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[Special Interview]イ・デヨン【後編】

[Special Interview]イ・デヨン【後編】

イ・デヨンさんをはじめ、彼と同世代の演劇出身俳優たちの多くは、80年代末から90年代以降の韓国舞台シーンを席巻した名優たちです。確かな演技力と存在感で、映像界でも確固たる地位を築いている理由が、デヨンさんのお話しからも伝わってくると思います。

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演劇『私に会いに来て』20周年記念公演ではキム班長を演じた(2016年)プレスコールより

●初舞台以降、本当にいろんな作品に出演されましたがデヨンさんの出演作を調べると、ドラマと映画だけでも100本くらいはありました。
「データが出てないものもありますからね。映画が40~50本くらい? ドラマが70作くらいかな。演劇も同じくらいあると思います。でも数が多いだけですね(笑)」

●膨大な数の中で今も記憶に残っているのはどんな作品ですか?
「そうですね……演劇だと『私に会いに来て(날 보러와요)』※7、それと『アート(아트)』※8 という作品も忘れられないですね」

●個人的にデヨンさんの芝居を大学路で初めて見たのが『アート』でした。めちゃくちゃ面白かったです!
「そうでしたか。『アート』は本当に面白かったでしょう? クォン・ヘヒョ、チョ・ヒボンとの息もピッタリで。面白かったことも印象深いけど、もう一つは普段の僕イ・デヨンと、劇中の役ドクスとのキャラクターがあまりにも似ていたので、俳優として人物を作り出すのに大して悩みもせずとも答えが出たような作品でした。 賞までもらえたのでさらに記憶に残る作品です」(05年『アート』で第41回東亜演劇賞男性演技賞を受賞)

※注7 『私に会いに来て』 韓国の代表的な未解決事件として知られる「華城(ファソン)連続殺人事件」を題材に、劇団「演友(ヨヌ)舞台(연우무대)」創立メンバーだったキム・グァンリムが1996年に発表した戯曲。連続猟奇殺人を捜査する捜査本部を舞台に、犯人に振り回される刑事たちと、彼らをめぐる人間模様がリアルかつコミカルに描かれる。ポン・ジュノ監督はこの作品をもとに名作映画『殺人の追憶』を創り上げた。
※注8 『アート』 原作戯曲はフランスのヤスミナ・レザが1994年に発表したブラックコメディ。長年の親友関係にある男3人のうちの一人が、キャンバスに白一色の絵画を高額で購入したことで、その絵の価値をめぐって論戦を繰り広げ、3人が長年抱えていた本音が露になっていく。

演劇『私に会いに来て』20周年記念公演プレスコールより (写真左からクォン・ヘヒョ、ユ・ヨンス、キム・レハ、イ・デヨン)

●そして『私に会いに来て』は昨年20周年記念公演もありましたが、この作品でもデヨンさんは捜査チームの班長役でした(笑)
「記念公演も見ましたか。実は初演の時はキム班長役じゃなかったんですよ。他の作品に出演していて最初から稽古に参加できなかったんです。結局、演じる予定だった容疑者役をユ・テホ兄さんがやることになり、私は容疑者の友人として少しだけ登場する役を演じました。でもそれで百想芸術大賞演劇部門の新人賞を受賞したんです。チャ・ボムソク先生※9 が審査委員でしたが、“確かにあの役を上手く演っていたけど、いや、なんで5分しか出てこない役なのに”とおっしゃって(笑)。当時演劇界の新人賞は飛行機のマイレージのような感じで、ある程度いいね、という作品が4、5個貯まるといい俳優だからと新人賞が与えられるという慣行が以前はあったんです」

※注9 チャ・ボムソク(차범석)戦後の韓国演劇を率いた劇作家、演出家の一人。2006年、82歳で没。

●てっきり百想芸術大賞の新人賞は、班長役で受賞されたと思っていました(笑)
「その時は容疑者の友達役でした。周りのみんなにも“どうやったら5分出ただけで新人賞がもらえるんだ”と冷やかされたりもしました(笑)」

演劇『私に会いに来て』20周年記念公演プレスコールより(2016年)

●これまで所属されていた劇団について教えていただけますか?
「私が最初に劇団に所属したのは『シンシ』という、故キム・サンヨル先生が創られた劇団でした。創立公演だった『エニケーン(애니깽)』という作品を見て“わぁ、この劇団に入りたい!”と思ったのですが、新人は採用していないと入団できなかったんです。その後、ある音楽劇をシンシと合同公演をやることになり、キム先生にお会いできたんです。先生は噂に聞いていたとおり演劇を始めたばかりの者からすれば学ぶことがとても多い方でした。その公演が終わるころに、いまはシンシカンパニーの代表で、当時は企画室長だったパク・ミョンソンさんに“君、劇団に入らない?”と声をかけられて“僕は元々入りたかったんですよ!”と、即入団しました。時々俳優は他の人の芝居を見ていると、時々“あ、あの役は自分のものだ”と思うときがあります。『エニケーン』を見ていたときがそうで、主人公はキム・ガプス兄さんらが演じた平民たちでしたが、私はチェ・ジョンウ兄さんが演じていた高宗(朝鮮末期26代王)を自分が上手くできそうだと思っていたんです。ところが、突然ジョンウ兄さんが出演できなくなり私にチャンスが回ってきて、入団したての新入に大役を任せられてとても気分が良かったですね。入りたかった劇団で、演じたかった役もできて……それから4、5年活動したんですが、だんだんと劇団がお金になるライセンスミュージカルを制作するようになって。そこに、外部公演の出演オファーが来たので、キム先生に許可を得て一つ、また一つと出るようになったんです」

