン監督、俳優になってもいいくらいのイケメンでした

『番人』を上映した「INDIE SPACE」(⇒公式サイトは、もともと明洞に劇場があったそうですが、その後光化門の元ミロスペースという劇場で運営していたアートシアターです。そして今回、鍾路3街の老舗劇場「ソウル劇場」内に移転オープンとなり、6月5日~7日まで「Indie’s Face」と題してこけら落としイベントが実施されました。
その目玉となったのが今回のイ・ジェフンさんとユン・ソンヒョン監督参加による『番人』上映だったのですが、な、な、なんと、上映開始20分くらいでブチッと映像が切れ、電気系統のトラブルで上映不可となり、結局映画は見ることができずじまいでした(苦笑)。
その後、劇場に駆けつけた2人によりGVのみが行われるという異例の事態になったのですが、災い転じて…というわけでGVは約1時間にわたり行われました。

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劇場が暗く、座席も遠かったため写真がイマイチですがお許しを

 

劇場は若い女の子ファンで埋め尽くされていたのですが、質問ひとつひとつに真摯に答えていたイ・ジェフンさん。
この作品は彼にとって原点のような、「初心に返れる作品」だと言っていました。しかし、監督との仲は「今は良好です(笑)」と言っていましたが、撮影中は役柄のせいもあってか、なかなか大変な作業だったようです。
こういうインディーズ映画にまた出る気はないかという質問には「良い作品があれば出演したい」というジェフンさんに対し、監督が「ジェフンさんが出ると決まった時点で、投資がつくので独立映画ではなくなるだろう」(確かに)とシビアな意見も言っていました。長編デビューとなった本作で一躍若手監督の旗手となったユン監督ですが、年内クランクインを目標に長編2作目を準備中とのこと。新作、楽しみに待ちたいと思います。

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「INDIE SPACE」の入口前。一部はまだ工事中のところも。チケットブースはソウル劇場の上映作とは別になっているので要注意

イ・ジェフンさんはかつて「INDIE SPACE」の広報大使を務めていたそうで、その義理もあり今回登壇してくれたと思うのですが、肝心の映画上映が出来なかったのは残念でした。(後日再上映をするそうです)。以前にも一度、別のアートシアターで機材トラブルにより映画が見れないというのを経験したことがあったのですが、ソウル劇場は建物や施設自体も古いので、今後の上映にも支障がないといいなと思います。それにしてもお客さんたち、みな辛抱強く待っていて、よく怒らないなと思いましたが(笑) それもイ・ジェフンさんのお蔭だったかなと。

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.3

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.3

 

韓国版『ヒッキー・ソトニデテミターノ』稽古場より

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通し稽古後、俳優たちに演技ポイントを伝えるパク・グニョン演出家(写真左)

岩井秀人作、パク・グニョン演出の『히키코모리 밖으로 나왔어 ひきこもり、外に出た(原題:ヒッキー・ソトニデテミターノ)』の稽古が始まってからもう1カ月が経ちました。去年の夏から「ドゥサン人文劇場2015」シリーズの作品選定のためのリサーチが始まり、秋に翻訳を終え、上演可否と演出家が決定されたのが冬頃。年初からキャストとスタッフが決まり、本格的な稽古がスタートしたのは4月初旬です。振り返ってみれば長い旅で、それに比べると一カ月の稽古期間はあっという間でしたが、その間MT(Membership Training)と呼ばれている2泊旅行にも行っています(韓国では稽古の途中、チームワークのためにみんなで1泊旅行をするのはよくあることですが、2泊旅行は珍しいです)。今は俳優たちみんなが家族のように仲良くなって稽古を重ねています。

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カウンセラー黒木(カン・ジウン)に励まされる太郎の母かなこ(ファン・ジョンミン)

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パク・グニョン演出家自らセットを動かしながら稽古を進行

このような素敵な雰囲気で作品を創り上げるのもパク・グニョン演出家の特長の一つですが、何よりも彼は観客から信頼されている演出家です。2010年には平田オリザ作『眠れない夜なんてない』の演出を務め、大韓民国演劇大賞作品賞などを受賞したこともあり、『青春礼賛(청춘예찬)』『そんなに驚くな(너무 놀라지 마라)』『満州戦線(만주전선)』など自身の代表作を日本で上演したことも多数あるため、日本の文化や感受性などもよく把握している演出家だと言えます。その上に彼が本作品の最も大事な課題として考えているのは「韓国の観客が共感するような作品にしたい」ということです。「読めば読むほど良い作品だ」と愛情を込めながらも、韓国の観客がまるで私たちの物語だと感じられるように、いろいろと試しながら工夫しているのです。

今回、韓国版『ヒッキー・ソトニデテミターノ』では「ひきこもり」という日本語をそのまま使っています。オックスフォード辞書にも「Hikikomori」が掲載されているほど、この言葉は世界的にも普及していますが、韓国語でも一応「은둔형 외톨이 隠遁型一人ぼっち」という言葉はあるため、日本語であるこの単語を翻訳するかどうか迷ったのも事実です。結局「ひきこもり」を劇中で使うだけではなくタイトルにも出すことになり、本作品がひきこもりに関する作品であることを強くアピールすることになりました。その分、俳優たちは時間をかけて台本を読み続けながら、日本社会のなかのひきこもりについて勉強をしました。とくに劇中でひきこもりを演じる中心人物の三人は、その知識と戯曲のなかの物語と自分との接点を探りながら、それぞれの人物象を描いています。

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元引きこもりで、カウンセラーとして働く登美男役のチェ・グァンイル

稽古中にひきこもり役の三人が自分の役をどのように受け取っているか聞いてみました。まず、元ひきこもりで今は「ひきこもりを外に出す」仕事をしている森田登美男を演じるチェ・グァンイルさん(日本版『ヒッキー・ソトニデテミターノ』で森田役だった吹越満さんと見た目もとても似ている方です)は「この作品を読んでひきこもりのイメージが変わったりはしていないけど、彼らのための専門相談機関があるのは初めて知った」そうで、「過去の傷を乗り越えようとする森田を尊敬します」と丁寧に森田へ近付いています。一方、40代のひきこもり、斉藤和夫を演じるイ・ナムヒさんは「和夫という人物は、一回就職したことがあるけど、何かの理由でひきこもってしまった人ですね。このとんでもない世の中とコミュニケーションするために頑張っている姿を見ていると、涙が出るほど切ない。観客には彼の切なさと共に暖かさを伝えたいですね」と抱負を語りました。イ・ナムヒさん特有の愉快さが感じられる和夫になるのではないかと楽しみです。最後に20歳のひきこもり鈴木太郎を演じるキム・ドンウォンさんは「ひきこもりという言葉は知っていましたが、今まで深く考えたことはなかったです。でもこの作品に出会ってから、もしかしたら私たちと彼らはあまり変わらないかもしれないと思うようになりました」と述べ、誰よりもキャラクターに密着している姿を見せています。「何よりも素敵な先輩たちと一緒に演技することができてとても楽しいです!」と言っている彼は劇中でその先輩を殴らなければならないのですが……。でも、少し乱暴だけど、自分のことを理解してもらいたがる少年らしい一面も持っている人物なので、目には見えない太郎の心境がどのように表現されるか注目したいです。

