土田真樹の「エーガな日々」Vol.7

 

「韓国のアイドル映画今昔」

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韓国映画界で”演技ドル”の先頭を走る3人―『同窓生』のT.O.P、『海にかかる霧』のユチョン、『映画は映画だ』のイジュン ©Maki Tsuchida

日本では1970年代から80年代にかけて多くのアイドル映画が作られていました。最たるものは、田原俊彦、近藤真彦、野村義男の3人が出演する、いわゆる「たのきんトリオ」が主演した映画が、夏休みや冬休みに公開されて一世を風靡し、僕もよく映画館に出かけたものです。
一方の韓国ではいかがだったでしょうか。今回は韓国のアイドル映画の系譜をご紹介しましょう。

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元祖”演技ドル”はチョー・ヨンピルだった!?『その愛が恨となり』ポスターとシーン写真 ©泰昌興行(株)
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『ダムダディ』シーン写真 左がイ・サンウン

韓国映画界にはアイドル女優や男優は昔からいましたが、歌手が映画に出演するケースはそれほど多くありませんでした。そんな中で異彩を放っているのが、1980年代の大スターであるチョー・ヨンピル。日本では「釜山港へ帰れ」のヒットで演歌歌手として知られていますが、韓国では人気ロックスターでもありました。そんな彼が主演した映画が『その愛が恨となり(그 사랑이 한이 되어)』(1981)。田舎から出てきたチョー・ヨンピル演じる歌手志望の青年の成功と病魔に犯された女性音楽プロデューサーとの愛を描いた物語です。今や韓国歌謡界の大御所となったチョー・ヨンピルですが、当時は若手歌手。映画主演はこれ一本だけで、役者としては大成しませんでした。
能天気ともいえるアイドル映画の登場には、更に10年の時間を要します。韓国の新人歌手の登竜門といわれるMBC江辺(カンビョン)歌謡祭で1988年度のグランプリを受賞したイ・サンウン。日本ではLee-tzche名義で活動していた彼女は、デビュー曲「ダムダディ(담다디)」(1989)と同名映画で女優デビューします。演じた役が音楽の妖精と彼女自身であるイ・サンウンの一人二役。音楽の妖精が失恋した高校生に音楽の才能を与え、彼が作った歌をイ・サンウンが歌うという物語なのですが、映画そのものの評価も芳しくないようでした。


近年では最後の究極アイドル映画『花美男(イケメン)連続ボム事件』予告編(Daum Movieより)

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H.O.T.総出演のSF(!)映画『平和の時代』ポスター ©S.M. Entertainment Co., Ltd

その後もアイドル歌手を主演に迎えた映画は続々と登場します。H.O.T.を主演に迎え、銀河系を舞台に異星人とサッカーの試合を行う『平和の時代(평화의 시대)』(2000)。SUPER JUNIORのメンバーが総出演し、美少年ばかりを狙って人糞を投げつけるという『花美男(イケメン)連続ボム事件(꽃미남 연쇄 테러사건)』(2007)など、国民的アイドル歌手ありきで企画された映画も製作されましたが、映画そのものの評価がいずれも低く、多くのファンを抱えているにも関わらず、興行成績には直結しませんでした。
チ・ヒョヌや元2PMパク・ジェボムが出演し、アイドル歌手としてデビューを夢見る男性ユニットのサクセスストーリーを描いた映画『Mr.アイドル(Mr.아이돌)』(2011)も作られました。彼らが歌うのは、TUBEの「サマードリーム」をカバーしたもの。韓国のアイドルが日本の歌を歌うというユニークさもあったのですが、それほど話題にはなりませんでした。

ここまで読むとアイドルが主演する映画はダメなのかと思われるかもしれませんが、必ずしもそんなことはありません。BIGBANGのメンバーであるT.O.Pは映画に出演するとき、本名であるチェ・スンヒョンを使い『戦火の中へ(포화속으로)』(2010)、『同窓生(동창생)』(2013)、『タチャ-神の手-(타짜-신의 손)』(2014)に主演し、興行面でも成功しました。映画の成功はT.O.Pの知名度はもちろんですが、彼に合った役であり、適材適所のキャスティングだったといえます。
T.O.P以外にも演技に定評のあるアイドルが今、韓国映画に続々と出演しています。多くのテレビドラマで主演を務めたJYJのユチョンが、満を持して映画に進出した『海にかかる霧(해무)』(2014)では、密航船の船員をストイックに演じ、韓国映画評論家協会新人賞など、多くの新人賞を受賞しました。MBLAQの元メンバーのイジュンは、初主演作『俳優は俳優だ(배우는 배우다)』(2013)の中で、俳優として絶頂に昇りつめるオ・ヨンを演じ、大胆な濡れ場など、アイドルとしてのイメージを壊す役に挑戦して話題となりました。

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映画界で頑張る”演技ドル”女優編―『建築学概論』のスジ、『朝鮮美女三銃士』のガイン、『パイレーツ』のソルリ ©Maki Tsuchida

がんばっているアイドル歌手は男性だけではありません。miss Aのスジは『建築学概論(건축학 개론)』(2012)で、主人公の初恋の女性を演じ、そのピュアな魅力が話題となり映画も大ヒットしました。また、Brown Eyed Girlsのガインは『朝鮮美女三銃士(조선미녀삼총사)』(2013)でスクリーンデビューし、新たなラブコメクィーンの誕生を予感させました。f(x)のソルリにいたっては、『パイレーツ(해적 바다로 간 산적)』(2014)、『ファッション王(패션왕)』(2014)と出演作が立て続けに公開され、韓国映画界を率いる女優の一角を占めるようになりました。

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映画界でのさらなる活躍に期待!『家門の帰還:家門の栄光5』のドゥジュン、『20歳』のジュノ、『カート』のディオ ©Maki Tsuchida

アイドルが出演しているのは、上記のような娯楽映画ばかりではありません。ZE:Aのイム・シワンは映画『弁護人(변호인)』(2013)の中で学生運動によって警察に逮捕される大学生の演技が高く評価されただけでなく、アイドルが出演した映画としては韓国内で初めて観客動員数1000万人超えを達成しました。大型ショッピングマートを舞台に非正規雇用者の労働争議を描いた『カート(카트)』(2014)には、EXOのディオが、本名ト・ギョンス名義で出演しています。
これらの映画は韓国で社会告発映画と呼ばれ、ろうあ者福祉施設に入所している児童への性的虐待を描いた『トガニ 幼き瞳の告発(도가니)』(2011)の場合、モデルとなった施設に検察の再調査が入り、2012年に閉所されるなど現実社会を動かしました。アイドル歌手にとって、このような作品に出演することは、自身のキャリアにとってプラスになります。製作サイドも出演アイドルのファンである若年層へ作品をアピールすることになり、互いにとってWIN-WIN関係であるといえます。

イム・シワンの体当たりの熱演が注目された『弁護人』予告編(NEW公式より)

もちろん、このような社会派作品だけでなく、娯楽作品や家族映画的な作品にもアイドル歌手は出演しています。
結論として、韓国映画界におけるアイドルの存在は無視できない状況になっています。前述しましたが、アイドル歌手ありきの企画映画でなく、あくまで役者のひとりとしてキャスティングするようになったのはよいことでしょう。しかしながら、アイドル映画全盛時代の日本で育った筆者としては、韓国の今のアイドルによる能天気ともいえる企画映画を見てみたい気もします。韓国映画が今後も更なる多様性を持つには、そのような映画を当てるノウハウを積み重ねる努力も必要ではないでしょうか。

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