●近年は現在所属していらっしゃる劇団「チャイム」※10 のイ・サンウ先生の作品への出演が多いですよね。
「外部公演に出るようになってから劇団『演友(ヨヌ)舞台』に出るようになったのですが、イ・サンウ先生も演友舞台出身なんです。劇団『漢陽(ハニャン)レパートリー(한양레퍼토리)』 のチェ・ヨンヒ先生、劇団『ハクチョン(학전)』のキム・ミンギ先生も演友舞台の団員から分化して自分の劇団を創ったんです。演友舞台での最初の作品は『夕暮れ(해질녘)』という作品で、もともとはソン・ガンホがワークショップから出演していた作品でした。評判がいいので本公演をやることになったのですが、ガンホが出演できなくなり、私にオファーがきて演友舞台との縁ができたんです」

劇団「チャイム」20周年記念公演記者会見より(2015年)(左からイ・ソンミン、ミン・ボッキ代表、劇団創立者、作・演出家イ・サンウ)

●イ・サンウ先生とのご縁はここから始まったんですね?
「公演を見にいらして目に留まったようで“チャイムで一緒にやろう”となったんです。シンシでは演劇を始めたばかりだったのでキム・サンヨル先生から多くを学びましたが、シンシの作品は厳しくて堅苦しくて、先生は元々恐い方だったので、よくいじけていたんです。でも演友は作品自体もそうだけど、俳優や演出家の年齢も自分に近いし、作品もコメディーが多いから、気楽に演ってるのが面白い、上手いと言ってもらえて。それまで演技は当然、かしこまって恰好つけてやるものだとばかり思っていたのが、演友に来てから自分自身も楽しみながら面白く、軽くできる他の演技方法に出合えて楽しかったんです。 それでチャイムにも入ることにしました。その他には、キム・ガプス兄さんが、チョ・ジェヒョン、コ・インベさんらと出資して作った『俳優世界(배우세상)』という劇団にもちょっとだけ参加したことがあります」

※注10 劇団「チャイム」 は、劇作家・演出家のイ・サンウが1995年に創団。創設メンバーにはソン・ガンホ、ユ・オソンらもいた。現在の所属俳優はムン・ソングン、カン・シニル、チェ・ドンムン、パク・ウォンサン、イ・ソンミン、オ・ヨン、パク・ジア、チョン・へジンなど、映画、ドラマで活躍するそうそうたる顔ぶれがそろっている。

●ところで、劇団「チャイム」の俳優たちはなぜ、ドラマにたくさん出るんでしょう?(笑)
「そうなんです。 よくわからないけど、あえて劇団で言うなら、劇団『木花(モッカ)』と『チャイム』出身が多いんですよ。ムン・ソングン、カン・シニル、イ・ソンミン、私、チェ・ドンムン、パク・ウォンサン、チョン・ヘジン、ミン・ソンウクなどたくさんいますね」

●例えばKBSの時代劇とか見ると、必ず何人か一緒に出ています(笑)
「別に何かあるわけではないのですが、テレビや映画の関係者はいつも演劇に注目しているんですよ。そういう関係者がチャイムの舞台をたくさん見に来ました。いまもKBSにいますが、ハム・ヨンフンというプロデューサーがいて、彼がチャイムの俳優を監督たちにたくさん紹介してくれました。『復活』のときもそうです。だから私たちは彼をチャイムの秘密団員だと(笑)冗談で言ったりしていますが、チャイムの俳優たちは、リラックスした演技ができて、瞬発力もあり、若干のユーモアのセンスもある。ドラマに適合した俳優たちが集まっている劇団だからではないでしょうか?」

●それでは映画のほうはどうですか? かなりたくさん出演されていますよね。
「大体50作くらい出たでしょうか。『明日に流れる川(내일로 흐르는 강)』(1996年)という作品が最初の映画でしたが、これも私には人に会う縁、人福があるようです。製作者が演劇部の先輩でしたから。イ・チャンホ(이장호)監督の助監督出身でしたが、生活苦のために映画を辞めて、映像制作をやっていたんです。私もその会社でナレーションなどのアルバイトをしていましたが、ある日その先輩が突然“映画をやるぞ”というので、出演することになりました。それからパク・ジェホ(박재호)監督が意気投合して参加しました。当時韓国映画の平均制作費が20~30億ウォンの頃に、10分の1の予算で製作したんです。その作品は1、2部に分かれていたのですが、2部の主人公を演じて、それがデビュー作になりました。これをきっかけに映画界に繋がりができたんです。観客は多くなかったけど、映画関係者たちは全部見てますから。 それから映画のほうもたくさんやるようになりました」

●そのなかで記憶に残る作品は?
『JSA』(2000年)は記憶に残っていますね。それと 『復讐者に憐れみを(복수는 나의 것)』(2002年)、『オールドボーイ(올드보이)』(2003年)、『親切なクムジャさん(친절한 금자씨)』(2005年)と、パク・チャヌク監督の“復讐三部作”には唯一私がすべてに出演した俳優になりました。『親切なクムジャさん』では、刑務所長役でしたがほとんど編集されてしまい、よーく見ないとわかりませんが(笑)。最近撮ったのは『思悼(사도)』『誠実な国のアリス(성실한 나라의 앨리스)』『チャイナタウン(차이나타)』(すべて2014年)、『セシボン(쎄이봉)』(2015年)は特別出演でしたね」

2014年に出演した演劇『マン・フロム・アース』プレスコールより(左からイ・デヨン、ソン・ジョンハク、イ・ウォンジョン)

●出演作すべてを追いきれないほどの多さです(笑)。これにドラマや舞台も入るわけで。スケジュール調整はいったいどうされてるのでしょう?
「1年に少なくとも演劇を一本はやろう、というのは今まで守ってきています。でも今年はこれで演劇が3本目なので、ちょっと多いですが、それでもスケジュールを調節すれば済むことです。主人公だったら時間をやりくりするのは難しいですよね。いま放送している『名不虚伝(명불허전)』でも、もちろん主演俳優たちは撮影が終わるまで他の仕事は出来ない状態です。でも私が担当する役はそれほど時間を割くような役ではないですから」

●いつも気になっていました。映画やドラマに切れ目なく出演されているのに、必ず舞台にも出演されているので。
「そうです。 演劇が面白いから。 無理に誰かの指示を受けているわけじゃないです」