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40代引きこもり和夫役のイ・ナムヒ(左)と20代引きこもり太郎役のキム・ドンウォン

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引きこもりの3人以外の登場人物たちにもドラマが

実は、この三人以外の登場人物一人一人にもそれぞれのストーリーがあるため、この作品は誰を中心に観ればいいのか分からなくなるくらいです。ますます韓国版になっていく―もっと狭く言えば、ますますパク・グニョン版になっていく―『ヒッキー・ソトニデテミターノ』の舞台が公開されるとき、果たして韓国の観客とこの物語との距離はどこまで近くなれるでしょうか。そしてこの韓国版を日本の皆さんにも見ていただけたら嬉しいです。ぜひご期待をお願い致します。


hikkiposter【公演情報】
演劇『ヒッキー・ソトニデテミターノ』
(韓国語題『ひきこもり外に出た(히키코모리 밖으로 나왔어)』

2015年5月26日~6月20日 ドゥサンアートセンター Space111
出演:森田登美男役:チェ・グァンイル/黒木役:カン・ジウン/鈴木かなこ役:ファン・ジョンミン/鈴木きよし役:ユン・サンファ/鈴木太郎役:キム・ドンウォン/ベテラン寮生役:ぺ・スベク/森田綾役:シム・ジェヒョン/斉藤よしこ役:キム・へガン/斉藤和夫役:イ・ナムヒ

演出:パク・グニョン(劇団コルモッキル)

●『ヒッキー・ソトニデテミターノ』 公式サイト
●岩井秀人主宰「ハイバイ」公式サイト⇒ http://hi-bye.net/

⇒『ヒッキー・ソトニデテミターノ』稽古場フォトギャラリー

取材協力:ドゥサンアートセンター ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。


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土田真樹の「エーガな日々」Vol.6

土田真樹の「エーガな日々」Vol.6

 

 

キム・ヘス ~年齢と共に進化する女優~

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映画『チャイナタウン』より ©CGV ART HOUSE

日本では韓流スターを中心に紹介され、中堅どころの俳優はそれほど知られていませんが、韓国芸能界におけるキム・ヘスの位置づけは、押しも押されぬビッグスターであり、僕は今の韓国映画界で一番旬な女優だと考えています。

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映画『チャイナタウン』試写会より ©Maki Tsuchida

キム・ヘスは1970年生まれですから今年で45歳。しかしながら、中学生のときに撮影した『カンボ(깜보)』(1986)で映画デビューした芸歴30年のベテラン女優です。僕が彼女を初めて知ったのはMBCドラマ『一つ屋根の3家族(한지붕 세가족)』(1986~1994)でした。新婚夫婦の若妻役を演じ、現代っ子らしい振る舞いで問題を起こすトラブルメーカーの役回りでした。彼女の演技云々よりもアニメの「カリメロ」に似た女優だなというのが、僕の第一印象でした。

20代の頃のキム・ヘスは、ルックスの愛くるしさからテレビドラマを中心に人気はあったのですが、映画ではこれといったヒット作に恵まれず苦戦が続きました。それでもコンスタントに映画出演を続け、ハン・ソッキュと共演した『ドクター・ポン(닥터 봉)』(1995)、アン・ジェウクが憧れる年上の女性を演じた『チム~あこがれの人~(찜)』(1998)など話題作に出演しましたが、主人公の当て馬的な役回りで、映画女優としては脱皮しきれずにいました。金城武が主演し、ニューヨークを舞台にした『ニューヨーク デイドリーム』(1998)にも出演しましたが、台詞もなく、ただ韓国人女優が出演した事実を残すのみに留まっています。

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映画デビュー作『カンポ』©合同映画

映画女優として伸び悩んでいたキム・へスでしたが、大ヒット作『風林高(신라의 달밤)』(2001)に出演したことで、一気にブレークします。かわいさにコメディセンスが加わり、映画も大ヒット。翌年に公開された『爆裂野球団(YMCA야구단)』(2002)もヒットを記録し、集客力がある女優としての地位を確固たるものにしました。
集客力のある女優となったものの、この頃のキム・ヘスは迷走していたのではないかと僕は考えます。自身のイメチェンを計ろうとしたのか、『顔のない美女(얼굴 없는 미녀)』(2004) 、『赤い靴(분홍 신)』(2005)と立て続けにスリラー作品に出演するのですが、興行面で苦戦を強いられ、彼女の女優としての評価をむしろ下げたと思います。
迷走していたキム・ヘスが新たな役に挑戦してはまり役となったのが、『タチャ イカサマ師(타짜)』(2006)で演じた妖艶で怪しげな女性像でした。熟れた体で男を手玉にとる女性・チョンマダムを演じたのですが、これが見事にはまり役。これまで封印してきたヌードも披露し、2006年の韓国映画界のビッグイシューとなりました。また、映画の中でチョンマダムが「私は梨花女子大学を出た女よ!(난 이대 나온 여자야!)」という台詞が話題に。韓国で梨花女子大学といえば、卒業生の多くが政治家や一流企業のCEO、医者などといった社会的地位のある男性と結婚するケースが多く、女子大の中でも最難関校なのですが、闇社会を牛耳っているマダムが、高学歴をひけらかす滑稽さから、ちょっとした流行語にもなりました。

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映画『チャイナタウン』より ©CGV ART HOUSE

アラサーとなってますます妖艶さを増したキム・ヘスは、『10人の泥棒たち(도둑들)』(2012) でもその魅力を充分に発揮。ここ数年はマダムキャラが定着していたのですが、4月29日に韓国で劇場公開された映画『チャイナタウン(차이나타운)』では、妖艶さを封印。白髪混じりの老けメイクで、強引な借金取り立てや臓器売買などの悪事で金稼ぎをするチャイナタウンの影の実力者を演じています。
映画『チャイナタウン』は、コインロッカーに捨てられた孤児のイリョン(キム・ゴウン)が浮浪者に発見されるところから物語が始まります。やがて、母さん(キム・ヘスク)と呼ばれるチャイナタウンの裏社会を牛耳る女性に拾われて育てられるのですが、母親に命ぜられるまま、借金の取立て屋となって生きていく道を強いられます。ある日、取立てに訪れた家で債務者の息子・ソッキョンと出会ったことで、イリョンはチャイナタウンの仲間にはなかった人の温もりを初めて知ります。親の借金のカタに息子の臓器を売るため、ソッキョンを殺せと母親はイリョン命じるのですが、イリョンはどうしてもできません。母親はソッキョンを殺し、用済みとなったイリョンを外国に売り飛ばそうとするのですが、イリョンは間一髪で逃亡に成功します。そして母親の刺客から追われるイリョンの日々が始まるのでした。

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映画『チャイナタウン』試写会より キム・ヘスとキム・ゴウン ©Maki Tsuchida

