韓国映画

[Special Interview]イ・デヨン【中編】

[Special Interview]イ・デヨン【中編】

 

ここでいきなり筆者の個人的な話で恐縮ですが、俳優イ・デヨンに興味を持つきっかけとなったのが、2005年の『復活(부활)』というドラマでした。主演したオム・テウンの出世作として知られるこの作品は、ある事件をきっかけに主人公ハウンの出生の秘密、事件の背後にある巨悪を暴いていく巧妙なストーリーで放送当時「復活パニック」という熱狂的なファンを生んだ作品でした。劇中でイ・デヨンさんは刑事ハウンの上司であるキョン・ギド班長を演じ、事件の重要なカギを握る役を担っていたのです。

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●2005年に出演されたドラマ『復活』は助演陣に渋いベテラン俳優がたくさん出演していましたが、俳優のプロフィールを調べてみると、ほとんどが演劇俳優だったんですよね。
「そう、演劇出身俳優が多かったですね。(キム・)ガプス兄さん、(キ・)ジュポン兄さん……。『復活』は韓国で今でもファン層が形成されていて、マニアのファンがとても多いです。ファンの希望が通って初めてディレクターズカット版DVDも出たし、劇場を丸ごと借りてイベントをやったりもしました」

●演出したパク・チャンホン監督のファンクラブもありましたよね(笑)。このドラマでデヨンさんは警察の捜査班の班長役でした。
「はい。キョン・ギド班長(笑)(※名前の発音は、韓国の地域名、京畿道にかけてある)班長は、ドラマの中盤で刺されるのですが、ストーリー上、重大な秘密を握っているので殺すことはできない。それで、3、4話くらいは病院で横になっているだけで出演料をもらいました(笑)」

●(笑)。このドラマ以降、大学路(テハンノ)でデヨンさんの出演作もいろいろと見るようになりましたが、『春の日』や『私に会いに来て』のように韓国の創作演劇に出演されることが多かったように思いますが?
「創作劇だけではなく、翻訳劇も実はたくさんやってきたんですよ。私が所属してきた劇団『シンシ(신시 現シンシカンパニー)』や、劇団『演友(ヨヌ)舞台(연우무대)』、キム・ガプス先輩が主宰していた『俳優世界(배우세상)』でもちょっとやっていたんです。それぞれが創作劇を優先的に作る劇団だったので、その劇団に所属していたときはほとんど創作劇でしたが、2006~7年? くらいからは大学路で、劇団(で作品を制作、上演する)という概念がやや瓦解していって、プロダクションによる制作システムに変わってからは翻訳劇にもたくさん出演してきました」

●ここからはデヨンさんのこれまでのキャリアについてお伺いしたいです。プロフィールには名門、延世大学の神学科出身となっています。
「はい、延世大の神学科出身はほかにアン・ネサン、ウ・ヒョン。もっと上にはミョン・ゲナム先輩がいますね。アン・ネサンさんは神学科の中にある演劇サークルで活動していて、ウ・ヒョンさんはほとんどやってなかったけど、二人ともデモを一生懸命やっていたほうでした(笑)。実は私と同じ歳なんですが、二人とも浪人したから1学年下で、今も会うと“兄さん”とか“先輩”と呼ばれるんけど、ほぼ友達ですよ。同い年なんだから(笑)」

●やはり皆さん演劇出身俳優ですよね。でも一般的に神学を学ぶ人は神聖でお堅いイメージがあり、なぜ演劇を始めたのか、どうにも結びつかなくて不思議だったんです(笑)
「他の教団の神学校と違って、延世大の神学科は、特定の教団が設立したものではなく、教派連合的な性格もありました。民衆神学と1970~80年代に南米で起きた解放の神学の影響を受けて、若干の政治的な性向も帯びた民衆神学の本山でした。それですごく自由主義的な性向が強く、デモなどの社会運動にもたくさん参加していたんです。一般的に神学校を卒業すると牧師になったり、神学科の教授になる学校とは違って、延世の場合はとてもリベラルで総合大学の中にあるからか、いろんな関心も持てたんです。卒業後にも牧会や一般神学の勉強を続ける比率が50%にも満たない。 30~40%ぐらいかな? それで変わった奴が出ているんです。例えば同級生には映画監督や演劇演出家、警察官もいて、金融監督院に入った奴もいます。神学科にしては幅が広いんですよ」

●元々キリスト教徒なんですよね?
「うちは三代キリスト教の母体信仰(※生まれながらにしてキリスト教を信仰していること)で、幼いころから自然に教会に通っていた敬虔なキリスト教徒でした。でも高校3年生のとき、むやみに胸が熱くて、空しくて、訳もなく世の中が悲しくなり、死にたくなったことがあったんです。ところが自分が20年近く信じて来た信仰がそれを助けることが出来なかったんですよ。 それでさらに迷って彷徨もたくさんしました。その頃に酒も覚えて(笑)。それから大学入試のとき本当は哲学科とか国文科くらいに行ければいいかと思っていたけど試験の点数が微妙で、哲学科はちょっと危なく、神学科は安全圏でした。それで神学だろうが哲学だろうがもう、反抗心のようなものもあり、迷いが生じた時には何の役にも立たなかったこの信仰に一度正面からぶつかってみようという子供じみた考えもありました。当然延世大という看板にも惹かれ、ロマンももっていました。イ・ムンヨル(이문열)という作家の『人の息子(사람의 아들)』という小説を読んで感じた、神が人間の問題で悩む神学が、格好よく見えたりもして神学科に行きました」

●そういえば以前インタビューした俳優(⇒イ・スンジュ編参照)も、本当は哲学科に行きたかったと言っていました。
「だけど、いざ神学科に入ったら、民衆神学を支持した教授たちはみな追い出され、とても厳格でつまらない教授だけが残っていて、思っていたほどの面白さがなかったんです。 春に入学したばかりの新入生がデモして連行されている姿ばかり見てとても胸が痛むけど、石を投げる勇気はない……そんな憂鬱な日々を送っていたら、ある日高校の同級生がすごく楽しそうにしているんですよ。“お前、何やってんの?”と訊いたら、“演劇をやっていてすごく面白い”と。それで“僕もそこに入ってみるか?”となったんです。その演劇サークルに入る前は、実は演劇を1作しか見たことがなかったんです。『エクウス(에쿠우스)』※2 という作品で、その頃ずっと信仰や異性の問題に悩んでいた自分とぴったり合致する作品でした。それまでは演劇に魅力を感じたことがなかったのに、作品が本当に強烈で。今でこそ俳優が全裸で出るような作品もありますが、当時は舞台で女性が下着しか身に着けていない姿を間近で初めて見てかなりショックを受けました。それでその友達にくっついて演劇サークルに入りました。演劇自体の面白さはよく分からなかったけど、若者たちがひとつのことにこだわり、今にして思えば大したことでもないのに、酒を酌み交わしながら演劇や芸術の話をするのが素晴らしく思えたんです。メンバーもとてもいい人たちで、俺が夢見ていた大学生活はこれだ!と。演劇自体よりも人と会って騒いで少し芝居する……すると、格好よく見えるし、その雰囲気が好きでサークル活動をしていました」

※注2 演劇『エクウス』は英国の劇作家ピーター・シェーファーが1973年に発表した戯曲。愛馬の目を突いた少年アランと精神科医ダイサートとの対話から家族の問題、思春期の性など、彼の背景が徐々に明らかになっていく。韓国では劇団実験劇場が1975年に初演し、チェ・ミンシク、チョ・ジェヒョンなど多数の有名俳優が出演してきた。2016年には韓国40周年記念公演も行われた。

●大学を卒業したあと、本格的に演劇俳優として活動を始められたんでしょうか?
「大学1、2年生の時は、本当にただ友達と話してお酒を飲んで遊ぶ楽しさだけでした。そのあと、短期間軍隊(兵役)に行ったあと、演劇の勉強をきちんとしてみようと思い、本も一生懸命に読んだし、舞台もマメに見に行って、これを自分の一生の仕事にしようかな?と悩んだ末に、やろう、と決めました。他に面白さを感じるものもなく、自信もなく、 サラリーマンはやりたくなかった。私はたまたまタイミングが良かったんです」

●でも、ご両親は反対されたのではないですか?
「当然反対しました。 私は父が50歳を過ぎてできた子なんです。両親は朝鮮戦争のときに越南(北朝鮮から韓国に降りて来た)してきたのですが、姉が二人いたけど、歳を取ってからできた長男だから大事に育てられました。そんな息子が演劇をするというんだから(笑)。しかし父は理解がある人でしたから“演劇をやるのはいいけど、それは金持ちの子がすることで、自分がいつまで助けてやれるか分からない”と、そういう心配をしてくれたんです。私は二代独子※3 だったので、本当は兵役が30カ月のところを6カ月だけ勤務をしたのですが、“軍隊に行ったつもりで2年だけやってみます”と言い張ったんです。 ですが、それが30年になりましたね」