●演劇は映像の仕事とどんな違いがありますか?
「そうですね、先ほどお話ししたように、演劇は稽古の過程がとても大きいです。演劇は“作る”という感じだとすれば、映画やドラマは“する”という感じなんです。映画では監督と作品や背景の話を一緒に悩む時間はあまりもらえないです。もちろん主演俳優は監督と話しますよ。でも演劇は一緒に作る過程が重要で、またその過程が結果として出てきますから。演劇はそういう楽しさがあります。 ところが映画やドラマは、あるものをポンと投げて出なきゃならない。ある俳優が“映画やドラマは自分を貸し出す感じだ”と、そんな表現をしている人もいました」

●いま撮影中のドラマ『名不虚伝(명불허전)』では初めて医師役を演じているそうですね。
「そうなんですよ。医師、教授役は今までやったことがなかったんです。私があまり知的に見えないのか(笑)、医師や弁護士などを演じたことはほとんどないです。ドラマでは胸部外科課長で、主人公のキム・アジュンさんの指導教授です。でもずっとアジュンさんを苦しめて、無理を強いるような役柄です(笑)」

ドラマ『名不虚伝』1話予告編(tvN公式映像より)

●こんな風にスタジオと劇場を行き来して、お仕事ばかりなんでしょうか? 趣味などは?
「私はそういうのがないんですよ。時間があればちょっと登山に行ったり、あとは他の人の公演を見に行ってお酒飲んで。こういうのが趣味です。良い作品を見たら楽しく飲んで、つまらない作品を見たら悪口言いながら飲んで(笑)。それが楽しいです。趣味というものがないので、本当に面白くない人間ですよ(笑)」

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時間が出来ても他の作品を見に行ってしまうというデヨンさん。「演出などには興味はないんですか?」と訊くと「あぁ」と首を横に振り「演じるほうがいいね」との答え。芝居に魂を捧げ、志を貫いてきた“役者バカ”の横顔が見えました。

そしてここで朗報をひとつ。11月に立教大学で行われるという、詩人・尹東柱(ユン・ドンジュ)の生誕100年行事に、デヨンさんも参加される予定だそうです。取材時点ではまだ具体的なことは決まっていないとのことでしたが「詩の朗読をするのかな?」とおっしゃっていました。映画『空と風と星の詩人 尹東柱の生涯』などで、尹東柱の再評価が高まるなかでのイベントだけに、日韓で注目されるのは間違いなし。まだ一度も日本に行ったことがないという名優イ・デヨンを見られるチャンスです。詳しい情報は分かり次第、別途お知らせしたいと思います。

【←インタビュー前編】 【←インタビュー中編】


【プロフィール】イ・デヨン(이대연 Lee Dae-Yeon)
1964年11月13日生まれ。延世大学神学科在学中から「延世劇芸術研究会」という演劇サークルに所属し、1987年に初舞台を踏む。その後劇団「シンシ」の専属俳優となり、劇団「演友舞台」での活動を経て、現在は名優が名を連ねる劇団「チャイム」に所属。『年老いた泥棒話(늘근도둑 이야기)』『そこ(거기)』『蜚言所(B언소)』など、チャイムを主宰するイ・サンウの作、演出作品に多数出演している。2007年にはチェ・ミンシク、ユン・ジェムン、チェ・ジョンウと共演した『ピローマン(필로우맨)』が大きな話題を呼んだ。また2012年にはシンシカンパニー制作、キム・グァンボ演出で上演した畑澤聖悟原作の『親の顔が見たい(니 부모 얼굴이 보고 싶다)』にも出演している。テレビドラマは現在、韓国で放送中のキム・ナムギル、キム・アジュン主演『名不虚伝』に出演中。ほかナ・ムニ、イ・ジェフンと共演した映画『アイ・キャン・スピーク(아이 캔 스피크)』が9月に公開を控えている。
●公式サイト:http://justright.co.kr/lee-dae-yoen/


取材・文:さいきいずみ 翻訳:イ・ホンイ ポートレート撮影:キム・ジヒョン

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イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.24

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.24

 

仮想世界の中の倫理を問うSF捜査劇『The Nether』

SF推理劇に挑む、名優イ・デヨン

韓国人である私にも中々解けない韓国の謎が一つあります。それは、なぜか韓国では推理やSFなどのジャンルがあまり愛されていないことです。物語より目の前の現実がもっとドラマチックだったからでしょうか? 小説や映画も見ても、歴史物やドキュメンタリーの方がずっと人気があるのです。推理とSFはマニア=少数が楽しむジャンルだという認識があり、私も子どもの時から推理小説やSF小説が読みたくなったら、図書館の海外文学コーナーの隅で本を探すのが当たり前でした。欧米ドラマのヒットにより、推理やサスペンスはどんどん人気を得てきましたが、それに比べても特にSFはいつも遠い存在でした。勿論、これは演劇界も同じで、今まで韓国演劇の歴史のなかで「SF」と言えるような作品はほぼなかったと言えます。
しかし最近、人工知能の人気が高まり、科学と芸術の融合事業を支援する基金が設立されたことで、演劇界のなかでもSFに対する関心が増えています。翻訳者としても、変化を実感していて、ほんの2年前にはSF的な要素が入った作品をプロデューサーや演出家に紹介すると断られてしまいましたが、最近は新鮮な素材に興味を持つ創作者が出てきています。こんな雰囲気のなかで、8月24日から大学路で上演される演劇『The Nether(네더 ネダー)』がどのような成果を見せるか、興味津々です。

稽古中のドイル役イ・デヨン

『The Nether』は、アメリカの女性作家ジェニファー・ヘイリー(Jennifer Haley)が2012年に発表した作品です。本作でヘイリーは、優れた女性作家に与えられるSusan Smith Blackburn賞を受賞し、翌年にはLA Ovation awards Best Play賞も受賞しました。それだけではなく、イギリス、ドイツ、スウェーデン、トルコ、ノルウェーなど16カ国で上演されました。
この作品が好評を得た理由は、未来の物語ですが、今からよく考えて討論しなければならない問題を扱っているからだと思います。SFといえば映画のように華麗なCGの画面をイメージされる方が多いかもしれませんが、『The Nether』は、最初のSF小説だと言われている『フランケンシュタイン』がそうだったように、人間の欲望から生まれた科学の成果が我々の価値観にどのような変化をもたらすかを問う作品です。