イリョンを演じているキム・ゴウンは映画『ウンギョ(은교)』(2012)で彗星のごとくデビューし、高い演技力が評価された23歳の新進気鋭の女優です。男優優位の韓国映画界において、主演が女優だけというのは近年珍しいといえます。キム・ゴウンは短かめのザンバラ髪、キム・へスも白髪混じりで一見パンクっぽく髪を逆立て、おなかとお尻にパッドを入れて太目に見せるなどセクシーさを封印しています。母親を演じるにあたり、キム・ヘスは「母親のキャラは魅力的で演じたいと思っていたのですが、シナリオからは抽象的なイメージしか湧きませんでした。そこで考えたの母親の外見にこだわろうと。メイクチームと衣装チームと相談し外見からキャラ作りをすることで母親に入っていけました」と役作りのために、これまでの自身のイメージを捨てるのにためらいはなかったそうです。
しかしながら、母親は冷酷非情なだけではありません。イリョンと母親の関係は愛憎表裏一体。実の母娘ではなくても愛情は存在し、愛情があるからこそ憎さ百倍となるのでしょう。映画の中で母親の台詞はほとんどありませんが、シチュエーションを存在感だけで物語るカリスマ性を発揮し、愛憎の二面性を見事に体現しています。キム・ヘスが演技派といわれるゆえんです。

現在のところ次回作は発表されていませんが、いかなる作品を選ぶのでしょうか。『チャイナタウン』はジャンルで分けるとノワール映画に属します。ノワール映画といえば男中心でしたが、女性中心というのは世界的にもレアなケースです。「商業映画として、新しいことに挑戦していかないと映画は先細りになってしまう」と語っているキム・ヘス。今年で45歳となり、40代を折り返しますが、『チャイナタウン』を契機に女優として新たなステージに突入したと僕は思います。次回作はきっと、芸能生活30年を迎える大御所にふさわしい作品に出演することでしょう。

映画『チャイナタウン』予告映像(NAVER TV CASTより)


映画『チャイナタウン』制作ビハインド映像(NAVER TV CASTより)

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イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.2

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.2

 

「DIRECTURG42の第1作―『傷だらけの運動場』」

今回は、私が所属している創作集団「DIRECTURG42(ディレクターグ42/디렉터그42)」をご紹介したいと思います。日本に比べると、韓国は若手劇団の活躍はあまり目立たないように見えますが、実はいろんな形の試みが行われています。「DIRECTURG42」もその一つです。

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「DIRECTURG42」主宰のマ・ドゥヨン

「DIRECTURG42」は、Director(演出家)+Dramaturg(ドラマターグ)+42(「間」を意味する韓国語「サイ」が数字の42と同じ発音です)で作られた言葉です。劇団第12言語演劇スタジオ(제12언어연극스튜디오)に所属する俳優・演出家のマ・ドゥヨンが主宰し、主に英語圏作品の翻訳・ドラマターグとして活動しているマ・ジョンファ、そして私イ・ホンイの3人がメンバーの小さな団体です。
特に、マ・ドゥヨンは、劇団月の国椿の花(달나라동백꽃)の『ロプンチャン旅芝居一座(로풍찬 유랑극단)』『くるくるくる(뺑뺑뺑)』や、昨年大学路芸術劇場で上演された『DEMOCRACY(데모크라시)』、東京デスロック作品の韓国版『三人いる!(세 사람 있어!)』、そして青年団の『東京ノート』の韓国版『ソウルノート(서울노트)』など、数多くの演劇に出演したベテラン俳優で、日本でも『カルメギ』『シンポジウム』『多情という名の病』などの舞台に立ったことがあります。漢陽(ハニャン)大学の在学中の2004年から演出を始めましたが、本格的に演出家としてデビューしたのは2012年『Dr.Fritz or』(David Ives作)からです。彼はこれまで上演したティム・クローチ作『オークツリー』(2013)、ヨン・フォッセ作『私は風』(2014、2015)など、奇抜なコンセプトを持つ海外作品を翻訳し、独自の解釈を入れるという演出の特徴を持っています。

しかし、意外と翻訳劇を上演するためには、多数の難関を突破しなければなりません。勿論、翻訳劇は既に原作戯曲が観客から評価を得て検証された作品を再び作り上げるので、いろんな意味で安全かもしれません。でも創作劇でないと助成金を申請できないケースもあります。また、有名な演劇賞を受賞した作品や既に検証された作家の作品ではない限り、「韓国で上演しても面白いか?」「いま韓国で上演する価値があるか」について厳しく問われます。今も世の中には面白い作品が次々と生まれているのに、どうしても上演するまでに時間差ができてしまうのがもったいない気がするのも正直な気持ちです。そこで、韓国を含めて世界のあちこちにアンテナを張り、さまざまな素材を集めて実験をしてみようと思って始めたのが「DIRECTURG42」です。そのために、従来の劇団の形ではなく、俳優が所属していないクリエイター集団を作り、海外と韓国演劇のハブ―いわば、ネットワーキングのような機能を果たすことを目標としているのです。

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『傷だらけの運動場』ポスター

そしてその第1歩として上演するのが『傷だらけの運動場(상처투성이 운동장 Gruesome, Playground, Injuries)』です。今アメリカで最も注目を浴びている作家の一人、ラジヴ・ジョセフ(Rajiv Joseph)が2009年に発表した作品ですが、同年に初演された彼の別の作品『バグダッド動物園のベンガルタイガー(Bengal Tiger at the Baghdad Zoo)』は、今年12月8日から27日まで東京・新国立劇場小劇場で上演されます。昨年ドゥサンアートセンターで上演した『背水の孤島』の原作者である劇団TRASHMASTERSの中津留章仁さんが演出するこの作品は、実話に基づいたイラク戦争をめぐる物語ですが『傷だらけの運動場』は男女二人だけが出演する、かわいい……でも少しグロテスクな演劇です。

物語はケイリンとダグの8歳から38歳までを描いています。まず登場する舞台はある学校の保健室。高いところから落ちて怪我したダグと、お腹の調子が悪いケイリンが出会い、二人は友達になります。ケイリンはダグの傷を手で触ってあげるのですが……ここでシーンが変わり、二人は20歳になっています。次の舞台は病院で、ダグは前歯一つと左目をなくしていて、見舞いにきたケイリンに、自分の傷を触ってほしいと頼むのですが、今度は断られてしまうのです。
この作品は2幕8場で構成されているんですが、以降も、13歳、28歳、18歳、30歳、23歳……と、過去と未来が交互に登場し、二人が38歳になる最後のシーンまでが描かれます。すべてのシーンでダグは怪我をしていて、どんどん身体がボロボロになっていくのです。なのにケイリンが自分の傷を触ってくれたら治ると信じているダグを見ていると、この物語はコミック・ファンタジーなのかと疑ってしまうほどです。でも、もし私たちが大人になるまで負う心の傷を身体の傷に変換したら、ダグに負けないくらいの満身創痍になるかもしれない、という作品です。

本公演は5月8日(金)の夜7時半から、1回のみ上演される予定です。地下鉄4号線恵化(ヘファ)駅4番出口そばにあるソウル演劇センターの2階、アカデミールームにて無料で行われます。このかわいいカップルを演じるのは、コミカルな演技が素晴らしい劇団第12言語演劇スタジオの俳優ペク・ジョンスンさんとパンソリを専攻しながらコンテンポラリ・アートの世界でも大活躍中のチョ・アラさんです。舞台セットは作らず、俳優が観客の前で戯曲を読むリーディング形式で上演されます。

今後「DIRECTURG42」は、主に英語圏と日本の最新作を韓国に紹介しながら、マ・ドゥヨンというアーティストの生々しい成長の軌跡を見守っていきたいと思っております。ご期待宜しくお願い致します!