※注3 二代独子(イデドクチャ/이대독자)とは、父、子二代続けての一人息子(=一家の跡取り)という意味。二代独子の場合、以前は兵役期間が短縮されたり公益勤務に着いたりしていた。現在は一人息子でも基本的にはこのような優遇措置はないという。

●最初に出演されたのはどんな作品でしたか?
「サークル外の作品に出たのは大学3年の冬休み、1987年でした。演劇部の先輩であるキム・テス演出家※4 が他の演出家の作品の助演出をしていました。『不細工な美女(米女)못생긴 미녀』※5 という作品でしたが、アメリカを風刺するような一種の反米演劇でした。出演者の中の一人が、初日の3週間前に突然逃げたんですよ。それで俳優が一人いなくなったので誰か探して来い、と言われたテス兄さんが、まだ学生だけど、そんなに大きな役ではないので、演出家に一度使ってみてくださいと言って、私が起用されたんです。それが87年の1月か2月でした。ちょうどパク・ジョンチョル※6 が拷問されて死んでから間もないころでした。 これが最初ですが、大学を卒業してから出演したのは『立ち上がれアルバート(일어나라 알버트 原題は「WOZA ALBERT!」)』という作品が私のデビュー作だと思います」

※注4 キム・テス(김태수)演出家 劇団「卍模様(완자무늬)」の代表。同劇団は、イ・デヨンと同じく延世大学神学科出身の俳優ミョン・ゲナムらと共に1984年に設立。社会問題を題材にした創作劇や、翻訳劇も硬派な作品を多数上演している。
※注5 韓国語ではアメリカのことを美国(미국 ミグク)と表記するため、美女=アメリカ人女性の意味。美女を指すのは同じ文字・発音の(미녀 ミニョ)。
※注6 パク・ジョンチョル(박종철) 当時ソウル大学の学生だった民主活動家。全斗煥(チョン・ドファン)大統領が独裁体制を敷いていた第5共和国末期の1987年に公安当局に拘束され、拷問を受けて死亡した。これを政権が隠蔽しようとしたことから「6月抗争」と呼ばれる多数の民主化運動が起こり、のちに13代大統領となる盧泰愚(ノ・テウ)が「6.29民主化宣言」を出すことになった。

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中編では俳優イ・デヨンの誕生秘話をじっくり語っていただきました。⇒インタビュー後編 では、これまで出演してきた演劇について。そして出演作が50本を超える映画やドラマについても伺っています。

【←インタビュー前編】 【インタビュー後編→】


取材・文:さいきいずみ 翻訳:イ・ホンイ ポートレート撮影:キム・ジヒョン

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土田真樹の「エーガな日々」Vol.10

土田真樹の「エーガな日々」Vol.10

 

第20回釜山国際映画祭リポート

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第20回釜山国際映画祭公式ポスター

今年で20周年を迎え、10月1日より開幕した第20回釜山国際映画祭(公式サイトFacebookツイッターに行ってきました。
昨年、多くの乗客が犠牲になった、セウォル号沈没事件における政府の対応を避難した映画『ダイビングベル(다이빙벨)』が政権与党でもある釜山市長を刺激し、釜山国際映画祭に対して上映差し止め要求を出したのですが、映画祭の独立性の旗印の下、映画祭サイドはこれを無視して上映を強行し両者の間には溝が深まりました。この顛末は、僕の第5回コラムで詳しく紹介しています。

そのせいか、釜山市の釜山国際映画祭への割当予算、国庫補助金ともに削減され、一説によると昨年比で20~30%減という厳しい予算での開催になりました。
ゲストの数も昨年より減ったのか、映画祭会場でもある海雲台のホテルの予約が今年は取りやすかったという裏話もあります。

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開幕式司会を務めたソン・ガンホ(右)とマリナ・ゴルバハーリ

のっけからお金の話をして恐縮ですが、ともあれ厳しい予算でありながら映画祭としての体裁は立派に保ったと、僕は思います。オープニングセレモニーはレッドカーペットイベントから始まり、華やかな韓国伝統結婚行列のパレードに続き、韓国を代表するソプラノ歌手であるスミ・ジョ―(チョ・スミ)が「アリラン」を熱唱しました。司会はソン・ガンホとアフガニスタン女優のマリナ・ゴルバハーリが進行しましたが、ソン・ガンホは司会経験がほとんどないこともあってか、ややぎこちなさが残り、ゴルバハーリよりも昨年のムン・ソリのほうが英語の実力が上かなと感じました。本業は役者なので仕方ありませんけどね。ともあれ、釜山国際映画祭は今年もソツなく始まりました。

開幕式の会場全景(写真左)/祝歌「アリラン」を歌ったスミ・ジョー

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今年から共同実行委員長になった韓国第1号ワールドスター女優カン・スヨン/レッドカーペットに登場したチョン・ウソン(左)とチュ・ジフン

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『思悼(サド)』舞台挨拶の様子(写真左)と、野外オープントークに登場した”時の人”ユ・アイン

翌日からは映画上映と各種イベントが始まります。海外からの招待作品は多いのですが、もちろん最多は韓国映画。今年は話題作が豊富だったこともあり、多くの話題作が上映されました。中には『思悼(サド/사도)』のように、映画祭期間中にも劇場で公開中の作品も上映されるほどでした。そして、釜山国際映画祭で話題沸騰だったタレントは、この『思悼』に出演したユ・アインでしょう。上映会場はもとより、オープントークが行われた海雲台ビーチではユ・アインを見るために徹夜組が出ただけでなく、トークショーの時間は周辺の道路の流れが麻痺するほどのフィーバーぶりでした。ユ・アインは『思悼』だけでなく、観客動員数1000万人越えを達成した大ヒット作『ベテラン(베태랑)』にも出演しており、今一番ホットな若手韓国人俳優といえるでしょう。

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中華圏からゲストが多数来場。中国で活動する韓国人俳優ハン・ジソクとサイモン・ヤム(任達華)/ホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督とチャン・チェン(張震)

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台湾のチェン・ボーリン(陳柏霖)はソン・イェジンをエスコートしてレッドカーペットに登場(左)/キム・テヨン監督と結婚後、韓国でさらに人気上昇したタン・ウェイ(湯唯)

釜山国際映画祭を訪れたのは韓国人ゲストだけではありません。日本からは『ピンクとグレー』の行定勲監督、中島裕翔、菅田将暉が舞台挨拶を行い、佐藤健や長澤まさみが参加しました。中華圏で圧倒的人気を誇るチェン・ボーリンとタン・ウェイ。ワールドスタークラスではハーヴェイ・カイテル、ティルダ・スウィントン、ソフィー・マルソーが海雲台ビーチでオープントークショーを行ったほか、審査員としてナスターシャ・キンスキーが映画祭全期間、釜山に滞在しました。

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『ピンクとグレー』の行定勲監督、中島裕翔、菅田将暉の舞台挨拶にはファン大集合!

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『海街diary』の是枝裕和監督と長澤まさみは野外ステージのオープントークにも登場(写真左)/アジアキャスティングマーケットの日本代表として参加した佐藤健

しかしながら、キラ星のようなスターを見るのも映画祭の楽しみですが、最大の魅力は、監督に直接質問をぶつけることができるQ&Aの時間でしょう。映画を見て気になったことを訊くことができるのは、映画祭ならではの醍醐味といえるのではないでしょうか。
そして、夜になると彼らが海雲台の屋台や飲み屋に出没して映画談義にくだを巻く、もとい花を咲かせている光景をよく目にします。

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映画上映後のGVは観客との交流の場。『ベテラン』のリュ・スンワン監督と俳優ファン・ジョンミン(写真左)/『二十歳』のイ・ビョンホン監督、俳優カン・ハヌル、ジュノ(2PM)

ここまで読むといいとこ取りの映画祭のように見えますが、光もあれば影もあります。
釜山国際映画祭のもひとつの顔といえるのが、フィルムマーケットですが、こちらは昨年に比べてバイヤーとセルラーへの優遇策が改悪されたようで、昨年に比べてマーケットにブースを出すコストがかかっていると、知り合いの映画会社の関係者はボヤいていました。それでも取引が活発に行われればよいのですが、明らかに昨年よりもマーケット会場を歩いている関係者は少なく、このまま先細りするのではまいかと危ぶまれるところです。