物語は、女刑事モーリスが事業家シムズを未成年売春の容疑で取り調べをするシーンから始まります。しかしモーリスが把握している容疑者の情報とは全く異なる人物であるシムズは堂々と嫌疑を否定します。やがて、その容疑者の情報が、シムズが「Nether」のなかで作ったアバターのような仮想の彼自身と一致することが明らかになっていきます。

刑事モーリス(キム・グァンドク)は、容疑者シムズを追求する

「Nehter」とは、現在のインターネットに当たる仮想世界です。本作の舞台となる近未来では、この「Nether」の空間を通して人間の五感すべてを生々しく感じることができるようになっています。会員となってログインすれば現実と同じ仮想のファンタジーが体験でき、教育や仕事はもちろん、売春などの違法行為まで「Nether」を通して行われるため、身体に生命延長装置を付着して「Nether」のなかに完全に入りこんでしまった人まで出てくるほど、ユーザーを支配しています。
シムズは、自身の小児性愛嗜好がどんな薬でも治らないことに気付き、「Nether」のなかに秘密の空間を作った人物です。クラシカルな美しい邸宅に純粋な女の子たちを集め、彼女たちに“パパ”と呼ばれているシムズは、現実では決して許されない欲求を会員たちに提供しているのです。次にモーリスはこの空間の会員である中年の化学教師ドイルを参考人として呼び、捜査に協力するよう依頼。やがてモーリスはウードナッツという男性として「Nether」にログインし、シムズが作った秘密空間に潜入して、その空間で生きる少女アイリスと出会ったことで、事件の真相に迫っていくのです。

(左から)ドイル役イ・デヨン、シムズ役キム・ジョンテ、モーリス役キム・グァンドク

Netherに秘密の空間を創るシムズ役キム・ジョンテ

モーリスに追求されたシムズは彼女に問い返します。「私たちは現実では絶対許されない欲求を仮想世界で解決する。現実では誰も傷つかない。この空間を無くしてしまうとどうなるか分かっているのか。それでも無くしたいのか」と……。
このサイバー空間で人間の本質を問うという、これまでにない物語に挑むため、韓国演劇界でも屈指の実力派俳優が揃いました。小児性愛者のシムズを演じるのは『トイレットピープル』『テンペスト』『デモクラシー』など、公立劇場の演劇に多数出演してきたキム・ジョンテ。15年には密室で展開する英国発の翻訳劇“トリロジー”シリーズの第2弾『カポネトリロジー』にも出演して注目されました。
シムズを追う刑事モーリス役を『サム・ガールズ』『ノイズ・オフ』『下女たち』など数々の話題作に出演してきたキム・グァンドク。そして、もう一人の重要な容疑者となるドイルを、ドラマ『雲が描いた月明り』、映画『思悼(サド)』など、数々のドラマ、映画に出演してきた名優イ・デヨンが演じます。

アイリス役:チョン・ジアン(左)、ウードナッツ役イ・ウォンホ

鋭い論戦が展開される取調べ室、そして実在しないNetherの秘密空間……この二つの空間を往来しながら展開する、この作品世界を構築するのは、演出家イ・ゴン(コラムVol.15『短編小説集』参照)と翻訳家でドラマターグも務めるマ・ジョンファ(コラムVol.2『傷だらけの運動場』、15『短編小説集』を参照)です。このコンビの実力は、去年上演した演劇『短編小説集』の大成功で検証済みですが、実はその前から『Nether』の上演を企画していたそうで、それほど入念な準備期間を経て、上演するに至った作品なのです。
帰国子女だったマ・ジョンファは演劇学を専攻した研究者でもあるため、稽古にも積極的に参加するドラマターグですが、彼女とパートナーを組んだイ・ゴンもアメリカ留学派で、現在は青雲(チョンウン)大学演技芸術学科の教授です。二人のエリートが「シムズが正しいか、モーリスが正しいのか」という問いを投げかけるこの戯曲に惹かれたのは当然だったかもしれません。『Nether』は間違いなく観劇後、観客がテーマや内容について討論したくなるような作品だからです。

ドイル(イ・デヨン)はシムズ(キム・ジョンテ)に同志にも似た感情を覚える

個人的には、『Nether』の最も魅力的な部分は、物語自体はSFの領域なのに、それを表現する様式がアナログな演劇的方法を取っていることです。推理・SF小説が好きで、幼い頃から海外文学に親しんできた韓国の読者たちが、この作品をきっかけに演劇で楽しむ推理・SFの新鮮さを体験し、新しい「観客」になってくれることを期待しています。そしてこの作品が、韓国の劇作家にも良い刺激になればいいなと思います。

⇒ドイル役、イ・デヨンさんのスペシャルインタビューへ


【公演情報】
演劇『The Nether(ネダー)』(네더)
2017年8月24日~9月3日 東洋芸術劇場3館(大学路)

<出演>
●ドイル役:イ・デヨン
●シムズ役:キム・ジョンテ
●モーリス役:キム・グァンドク
●ウードナッツ役:イ・ウォンホ
●アイリス役:チョン・ジアン

原作:ジェニファー・ヘイリー(Jennifer Haley)/演出:イ・ゴン/翻訳・ドラマターグ:マ・ジョンファ/舞台:イム・ゴンス/照明・映像:シン・ジェヒ/映像共同制作:ソン・ギョンビン/衣装:チョン・ミンソン/小道具:パク・ヒョニ/ヘアメイク:キム・グニョン/音楽監督:ピ・ジョンフン/振付:イ・ハンナ/助演出:アン・ミビン/舞台監督:イ・ヒョンジン