2015sskys【公演情報】
「ソウル創作空間演劇祭」参加作
DIRECTURG42『傷だらけの運動場(상처투성이 운동장)

リーディング公演

5月8日(金) 夜7時半開演 ソウル演劇センター2F
出演:ペク・ジョンスン、チョ・アラ

●「ソウル創作空間演劇祭」公式ブログ⇒ http://cafe.naver.com/creatingspace
●「ソウル演劇祭」公式サイト⇒ http://www.stf.or.kr/
●ソウル演劇センター公式サイト⇒ http://www.e-stc.or.kr/
●ソウル演劇センター地図⇒ (NAVER地図)


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土田真樹の「エーガな日々」Vol.5 

土田真樹の「エーガな日々」Vol.5 

 

「釜山国際映画祭の葛藤」-独立性と行政の狭間で-

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昨年の釜山国際映画祭レッドカーペットの模様 ©Maki Tsuchida

年も変わって世間が落ち着きを取り戻した1月23日、韓国映画界に激震が走りました。
釜山市による行政監査の結果、釜山国際映画祭の予算の使い方や運営に不備があるとして、イ・ヨングァン実行委員長に対して辞任勧告が出されました。事実上の更迭です。これに対して韓国の映画関係者は「映画人非常対策委員会(영화인비상대책위원회)」を立ち上げ、イ・ヨングァン委員長支持の立場を表明しました。これまでも釜山市による監査は毎年行われてきましたが、なぜ今になって問題が指摘されたのでしょうか。この事は行政の釜山国際映画祭に対する干渉、すなわち映画祭の独立性維持に関わっているのです。

事の始まりは、昨年開催された第19回釜山国際映画祭に遡ります。
釜山国際映画祭は、セウォル号沈没事件における救助活動の不条理を追ったドキュメンタリー映画『ダイビングベル(다이빙벨)』の上映を決めました。しかしながら、政治的中立性に欠けるとして、当時の釜山市長は映画祭に対して上映差し止め要求を出しました。しかしながら、映画祭側はこれに応じず予定通り上映を行いました。
映画そのものは、ショッキングと呼べるような内容ではなく、多くの上映作品の内の一本として上映されたのですが、市長の要求を拒否したことから、釜山市と釜山国際映画祭との間でトラブルの火種は燻り始めていたのでした。

映画『ダイビングベル』予告映像(YouTube公式チャンネルより)

そして、1月23日に釜山市がイ・ヨングァン委員長に出したのが引責辞任勧告。映画祭として再生するためには新たなパラダイムが必要だというわけで、第1回釜山国際映画祭から関わってきたイ・ヨングァン実行委員長の既定路線を否定するものでした。
釜山国際映画祭は、今年で20回目を迎えます。僕は第1回から毎年釜山国際映画祭に訪れており、映画祭としての試行錯誤を見届けてきました。回を重ねていくごとに混沌とした面白みが削がれてきた寂しさはありますが、映画祭としては形を整え、今や東アジアを代表する映画祭になったと思います。
釜山市が要求する新たなパラダイム作りは、マンネリ化を防止するために必要かもしれませんが、既定路線が映画祭の運営を大きく損なったとは考えられません。
今回の辞任勧告は韓国映画界だけにとどまらず、ベルリン国際映画祭やロッテルダム国際映画祭の実行委員長らも遺憾の意を表し、世界の映画祭へと飛び火し、拡散を続けています。

しかしながら、イ・ヨングァン委員長を擁護し支持するという韓国映画界の総意が固まりかけた頃、釜山市は釜山国際映画祭の実行委員長を2人体制にすると、2月17日に電撃発表しました。韓国映画界には、「イ・ヨングァン委員長が保身のために釜山市の提案を受け入れたのでは?」という疑心暗鬼が走りました。
そしてイ・ヨングァン委員長が出席して韓国映画界の有識者から釜山国際映画祭としての新たなパラダイムを模索する公聴会が3月10日にソウルプレスセンターで行われることになりました。

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公聴会出席者(写真左から)イム・グォンテク監督、パク・チャヌク監督、イ・ヨングァン実行委員長 ©Maki Tsuchida

公聴会には、イム・グォンテク監督、パク・チャヌク監督、クァク・ヨンス氏(インディーストーリー代表)、シム・ジェミョン氏(ミョンフィルム代表)、ミン・ビョンロク氏(東国大学教授)が出席して行われたのですが、公聴会は重苦しい雰囲気に包まれることとなりました。
公聴会に先立ち、イ・ヨングァン委員長から「実行委員長2人体制を映画界の皆さんに相談なく応じたことをまずは謝罪します。新しい委員長は映画界から信任を得られる人物とし、私は1~2年後に委員長職を退く所存です」と電撃発表。新しいパラダイムどころか、出席者は一様にイ・ヨングァン委員長を慰留するのに必死で公聴会どころではありません。
詳細は割愛しますが、イ・ヨングァン委員長辞任を受け入れることは、映画祭としてだけでなく韓国映画界全体が芸術としての軸を揺るがされることになります。出席者の中からは、「釜山市の助成金なしで開催しろ」、「(去年、ソウルから釜山に移転した)KOFICをソウルに戻せ」という意見も出ましたが、公聴会そのものは平行線をたどり、結論が出ないまま終りました。

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「釜山国際映画祭 未来のビジョンと刷新案を用意するための公聴会」の様子 ©Maki Tsuchida

イ・ヨングァンさんは元々中央大学映画学科の教授。釜山国際映画祭の業務に集中するため教授職を辞し、居を釜山に移すほど、釜山国際映画祭に取り組んできたことは確かです。しかし、実行委員長職慰留は、恐らくかなうことはないでしょう。それほどまでに彼の意志は固いといえます。
さて、こうなってくると得する人は誰でしょうか? 委員長が変わるということは、ブレーンとなるスタッフの入れ替えもあります。となると、空いたポストには釜山市サイドの意向を反映した人材が配置される可能性も否定できません。
韓国を代表を全州国際映画祭、プチョン国際ファンタスティック映画祭においても、行政や映画祭後援会の意向に沿った人材を採用したため、御用映画祭に転落した感も正直あります。
釜山国際映画祭にとっては20回目の節目となる2015年。華やかなイベントが催されるでしょうか、実を伴わない虚構に魅力は感じられないでしょう。

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イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.1

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.1

 

「唱劇『コーカサスの白墨の輪』の稽古場スケッチ」

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写真の真ん中でつかみ合いをしている生みの母の領主夫人ナテラと、育ての親の主人公グルシェが子供の親権をめぐって争う  写真提供:国立唱劇団

3月21日、国立劇場のヘオルム劇場で初日を迎える『コーカサスの白墨の輪』。鄭義信(チョン・ウィシン)演出家をはじめ、国立唱劇団(국립창극단 クン二プチャングクダン)のメンバーたちは今年の1月末から、国立劇場の片隅にある国立唱劇団稽古場でハードな稽古を重ねています。しかし、ハードとはいえ、皆さんは落ちていく体力を補充するためにそれぞれ持ってきた美味しい食べ物を分け合いながら、笑顔で汗をかいています。