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大物ハリウッドスターも来韓! ティルダ・スウィントン(左)とハーヴェイ・カイテル

また、これまでの釜山国際映画祭の魅力のひとつが、映画人との映画ファンの近さだったのですが、それも近年は少々変わってきました。
かつては、映画スターが飲んでいるところへファンが顔を覗かせても気持ちよく対応する光景がよく見られたもので、例えば、チャン・グンソクとソン・ヘギョが日本の女性ファンと屋台で意気投合して楽しそうに話している光景を僕は見かけたこともあります。
しかしながらセキュリティの問題もあるのでしょうか、お店全体を借りきって入口にはガードマンを立たせるなど、ファンが近づけないようにしています。
現在の様子を見ると、昔の釜山国際映画祭は自由でした。釜山の旧市街地の中心部である南浦(ナンポ)洞で行われていた頃は、著名な映画人を屋台で見かけるだけでなく、道路にゴザを敷いて釜山の地元焼酎であるC1に喉を鳴らす姿をよく見かけたものです。
国際映画祭の体裁が整っていくことは、こうしたカオスが淘汰されていくことを意味し、で国際標準という味気ないものになることでもあるのです。

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80年代に世界的人気を博したトップスターも参加。『ラ・ブーム』の仏女優ソフィー・マルソー(写真左)/『パリ、テキサス』などで知られるナスターシャ・キンスキーは「ニューカレンツ審査委員」として参加。ハンドプリンティングイベントも行った

ともあれ、第20回釜山国際映画祭は大きな事故もなく、10月10日にクロージングを迎えました。総観客動員数は227,337人と過去最高を記録し、まずは大成功だったといえます。
前述したように予算は大幅に削られたとはいえ、これほどの成果を出したのは、映画祭に魅力があるからにほかなりません。今年から共同執行委員長になったカン・スヨンが「映画祭の主役は観客」と決算記者会見で述べたように映画ファンのみならず、釜山国際映画祭ファンの皆さん。強いて言えば、お祭り好きの国民性がそうさせているのかもしれませんね。
この勢いを持続して、来年は更にパワーアップした釜山国際映画祭になることを信じています。

韓国日報で連載している「韓国に暮らして」というコラムに拙稿「釜山国際映画祭の思い出」(⇒記事へ)と題し、第一回釜山国際映画祭にボランティアスタッフとして参加したときの体験談を紹介しております。
試行錯誤を模索していた釜山国際映画祭のドタバタぶりは、ある意味コメデイともいえます。
コラムは韓国語ですが、翻訳サイトなどを利用すると日本語でも読めます

写真提供:©2015 BIFF  ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。

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土田真樹の「エーガな日々」Vol.9

土田真樹の「エーガな日々」Vol.9

 

イ・ギョンヨン -逆境から復活を遂げた往年のスター-

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『パイレーツ(海賊)』(2014)と『暗殺』(2015)記者会見でのイ・ギョンヨン ©Maki Tsuchida

映画やドラマを見ていると名前を知らなくても「この人、見たことある」という俳優がいると思います。
中でも最近やたらと露出が多いのが、イ・ギョンヨンです。今年の夏休み期間中に公開された映画だけでも『暗殺(암살)』『ベテラン(베태랑)』『侠女 追憶の剣(협녀 칼의 기억)』『ビューティーインサイド(뷰티인사이드)』『治外法権(치외법권)』と、毎週出演作が公開されるほどの売れっ子で、韓国映画界では、イ・ギョンヨンが出演しているか、していない映画かに分けられるほど。今でこそ、ロマンスグレーな悪役を演じることが多いイ・ギョンヨンですが、1990年代にはスター俳優として活躍していました。今回はイ・ギョンヨンについて掘り下げてみましょう。

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初主演作『秋旅行』(1992)(左)と出世作『雨降る日の水彩画』(1989)より

韓国中部に位置する忠州(チュンジュ)で生まれたイ・ギョンヨンは、医者になることを夢見ていましたが、映画好きが高じて漢陽(ハニャン)大学で演劇を学びます。1987年に映画『燕山日記(연산일기)』の端役でデビュー。するとすぐに韓国映画界の巨匠イム・グォンテク監督の『アダダ(아다다)』(1987)のスリョン役に抜擢され、その名が知られるようになりました。
しかしながら、役者としての注目度はイマイチで、彼の出世作となったのは、『猟奇的な彼女』のクァク・ジェヨン監督のデビュー作でもある『雨降る日の水彩画(비 오는 날의 수채화)』(1989)でしょう。主役は当時の美男子スター、シン・ソンイルの長男であるカン・ソッキョンだったのですが、主役を食うほどの存在感を示し、彼の飄々とした演技と甘いマスクは、多くの韓国女性を魅了しました。1989年といえば、僕が韓国に移住した年であり、リアルタイムで映画館で見た作品だけに、名前も知らないこの役者は売れるな、と確信したのを覚えています。
それからは多くの作品に出演するようになるのですが、主演俳優に次ぐナンバー2的な役回りが多いながらも次第に顔を知られるようになっていきました。
満を持して主役となったのは、クァク・ジェヨン監督の第2作である『秋旅行(가을여행)』(1992)です。当時絶大な人気を誇ったハイティーンスターであるイ・ミヨンの相手役でした。感覚的な映像と音楽が心地よい爽やかな青春ロードムービーだったのですが、興行面では苦戦を強いられたものの、イ・ギョンヨンの時代がついに来たと感じさせる映画でした、余談ですが、劇中にイ・ギョンヨンをモデルにしたコンピューターゲームが登場し、クァク・ジェヨン監督はこれを「韓国映画初のCG」と主張しています(笑)。

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イ・ギョンヨン監督作品『帰天図」(左)と『夢中人』のポスター

その後はラブコメから社会派まで、ジャンルを問うことなく多くの作品に主演して、1990年代はアン・ソンギ、パク・チュンフンと並ぶ人気を誇りました。そしてついには監督業に進出し、剣劇SF映画『帰天図(귀천도)』(1995)を多くの作品で共演した盟友キム・ミンジョンを主演に迎えてメガホンを取ります。人気スターが撮った映画とあり話題にはなりましたが、お世辞にも完成度が高いとは言えない映画でした。
それでも監督への執念はついえることはなく、故郷の忠州を舞台にした映画『夢中人(몽중인)』(2001)を撮ります。イ・ギョンヨン自身が主演し、ハ・ヒラ演じるヒロインとの友情に近い30代の恋、日本人妻との間にできた愛娘ユメとの親子愛を描いた甘く切ないラブロマンス映画でした。
イ・ギョンヨンにとっては、この頃が一番よい時代だったといえます。

役者として監督として順風満帆だったイ・ギョンヨンですが、まさかのスキャンダルで人生を狂わせてしまいます。
未成年者と性行為を行ったとして2002年に警察に逮捕され、裁判の結果、懲役10カ月、執行猶予2年の刑が確定しました。自身が主演し、中年男性と若い女性との恋を描いたドラマ『青い霧(푸른안개)』(2001)を実践したとして、当時は大騒ぎになりました。
イ・ギョンヨンは家族も仕事も名誉も失い、事件後に母親までも亡くしてしまい、ただじっと耐えるしかない謹慎生活を送っていました。彼自身、後日談として「虚偽の報道がなされた部分もあるが、関係を持ったのは事実」と罪を認めることしか、自分にできることがなかったと語っています。

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『折れた矢』(2011年) ©アウラピクチャーズ

執行猶予が明けた後も彼がスクリーンやテレビに登場することはありませんでした。そんな彼に真っ先に手を差し伸べたのが初監督作にも起用するほどかわいがっていたキム・ミンジョンでした。小さい役ではありましたが、キム・ミンジョン主演の映画『シュロの森(종려나무 숲)』(2005)に出演しました。芸能活動は再開したものの、出演するのは友情出演や特別出演ばかり。色モノに見られても、とにかく演じることに飢えていたイ・ギョンヨンは、なりふり構わず、出演オファーがあれば断ることなく受けてきました。
そうしている内に出演作はどんどん増え、2011年には『折れた矢(부러진 화살)』『カウントダウン(카운트 다운)』など8本の作品に出演しました。2012年は10本に出演し、以降は毎年10本前後の作品をこなしています。10本という数字ですら驚異的ですが、同時に昨年大ヒットした『ミセン(未生)』などのケーブルテレビドラマにも出演するなど、いまでは韓国の芸能界で最も多忙な俳優のひとりであるのは間違いありません。
彼がこれだけ多くの作品に出演するのは、演じることへの渇望、借金返済のためなど様々な理由があるでしょうが、根本的なことは彼を起用する側にあります。韓国の韓流スターといえば、チャン・ドンゴン、イ・ビョンホン、チョン・ウソンなど、いずれも40代男優の層が厚いのに対し、50代の男優の層はかなり薄いといえます。イ・ギョンヨンは悪役からロマンスまでをこなす演技の幅プラス色気があります。50代で艶のある中高年俳優はイ・ギョンヨンが唯一無二と言っても過言ではないでしょう。演じることへの渇望と俳優不足、両者の利害が合致することにより、今日のイ・ギョンヨンがあるといえるでしょう。