写真提供:劇団的(チョク)


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[MUSICAL]イ・ソクジュン、イ・ゴンミョン、ぺ・ヘソン20周年記念『チック・チック…ブーン!』上演

[MUSICAL]イ・ソクジュン、イ・ゴンミョン、ぺ・ヘソン20周年記念『チック・チック…ブーン!』上演

 

ジョン役のイ・ソクジュン

ジョン役のイ・ゴンミョン

韓国の舞台シーンを長年トップ俳優として牽引してきたイ・ソクジュン、イ・ゴンミョン、ぺ・ヘソンが俳優生活20周年を迎え、かつてともに主演した『チック・チック…ブーン!』への出演を決定。初演メンバーの一人であるソン・ギユンや、チョ・スンチャン、オ・ジョンヒョク、チョン・ヨンら親しい後輩たちとともに意味深い記念公演を行う。

『チック・チック…ブーン!』は、『RENT』の原作者として知られるジョナサン・ラーソンが遺したもう一つの戯曲。成功を前に夭折した彼の自伝的エピソードが盛り込まれており、アルバイトを続けながら作曲を続ける青年ジョンとルームメイトのマイケル。そして常にジョンを支えてきた恋人スーザンと、3人の姿を通して、夢を追う者が突き当たる壁や現実を躍動感あふれるサウンドとともにストレートに描き出すロックミュージカルだ。2001年の韓国初演時には、3つの劇場で3チームに分けて上演されるほどの人気を博したという。

スーザン役のぺ・ヘソン(左)とチョン・ヨン

今回7年ぶりとなる上演では、主人公ジョン役にはミュージカル『ストーリー・オブ・マイライフ』や演劇『キル・ミー・ナウ』『フローズン』など、多彩な作品で誠実にキャラクターを演じこなすイ・ソクジュン。そして『フランケンシュタイン』『あの日々』『インタビュー』など常にカリスマ性溢れる歌と演技を披露してきたイ・ゴンミョンが務める。同い年の親友として知られる二人が記念公演で顔を揃えることは多くの観客が期待する最大のポイントとなっている。

ジョンの夢や情熱を支持してきたが、現実に疲れていく恋人スーザン役には、初演メンバーだったぺ・ヘソンが16年ぶりに挑む。『モーツァルト!』の姉ナンネールが当たり役として知られる彼女は、どんな作品でも穏やかながらも存在感を見せられる演技力を買われ、近年は『ヨンパリ』などドラマにも多数起用されている。一方チョン・ヨンは演劇『柔道少年』『カポネトリロジー』や『スモーク』『マーダー・バラッド』などのミュージカルまで、小劇場作品に多数出演して頭角を現してきた女優。全く違う個性をもつ二人のスーザンを堪能できそうだ。

(写真左から)マイケル役のソン・ギユン、チョ・スンチャン、オ・ジョンヒョク

そして、ジョンとともに夢を追っていたものの、転身後はビジネスマンとして成功したマイケルをソン・ギユン、チョ・スンチャン、オ・ジョンヒョクの3人が演じる。01年初演時の元祖マイケル役だったソン・ギユンは韓国版『アイーダ』『CHICAGO』『マンマ・ミーア!』などの大劇場ミュージカルには欠かせないベテランだが、今年は『彼と彼女の木曜日』『大虐殺の神』などの小劇場演劇やドラマ『推理の女王』への出演など多彩な活動を展開している。加えて、今回初出演となる『モンテクリスト』『三銃士』などで知られるチョ・スンチャンと、『あの日々』『プライド』などに出演したオ・ジョンヒョクは、イ・ソクジュンやイ・ゴンミョンとの共演作も多く、親しい先輩俳優への“義理”や“リスペクト”を感じさせる出演となっている。

楽しい作品性のなかにある深いメッセージに共感が溢れる青春群像劇を、すでにキャリアをもつ俳優たちが、どのように演じるのか注目される『チック・チック…ブーン!』は8月29日から上演。プレビュー公演のチケットは7月26日(水)午後3時から、1次チケットは8月2日(火)午後3時から発売開始される。


【公演情報】
ミュージカル『チック・チック…ブーン!』
2017年8月29日~10月15日 大学路TOM1館

<出演>
●ジョン役:イ・ソクジュン、イ・ゴンミョン
●スーザン役:ぺ・ヘソン、チョン・ヨン
●マイケル役:ソン・ギユン、チョ・スンチャン、オ・ジョンヒョク

写真提供:IM CULTURE
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[PLAY]演出・キャストを一新!2年ぶりの再演『M.Butterfly』9月開幕

[PLAY]演出・キャストを一新!2年ぶりの再演『M.Butterfly』9月開幕

 

日本ではジェレミー・アイアンズ、ジョン・ローン主演で1993年に公開された同名映画で知られる『M.Butterfly』が2年ぶりの韓国再演を決定し、キャストが発表された。

原作は中国系アメリカン人の脚本家デヴィッド・ヘンリー・ファン(David Henry Hwang)が1988年に発表し、アメリカで初演した同名戯曲。同年のトニー賞作品賞ほか3部門受賞をはじめ、多数の演劇賞を受賞した作品だ。韓国では演劇シリーズ「演劇列伝4」で2012年に初演後、3度の再演を経て、今年2年ぶりに4回目の再演となる。今回は『プライド』『小人たち』『もしかしてハッピーエンディング』などの小劇場演劇、ミュージカルで、丁寧な演出が評価されているキム・ドンヨンを新演出に迎え、キャストも総入れ替えして上演される。

国家機密漏洩の疑いで法廷に立ったフランス領事の衝撃的実話をモチーフに舞台化された本作は、プッチーニのオペラ「蝶々夫人」を劇中劇に引用。西洋人が東洋の女性に持っている偏見やファンタジーを批判するとともに、人間の欲望と悲哀を描き出したストーリーは、特に女性の観客たちに支持されている。

