[SPECIAL INTERVIEW]イ・ソクジュン<前編>

 

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いま目覚ましい急成長を遂げている韓国ミュージカル界を俳優としてのみならず“トークショーのMC(司会)”として長年支えている人がいます。その名はイ・ソクジュン。彼は常に舞台の第一線で活躍する俳優でありながら、ミュージカル俳優や制作陣をゲストに迎えるトークショー「ミュージカル イヤギショー イ・ソクジュンと共に」⇒公式サイト(以下、「イヤギショー」)で2004年から司会を務めています。どんなゲストを迎えても俳優の魅力を引き出せる抜群の話術で毎回楽しいショーに仕上げ、観客を楽しませてくれているソクジュンさん。もはやライフワークになっている「イヤギショー」の10周年記念公演を前に、10年間の裏話を伺いました。

 ※イヤギ(이야기)とは、韓国語でお話、物語のこと。イヤギショー=トークショーの意。

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●「イヤギショー」はいま2011年から再開したシーズン2を現在公演中ですが、2004年にシーズン1を始めた当初はこうして10年も続くと思っていらっしゃいましたか?
「いいえ。シーズン1のときはただ100回やろうと言って始めたんです。当時はミュージカル俳優が100人くらいにはなるだろうと、そして彼らを好きなファンたちが100人はいるだろうと考えたんです。1回当たり100人ずつ参加した観客が、1人の俳優につき100人ずつファンになっていけば100回は行けるだろうと。しかも毎週やってたから、1年で50回公演なので2年目に終わると思ったんです。でもシーズン1を100回やるのは容易ではなかったですね。僕がちょっと勘違いしていたのは、ファンの方たちはいろんな俳優を好きだろうと、そして仕事がある月曜日の夜でも俳優を見に来る人が100名を超える、と。でもミュージカル俳優のトークショーを100人以上の観客が見に来るには、普段の公演で1000人以上の観客を呼べるくらいの影響力を持っていれば可能なことだったんです。だけどそんな俳優はあまりいなかった。もっとたくさんいるかと思ってたけど、それで赤字になってしまって、あ~(考え方を)間違ってたようだ、と」

●最初に劇場はどこで?
「僕がワイフ(女優チュ・サンミ)とよくデートしてた建物があって(笑)。弘大(ホンデ)にお義父さん(演劇俳優・故チュ・ソンウン)の名前をつけた“テアトル チュ”という100席くらいの劇場があったんです。トークショーをやるにはちょうど良い環境で、こういうトークショーをやってみたらどうか? という話がどこからともなく出てきたときに、あ、ここでやりたい、と思ったんです。正直、自分の利益よりも僕が好きな人たちを紹介したいという気持ちのほうが強かったんですよ。僕はファンの子たちも好きだし、(俳優とファンに)格差をつけるのは好きじゃないから、区別なく俳優たちと話をしたいのに難しいって言ってるのを聞いて、じゃぁ僕が代わりに訊けるじゃん、くらいの感じで始めたんです」

lsj3●とはいえ、それまでMCというのはやったことがあったんですか?
「1回だけ。『若きウェルテルの悩み』をクリスマスのときに公演ではなく、コンサートをやったんですよ。企画するときに僕がいちばん年上だったから『俺がMCやるよ』って感じで司会をしたんだけど、す~ごく反応が良かったんです。自分が芝居で拍手されるのは照れ臭いのに、誰かを注目させて拍手をもらうのはすごく気分が良かったんですよね」

●今でこそミュージカル俳優のトークショーは増えましたけど、当時は全くなかったですよね?
「全世界。世界初ですよ。でも僕はよく分からなかったんだけど、ある評論家の先生が世界でもこんなミュージカルのトークショーはないよって言われて、『あ、そうか』って。なぜなら他の国のミュージカルは作品が中心になるけど、韓国は俳優のインフラがすごく良い国だから俳優の力がいつも中心になる――それで他の国ではやろうとしてなかった俳優たちとファンが一緒に過ごす時間を作りたかったんです」

●初回はどうやって準備されたんでしょうか? 韓国ではファンクラブの会員がファンミーティングやイベントを本格的に実施したりしますが、そんな感じですか?
「アマチュアリズムでしたよ。最初はそういうファンミーティングみたいな感じもあったのは確かです。でもファンミーティングは俳優が話したいことを話して歌を歌って、質疑応答があって、みたいな感じだけど、それとは違ってミュージカル俳優は自分の話をする機会があまりないから、生まれた時から今までの話をしよう、と。子供の時の写真を持ってきてもらって観客に写真を見せながら、なぜ、どうやってミュージカルを始めたのか? 失敗したことあるか、など観客たちが知りたいエピソードを訊いたんです。ほとんど全部公開するレベルで(笑)。もともと僕の同僚たちだし、僕が知ってることも多いからお互いけなし合いながら話したりしてましたね」

●シーズン1の第1回ゲストはやはり、「イヤギショー」で毎回名前が登場するお友達のイ・ゴンミョンさんたちだったんですね。
「1回目は最初だし、どうやってやったらいいか分からなかったから、僕が一番信頼のおける人たちに頼んだんです。ゲストの3人はソウル芸術大学91学番の同期で、ゴンミョンさんは知ってると思うけど、いまファン・ヒョンジョンさんはシンシカンパニーで振付家やってるし、アン・ソンジンさんは劇作家です。でも当時は有名な俳優だったんですよ。大学時代からいつも4人でつるんでたから、学生時代の話やアンサンブルの話だけでも充分面白かったから子供のころの話なんかは全部飛ばしたほどでした」