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『西部戦線』(2015) ©ロッテエンターテインメント

彼の最新作は、9月24日に韓国公開されたソル・ギョング&ヨ・ジング主演の『西部戦線(서부전선)』。部下に無茶な命令を出す韓国軍中佐という嫌な奴ですが、それでも彼にはそうせざるをえない理由があったというのが映画のラストで明らかになります。
大活躍のイ・ギョンヨンですが、地上波のドラマだけは未だに出演を果たせていません。イ・ギョンヨンが地上波に復帰し、完全復活を遂げる日は、そう遠くないと僕は信じています。

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土田真樹の「エーガな日々」Vol.8

土田真樹の「エーガな日々」Vol.8

 

「2015年夏の韓国映画総決算」

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『暗殺』の主演陣(左から)ハ・ジョンウ、チョン・ジヒョン、イ・ジョンジェ、イ・ギョンヨン ©Maki Tsuchida

まだまだ残暑が続く日々ですが、韓国の映画界は暑い夏が続いています。並み居るハリウッド系映画を押しのけ、韓国映画の座席占有率が8月16日現在で51.1 %と過半数越えを記録するなど好調さをキープしております。今回は私が見た夏休み映画を総ざらいしてご紹介します。

この夏一番のヒット作は、8月19日現在で観客動員数1100万人を突破した『10人の泥棒たち(도둑들)』(2012)のチェ・ドンフン監督最新作、『暗殺(암살)』(7月22日公開)でしょう。1933年の上海と京城を舞台に、日本軍の高官と彼に追随する親日派(韓国では日本に魂を売った売国奴を指す)の朝鮮人豪商を暗殺するため、朝鮮上海臨時政府から送られた3人のテロリストの物語です。しかしながら、彼らの記述は歴史には残っていません。朝鮮提督を狙った暗殺なら歴史に記述されていたのでしょうが、日本軍高官というわけで、数ある暗殺事件のひとつに埋もれてしまった感があります。しかし、このぐらいの小物(?)でないと、「本当にあったのかも」というリアリティは出ないのでしょう。
親日派のカン・イングク役を演じたイ・ギョンヨンは、これまで数々の映画で悪役を演じてきましたが「自分が演じてきた役の中で最悪」と語っています。韓国人にとって、国を裏切るというのは、演技とはいえ、何にもまして許しがたい行為なのかもしれません。

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『ベテラン』出演陣(左から)ファン・ジョンミン、ユ・アイン、チャン・ユンジュ、オ・ダルス、ユ・へジン、リュ・スンワン監督 ©Maki Tsuchida

『暗殺』を追随しているのが、『ベルリンファイル(베를린)』(2012)を大ヒットさせたリュ・スンワン監督の新作『ベテラン(베테랑)』(8月5日公開)。やりたい放題の財閥三世と彼の悪行を追うベテラン刑事の対決を描く、勧善懲悪アクションムービーに仕上がっています。大韓航空元副社長のナッツリターン事件や、昨今のロッテの重光(韓国名は辛)一族の覇権争いなど、財閥一族が引き起こした韓国国民にとっては妬みと軽蔑の対象となっている事件が続々と起こっています。映画の公開は偶然このタイミングにハマったのですが、国民の怒りを解消してくれる痛快さがヒットの要因にもなっています。
8月19日現在の観客動員数の累計は700万人を超え、このペースで行けば観客動員数1000万人越えは十分に狙えるでしょう。ファン・ジョンミンは『国際市場へようこそ(국제시장)』(2014)でも観客動員数1000万人越えを達成しており、チケットパワーの強さを誇示したといえます。
8月16日現在のボックスオフィスでは『ベテラン』が圧倒的1位でそれを『暗殺』が追う展開となっており、夏休み興行を牽引しています。

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『スリー・サマー・ナイト』出演陣(左から)キム・ドンウク、リュ・ヒョンギョン、ソン・ホジュン、イム・ウォニ、ユン・ジェムン、キム・サンジン監督 ©Maki Tsuchida

韓国映画が好調という喜ばしいニュースばかりが伝えられていますが、『スリー・サマー・ナイト(쓰리 썸마 나잇)』(7月15日公開)と『客(손님)』(7月9日公開)は早々と消えていきました。
『スリー・サマー・ナイト』は『極道修行 決着(おとしまえ)(깡패수업)』(1996)や『風林高(신라의 달밤)』(2001)などで知られるヒットメーカー、キム・サンジン監督作品。ある事件に巻き込まれてしまう3人のアラサーの男たちをコミカルに描いているのですが、残念ながらかつての輝きは色あせ、コメディセンスが今の時代にマッチしていない感じがしました。観客の感性も時代とともに変化していることもあり、スベらないコメディ映画作りも難しくなったといえます。観客総動員数は77,621人と、ロードショー作品では惨敗といえる数字を記録しました。

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『客』の主演陣(左から)リュ・スンニョン、イ・ソンミン、チョン・ウヒ、イ・ジュン ©Maki Tsuchida

『客』は、グリム童話「ハーメルンの笛吹き男」をモチーフに、1950年代韓国の地図にない村で起こったある事件を描いた異色作品です。重い心臓病の息子の治療のためにソウルを目指す笛吹き男は、地図にないある村に迷い込みます。村はネズミの被害に困っており、笛吹き男が村人のためにネズミを退治するのですが、村長は笛吹き男に取り返しのつかないひどい仕打ちをする物語です。地図にない村という『トンマッコルへようこそ(웰컴 투 동막골)』のような現実味のないファンタジー感、リュ・スンリョン、イ・ソンミン、イ・ジュン、チョン・ウヒという玄人好みの役者を揃えていたのですが、西洋の物語に違和感があったのでしょうか、公開週は順当な滑り出しだったもののすぐに失速してしまい、観客総動員は828,029人と伸び悩みました。

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『ミス・ワイフ』主演 ソン・スンホン(左)とオム・ジョンファ ©Maki Tsuchida

8月に入っても話題作の公開は続き、8月13日にはソン・スンホン、オム・ジョンファ主演の『ミスワイフ(미쓰 와이프)』、イ・ビョンホンがひさびさに韓国映画に主演した『侠女 剣の記憶(협녀, 칼의 기억)』が公開されました。
『ミスワイフ』は、敏腕弁護士ヨヌが不慮の事故で突然死。しかしながら生命管理事務所の手違いで寿命がまだまだ先であることが判明します。管理事務所の所長は手違いでひと月早く天国に送ってしまった彼女の魂を、ある女性の肉体に魂を宿し、ひと月後には元の体に戻す提案をします。選択肢のない彼女はしぶしぶ提案を受け入れるのですが、目が覚めたときは地方公務員のイケメン夫とふたりの子供をもつ女性になっていて、ひと月を耐えることになるのです。基本的には、オム・ジョンファが苦労するドタバタ喜劇なのですが、家族の大切さを訴えるメッセージが込められています。

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『侠女』の出演陣(左から)キム・ヨンミン、イ・ギョンヨン、パク・フンシク監督、チョン・ドヨン、キム・ゴウン、ぺ・スビン ©Maki Tsuchida

『侠女、剣の記憶』は総製作費120億ウォンの大作映画。高麗時代の民乱の世を背景に強い者が立身出世した時代。ある事件をきっかけに袂を分けた男女と、自分を裏切った男を殺すためだけに養女にされた娘。三人の数奇な運命を描いた武侠アクション映画で、主演はイ・ビョンホン、チョン・ドヨン、キム・ゴウンと韓国内では人気・実力を兼ね備えた役者が出演しています。しかし、武侠映画でありながらアクションの切れはいまいち。パク・フンシク監督は、チョン・ドヨンと組んだ『私にも妻がいたらいいのに(나도 아내가 있었으면 좋겠다)』(2001)、『初恋のアルバム 人魚姫のいた島(인어 공주)』(2004)などヒューマン・ドラマを得意としていますが、『侠女』では実力が十分に発揮できていないように見受けられました。もっとも、撮影から2年近い月日が経っており、イ・ビョンホンのスキャンダルの影響で劇場公開が危ぶまれていた映画。不朽の名作でもない限り、映画もある程度は鮮度が大事だという実例でしょう。