稽古場に入ると、20代の若手から、先生と呼ばなくてはならない先輩まで、俳優の広い年齢層がまず目に入ります。さすが1962年に旗揚げした国立の劇団です。先輩たちは後輩に演技のアドバイスをしたり、面白い掛け声をかけたりします。「オルシグ(얼씨구  あらら)!」「チョッタ(좋다  よし)!」などパンソリでは欠かせない掛け声の「チュイムセ(추임새)」もあれば、若手の演技に対するツッコミに近いかけ声もあって、これは本番の時にも堪能できると思います。このようにみんなが暖かい心を持っている俳優たちは韓国語がお上手な鄭義信さんにも頻繁に声をかけ、作品に対して素直に意見交換をしています。

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日本から武術指導として参加している栗原直樹氏が稽古をつけている様子  写真提供:国立唱劇団

パンソリと唱劇は韓国人にとっても少し距離を感じさせる伝統芸能のイメージがあるのですが、休憩時間におしゃべりをしているかわいい女優さんや良い体を作るために炭水化物を一切食べないハンサムな男優さんなど、若い劇団員の生き生きした雰囲気が好奇心を刺激します。でも、彼らが歌いだすと、数十年も磨いてきた芸が感じられ、圧倒されてしまいます。本作の音楽はまるでミュージカルのように、大衆的な感受性を備えたメロディが心を揺らしますが、パンソリ特有の、語りなのに音楽のように聞こえる情味ゆたかな箇所も勿論あります。やはり「唱劇」ですので、音楽が果たす役割は大きいでしょうが、細かく計算された振り付けとアクションも、思わず声を出して笑うくらい面白いです。

さて、この作品の舞台は裁判所です。裁判長のアツダクがこう語り始めます。

― 一人の子どもを巡って、自分こそが母親だと主張する二人の女。
― そのどちらが本物の母親であるか?

そしてこの興味深い事件が劇中劇として描かれます。二人の女にこれまでの事情を聞いた後、アツダクは「地面に白墨の輪を描け」と命令します。その中に子どもを立たせ、二人に子どもを輪の中から自分のほうに引き寄せるようにしたのです。いったいアツダクは最後にどのような判決を下すのでしょう? どこかで一度は聞いたような話ですね。ただ、物語はこれで終わらないのです。ブレヒトなのに、唱劇なのに、鄭義信作品として成立している『コーカサスの白墨の輪』にご期待ください。

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『コーカサスの白墨の輪』ポスター 写真提供:国立唱劇団

『コーカサスの白墨の輪』
3月21日~28日 国立劇場ヘオルム劇場

21日のみ19:00開演、平日20:00/週末15:00開演 (月曜は休演)
⇒国立劇場 作品紹介ホームページ(韓国語)
出演:ユ・スジョン、ソ・ジョングム、チョ・ユア、チェ・ヨンソク、ホ・ジョンヨル、キム・ミジン、ナム・へウン、イ・グァンウォン、イ・グァンボク

※この作品を引っ張っていくアツダク役はダブルキャストで、唱劇団のベテラン女優、ユ・スジョンさんとソ・ジョングムさんが演じます。お二人の魅力は全く異なりますので、見比べる楽しさもあると思われます。


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『ピョンガンセ、オンニョ』ポスター 写真提供:国立唱劇団

もう一つ、良い情報があります!
演劇『青い日に(푸르른날에)』の演出やミュージカル『ウェルテルの恋(젊은 베르테르의 슬픔)』の脚本などでよく知られているコ・ソンウンのリライティング・バージョン唱劇『ピョンガンセ、オンニョ(변강쇠 점찍고 옹녀)』が5月1日から23日まで国立劇場タルオルム劇場で再演されます。
⇒国立劇場 作品紹介ホームページ(韓国語)
韓国の古典『ピョンガンセ伝』を原作しているこの作品は、顔も可愛く、心優しい完璧な女性なのに、彼女と結婚すると夫が死んでしまうという運命を持って生まれた「オンニョ」が主人公です。15歳で最初に結婚して、20歳になるまでに6人の夫が亡くなり、結局彼女は村から追い出されることになります。この彼女の運命に挑戦するのがピョンガンセという男です。2人のロマンスはハッピーエンドになるのでしょうか? 昨年、18禁唱劇として初演され、話題を呼んだセクシーな古典ですが、客席から爆笑が止まらないコメディーでもあります。去年大好評だった初演を見逃した方に、おすすめいたします。


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土田真樹の「エーガな日々」Vol.4

土田真樹の「エーガな日々」Vol.4

 

「2014年韓国映画総括&2015年の期待作は?」

新年の挨拶が遅くなってしまいましたが、今年もよろしくお願い致します。久々のコラム更新は2014年を振り返ると同時に2015年に向けての展望を占ってみようと思います。

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李舜臣(イ・スンシン)将軍を演じたチェ・ミンシク(写真左)、来島通総(くるしまみちふさ)役のリュ・スンニョン  <『鳴梁』プレス試写会より>©Maki Tsuchida

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主要キャストが勢ぞろい!『鳴梁』プレス試写会より ©Maki Tsuchida

2014年の韓国映画界における最大イシュー(話題)は、やはり慶長の役における豊臣水軍と朝鮮水軍の海戦を描いた『鳴梁(명량 ミョンリャン)』の大ヒットだったでしょう。それまで韓国映画界最大のヒット作は観客動員数約1300万人を動員した『グエムル 漢江の怪物』だったのですが、『鳴梁』は、更に400万人以上を上回る1700万人以上の観客動員数を記録しました。朝鮮軍が豊臣軍を破った史実を描いているのですが、細部や歴史解釈に関する部分は日本のモノとは違っており、日本から見ると国辱映画となるかもしれませんが、ともあれ韓国では大ヒットとなりました。
日本の大河ドラマにおける明治維新や戦国時代の武将のように、これまで何度も映像化されてきた物語なのですが、様々な登場人物の人間模様を描いて、感情移入しやすいキャラクターを散りばめたこと。そして上映時間の半分を占める迫力ある海戦シーンなど、確かに見どころはたくさんあったのですが、最大のカタルシスは、日本に勝つという爽快さではなかったでしょうか。キム・ハンミン監督は前作『神弓-KAMIYUMI-(原題:최종병기 활)』(2011年)で、満州族の清軍との戦いを描いて観客動員数800万人を超える大ヒットを記録しており、ナショナリズムを刺激するエンターテイメント作りがお得意なのかもしれません。

一方、このような大作の影に隠れている感もありますが、韓国インディーズの躍進も見逃せません。特筆すべきは、大手の配給会社がインディーズ映画に投資・配給を行うようになったことは、インディーズ映画界にとって新たな配給モデルとなりました。中でも、最も話題となったのは、『ハン・ゴンジュ 17歳の涙(原題:한공주)』に主演して、第35回青龍映画賞で主演女優賞も受賞したチョン・ウヒの発見ではないでしょうか。チョン・ウヒは1987年生まれ。女優としては遅咲きと言えるでしょうが、今年はファン・ジョンミンと共演する『哭声(곡성)』(仮題)などへの主演が決まっており、第2のムン・ソリになるのでは? と、私が注目している女優です。

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青龍映画賞で4冠を達成!『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』のポスターと主演のチョン・ウヒ ©Maki Tsuchida