●お話を伺っていると内容はいまやっているスタイルとほとんど変わってないんですね。
「うん、変える必要もないでしょう。俳優が舞台に立って繰り広げる話は無尽蔵にありますよ。そこで、どんな話を組み合わせるかが、僕らにとっての肝でしょう。シーズン1では有名な俳優を呼んで人物にフォーカスしていたとしたら、シーズン2では作品と、作品に関わった俳優やスタッフ、新人俳優も含めて話を訊いています」

lsj5●それと毎回、公演の収益金は難病の子供たちを救うためのチャリティーにされているのが凄いなと思います。
「当初は制作費くらいを捻出できればいいなと思っていました。お金を儲けようなどとは思ってなかったけどシーズン1のときは50回くらいやったところで制作費が何千万ウォンかの赤字になりました。それで俳優に重きを置いてはダメだ、と考え直して、紹介したい作品の俳優たちが何人か出演すれば有名な俳優じゃなくても観客が飽きずに進行できるだろうと、毎週から隔週公演に変えて、回ごとに内容を企画・制作するスタイルに変えていったんです。すると「イヤギショー」が面白いと言われはじめ、固定ファンがついてきたんです。興収も上がっていって、100回に至るときには1000万ウォンくらい余った。本来は僕たちが自由に使っていいわけだけど、金儲けで始めたことじゃないからみんなで分けるかチャリティーにするか、と相談して『美しい財団』というところに寄付することにしたんです。それを観客も俳優もいいね、と言ってくれたのでシーズン1を終えるときに観客に約束したんです。実はすごくしんどかったからシーズン2をやる予定はなかったんだけど、万が一戻ってきたら観客の皆さんからいただいたお金を支援に使える環境を作ります、と。でもその後、シーズン2をやってほしいという話が3年を過ぎても聞こえてくるんです。最後に僕の心を動かしたのは、厳しい環境にいる人たちを俳優と観客が一緒になって助けたらどうか? と言われたこととか、『すごく出たかったのに終わってしまった』と恋しがる俳優たちもすごく多かったんだな、というのが分かって、もう一回やってみるかと」

●シーズン1から現在まで、忘れられないエピソードがあれば教えてください。
「すごくたくさんあるけど……チョン・スギョン先輩(シーズン1の第13回に出演)の双子のお子さんが当時1、2歳ぐらいで家に置いておけないから会場に連れていらしたんです。スタッフに預けて出演してたんだけど、ママに会いたがって舞台に上がってきたので、『大丈夫、みんな拍手して~』と舞台に上げたら、突然お漏らししちゃって一時中断したこととか(笑)。パク・カリン音楽監督(シーズン1の第20回に出演)のときは、観客にマフィンを食べさせたいと100個ぐらい焼いて持っていらして、みんなで食べながら公演したことがありました」

●シーズン1では何度か出演していたけど、いまでは「イヤギショー」でなかなかお目にかかれないチョ・スンウさんやオム・ギジュンさんなどはどうでしたか?
「彼らは出演しないというよりも、例えばチョ・スンウさんの場合はトークショーみたいなものに出るのが苦手な人なんですよ。元々苦手なのに、僕と仲が良いから、兄貴がやるものには出なきゃでしょ、と自分から進んで出てくれたんです。お願いするたびに申し訳ないなと思ってたけど、3回くらい出てくれたはずですよ」

●先月「ヒストリーボーイズ」の回に出ていたイ・ジェギュンさんみたいに(注:当日、ジェギュンさんはうまく話ができずソクジュンさんにいじられていました)、話すのがあまり得意じゃないゲストもいるじゃないですか。そういう時は進行が大変ではないですか?
「僕はむしろ、司会者の話を聞かず、自分のスタイルを押し付けるように話す人のほうがずっと大変です(笑)。ジェギュンさんみたいな人は愛らしいくらいで、話の上手い下手は問題じゃないんですよ。うまく説明できなくてもそれを僕がどう持っていくかが重要でしょう」

lsj7●ほかに、面白いエピソードを思い出す方はいらっしゃいますか?
「昨年イ・ゴンミョンさんがプロポーズした回(シーズン2の第44回に出演)があったでしょ? (はい、驚きました!)観客の方たちが戸惑うんじゃないかと緊張したんだけど、実は前の日に2人はケンカしてて、奥さんが来ないんじゃないかと心配だった(笑)。どうするんだよ全部準備終わってるのに! 奥さんには『見に行かないって言ってるのに何でしつこく見に来てって言うの?』って、言われるし(笑)。でも無事にプロポーズできたから、完全に仲直りできたでしょう」

●あの時はどれくらい前から準備してたんですか?
「1カ月くらい前かな? プロポーズしてないって言うから、『じゃぁ、イヤギショーでやる?』って言って。ゴンミョンさんは「イヤギショー」第1回のゲストで僕にとっては格別な人でもあるし」

●あの時ゴンミョンさんは日本で「三銃士」の公演を終えて「イヤギショー」に出演されましたよね。で、プロポーズされたことをツイートしたら、日本のファンの方たちから「失恋した」と残念がる反応が結構ありました(笑)
「ファンになった日本のファンの方には残念だったけど、僕からしたらずっと前から望んでいたことだったから。早く結婚すればいいのに何で結婚しないんだ? 長年付き合っている素敵な彼女がいるのに、わざとなのか? って(笑)」

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「イヤギショー」では“陰の主役”と言っても過言ではないほど毎回お名前が話題にのぼるソクジュンさんの親友、イ・ゴンミョンさんのお話がここでも登場しました(笑)。まさかあのロマンチックな電撃プロポーズの裏にはこんな秘話があったとは!

続いて<後編>では、「イヤギショー」10周年公演について、現在上演中の初演出作「サム・ガール(ズ)」などについて伺っています。

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