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『殺人才能』のチョン・ジェホン監督(左)と主演のキム・ボムジュン ©Maki Tsuchida

大作の影に隠れていますが、インディーズ映画にも味のある作品が登場しています。
『豊山犬(풍산개)』(2011)のチョン・ジェホン監督が発表した新作は、会社をリストラされた男の中に芽生えた殺人衝動を描いた『殺人才能(살인재능)』(7月30日公開)』。キム・ギドク作品の助監督出身らしいエログロは健在ですが、普通の観客受けする内容ではなく、興行成績は観客総動員数1,526人に留まっています。
一方、歌手イ・ジョンヒョンが自分の置かれた境遇を呪い、社会への復讐を誓うブラックコメディ映画『誠実な国のアリス(성실한 나라의 앨리스)』は、韓国映画アカデミー(KAFA)の学生たちが作った映画でありながら、全州国際映画祭韓国映画コンペ部門で作品賞を受賞するなど、高い評価を受けて8月13日から一般劇場公開されています。興行から1週間で観客動員数25,129人とインディーズ作品としては大ヒットを記録しています。 学生映画で劇場公開された例は、当時中央大学映画学科の学生だった『わるいやつら(범죄와의 전쟁 : 나쁜 놈들 전성시대)』(2012)のユン・ジョンビン監督が撮った『許されざる者たち(용서 받지 못한 자)』(2005)がありますが、本作のアン・グクジン監督もメジャーデビューするかもしれませんね。

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『誠実な国のアリス』シーン写真より 主演のイ・ジョンヒョン ©KAFA

夏休みが終わると、日本では旧盆にあたる秋夕(チュソク)連休が9月末に控えています。この時期になると映画会社各社は大作・話題作をぶつけてきます。現在までにソル・ギョング、ヨ・ジング主演の戦争映画『西部戦線(서부 전선)』、ソン・ガンホ、ユ・アイン主演の時代劇『思悼(사도)』が9月公開を控えており、こちらも要注目です。

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土田真樹の「エーガな日々」Vol.7

土田真樹の「エーガな日々」Vol.7

 

「韓国のアイドル映画今昔」

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韓国映画界で”演技ドル”の先頭を走る3人―『同窓生』のT.O.P、『海にかかる霧』のユチョン、『映画は映画だ』のイジュン ©Maki Tsuchida

日本では1970年代から80年代にかけて多くのアイドル映画が作られていました。最たるものは、田原俊彦、近藤真彦、野村義男の3人が出演する、いわゆる「たのきんトリオ」が主演した映画が、夏休みや冬休みに公開されて一世を風靡し、僕もよく映画館に出かけたものです。
一方の韓国ではいかがだったでしょうか。今回は韓国のアイドル映画の系譜をご紹介しましょう。

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元祖”演技ドル”はチョー・ヨンピルだった!?『その愛が恨となり』ポスターとシーン写真 ©泰昌興行(株)

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『ダムダディ』シーン写真 左がイ・サンウン

韓国映画界にはアイドル女優や男優は昔からいましたが、歌手が映画に出演するケースはそれほど多くありませんでした。そんな中で異彩を放っているのが、1980年代の大スターであるチョー・ヨンピル。日本では「釜山港へ帰れ」のヒットで演歌歌手として知られていますが、韓国では人気ロックスターでもありました。そんな彼が主演した映画が『その愛が恨となり(그 사랑이 한이 되어)』(1981)。田舎から出てきたチョー・ヨンピル演じる歌手志望の青年の成功と病魔に犯された女性音楽プロデューサーとの愛を描いた物語です。今や韓国歌謡界の大御所となったチョー・ヨンピルですが、当時は若手歌手。映画主演はこれ一本だけで、役者としては大成しませんでした。
能天気ともいえるアイドル映画の登場には、更に10年の時間を要します。韓国の新人歌手の登竜門といわれるMBC江辺(カンビョン)歌謡祭で1988年度のグランプリを受賞したイ・サンウン。日本ではLee-tzche名義で活動していた彼女は、デビュー曲「ダムダディ(담다디)」(1989)と同名映画で女優デビューします。演じた役が音楽の妖精と彼女自身であるイ・サンウンの一人二役。音楽の妖精が失恋した高校生に音楽の才能を与え、彼が作った歌をイ・サンウンが歌うという物語なのですが、映画そのものの評価も芳しくないようでした。


近年では最後の究極アイドル映画『花美男(イケメン)連続ボム事件』予告編(Daum Movieより)

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H.O.T.総出演のSF(!)映画『平和の時代』ポスター ©S.M. Entertainment Co., Ltd

その後もアイドル歌手を主演に迎えた映画は続々と登場します。H.O.T.を主演に迎え、銀河系を舞台に異星人とサッカーの試合を行う『平和の時代(평화의 시대)』(2000)。SUPER JUNIORのメンバーが総出演し、美少年ばかりを狙って人糞を投げつけるという『花美男(イケメン)連続ボム事件(꽃미남 연쇄 테러사건)』(2007)など、国民的アイドル歌手ありきで企画された映画も製作されましたが、映画そのものの評価がいずれも低く、多くのファンを抱えているにも関わらず、興行成績には直結しませんでした。
チ・ヒョヌや元2PMパク・ジェボムが出演し、アイドル歌手としてデビューを夢見る男性ユニットのサクセスストーリーを描いた映画『Mr.アイドル(Mr.아이돌)』(2011)も作られました。彼らが歌うのは、TUBEの「サマードリーム」をカバーしたもの。韓国のアイドルが日本の歌を歌うというユニークさもあったのですが、それほど話題にはなりませんでした。

ここまで読むとアイドルが主演する映画はダメなのかと思われるかもしれませんが、必ずしもそんなことはありません。BIGBANGのメンバーであるT.O.Pは映画に出演するとき、本名であるチェ・スンヒョンを使い『戦火の中へ(포화속으로)』(2010)、『同窓生(동창생)』(2013)、『タチャ-神の手-(타짜-신의 손)』(2014)に主演し、興行面でも成功しました。映画の成功はT.O.Pの知名度はもちろんですが、彼に合った役であり、適材適所のキャスティングだったといえます。
T.O.P以外にも演技に定評のあるアイドルが今、韓国映画に続々と出演しています。多くのテレビドラマで主演を務めたJYJのユチョンが、満を持して映画に進出した『海にかかる霧(해무)』(2014)では、密航船の船員をストイックに演じ、韓国映画評論家協会新人賞など、多くの新人賞を受賞しました。MBLAQの元メンバーのイジュンは、初主演作『俳優は俳優だ(배우는 배우다)』(2013)の中で、俳優として絶頂に昇りつめるオ・ヨンを演じ、大胆な濡れ場など、アイドルとしてのイメージを壊す役に挑戦して話題となりました。

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映画界で頑張る”演技ドル”女優編―『建築学概論』のスジ、『朝鮮美女三銃士』のガイン、『パイレーツ』のソルリ ©Maki Tsuchida

がんばっているアイドル歌手は男性だけではありません。miss Aのスジは『建築学概論(건축학 개론)』(2012)で、主人公の初恋の女性を演じ、そのピュアな魅力が話題となり映画も大ヒットしました。また、Brown Eyed Girlsのガインは『朝鮮美女三銃士(조선미녀삼총사)』(2013)でスクリーンデビューし、新たなラブコメクィーンの誕生を予感させました。f(x)のソルリにいたっては、『パイレーツ(해적 바다로 간 산적)』(2014)、『ファッション王(패션왕)』(2014)と出演作が立て続けに公開され、韓国映画界を率いる女優の一角を占めるようになりました。

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映画界でのさらなる活躍に期待!『家門の帰還:家門の栄光5』のドゥジュン、『20歳』のジュノ、『カート』のディオ ©Maki Tsuchida

アイドルが出演しているのは、上記のような娯楽映画ばかりではありません。ZE:Aのイム・シワンは映画『弁護人(변호인)』(2013)の中で学生運動によって警察に逮捕される大学生の演技が高く評価されただけでなく、アイドルが出演した映画としては韓国内で初めて観客動員数1000万人超えを達成しました。大型ショッピングマートを舞台に非正規雇用者の労働争議を描いた『カート(카트)』(2014)には、EXOのディオが、本名ト・ギョンス名義で出演しています。
これらの映画は韓国で社会告発映画と呼ばれ、ろうあ者福祉施設に入所している児童への性的虐待を描いた『トガニ 幼き瞳の告発(도가니)』(2011)の場合、モデルとなった施設に検察の再調査が入り、2012年に閉所されるなど現実社会を動かしました。アイドル歌手にとって、このような作品に出演することは、自身のキャリアにとってプラスになります。製作サイドも出演アイドルのファンである若年層へ作品をアピールすることになり、互いにとってWIN-WIN関係であるといえます。

