[SPECIAL INTERVIEW]イ・ソクジュン<後編>

 

lsj2

イ・ソクジュンさんは今年、演劇「ステディ・レイン」「M.Butterfly」にミュージカル「共同警備区域JSA」と立て続けに主演したうえ、演劇「サム・ガール(ズ)」の演出にも挑むという超過密スケジュール。加えて唯一の休演日である月曜日に「ミュージカル  イヤギショー」のMCを毎月2回務めていらっしゃるんです。さまざまな作品への主演を並行しながらMCを10年続けるというのがどれほど大変か、お分かりいただけるのではないでしょうか。インタビュー後半では、その集大成となる10周年記念公演について、韓国の公演界の未来についても伺いました。

*      *      *

●5月26日に開催される10周年公演はどんな内容になりそうですか?
「歴代の出演者のなかから、意義があったエピソードを10個選んだんです。それは作品でもあるし、歌だったり、イメージだったり、新人俳優だったり。有名な俳優だけを集めてやることもできるけど、個人的にはそういうイベントで大きな感動を得られることはあんまりないんですよね、自分の歌だけ歌って終わるから。「イヤギショー」でも代表曲ばかり歌って2時間進行するようなスタイルは聞いてても疲れるから、最初の2、3回だけやって止めたんですよ。それよりも「イヤギショー」ならではの特色がある人たちを集めよう、と。だから、超Aクラスの俳優は何人かしか出演しないけど、有名な俳優が外でパンフレットを売ってたり、客席で案内係としているかもしれないですよ。そういう計画をして、みんなで一緒に楽しめるよう準備しています」

lsj4●普段「イヤギショー」を見ていると、出演した俳優の多くが「一度出てみたかった!」とおっしゃいます。10年間やってきて韓国の公演界に何か影響を及ぼしたと思いますか?
「う~ん、公演界にどんな影響力があったかどうかは分からないです。それは全部終わった後で長い時を経て分かることのような気がするけど……。僕が満足している唯一のワケは、観客に対して不足していた1%をここで補おう、と。たくさんの公演によって観客たちは癒しや慰め、幸福感を得られると思うけど、公演は一方的な疎通ですよね? でも「イヤギショー」では舞台の上の人ではなく、舞台の下にいる人たちが気になっていることを僕が代わりに聞ける唯一の場所だから、観客たちにも快さがあるんだと思う。ミュージカルにより深い愛情を注いでもらえるような空間になればいいだけで、それ以上のことは望んでいないです」

●記念公演を終えた後も「イヤギショー」は続けられるんですか?
「はい、シーズン2も100回まではやります。100回までやって一旦幕を下ろします。次があるかどうかは分からないけど、とりあえず100回」

●韓国までミュージカルを見に来ている日本の方たちも「イヤギショー」を見てみたいという方は多いと思うんですよ。でも月曜日公演というのがネックで。昨年「宝塚スペシャル」(2013年4月、シーズン2の第37回)などもありましたけど、日本でも「イヤギショー」をやりたいという話をされていましたよね?
「うん、僕たちがやりたいことのひとつですね。「イヤギショー」の観客たちに約束したというのもあるけど、条件が合わないから行けないだけのか……。韓国では劇場を借りるのも出演する俳優も後援(=無償)なんです。だけど日本に行けば劇場を借りるお金やスタッフへのギャラ、出演者の渡航費用もかかればチケットの単価も上がる。それに日本の観客に来てもらうには有名な俳優の出演が不可欠でしょ? だけど、そういうことをやらないようにしようとしてるのが「イヤギショー」だから、僕を信じてついて来てくれれば大丈夫、という風にはいかない。日本の俳優と一緒にコンサート形式でやることも考えたけど、「イヤギショー」のスタイルを守らなければ面白さが伝わらないようだと思ったし」

●いつか、日本でも「イヤギショー」ができるといいですね。
「良い考えをお持ちの劇場があったらぜひ教えてください。例えば僕と俳優数名が出演するようなショーは1、2回だったら可能だと思うんですよ。だけど僕が考えているのは2カ月でも3カ月に1回でもいいから長いスパンでできる何か、なんですよ。そうすれば日本との橋渡しになれるでしょう? ただ日本に数回行くだけでは満足できないし、意味もないと思うんですよ」

lsj6●ええ、私も同感です。このインタビューを読んで「イヤギショー」に興味を持ってくださった日本の方々にショーの魅力を伝えるとしたら、どういう部分でしょうか?
「観客たちにとって「イヤギショー」は俳優がカツラや衣装を脱いだ場面。俳優が衣装や役柄を脱いだ、その人自身の姿を舞台で見せるものです。舞台裏ではその俳優がどうやって生きているのか、知りたいファンは多いですよね。大学路(テハンノ)で僕がコーヒーでも持って歩いていると『あ、イ・ソクジュンだ』ってなる。『あの人もコーヒー飲んでたからコーヒー飲もう』という風に一日中話題にしてますよ。ある俳優は舞台の上では華のようなイメージだけど、あの人も私たちと同じ人間でトイレにも行くでしょ(笑)と。またある俳優はスマートな演技をする人なのに食事するときいつもボロボロこぼすとか。昔はみんな俳優に神秘的なイメージを持っていてそれを守ろうと努力していたと思うんですよ。日本でもそうでしょう? 神秘性を維持するために俳優がどれほど努力しているか、と同時に私たちと同様にいかに日常生活に溶け込んでいるか。そういうことが僕はその俳優が舞台に立っていることに対して大きな感動を呼ぶと思います。私生活ではごはんをボロボロこぼしても掃除しないような人でも、舞台の上でどうやって役作りをしたか訊くと、どんな過程を経たか背景が全部見えるようなんですよ。舞台の上でドキュメンタリーを見ているというか、バックステージを見ているような感じ? その人の人物像が見えるようになると、公演を見るときに全く新しい視点で見えるようになるんですよ」