2014年の公開作の中には、韓流スターが出演しているにもかかわらず、興行面で惨敗する作品も目立ちました。ソン・スンホンが不貞の夫を演じた『情愛中毒(原題:인간중독)』は、露出シーンが話題になりましたが、観客動員数には直結しませんでした。ソン・へギョ、カン・ドンウォンと、2大韓流スター主演の『ドキドキ私の人生(두근두근 내 인생)』もしかり。興行失敗の最大の原因といえるのが、映画で最も大事な要素であるキャラクターに共感できないことでした。
一方、2014年に観客動員数1000万人を超えた映画の主人公は、『弁護人(변호인)』(※公開は2013年12月)ソン・ガンホ、『鳴梁』はチェ・ミンシク、12月に公開し、2月現在もまだロングラン上映している『国際市場で逢いましょう(原題:국제시장)』はファン・ジョンミンと、いわゆる韓流スターではなく、演劇畑出身の実力派中堅俳優であることがわかります。それと同時に観客層にも変化がありました。これまでの映画館の観客は若い人が中心だったのですが、これらの作品は明らかに中高年が多いのです。
韓国では2014年のトレンドが映画のみならず、様々な分野で復古風(복고풍 ポッコプン)という言葉で表現されるレトロ感覚が幅をきかせていました。この流れは2015年も続いており、ユ・ハ監督の“街(거리)3部作”の最終章となるイ・ミンホ主演の『江南1970(강남 1970)』、1960~70年代にフォークブームの拠点となった音楽喫茶を舞台にした『セ・シ・ボン』など、1960年代、70年代を時代背景にした作品が劇場公開され、興行面でも成功を収めています。

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『ブラザーフッド』『シルミド』などを超える大ヒット作となるか!? ソル・ギョング&ヨ・ジング主演『西部戦線』

ところで、2015年は復古風だけではなく、多様な映画がラインナップしています。
朝鮮時代を背景にした映画では、イ・ビョンホン、チョン・ドヨン主演の『侠女、刀の記憶(협녀, 칼의 기억)』。義兄弟の絆を裏切った男とそれを許さない女が、時を経て対峙するストーリーで、劇中では舞うような剣アクションを見せてくれることでしょう。一方、リュ・スン二ョン、ペ・スジ(miss A)、ソン・セビョク、キム・ナムギル出演の『桃李花歌(도리화가)』は朝鮮時代に実存したパンソリの名手、シン・ジェヒョの愛の物語を描いた作品で、こちらも見逃せません。
愛の物語といえば、主演のチョン・ウソンが制作も手掛け、キム・ハヌルと豪華共演を果たした『私を忘れないで(나를 잊지 말아요)』は、事故で記憶を失った男が、自分の過去を思い出せないまま新しい恋に落ち、消えていた10年間の記憶を埋めていくというストーリーです。
他にも1953年6月25日の朝鮮戦争を背景に南北の兵士が孤軍奮闘する、ソル・ギョング、ヨ・ジング主演の『西部戦線(서부전선)』や、リュ・スンワン監督が『国際市場』で再ブレーク中のファン・ジョンミンと『生き残るための3つの取引(原題:부당거래)』以来、約4年ぶりにタッグを組んだ『ベテラン(베테랑)』は、ベテラン刑事の活躍を描くアクションノワールです。
2015年も魅力的な作品が劇場公開を控え、韓国映画から目が離せない年になりそうです。

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さいきいずみの「韓劇日誌」Vol.5 

さいきいずみの「韓劇日誌」Vol.5 

 

「“極私的” 2014年韓国公演界総括」

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演出、セット、衣装とすべてリニューアルした『モーツァルト!』

久々にコラム更新です。気が付けば前回から半年以上空いておりました(汗)。韓劇.com正式オープン後は、皆さんに大きな関心をいただきありがとうございました。まだまだ至らない部分も多いですが、2015年もよろしくお願い致します。
韓国の各メディアで年末に公演界の1年を総括する記事が上がっていたので真似してやってみようと思いました…が、普通にやっては面白くないので独断と偏見による、超私的な2014年の感想をUPしてみたいと思います。
さて、昨年1年間でいったい自分は何本舞台を見たのか? 先日チケットの半券を数えてみたところ、舞台関係のトークショーやショーケースなども入れて200本超。おお、こんなに見てたんだなぁと我ながらビックリしました。チケット代にいくらつぎ込んだのか、考えるのも恐ろしいです(笑)。
ピックアップした作品は、2014年の上演作をミュージカルについては3つのカテゴリに分け、一方、演劇は印象に残ったBEST10を紹介したいと思います。作品タイトルにはすべて公演データベースPlayDBのリンクを張りました。気になった作品があったら、調べてみてください。

【ミュージカル部門】

<大劇場 ライセンス作品編>BEST3
『モーツァルト!』
『マリー・アントワネット』
『ウィキッド』
大劇場のライセンスミュージカルは「ミュージカルは曲ありき」を再認識させられた、必殺キラーチューンを持っている作品が並びました。特に“All New”と謳った『モーツァルト!』の再演は、原作のもつ強さを改めて実感しました。新演出は、例えばコロレド大司教のトイレシーンなどベタな部分は必要最小限にし、ヴォルフガングの苦悩に焦点を当てて再構築していたので賛否両論あったと思いますが、私は良かったと思います。そして、安定のイム・テギョン、大躍進のパク・ウンテ、瑞々しさのパク・ヒョシンと、ヴォルフガング役は誰を見てもクオリティを保てていたのが凄かった。ピックアップした他2作に比べて段違いの規模である世宗文化会館での上演、という部分でも意味ある再演だったと思います。『マリー・アントワネット』と『ウィキッド』は初演でありながら、俳優たちの歌や演技、ストーリー構成とトータルで完成度が高く、観劇後の満足度が高かったです。

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2014年最高のヒット作『フランケンシュタイン』

2014年最大の話題作『フランケンシュタイン』が入ってない! と思われる方、多いと思いますが、個人的には結構シビアに見ました。韓国映画やドラマによくある幼少時のトラウマから成る話。ストーリーライン(特に2幕)はかなり大雑把な構成でしたし、音楽が耳に残らなかったです。俳優個々の歌や演技はハイレベルですし、豪華なステージなので劇場で見ているときは、とても楽しいのですが、観劇後に何か心に残るか? といったら疑問が残りました。11月から再演が決まっているので、この作品が韓国を代表する創作ミュージカルとして名を残せるかどうかは、今年が正念場だと思います。
同じく、多くの方がご覧になったであろう『ドラキュラ』は回転するセットを中心に置き、スピーディーに展開していて見ごたえはあったのですが、もっとドラマチックに盛り上がるか……というところでアッサリ終わってしまう物足りなさが残りました。また、レンフィールド役のイ・スンウォン、ルーシー役のイ・ジへなど、若き助演陣の熱演が賞賛されていましたが、裏を返せば彼らがシーンスティーラーとなってしまうほど主要キャストの描写が弱かった、ということではないでしょうか?