イム・シワンの体当たりの熱演が注目された『弁護人』予告編(NEW公式より)

もちろん、このような社会派作品だけでなく、娯楽作品や家族映画的な作品にもアイドル歌手は出演しています。
結論として、韓国映画界におけるアイドルの存在は無視できない状況になっています。前述しましたが、アイドル歌手ありきの企画映画でなく、あくまで役者のひとりとしてキャスティングするようになったのはよいことでしょう。しかしながら、アイドル映画全盛時代の日本で育った筆者としては、韓国の今のアイドルによる能天気ともいえる企画映画を見てみたい気もします。韓国映画が今後も更なる多様性を持つには、そのような映画を当てるノウハウを積み重ねる努力も必要ではないでしょうか。

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さいきいずみの「韓劇日誌」Vol.6

さいきいずみの「韓劇日誌」Vol.6

 

「イ・ジェフン映画『番人』GVに4年ぶりに登壇!」

psk1久々のコラム更新は映画ネタです。
映画『建築学概論』やドラマ『秘密の扉』の主演で知られるイ・ジェフンさんが、彼の出世作となった映画『番人(파수꾼/Bleak Night)』(⇒公式ブログ)の上映会でGVに立つというので、6月6日に見に行って来ました。

映画『番人』予告編映像(Daum Movieより)

映画『番人』は、2010年の釜山映画祭でプレミア上映され、翌2011年に劇場公開されました。日本では福岡のアジアフォーカスで上映されたのみかと思うのですが、公開当時韓国の劇場で見たときの衝撃といったら……近年見た韓国インディーズ映画のなかでは、例えばヤン・イクチュン監督・主演の『息もできない(똥파리)』を見たときのインパクトに並ぶほど、個人的ベスト5に入る素晴らしい作品でした。日本で劇場公開されていないのがとても残念な作品のひとつです。

高校生の息子ギテが突然の自殺。その理由が分からず苦悩している父親が、息子のクラスメイトたちひとりひとりに、手がかりを探るべく話を聞いていくのですが、そのなかに過去のギテたちの様子をフラッシュバックさせて織り込みながら、答えを紐解いていきます。派手な展開があるわけではないものの、劇中のギテのようにジリジリと追い詰められていくような緊迫感で胸が締め付けられるよう……観終わった後で、心の中にズシリとした何かが残る作品でした。DVDが韓国でリリースされているようですので、もし見つけたらぜひ入手して見てほしいです。

psk2イ・ジェフンさんは本作で大鐘賞、青龍賞の2大映画賞で新人男優賞を受賞し、まさしく映画界期待の新星となったのはその後の活躍を見ても分かる通り。しかし、この作品で注目されたのは彼だけではありません。ギテの父役、チョ・ソンハさんはは長年ドラマや映画の助演俳優としておなじみですが、数々のインディーズ映画にも出演してきた方。なかでも本作は大きな飛躍のきっかけになったと思います。昨年ソンハさんはドラマ『ワン家の家族たち』で“花中年”と呼ばれて大人気となり、ミュージカル『プリシラ』にも挑戦して話題を呼びましたよね。
ギテのクラスメイト役にはドラマ『魔王』や映画など数々の作品で子役時代から安定した演技を誇るソ・ジュニョンさんと、演劇『キサラギミキちゃん』の初代スネーク役や、ドラマ『君たちは包囲された』にも出演していたパク・ジョンミンさんなどなど。主要キャラを演じていた俳優はみな現在まで着実にキャリアを積んでいます。

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ユン・ソンヒョン監督、俳優になってもいいくらいのイケメンでした

『番人』を上映した「INDIE SPACE」(⇒公式サイトは、もともと明洞に劇場があったそうですが、その後光化門の元ミロスペースという劇場で運営していたアートシアターです。そして今回、鍾路3街の老舗劇場「ソウル劇場」内に移転オープンとなり、6月5日~7日まで「Indie’s Face」と題してこけら落としイベントが実施されました。
その目玉となったのが今回のイ・ジェフンさんとユン・ソンヒョン監督参加による『番人』上映だったのですが、な、な、なんと、上映開始20分くらいでブチッと映像が切れ、電気系統のトラブルで上映不可となり、結局映画は見ることができずじまいでした(苦笑)。
その後、劇場に駆けつけた2人によりGVのみが行われるという異例の事態になったのですが、災い転じて…というわけでGVは約1時間にわたり行われました。

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劇場が暗く、座席も遠かったため写真がイマイチですがお許しを

 

劇場は若い女の子ファンで埋め尽くされていたのですが、質問ひとつひとつに真摯に答えていたイ・ジェフンさん。
この作品は彼にとって原点のような、「初心に返れる作品」だと言っていました。しかし、監督との仲は「今は良好です(笑)」と言っていましたが、撮影中は役柄のせいもあってか、なかなか大変な作業だったようです。
こういうインディーズ映画にまた出る気はないかという質問には「良い作品があれば出演したい」というジェフンさんに対し、監督が「ジェフンさんが出ると決まった時点で、投資がつくので独立映画ではなくなるだろう」(確かに)とシビアな意見も言っていました。長編デビューとなった本作で一躍若手監督の旗手となったユン監督ですが、年内クランクインを目標に長編2作目を準備中とのこと。新作、楽しみに待ちたいと思います。

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「INDIE SPACE」の入口前。一部はまだ工事中のところも。チケットブースはソウル劇場の上映作とは別になっているので要注意

イ・ジェフンさんはかつて「INDIE SPACE」の広報大使を務めていたそうで、その義理もあり今回登壇してくれたと思うのですが、肝心の映画上映が出来なかったのは残念でした。(後日再上映をするそうです)。以前にも一度、別のアートシアターで機材トラブルにより映画が見れないというのを経験したことがあったのですが、ソウル劇場は建物や施設自体も古いので、今後の上映にも支障がないといいなと思います。それにしてもお客さんたち、みな辛抱強く待っていて、よく怒らないなと思いましたが(笑) それもイ・ジェフンさんのお蔭だったかなと。

[PLAY]秀作演劇を映画館で!『惠慶宮 洪氏』6月4日公開

[PLAY]秀作演劇を映画館で!『惠慶宮 洪氏』6月4日公開

 

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『恵慶宮洪氏』2014年公演より 恵慶宮役のキム・ソヒ(左)と正祖役のイ・ギドン

舞台作品を映画館で堪能できる、韓国では初の試みとなる「DnC Live(Drama & Cinema Live)」の第1弾作品として、演戯団コリペのイ・ユンテク演出、キム・ソヒ主演の『惠慶宮 洪氏(ヘギョングンホンシ)』が6月4日から上映される。
『惠慶宮 洪氏』は、国立劇団の制作で2013年に初演された作品。父である朝鮮王朝21代王・英祖(ヨンジョ)の怒りを買い、米びつに閉じ込められ死去した逸話で有名な思悼世子(サドセジャ)の妻。のちにドラマ『イ・サン』の主人公となった正祖(チョンジョ)の母となる人物の物語だ。
⇒韓劇.com 2014年公演紹介記事

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『恵慶宮洪氏』2014年公演より 恵慶宮役のキム・ソヒ(左)と思悼世子役のペク・ソッグァン

母、惠慶宮 洪氏が還暦を迎えるにあたり、正祖は新たに建築した「華城行宮」で祝賀式典を開く。そこで正祖は父・思悼世子の称号を“荘献”として追尊し、名誉回復させるが、その夜、思悼世子の霊が惠慶宮のもとに現れる……。
物語は、婚姻に至るまでの若年期から、父王の権威に屈して放蕩の限りを尽くす世子と惠慶宮の苦悩など、過去の回想を織り交ぜながら惠慶宮の劇的な半生が描かれていく。なかでも惠慶宮の少女期から老後までをひとりで演じこなす、主演キム・ソヒの演技に圧倒される作品だ。
ステレオタイプな王室の人間模様というよりも、登場人物それぞれの人間臭いエピソードを交えながらエンターテイメント性高く仕上げてあり、スクリーンでも十分に観客を引き込むだけの見ごたえある作品となるはずだ。