妻がありながらリリンに魅了され、破滅へと向かう主人公のルネ役には、国立劇団などの演劇に多数出演してきたキム・ジュホンとソウル芸術団の団員で、8月開幕の『地球を守れ!』への出演も控えているキム・ドビンが務める。
一方、スパイの密命を負ってルネを誘惑するも、彼を愛してしまうリリン役には演劇『プライド』でゲイのオリバー役を演じて注目された新鋭チャン・ユルと、2016年に人気女優パク・ソダムと共演した演劇『レット・ミー・イン』で主役に抜擢され注目を浴びた新人オ・スンフンが演じる。

新演出家と俳優たちが「演劇列伝」の人気レパートリーに新風を吹き込む『M.Butterfly』は、1次スケジュールのチケットが7月27日(木)から発売される。

(写真上段左から)ルネ役:キム・ジュホン、キム・ドビン/リリン役:チャン・ユル、オ・スンフン (写真中段左から)トゥーロン/判事役:ソ・ミンソン、クォン・ジェウォン/チン/スズキ役:ソン・ヨンスク/マーク役:ファン・マニク (写真下段左から)マーク役:キム・ドンヒョン/ヘルガ役:キム・ユジン、キム・ダヨン


【公演情報】
演劇『M.Butterfly』(엠. 버터플라이)
2017年9月9日~12月3日 大学路アートワンシアター1館

<出演>
●ルネ・ガリマール役:キム・ジュホン、キム・ドビン
●ソン・リリン役:チャン・ユル、オ・スンフン
●トゥーロン/判事役:ソ・ミンソン、クォン・ジェウォン
●チン/スズキ役:ソン・ヨンスク
●マーク役:ファン・マニク、キム・ドンヒョン
●ヘルガ役:キム・ユジン、キム・ダヨン

原作:デヴィッド・ヘンリー・ファン/翻訳:パク・チョンヒュ/演出:キム・ドンヨン

写真提供:演劇列伝

 

[PLAY]米・気鋭の劇作家が描く社会の縮図『グロリア』再演が開幕

[PLAY]米・気鋭の劇作家が描く社会の縮図『グロリア』再演が開幕

 

ニューヨークの雑誌出版社を舞台に、社会の縮図のような人間模様を描いたNONAME THEATER COMPANY制作の『グロリア』が昨年に続き再演されている。

同僚にグロリアの引っ越しパーティーの話をするディン(イ・ヒョンフン)

本作はアメリカの新進劇作家ブレンダン・ジェイコブス・ジェンキンスが2015年に発表し、2016年度のピューリッツァー賞ドラマ部門の最終選考まで残って注目を浴びた作品だ。

グロリア役のクァク・ジスク

 

タイトルにもなっている“グロリア”はニューヨーク、ミッドタウンにある雑誌編集部で働く最も社歴が長い女性社員の名前。会社と会社の人間関係がすべてだったグロリアは、長年貯金してようやく購入した自宅の引っ越しパーティーに同僚を招待するが、参加したのは男性社員のディン1人だけだった。パーティーの翌日、こわばった表情でオフィスに現れ、無言でたたずむグロリアをケンドゥラ、エニーら女性社員たちは無視同然の対応をする。やがて、再びオフィスに現れたグロリアが予想もできないような衝撃的な事件を起こし、同僚たちの人生を一変させるのだ。

グロリアを忌み嫌うケンドゥラ(ソン・ジユン)とエニー(コン・イェジ)

劇中グロリアの登場シーンは少ないが、同僚たちの会話から人物像を浮かび上がらせていく。地味だが真面目に働いているグロリアをあざ笑うような同僚たちの会話や態度は、学生時代には「いじめ」と称される特定の個人への迫害が一般社会においても同様に行われていることをまざまざと見せつける。

事件後、出版社を辞めて堕落した生活をおくるディン

2幕では舞台をコーヒーショップに移し、以前は社内で“勝ち組”的存在だったディンやケンドゥラがグロリアが起こした事件の後、堕落した“負け組”の人生を送っているさまが描かれる。そしてグロリアを唯一理解していたローリンは出版社を退社後、契約社員として入ったLAの出版社でグロリアの事件の当事者であることを明かすと、社員たちはその逸話を出版しようと躍起になるのだ。

契約社員のローリン(チョン・ウォンジョ)を出版社社員らは利用しようとする

本作はNYの出版社-コーヒーショップ-LAの出版社と3場で構成されている。1場ではグロリアを演じていたクァク・ジスクが、3場ではLAの出版社の編集長ナン役と対照的なキャラクターを演じて、社会の無常さをアイロニカルに際立たせている。

グロリア役から“勝ち組”の編集長ナン役に変身するクァク・ジスク

出版社というメディアの宿命とその中における人々の姿に、観客は自分の身の回りでも起きうる(起きている)ストーリーに共感しつつも何とも言えない葛藤が心に残るだろう。
NONAME THEATER COMPANY作品の常連である実力派俳優たちによる好演も光る『グロリア』は8月13日まで、大学路のアートワンシアター3館で上演される。

ローリン(チョン・ウォンジョ)の存在が、皮肉な物語を浮き彫りにする


【公演情報】
演劇『グロリア』(글로리아)
2017年7月14日~8月13日 大学路アートワンシアター3館

<出演>
●ローリン役:チョ・ウォンジョ
●グロリア/ナン役:クァク・ジスク
●ケンドゥラ/ジェンナ役:ソン・ジユン
●ディン/デヴィン役:イ・ヒョンフン
●マイルズ/ショーン/ラシャード役:オ・ジョンテク
●エニー/サーシャ/キャリー役:コン・イェジ

プロデューサー:ハン・へヨン/原作:ブレンダン・ジェイコブス=ジェンキンス/翻訳:イ・ジヒョン/演出:キム・テヒョン/脚色・ドラマターグ:イ・インス/舞台:シン・スンリョル/照明:イ・ドンジン/音響:ユン・ミンチョル/衣装:ホン・ムンギ

取材協力:NONAME THEATER COMPANY

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イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.23

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.23

 

オ・ダルス主宰劇団3年ぶりの新作『キャベツの類』

近年は、出演作が次々と1000万観客動員を超える大ヒットを記録し「千万妖精(천만요정)」の異名をもつ、韓国映画界を代表する名バイプレイヤーのオ・ダルス。名優たちの例にもれず、彼も元々は演劇出身俳優です。いま最も忙しい俳優の一人である彼が、劇団を主宰していることは、おそらく日本ではあまり知られていないのではないでしょうか?