●確かに、「イヤギショー」で俳優さんたちの素顔を見て、その人や作品に興味がわいて、舞台を見に行ったことが何度もあります。
「そういう風に見に行かれて、「イヤギショー」で面白い姿を見せていた俳優がシリアスな作品に出ていると台無しにしそうだと思うけど、そうじゃないでしょう? 観客たちはとても賢明で芸術を理解する気概がありますよ。ある程度変化した姿を見せてもそれを理解してくれる観客が多いということですよ」

●いま、初めて演出に挑戦された「サム・ガール(ズ)」が公演中ですが、個人的には初演のときに見て、すごく面白かったのでずっとまた見たいと思っていたんです。どうやって今回演出をされることになったんですか?
「すごく大好きな作品で、僕が本格的に演劇俳優としての道も歩き始めた初めての作品だったんです。今回で上演は4回目だけど、前の3回はずっと主人公として出演していてもうやり尽した感もあった。そこに劇団メンシアターの代表に『作品を一番よく分かっているから、あなたが演出したら?』と突然言われて、演出することになったんです」

somegirls
演劇「サム・ガール(ズ)」プレスコールより

●プレスコールでは「演出という役を演じている」とおっしゃっていましたが、俳優としてではなく、演出家として俳優たちと稽古してみていかがでしたか?
「僕は俳優として稽古するときも、ちょっと離れたところから見るタイプなんですよ。演出にそれはそういう風にしたらダメじゃない? とか(笑)、かなり(客観的に)見るほうで。それを維持しようとしてますけど、初めてのことだからそれが良いのか悪いのかよく分からないですね。とにかく自分が舞台に立ったら、と仮定して俳優たちと議論しながら一緒に創り上げる感じです。その代わり、彼らが一番動きやすいように、僕が演じるときに不便だったことは全部無くすようにしています(笑)。最もシンプルにして俳優だけを見るように心がけました」

●最後に、韓国の公演界の変化をずっと見てこられたわけですが、今後はどうなっていけばいいと思われますか?
「公演市場は成功したと思いますよ。以前はよちよち歩きの段階だったから、何をやっても楽しいし面白かった。でも時間が経つにつれて、あまりにも急成長したからこれが建築物だとしたら基礎があまり良くなかった。長い時間をかけて基礎となるインフラを積み上げて舞台に上げなくてはいけない作品を、基礎が弱いもんだから制作する環境は悪くないのに外国の作品よりも面白くない。海外のライセンス作品はしっかりしてるのに、僕らの作品は何? と創作ミュージカルがもたつき始めたんですよ。それで市場は大きくなったけど中身が空っぽの不安定な建物みたいに感じていて、僕がずっと創作ミュージカルの舞台に立つ理由は中身がしっかりした作品をお見せしたいからなんです。でも今年すごく驚いているのは、創作ミュージカルがライセンスミュージカルに並び始めた。基礎がしっかりした作品が上演され始めたんですよ。「フランケンシュタイン」「共同警備区域JSA」「グルーミーデイ」「アガサ」「女神様が見ている」とか、どれ一つとってもつまらないと聞いたことがない。今までのものすべてが崩れたからインフラが出来たというか、卵の状態から基礎が必要だと制作陣が気づき始めて、CJなどの文化財団の支援プログラムからもひとつずつ作品が舞台に上がり始めたんです。優れた作品を選定して良い作家や演出を投入し、発展させて……と、そういう良い作品が上演されてきた期待感があります。また、しっかりした作品を海外に持っていこうともしている。日本でも中国でもいいけど、本場でも勝負できる作品ができるように。俳優だけじゃなくクリエイターもそうで、韓国のアンドリュー・ロイド・ウェバーが出てくればいいですよね。チェコミュージカルや『ノートルダム・ド・パリ』みたいなフランスミュージカルのように韓国も代表的な作品がひとつでも生まれればいいな、というのが僕の願いです」

*      *      *

■公演情報■

「ミュージカル イヤギショー イ・ソクジュンと共に シーズン2」⇒公式サイト
毎月2回(不定期)月曜日20時 大学路・プティツェルシアター
※チケットはCJ E&Mチケットのみで販売
(残念ながら日本から直接買える方法はありませんが、ほとんど毎回当日券が出るため劇場で購入可。事前にチケットを購入されたい方は韓劇.comチケット&グッズ情報ツイッターなどにお問い合わせください)
韓国語がよく聞き取れなくても、会場にいるだけで十分楽しいので機会があれば、日本の皆さんにもぜひ一度見てほしいです!
豪華ゲストが多数登場する10周年記念公演のリポートも後日掲載予定です。ご期待ください!

インタビュー前編を読む

■SPECIAL INTERVIEW アーカイブ■
Vol.1 パク・ウンテ <前編><後編>

1件のコメント

ただいまコメントは受け付けていません。