<中・小劇場 創作ミュージカル編>BEST3

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魂のこもった歌が、深い感動を呼ぶ『西便制』

『西便制(ソピョンジェ)』
『ザ・デビル』
『サリエリ』
声(ソリ)に人生をかける父娘の壮絶な生き様を、魂の歌パンソリに乗せて描く『西便制』は3度目の再演も変わらぬクオリティでした。特に娘ソンファを演じる本物のソリクン(=パンソリの歌い手)であるイ・チャラムの神がかったパンソリを聴いて、心を動かされない人はいないでしょう。洋もののような華やかさはないものの、一歩間違うと垢抜けないローカル感が出てしまう作品世界を韓紙を使ったシンプルなセットでスタイリッシュに見せていました。決して気楽に見られるストーリーではありませんが、こういう作品こそ、韓国を代表する創作ミュージカルとして大切に育て、公演を続けてほしいと思っています。

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独創的な作品世界で評価が分かれた『ザ・デビル』

新作では『ザ・デビル』が個人的には最も印象に残った作品でした。当初制作会社はドゥサンアートセンターで『ママ、ドント・クライ』の上演を企画していたものの、作品に対し劇場が大きすぎると判断。そこで演出イ・ジナがブロードウェイで見た『ファウスト』にインスパイアされて、新たに“ショーミュージカル”を創作しよう、ということになったのだそうです。ゴシックロックをベースにしたスコアはクオリティ高く、ライティングを駆使した立体的なセット、舞台上で生演奏を見せる演出など見どころ満載でした。しかし「ファウスト」の世界観を知らないと筋が難解なことや、演奏やコーラスが目立ちすぎ、サウンドのボリュームが大きいなどの観客の声を反映して、公演中盤からはライブ感がスポイルされてしまったのは残念。メディアでは賛否両論でしたが、こういう実験的な作品を創作・上演したこと自体を称賛したいです。グレードアップして再演する日を楽しみに待ちたいと思います。

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10月プレミアムコンサート開催!『サリエリ』

『サリエリ』は演出、衣装など色々と危なっかしい部分はありましたが、なぜか中毒性の高い作品でした。モーツァルトの才能に嫉妬するサリエリの心を具象化したジェラスが『エリザベート』におけるトートのように魅惑的に描かれていたのも面白かったです。
2013年に小劇場で大ヒットし、中劇場にランクアップして注目を浴びたのが『共同警備区域JSA』『女神様が見ている』でした。しかし、いずれも小劇場版を凌ぐことはできず。2作品ともベースはしっかりしている作品ですから大きく崩れることはなかったものの、より大衆向けにしたかったのか、説明的描写が追加されたことで作品全体の緊張感が失われてしまいました。劇場をサイズアップする際にいかに構成し直すか……小劇場創作ミュージカルが抱える課題を見た気がしました。

<惜しかったで賞編>
『ヴォイツェック』 『太陽王』 『プリシラ』
『シンギン・イン・ザ・レイン』
派手な宣伝に比べ、作品力が伴わなかった4作です。LGアートセンターで上演した『ヴォイツェック』『プリシラ』は作品に対して舞台が大きすぎると感じました。『太陽王』『シンギン・イン・ザ・レイン』は大舞台で構成可能な作品でありながら演出は小劇場方式。俳優の頑張りが作品に反映できていないのも残念でした。

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韓国版に見事に昇華した社会派ドラマ『背水の孤島』

【演劇部門】BEST10

『背水の孤島』
『少年Bが住む家』
『道を去る家族』
『マクベス』
『フランケンシュタイン』
『メフィスト』
『飛行少年KW4839』
『愉快な下女マリサ』
『私に会いに来て』
『デス・トラップ』

 

演劇では、劇団TRUSHMASTERS中津留章仁原作『背水の孤島』が個人的ベストでした。セウォル号沈没事故で韓国社会が激震中のなかで上演。演劇界で注目を集める気鋭の演出家キム・ジェヨプが、アイロニカルな作品世界を十分に読み取り、実力派俳優たちとともに韓国版に再生させた秀作でした。本作と、少年犯罪を犯した家族の苦悩を描いたCJクリエイティブマインズ発の作品『少年Bが住む家』は観劇中に涙が止まらないほど心を揺さぶられました。『背水の孤島』は公演中のアフタートークをリポートしていますので、ご興味ある方はお目通しください。
韓国のゴッホと呼ばれるイ・ジュンソプを取り上げた『道を去る家族』は演戯団コリペのイ・ユンテク作・演出作品。日本で美術を学び、才能を開花させた画家が、愛する日本人の妻や家族と別れて暮らさねばならなかった半生を知るきっかけとなりました。ジュンソプ役、チ・ヒョンジュンが劇中で描き上げる牛の絵や、絵画から飛び出してきたような舞台美術がとにかく素晴らしかったです。

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パク・ヘスが圧巻の演技!『フランケンシュタイン』

『マクベス』『フランケンシュタイン』はともにパク・ヘス主演作。ダイナミックで入魂の熱い演技を見せてくれた彼あってこその作品でした。『フランケンシュタイン』は日本でもNTLiveで公開された英国版が原作ですが、ワン・ヨンボム版の創作ミュージカルと比較すると、こちらのほうがストーリーラインがしっかり構築されていたと思います。
『メフィスト』『飛行少年KW4839』『愉快な下女マリサ』(プラス、『背水の孤島』も)は舞台美術をヨ・シンドンが担当した作品。それぞれに作品自体も面白かったのですが、独創的かつアーティスティック、反面、キッチュなポップさも持ち合わせた彼が生み出すセットは、韓国でいま一番面白く、作品のクオリティを上げるのにも一役買っていると思います。『メフィスト』については主演女優チョン・ミドの怪演も光っていました。
5年ぶりに再演した、映画『殺人の追憶』の原作でもある『私に会いに来て』、同名映画が有名な作品をキム・スロプロジェクトが初演した『デス・トラップ』は推理サスペンスでしたが、どちらも笑えるコミカルなシーンを盛り込みながら、しっかりとした推理劇に仕上げてありました。
ほかにも、イ・ジェギュンが東亜演劇賞・新人演技賞を受賞した『家族という名の部族―TRIBES』や、『アリバイ年代記』『背水の孤島』のキム・ジェヨプによる新作『なぜ私は小さなことにのみ憤慨するのか』などなど10本に収めるのが困難なほど、素晴らしい作品にたくさん出会うことが出来ました。

韓国の公演界全体を見ると、2013~14年前半までに業界を支配していた妙な高揚感は見事に消え去りました。多くの来日公演が成果を上げられず、日本で多くのメディアが展開している嫌韓的な報道がボディーブローのように効いてきているため、観光もエンタメも中国向けにシフトしています。いくつかのミュージカルが中国公演を標ぼうしているので、そのうちアイドルを起用したミュージカルなどは日本ではなく中国で公演を始めるのではないでしょうか? さらに最近危機感を覚えているのが、大型ミュージカルのチケット価格設定です。VIP席14万ウォン基準になり、今年は15万ウォンの作品も出てくるかもしれません。昨年から急激に円安が加速したこともあり、現時点のレートで1万5千円越。日本国内作品の平均価格をついに超えました。もちろん、韓国ではさまざまな割引を駆使して定価で購入する人はほとんどいませんが、韓国の平均所得を考えると割引をしても高すぎます。前売りは定価で購入するしかない私たち日本の観客にはますます厳しい状況です。ここ数年で韓国ミュージカルに魅了され、韓国まで観劇にいらっしゃっている方は多いと思います。今年は話題性のみならず、作品性もしっかりと見極めて、大劇場から小劇場まで、より幅広い作品を観てみてほしいなと思います。

2015年の公演ラインナップは近日公開予定です。一人でも多くの方が素晴らしい作品に出会えますように!