彼が主宰する劇団の名前は「蜃気楼万華鏡(신기루 만화경)」
このちょっと風変わりな名前をもつ劇団の俳優たちが3年ぶりに集まり、新作を上演します。6月15日から大学路のソンドル劇場で上演される『キャベツの類(양배추의 유례)』という作品です。
戯曲を書いたのは日本の作・演出家で、劇団「五反田団」を主宰している前田司郎。彼は小説家・ドラマ脚本家・映画監督としても活動しています。「脱力系作家」と呼ばれている彼は、観客の虚をつく発想で観客を笑わせる、独特な世界観を持っている作家です。
これまで『偉大なる生活の冒険(위대한 생활의 모험)』と『おやすまなさい(자지마)』(⇒コラム第14回で紹介)が韓国語に翻訳・上演され、彼の独特なユニークさは、特に若い観客からも支持されてきました。

「女」役のオ・ミンジョン(左)と「男」役のチョン・ジェソン

物語は、記憶を全部キャベツに取り出した「男」の話から始まります。「男」の前には、頭の中に青虫が住み着いて記憶が虫食い状態である「女」が現れます。そして二人の息子と娘のような「兄」と「妹」、彼らを威圧する「先生」が出てきます。そこで「先生」はいきなり来客を迎える準備を進むのですが、その客とは「神」です。「男」は「神」に、「女」の頭の中の虫を殺してほしいとお願いをして、とんでもない結末を迎えます。

「息子」役のパク・ギョング

もしかしたら全てが「男」の夢かもしれない、あるいは生々しい残酷な現実に対する隠喩かもしれないこの物語を演出するのは、今までは主に韓国の若手作家の創作劇を演出したユン・ヘジンです。

詩的な舞台言語を具現する演出家として評価されている彼女は、アルコ次世代演出家選定(2013)、有望芸術育成支援NArT支援事業選定(2014)、スタートアップ‐大学路芸術生態プロジェクト・アーティスト選定(2015)、ソウル芸術治癒ハーブ入居作家選定(2017)などで、こつこつと自分の作業を認められてきた女性演出家です。

今回彼女は、たった二つのブランコを置き、袖幕も無くした舞台装置が一切ない大胆な舞台を披露します。よって普段より舞台を広く使っているのですが、観客は、必然的に俳優に集中して目を向けることになるため、俳優にとっては非常に負担の大きい舞台になっています。
そんな舞台に立つのは、チョン・ジェソン(映画『朝鮮名探偵~トリカブトの秘密~(조선명탐정-감기투구꽃의 비밀)』、ドラマ『マスター・ククスの神(原題)(마스터-국수의 신)』、演劇『笑の大学(웃음의 대학)』)、チェ・ジェソプ(映画『国際市場で逢いましょう(국제시장)』『オールド・ボーイ(올드보이)』、演劇『ちゃんぽん(짬뽕)』)、イ・ソンヒ(映画『哭声/コクソン( 곡성)』、ドラマ『推理の女王( 추리의 여왕)』)、オ・ミンジョン(映画『明日へ(카트)』、演劇『カルメギ(갈매기)』)といった、映画・ドラマでも活躍中のベテラン俳優たち。加えて、小劇場演劇を中心にミュージカルなどの振付も担当しているパク・ギョング、新人のソン・ジェイク、キム・ユンジと若手俳優も登場します。

「先生」役のイ・ソンヒ

稽古初日から笑いが止まらず、俳優たちが滞りなくすらすらと戯曲を読んでくれたのが印象に残っていますが、具体的な空間や設定の説明もなく、ヒントになる舞台セットもないこの作品は、結局この俳優たちの力で説得力を築いていくことでしょう。客席の反応によって作品の様子も毎日変わっていくのではないかと思います。まるで生き物のような演劇『キャベツの類』を体験してみてほしいです。

最後に、初日を前に俳優たちと共に今ドキドキ、ハラハラしているオ・ダルスさんと演出家のユン・ヘジンさんがお忙しいなか、劇団設立秘話、そして新作の魅力を教えてくれました。貴重なミニインタビューをご堪能ください。


劇団「蜃気楼万華鏡」を主宰するオ・ダルス

●「蜃気楼万華鏡」とは、とても神秘的な名前の劇団だと思います。劇団を始めようと思ったきっかけを、教えていただけますか?
オ・ダルス:「それは簡単です!」
「作・演出家のイ・へジェさん(이해제 ※注)と十年間、一緒に演劇を作りながら、ほとんどの劇団が同じだと思いますが、演劇の本質にもっと近づける道とは、共同体意識だと考えるようになりました。“粉々になっている日常と様々な思いを「共に集めて遊んでみよう」”という素朴な気持ちで、2001年1月にイ・へジェさんが自分の部屋を整理して、小さな稽古場を作って、(彼自身が書いた戯曲のタイトルでもある)「蜃気楼万華鏡」が始まりました。
それから多くの作業と紆余曲折を経て、今の姿になり、生き続けています。素朴ですが、すごい勇気と決意が必要でした」

※注:イ・へジェは、近年演劇『TOC TOC』『キサラギミキちゃん』『笑の大学』などを演出。

●久々の新作は、日本原作です。なぜこの作品を上演しようと決められましたか?
オ・ダルス:「それは簡単ではありません!!」
「個人的な見解としては、日本は隣の近い国ですが、小さい情緒でも、それに接していく方式が私たちとは異なるので、興味が湧きます。些細な物語のなかに含まれているメッセージの深さが魅力的ですね。特に、作家の前田司郎さんの日常と非日常の間での綱渡りは、難しいけど、その倍、面白いです。
詳しくは、演出家のユン・へジンさんがより詳しく話してくれるでしょう!(笑)」