日本では「ゲキ×シネ」「シネマ歌舞伎」など、舞台作品を映像化して映画館で鑑賞することはもはや常識となっているが、韓国ではまだ舞台は“生で観るもの”という認識が強い。よってテレビの劇場中継などの映像アーカイヴ化や、DVDとして商品化されることもほぼ皆無の状態だ。
だが、近年は国立劇場で上映されたNTLive(英国ナショナルシアター作品の映像上演)が、爆発的人気を博して数千席が完売する作品も出るなど、作品力さえあれば集客できる手ごたえを得ている。また、大型シネコンが飽和状態の韓国では、映画館の多角的利用への道は急務。今後はこのような舞台作品の映像化や、コンサートやイベントのライブビューイング的上映も増えていきそうだ。

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『恵慶宮洪氏』2014年公演より 側近に捕えられ米びつに閉じ込められる思悼世子役のペク・ソッグァン

公開劇場情報は、DnC Liveの公式Facebookなどを通じて今後公開予定。
なお、演劇『惠慶宮 洪氏』は、今年も12月12日~27日に国立劇場タルオルム劇場で再演される。チケットはインターパークで絶賛発売中だ。


【映画情報】
DnC Live『惠慶宮 洪氏』(혜경궁 홍씨)
6月4日公開
監督:チャン・ドンフン(『となりの男』『クリスマスに雪が降れば』)
作・演出:イ・ユンテク(演戯団コリペ)
出演:ユン・ヨソン、キム・ソヒ、チョン・テファ、パク・ヒョンスク、ファン・ソクジョン、イ・サンホンほか

●公式Facebook⇒ https://www.facebook.com/dnclivekorea

<トレイラー映像>

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土田真樹の「エーガな日々」Vol.5 

土田真樹の「エーガな日々」Vol.5 

 

「釜山国際映画祭の葛藤」-独立性と行政の狭間で-

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昨年の釜山国際映画祭レッドカーペットの模様 ©Maki Tsuchida

年も変わって世間が落ち着きを取り戻した1月23日、韓国映画界に激震が走りました。
釜山市による行政監査の結果、釜山国際映画祭の予算の使い方や運営に不備があるとして、イ・ヨングァン実行委員長に対して辞任勧告が出されました。事実上の更迭です。これに対して韓国の映画関係者は「映画人非常対策委員会(영화인비상대책위원회)」を立ち上げ、イ・ヨングァン委員長支持の立場を表明しました。これまでも釜山市による監査は毎年行われてきましたが、なぜ今になって問題が指摘されたのでしょうか。この事は行政の釜山国際映画祭に対する干渉、すなわち映画祭の独立性維持に関わっているのです。

事の始まりは、昨年開催された第19回釜山国際映画祭に遡ります。
釜山国際映画祭は、セウォル号沈没事件における救助活動の不条理を追ったドキュメンタリー映画『ダイビングベル(다이빙벨)』の上映を決めました。しかしながら、政治的中立性に欠けるとして、当時の釜山市長は映画祭に対して上映差し止め要求を出しました。しかしながら、映画祭側はこれに応じず予定通り上映を行いました。
映画そのものは、ショッキングと呼べるような内容ではなく、多くの上映作品の内の一本として上映されたのですが、市長の要求を拒否したことから、釜山市と釜山国際映画祭との間でトラブルの火種は燻り始めていたのでした。

映画『ダイビングベル』予告映像(YouTube公式チャンネルより)

そして、1月23日に釜山市がイ・ヨングァン委員長に出したのが引責辞任勧告。映画祭として再生するためには新たなパラダイムが必要だというわけで、第1回釜山国際映画祭から関わってきたイ・ヨングァン実行委員長の既定路線を否定するものでした。
釜山国際映画祭は、今年で20回目を迎えます。僕は第1回から毎年釜山国際映画祭に訪れており、映画祭としての試行錯誤を見届けてきました。回を重ねていくごとに混沌とした面白みが削がれてきた寂しさはありますが、映画祭としては形を整え、今や東アジアを代表する映画祭になったと思います。
釜山市が要求する新たなパラダイム作りは、マンネリ化を防止するために必要かもしれませんが、既定路線が映画祭の運営を大きく損なったとは考えられません。
今回の辞任勧告は韓国映画界だけにとどまらず、ベルリン国際映画祭やロッテルダム国際映画祭の実行委員長らも遺憾の意を表し、世界の映画祭へと飛び火し、拡散を続けています。

しかしながら、イ・ヨングァン委員長を擁護し支持するという韓国映画界の総意が固まりかけた頃、釜山市は釜山国際映画祭の実行委員長を2人体制にすると、2月17日に電撃発表しました。韓国映画界には、「イ・ヨングァン委員長が保身のために釜山市の提案を受け入れたのでは?」という疑心暗鬼が走りました。
そしてイ・ヨングァン委員長が出席して韓国映画界の有識者から釜山国際映画祭としての新たなパラダイムを模索する公聴会が3月10日にソウルプレスセンターで行われることになりました。

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公聴会出席者(写真左から)イム・グォンテク監督、パク・チャヌク監督、イ・ヨングァン実行委員長 ©Maki Tsuchida

公聴会には、イム・グォンテク監督、パク・チャヌク監督、クァク・ヨンス氏(インディーストーリー代表)、シム・ジェミョン氏(ミョンフィルム代表)、ミン・ビョンロク氏(東国大学教授)が出席して行われたのですが、公聴会は重苦しい雰囲気に包まれることとなりました。
公聴会に先立ち、イ・ヨングァン委員長から「実行委員長2人体制を映画界の皆さんに相談なく応じたことをまずは謝罪します。新しい委員長は映画界から信任を得られる人物とし、私は1~2年後に委員長職を退く所存です」と電撃発表。新しいパラダイムどころか、出席者は一様にイ・ヨングァン委員長を慰留するのに必死で公聴会どころではありません。
詳細は割愛しますが、イ・ヨングァン委員長辞任を受け入れることは、映画祭としてだけでなく韓国映画界全体が芸術としての軸を揺るがされることになります。出席者の中からは、「釜山市の助成金なしで開催しろ」、「(去年、ソウルから釜山に移転した)KOFICをソウルに戻せ」という意見も出ましたが、公聴会そのものは平行線をたどり、結論が出ないまま終りました。

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「釜山国際映画祭 未来のビジョンと刷新案を用意するための公聴会」の様子 ©Maki Tsuchida

イ・ヨングァンさんは元々中央大学映画学科の教授。釜山国際映画祭の業務に集中するため教授職を辞し、居を釜山に移すほど、釜山国際映画祭に取り組んできたことは確かです。しかし、実行委員長職慰留は、恐らくかなうことはないでしょう。それほどまでに彼の意志は固いといえます。
さて、こうなってくると得する人は誰でしょうか? 委員長が変わるということは、ブレーンとなるスタッフの入れ替えもあります。となると、空いたポストには釜山市サイドの意向を反映した人材が配置される可能性も否定できません。
韓国を代表を全州国際映画祭、プチョン国際ファンタスティック映画祭においても、行政や映画祭後援会の意向に沿った人材を採用したため、御用映画祭に転落した感も正直あります。
釜山国際映画祭にとっては20回目の節目となる2015年。華やかなイベントが催されるでしょうか、実を伴わない虚構に魅力は感じられないでしょう。

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土田真樹の「エーガな日々」Vol.4

土田真樹の「エーガな日々」Vol.4

 

「2014年韓国映画総括&2015年の期待作は?」

新年の挨拶が遅くなってしまいましたが、今年もよろしくお願い致します。久々のコラム更新は2014年を振り返ると同時に2015年に向けての展望を占ってみようと思います。

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李舜臣(イ・スンシン)将軍を演じたチェ・ミンシク(写真左)、来島通総(くるしまみちふさ)役のリュ・スンニョン  <『鳴梁』プレス試写会より>©Maki Tsuchida

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主要キャストが勢ぞろい!『鳴梁』プレス試写会より ©Maki Tsuchida

2014年の韓国映画界における最大イシュー(話題)は、やはり慶長の役における豊臣水軍と朝鮮水軍の海戦を描いた『鳴梁(명량 ミョンリャン)』の大ヒットだったでしょう。それまで韓国映画界最大のヒット作は観客動員数約1300万人を動員した『グエムル 漢江の怪物』だったのですが、『鳴梁』は、更に400万人以上を上回る1700万人以上の観客動員数を記録しました。朝鮮軍が豊臣軍を破った史実を描いているのですが、細部や歴史解釈に関する部分は日本のモノとは違っており、日本から見ると国辱映画となるかもしれませんが、ともあれ韓国では大ヒットとなりました。
日本の大河ドラマにおける明治維新や戦国時代の武将のように、これまで何度も映像化されてきた物語なのですが、様々な登場人物の人間模様を描いて、感情移入しやすいキャラクターを散りばめたこと。そして上映時間の半分を占める迫力ある海戦シーンなど、確かに見どころはたくさんあったのですが、最大のカタルシスは、日本に勝つという爽快さではなかったでしょうか。キム・ハンミン監督は前作『神弓-KAMIYUMI-(原題:최종병기 활)』(2011年)で、満州族の清軍との戦いを描いて観客動員数800万人を超える大ヒットを記録しており、ナショナリズムを刺激するエンターテイメント作りがお得意なのかもしれません。

