イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.10

 

演劇『はなこ』が語る慰安婦問題

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『はなこ』のストーリーはテレビ局のプロデューサーと女性学教授が、従軍慰安婦のドキュメンタリー番組制作を通じて出会う人々や出来事で構成

去年12月28日、日韓政府による従軍慰安婦問題の合意が行われ、韓国内でそれに対する批判の声は今も続いていますが、偶然にもこの時期、慰安婦問題を扱う演劇が大学路で上演されていました。『はなこ(하나코)』という作品です。

去年12月24日から今年1月10日までアルコ芸術劇場小劇場で上演されたこの作品は、脚本キム・ミンジョン、演出ハン・テスクと、韓国演劇界ではその名前だけで信頼できる二人の女性演劇人が作った新作でした。キム・ミンジョン脚本家は、一昨年、パク・ユチョン主演で映画化された『海にかかる霧(해무)』の原作者として有名な方です。ハン・テスク演出家も2013年に国立劇場で上演された『ダンテの神曲』や、明洞芸術劇場で2014、15年と上演された『ガラスの動物園』など数多くの話題作を手がけて活発に活動を続けている中堅演出家です。従来の彼女の代表作の中には、2007年に初演された『荷(짐)』(チョン・ボックン作、南山芸術センター)がありますが、この作品は2012年に演出家の坂手洋二により日本でも上演されたことがります。当時、劇団「東京演劇アンサンブル」の俳優と韓国の俳優チョン・スンギル、この『はなこ』にも出演しているウ・ミファが共演し、過去と現在を往来しながら従軍慰安婦と強制労働被害者の話を扱って注目を浴びました。特に、この作品は慰安婦の問題自体を告発する内容ではなく、慰安婦だった女性たちが韓国に戻ってからむしろ差別された事実と残酷な現実を目にしなければならなかった日本人の苦悩を含めて、現在を生きる我々がこのような過去にどう向き合えば良いかを考えさせた点で有意義な作品だったと思います。

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ハンブニが回想するシーンでは、慰安婦だった若いころの自分自身(コップ二)と妹グマの辛い過去を若い俳優たちが再現

今回の『はなこ』も、現代の韓国を舞台にして元慰安婦の女性を取り上げている演劇です。
物語は、女性学教授のソ・インギョンとテレビ局のプロデューサーのホン・チャンヒョンが、カンボジアに住んでいる“レン”という女性が従軍慰安婦だったという情報を入手し、彼女の証言を聞くために旅に出るところから始まります。彼らとともに、同じくカンボジアで共に慰安婦だった妹グマを探している老婦人“ハンブニ”が同行します。レンが妹ではないかと考えているハンブニは、やっと再会するのですが、レンは韓国語を忘れてしまい、二人はコミュニケーションがとれません。加えてレンの顔は韓国人だとは思えないほど、カンボジア人のような容貌なのです。ホンPDは、レンと彼女の孫であるメイリンが韓国政府の支援金を狙って嘘をついているのではないか疑い始めるのですが、同じころ、事前に依頼しておいた二人の遺伝子検査の結果が、電話でソ教授に伝えられます。残念ながら、二人は本当の姉妹ではないことが判明。それを聞いたハンブニは当時の幻影からようやく本当の記憶を取り戻し、実は妹が高橋という日本の軍人に殺害されたことを思い出します。その後、彼女は次の行き先である日本へ向かい、そこで従軍慰安婦の話を聞くために集まった日本人の前で、淡々と当時のことを証言し始め、軍人に刺されたために背中に刻まれた傷跡を見せて、この演劇は幕を閉じます。

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ハンブニ(イェ・スジョン 写真右)の人生をたどりながら、観客は自分自身を振り返ることになる

カンボジアで韓国語を忘れたまま生活していた元慰安婦の女性“フン”を始め、この作品は実在するいろんな立場の人たちの声を基にして書かれていたと思います。それによって慰安婦問題そのものより、その問題に対するいまの私たちの視線に、より重きを置いた作品になったのでしょう。二人のおばあさんは本当に血のつながった姉妹だろうか? レンは嘘をついているのか?……観客は次々と疑問を抱きながら、いつの間にか、それぞれ異なる国、立場や世代の人々の姿を見ることになります。そのうち、これが“従軍慰安婦”と呼ばれた特定の人々の話ではなく、“ハンブニ”というひとりの人間の物語であることに気づくようになるのです。このように個々の話を丁寧に記録することは、政治や外交ではできないことですね。長い間傷つけられ続けているおばあさんたちに、少しでも迷惑をかけないように、慎重に作品を作っていた俳優とスタッフの姿が、とても深く印象に残っています。

⇒『はなこ』脚本家 キム・ミンジョンさん インタビュー記事へ

hanakoposter【公演情報】
演劇『はなこ』(하나코)
2015年12月24日~2016年1月10日 アルコ芸術劇場小劇場

<出演>
●元慰安婦ハンブニ(はなこ):イェ・スジョン
●元慰安婦レン:チョン・グギャン
●ソ・インギョン教授:ウ・ミファ
●ホン・チャンヒョンPD:シン・アンジン
●佐々木:シン・ヒョンジョン
●パク・ジェサム:キム・グィソン
●お父さん:パク・ジョンテ
●キム・アルム:イ・ジヘ
●高橋:クォン・ギョムミン
●幼いグマ:ミン・ギョンウン
●メイリン:カン・ダユン
●コップニ(幼いハンブニ):パク・スジン
●小津山:リュ・ヨンス

脚本:キム・ミンジョン/演出:ハン・テスク/舞台:イ・テソプ/照明:キム・チャンギ/衣装:キム・ウソン/ヘアメイク:ペク・ジヨン/音響:ジ・ミセル/映像:カン・ナレ/協力舞台デザイン:パク・ウネ/助演出:カン・ソヒ、グン・ジョンチョン

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