注目の韓国若手女性演出家3人
韓国の演劇界における女性演出家の活躍が目立ち始めたのは1980年代からです。日本との共同制作も多いキム・アラ(김아라)を筆頭に、ハン・テスク(한태숙)、イ・ジナ(이지나)、ムン・サムファ(문삼화)、チュ・ミンジュ(추민주)などが、近年までその系譜をたどりますが、最近はその次の世代を担う女性演出家が注目を浴び始めています。そこで今回は、キム・ハンネ、ブ・セロム、イ・キプムという、3人の女性演出家の作品が12月に話題になっていたので紹介したいと思います。
最初に紹介したい演出家はキム・ハンネ(김한내)さんです。彼女は12月9日から来年1月31日まで世宗文化会館Mシアターで上演されている児童劇『テンペスト(템페스트)』の演出を努めています。ソウル市立劇団に所属してから初めての作品ですが、子供だけではなく大人も楽しめる作品を作り上げたと評価されています。
彼女の演出スタイルをもっと味わうことができたのが今年10月に国立劇団小劇場パンで上演した『迎えに来て!(데리러 와 줘!)』でした。この作品は日本の小説家・劇作家・演出家である本谷有希子さんの『来来来来来』の韓国翻訳版でしたが、原作の独特の世界観を繊細に読み取りながらも、幻想的な舞台をベースに全く新しいキム・ハンネバージョンを作り上げ、同世代の演劇人に刺激を与えました。特に、この作品は彼女が属しているもう一つの劇団パーダバプ(빠-다밥)主催で制作されました。この劇団は演出家とスタッフだけで構成されているため、その特徴を活用した良いチームワークが見られた作品とも言えます。
彼女はソウル大学法学部出身という変わった経歴も持っていますが、知的好奇心が旺盛な方のためか、高い挑戦意識を要する戯曲を選んで上演しているのも魅力的です。難しいけど、それくらい価値がある作品が彼女によって作られているのです。
次に紹介するのはブ・セロム(부새롬)さんです。12月3日から20日まで大学路ゲリラ劇場で上演した『I am fine, too(아이엠파인투)』を演出しました。彼女はコラムVol.5で紹介した『スヌ伯父さん(순우삼촌)』も演出していましたが、今回は彼女自身の劇団「月の国椿の花(달나라동백꽃)」の作品です。俳優との共同創作の性格が強いこの作品は2013年に上演した『Fine thank you, and you(파인 땡큐 앤드 유)』の続編とも言える作品で、今の韓国社会を象徴している言葉「怒りと憎悪」をキーワードにし、全く「Fine」ではない登場人物の物語を聞ける作品でした。
さらに9~10月にドゥサンアートセンターSpace111で上演された青少年劇『廊下で/美青年になる』(복도에서, 미성년으로 간다)も話題になりました。この原作戯曲は、去年7月に演劇実験室恵化洞(ヘファドン)1番地で上演されたオムニバス演劇『B青年(B성년)』で、イ・ヤング、ユン・へジンが演出した短編でした。当時、高校生が読んだり、演劇を作ったりするような戯曲がないという問題意識から若手劇作家が集まって企画・上演した小品でしたが、ブ・セロムさんの演出により今年再演する機会を得たのです。演出家兼舞台デザイナーでもある彼女は、虚構の物語を、まるで身近な世界のように感じさせる舞台を創り上げるのが最大の魅力だと思います。
最後はイ・キプム(이기쁨)さんです。彼女が主宰している創作集団「LAS」という劇団は劇団員がみな30歳前後の親しい友人たちで構成されていて、若さが格別に感じられる劇団です。彼らのはつらつとした姿と親近感のためでしょうか、既に多くのファンを保有しています。イ・キプムさんは『大韓民国乱闘劇(대한민국 난투극)』、『虎を頼む(호랑이를 부탁해)』など、作・演出を両方担当したこともありますが、これまで主に創作劇を発表し続けながら活動してきました。去年、彼女が劇団外の作品である東野圭吾の小説を原作にした『容疑者Xの献身』の翻訳劇で演出を担当したのをきっかけに、今年には岩井秀人の代表作『て』で二度目の翻訳劇に挑み、好評を得ました。12月3日~13日大学路ナオン・シアターで上演された『て』は設定を韓国に変えた一種の翻案劇でしたが、人名と地名など固有名詞を変更しただけで、違和感なく韓国の話として受け入れられた不思議な作品でした。『て』はある一家の祖母の葬儀から始まるのですが、LASの初期作品『葬式の技術(장례의 기술)』は父親の葬儀を背景に、ある家族の話が描かれていたため、LASのファンにとってはこの2作品を見比べる楽しさもありました。若い力でさまざまな戯曲に挑む団のこれからの歩みとともに、イ・キプム演出家の成長も期待されています。
この三人の女性演出家は、2015年の1年間で3~4作品を手がけてエネルギッシュな仕事ぶりを見せました。しかしそれだけではなく、彼女たちの上演作が演劇人や観客に刺激を与え続けていることがもっと大事なポイントでしょう。早く彼女たちの来年の上演作を見たいと思ってしまう理由もそこにあります。近い将来、新たなスター演出家が誕生することを楽しみにしています。
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