一方、このような大作の影に隠れている感もありますが、韓国インディーズの躍進も見逃せません。特筆すべきは、大手の配給会社がインディーズ映画に投資・配給を行うようになったことは、インディーズ映画界にとって新たな配給モデルとなりました。中でも、最も話題となったのは、『ハン・ゴンジュ 17歳の涙(原題:한공주)』に主演して、第35回青龍映画賞で主演女優賞も受賞したチョン・ウヒの発見ではないでしょうか。チョン・ウヒは1987年生まれ。女優としては遅咲きと言えるでしょうが、今年はファン・ジョンミンと共演する『哭声(곡성)』(仮題)などへの主演が決まっており、第2のムン・ソリになるのでは? と、私が注目している女優です。

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青龍映画賞で4冠を達成!『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』のポスターと主演のチョン・ウヒ ©Maki Tsuchida

2014年の公開作の中には、韓流スターが出演しているにもかかわらず、興行面で惨敗する作品も目立ちました。ソン・スンホンが不貞の夫を演じた『情愛中毒(原題:인간중독)』は、露出シーンが話題になりましたが、観客動員数には直結しませんでした。ソン・へギョ、カン・ドンウォンと、2大韓流スター主演の『ドキドキ私の人生(두근두근 내 인생)』もしかり。興行失敗の最大の原因といえるのが、映画で最も大事な要素であるキャラクターに共感できないことでした。
一方、2014年に観客動員数1000万人を超えた映画の主人公は、『弁護人(변호인)』(※公開は2013年12月)ソン・ガンホ、『鳴梁』はチェ・ミンシク、12月に公開し、2月現在もまだロングラン上映している『国際市場で逢いましょう(原題:국제시장)』はファン・ジョンミンと、いわゆる韓流スターではなく、演劇畑出身の実力派中堅俳優であることがわかります。それと同時に観客層にも変化がありました。これまでの映画館の観客は若い人が中心だったのですが、これらの作品は明らかに中高年が多いのです。
韓国では2014年のトレンドが映画のみならず、様々な分野で復古風(복고풍 ポッコプン)という言葉で表現されるレトロ感覚が幅をきかせていました。この流れは2015年も続いており、ユ・ハ監督の“街(거리)3部作”の最終章となるイ・ミンホ主演の『江南1970(강남 1970)』、1960~70年代にフォークブームの拠点となった音楽喫茶を舞台にした『セ・シ・ボン』など、1960年代、70年代を時代背景にした作品が劇場公開され、興行面でも成功を収めています。

서부전선

『ブラザーフッド』『シルミド』などを超える大ヒット作となるか!? ソル・ギョング&ヨ・ジング主演『西部戦線』

ところで、2015年は復古風だけではなく、多様な映画がラインナップしています。
朝鮮時代を背景にした映画では、イ・ビョンホン、チョン・ドヨン主演の『侠女、刀の記憶(협녀, 칼의 기억)』。義兄弟の絆を裏切った男とそれを許さない女が、時を経て対峙するストーリーで、劇中では舞うような剣アクションを見せてくれることでしょう。一方、リュ・スン二ョン、ペ・スジ(miss A)、ソン・セビョク、キム・ナムギル出演の『桃李花歌(도리화가)』は朝鮮時代に実存したパンソリの名手、シン・ジェヒョの愛の物語を描いた作品で、こちらも見逃せません。
愛の物語といえば、主演のチョン・ウソンが制作も手掛け、キム・ハヌルと豪華共演を果たした『私を忘れないで(나를 잊지 말아요)』は、事故で記憶を失った男が、自分の過去を思い出せないまま新しい恋に落ち、消えていた10年間の記憶を埋めていくというストーリーです。
他にも1953年6月25日の朝鮮戦争を背景に南北の兵士が孤軍奮闘する、ソル・ギョング、ヨ・ジング主演の『西部戦線(서부전선)』や、リュ・スンワン監督が『国際市場』で再ブレーク中のファン・ジョンミンと『生き残るための3つの取引(原題:부당거래)』以来、約4年ぶりにタッグを組んだ『ベテラン(베테랑)』は、ベテラン刑事の活躍を描くアクションノワールです。
2015年も魅力的な作品が劇場公開を控え、韓国映画から目が離せない年になりそうです。

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[PLAY]名優を多数輩出!劇団木花 30周年記念公演『白馬江の月夜に』上演

 

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若いムーダン、ヨンドク役を演じるパク・ヒスン 2014年公演稽古風景

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老ムーダン(チョン・ヨンジュ)と若いムーダン(パク・ヒスン)

韓国演劇界を代表する劇作家・演出家のオ・テソク率いる木花(モッカ)レパートリーカンパニー(以下、劇団木花)が今年で創立30周年を迎えて記念公演を連続上演中。1月の『自転車』、3月の『テンペスト』に続く記念公演第3弾、『白馬江の月夜に』(백마강 달밤에)を6月20日から上演する。

劇団木花は、60年代から劇作家として活動を始め、韓国現代演劇を長年にわたり牽引してきた代表オ・テソクが1984年に創立。仮面劇タルチュム(탈춤)やパンソリ(판소리)、国楽や農楽など韓国の伝統芸能をベースにしながら、極めてモダンかつスタイリッシュなステージングで唯一無二の作品世界を築いている劇団だ。日本の演劇界とは80年代から交流を続けており、数々の作品を日本で上演している。

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20周年公演に出演したファン・ジョンミン(前列)

また、韓国映画やドラマで活躍する名優を多数輩出したことでも知られ、キム・ウンス、キム・ビョンオク、キム・チョンジュン、ソン・ビョンホ、ソン・ジル、イム・ウォニ、ユ・へジン、チャン・ヨンナム、チョン・ウンピョ、パク・ヒスン、パク・ヨンギュ、ファン・ジョンミン……と木花出身俳優は枚挙にいとまがないほどだ。

30周年記念公演に上げる『白馬江の月夜に』は、1993年に芸術の殿堂の開館記念として初演された作品。白馬江(ペクマガン)とは660年、百済が新羅と唐の連合軍に責められ、最後の激戦地となった忠清南道(チュンチョンナムド)を流れる川、錦江(クムガン)の別称で、河岸の町、仙岩里(ソンアムリ)で行われている百済人の鎮魂と村の平安と豊作を祈願する祭、恩山別神祭(ウンサンビョルシンチェ 은산별신제)をベースにした物語だ。祭を前にある事件が起こったことで右往左往する村の住民たちの姿がコミカルに綴られ、韓国の土俗的な祭には欠かせないムーダン(巫女)を介して、過去と現代を行き来するストーリーというのもユニークだ。

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20周年公演でも義慈王を演じたソン・ビョンホ

2004年の20周年にも上演されたという本作。今年の目玉は、木花出身俳優であるソン・ビョンホ、ソン・ジル、パク・ヒスンの出演だろう。出演当時、その演技を絶賛されたというソン・ジルが老婆のムーダンを、対する若い男性のムーダンをパク・ヒスンが演じる。そして百済最後の王、義慈王(ウィジャワン)をソン・ビョンホが演じるという豪華な顔ぶれだ。(注:この3役はすべてダブルキャスト)
現在は映画界を中心に活躍する彼らが、俳優としての原点に還り、木花の舞台に立つ姿を見られる貴重な公演になりそうだ。

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30周年公演キャスト 冥途の使者:チョン・ジンガク/義慈王:ソン・ビョンホ、ソン・ヨングァン/ヨンドク(若いムーダン):パク・ヒスン、チョン・スヒョン

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老婆のムーダン:ソン・ジル、チョン・ヨンジュ/グパル:イ・ウォンスン/クンヒ:キム・ハンギル/ウン・チョンテク:チョン・ウニョン

2.백마강포스터■公演情報■
演劇『白馬江の月夜に』
6月20日(木)~7月6日(日) 南山芸術センター・ドラマセンター
作・演出:オ・テソク、イ・スンべ、チョン・ジュヒョン、ユン・ミニョン、イ・スンヨル、イム・ミンジ、ユ・ジェヨン、チョン・スンモク、チョ・ウォンジュン、イ・ジュニョン、キム・ボラ、キム・ボンヒョン、ペ・ゴンイル、チョ・テイル

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