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さいきいずみの「韓劇日誌」Vol.4

さいきいずみの「韓劇日誌」Vol.4

 

「韓国創作ミュージカルの課題①」 ライセンス作品にはない“違和感”

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「韓国創作ミュージカルはここまできたか!」と各方面で大絶賛!
2014年上半期最高の話題作「フランケンシュタイン」プレスコールより

今年の韓国ミュージカル界は「フランケンシュタイン」の大ヒットや「シャーロック・ホームズ」「ブラック メリー・ポピンズ」の日本版上演などで、“創作ミュージカル(창작뮤지컬)”と呼ばれる韓国オリジナル作品の話題でもちきり。昨日ノミネートが発表された「ザ・ミュージカルアワーズ」を筆頭に、今年のミュージカル関係の授賞式では創作ミュージカルに多数の賞が与えられることでしょう。

すでにお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、近年制作・上演された創作ミュージカルには共通する3つのキーワードがあります。

①タイトルロールが海外の歴史的著名人
②サスペンス仕立てのストーリー
③事件の発端はトラウマ

①については実在する、しないを問わず、その名を聞けば世界中の誰もがキャラクターをイメージできる人物がタイトルロールになっています。

「フランケンシュタイン」
「シャーロック・ホームズ」
「アガサ」(アガサ・クリスティ)
「ブラック メリー・ポピンズ」
「アルセーヌ・ルパン」
「ジャック・ザ・リッパー」(切り裂きジャック)

などなど。下半期にEMKが上演するのは、歴史に名を残す女スパイの物語「マタ・ハリ」ですし。

②については、上でズラリと挙げた作品すべてが殺人や事件の背景を追っていくサスペンスものであり、その発端はキーワード③の「トラウマ」が背景にある作品が多いんです。

近年の韓国ミュージカル界は、いくつかの海外ライセンスミュージカルのヒットによって、市場の拡大を印象づけた一方で、例えば、実はオリジナル作品がそれほど評価を得られていなかった作品を買い、韓国版を上演していたりして、版権ビジネスのターゲットになった印象があります。
加えて、日本では頭打ちなドラマやK-POPに次ぐ、第3の韓流を狙った韓国ミュージカルの上演が増加。海外ライセンス作品は日本での上演が困難な作品が多いことから、韓国オリジナル作品を制作してライセンスを売る側に転じようとする動きに拍車がかかったわけです。しかし最近では日本での上演はあくまでステップに過ぎず、いま韓国エンタメ業界のすべてが目を向けている中国市場での展開が最終目標、と言われるようになってきました。

海外の著名なキャラクターを主人公に据えれば、衣装やセットの世界観なども含め、作品を作りやすいというのはあるでしょう。これまで海外ライセンス作品を制作してきたノウハウの蓄積で、雰囲気は出せていると思います。しかし、創作ミュージカルを見ていると海外ライセンス作品や海外の演出家を招聘した作品などにはない違和感を時折覚えるんです。時代設定があまり考慮されていないようなセットや衣装。劇中にいきなりローカルな展開が盛り込まれる~~例えば、叱られて反省するときに両手を挙げて正座する、など韓国でしか通用しない所作がヨーロッパを舞台にした作品に登場したりするわけです。もちろん、お遊び的に入るのは楽しくていいと思うんですが、それが結構、真剣に、無意識に、行われている。これを演出家も役者も気づいていないのはどうかな、と思います。

設定や登場人物に違いがあるとはいえ、似通ったサスペンスやスリラー作品が多いのも気がかりです。既存の韓国映画やドラマを見ても、過去のトラウマに起因するダークでウエットな物語を作るのは得意中の得意。復讐劇などネガティブなストーリーのほうが、韓国の観客たちもカタルシスを得やすいんだろうな、と思います。ただ個人的には、観劇中は面白くても見終わった後に深い感動まで得られる作品は少ないです。ほかにも海外ライセンス作品に登場した、“既視感”のあるセットやシーンが多い……とか、欲を言えば、セットデザインはひたすらモノや装飾を投入してデコラティブにするんじゃなくて、照明の効果を上手く利用した、もっとシンプルでモダンな感じにできないかな……とか。ついつい色々と考えながら観劇してしまっています。

いまはとにかく創作ミュージカルの制作規模を拡大させている過渡期ですから、しばらくはヒット作をロールモデルにした類似作が量産されるでしょう。しかし、今後は観劇後に温かな気持ちにさせてくれるようなロマンチックコメディや重厚で見ごたえあるヒューマンドラマなど、作品性を多様化させたり、革新的な衣装やセットが楽しめる作品が増えることを期待しています。

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木村典子の「お隣の演劇」Vol.3

木村典子の「お隣の演劇」Vol.3

 

 「第35回ソウル演劇祭 開幕」

演劇祭01ソウル演劇協会が主催する「第35回ソウル演劇祭:演劇は時代の精神的希望だ」が開幕しました。4月14日(月)にアルコ芸術劇場大劇場で行われた開幕式には、演劇界の元老たちをはじめ若手までソウルで活動する多くの演劇人たちが集まり、ソウル演劇界の祝祭であることを感じさせます。

ソウル演劇祭は演劇フェスティバルの中でももっとも歴史が古く、1977年に韓国文化芸術振興院主催で開催され始めた大韓民国演劇祭が母体です。その後、87年に民間団体である韓国演劇協会へと開催主体が移管され「ソウル演劇祭」となりました。現在はソウル演劇協会がこのソウルの演劇人の祝祭を運営しています。
演劇祭02開幕式をのぞいてみましょう。ソウル演劇協会パク・チャンヨル会長の挨拶は、中国人旅行者をターゲットとしたアダルト演劇の増加など、演劇の街・大学路と演劇の危機に対する話が印象的でした。このような演劇環境の変化の中で、今年は「演劇は時代の精神的希望だ」というテーマとなったのでしょう。開幕宣言とともに「第4回ソウル演劇人の日」の受賞者(功労賞・美しき演劇人賞・若手演劇人賞)と、「第1回ソウル演劇人大賞」(大賞・演技賞・演出賞・劇作家賞・スタッフ賞・翻訳賞・制作賞・演劇分ち合い功労賞・演劇希望公務員賞)の受賞者が発表され、受賞者たちの晴れやかな笑顔が会場を満たしました。また、広報大使としてドラマ・映画でも活躍する演劇出身俳優ユン・ジュサン、チェ・イルファ、チョン・ボギョン、ナム・ミョンニョル、オ・ダルスの5名が紹介されましたが、韓国演劇界の層の厚さが感じられます。
第35回ソウル演劇祭期間(4週間)で公演される作品は、老舗劇団「漢陽レパートリー」「アリラン」から若手のフリンジ参加作まで55作品。この中でも若手演劇人を対象とした「未来よ、わきあがれ」部門に参加する8作品は、これからの大学路を担う注目作です。
旅客船事故で韓国全体が悲しみにくれる中、‘演劇が時代の精神的希望’となる、そんな演劇祭になることを願うばかりです。

ソウル演劇祭03■第35回「ソウル演劇祭」

4月14日~5月11日

演劇祭公式サイト: http://www.stf.or.kr/

ソウル演劇協会 公式サイト http://www.stheater.or.kr/

 

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