ユン・へジン:「何年か前に、韓日演劇交流協議会を通して前田司郎さんの『偉大なる生活の冒険』という作品の戯曲を初めて読みました。簡単に書かれているように思えて、スルスルと読むのもすごく楽でした。でも、戯曲を読み終えた後、決して簡単ではない堅固さを感じたんです。それから、前田さんの他の作品を読むことになりました。彼の戯曲には、一回夢中になるとなかなかそこから離れられないような魅力があります。作品の中に入ってみると、結局“私”の物語になるんです。
前田さんの戯曲は“今”を語っています。人や時間や物語など全部。今、“存在”しているものが舞台に並ぶんです。『キャベツの類』もそうで、まるで一人の男の“夢”でもあるように、バラバラに散らばっている記憶がこの物語の全てです。でも、単にそれは夢ではなく現実でもあるのです。
特に、日本の戯曲だからではなく、今の時代を表現する作家の言葉が私を刺激しました。人間が消えない限り、常に享有できる「人間の人生と時間に対する探求」がストーリーの背景にあります。その支点が「現在性」「同時代性」を備えています。彼の作品は、じっと自分に向き合う時間をくれます。このような前田さんの作品が韓国に紹介されたらいいなと思い、作品を準備することになりました。『キャベツの類』に登場する「男」が、どこか分からない空間を歩きながら、出会う誰かの記憶のように、私たちの記憶のひとかけらに記録されるために、今この作品に出会ったような気がします。
加えて、愉快でありつつも真摯な「蜃気楼万華鏡」の俳優たちが、その記憶のかけらをもっと堅固にしてくれることを楽しみにしています」


【公演情報】
演劇『キャベツの類』(양배추의 유례)
2017年6月15日~25日 大学路ソンドル劇場

<出演>
●男役:チョン・ジェソン
●女役:オ・ミンジョン
●シン役:チェ・ジェソプ
●先生役:イ・ソンヒ
●息子役:イ・ギョング
●娘役:キム・ユンジ
●店員役:ソン・ジェイク

作:前田司郎/翻訳:イ・ホンイ/演出:ユ・へジン/舞台:ソン・アルム/照明:ソン・ミリム/音声:ペク・インソン/衣装:アン・へウン/ヘアメイク:キム・グニョン/プロデューサー:イ・ユンジン

写真提供/取材協力:劇団「蜃気楼万華鏡」


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[MUSICAL]マイケル・リー、ソン・ヨンジンらが出演『ロッキー・ホラー・ショー』5月開幕

[MUSICAL]マイケル・リー、ソン・ヨンジンらが出演『ロッキー・ホラー・ショー』5月開幕

 

(写真左から)フランク役のマイケル・リー、ソン・ヨンジン、チョ・ヒョンギュン

映画史に名を遺す、カルト映画の原作となったミュージカル『ロッキー・ホラー・ショー』の韓国版が約10年ぶりに上演。総勢18名にのぼる多彩なキャストが発表された。

婚約したばかりのカップル、ブラッドとジャネットが山中で暴風雨に遭い、迷い込んだ古城で奇妙な人々たちが繰り広げる狂気のパーティーに巻き込まれていくセクシーでコミカルなロックミュージカル。この作品のアイコンとも言える城主、フランク・N・フルター役は、ロックミュージカルを得意とするマイケル・リーとソン・ヨンジン。そして大劇場作品には初主演となるチョ・ヒョンギュンの3人が演じる。ソン・ヨンジンは、韓国版初演の2008年にも本作に出演しており、約10年ぶりにフランク役に挑むことになる。

(写真左から)ジャネット役のチェ・スジン、キム・ダへ、イ・ジス

トリッキーなフランクによって、未知の世界を体験することになるジャネット役はチェ・スジン、キム・ダへ、イ・ジスと美貌の若手女優3人が揃った。

(写真左から)ブラッド役のパク・ヨンス、ぺク・ヒョンフン、コ・ウンソン

恋人ジャネットと共に古城に迷い込む、生真面目な青年ブラッド役は、本作の制作会社R&Dワークスの『ママ、ドント・クライ』に出演歴のあるパク・ヨンスとぺク・ヒョンフン、そして『ウィキッド』『ロミオとジュリエット』などに主演し、人気上昇中のコ・ウンソンがトリプルキャストで務める。

(写真左から)マジェンダ役のキム・ヨンジュ、ソムン・タク、リサ

古城のメイド、マゼンタ役は『ウィキッド』のマダム・モリブル役などで知られるキム・ヨンジュと『ヘドウィグ』のイツァーク役で知られるロックシンガーのソムン・タク。そして、現在『ザ・デビル』に出演中のリサと、舞台経験豊富な3人が演じる。

(写真左から)リフ・ラフ役のキム・チャンホ、コ・フンジョンと、コロンビア役のチョン・イェジ

古城に住み込みで働く執事リフ・ラフ役はキム・チャンホとコ・フンジョン。これまで正統派のキャラクターを演じることが多かった彼らが、不気味でエキセントリックな役柄をどう演じこなすのか注目される。そしてもう一人のメイド、コロンビア役は『ロミオとジュリエット』『インタビュー』などで主演女優として頭角を現しつつある新鋭チョン・イェジが演じる。

(写真左から)スコット博士/エディ役:チ・へグン、ナレーター役のチョ・ナミ、ロッキー役のチェ・グァンフィ

その他、ブラッドとジャネットの恩師であるスコット博士と、ロックスタイルの謎の男エディの二役にチ・へグン。物語の進行役となるナレーター役は『シャーロック・ホームズ』などに出演していたベテランのチョ・ナミ。そして、フランクによって生み出される筋肉隆々の人造人間ロッキーは、新鋭チェ・グァンフィが抜擢された。

昨年ケーブルテレビチャンネルJTBCで人気を博したオーディション番組「ファントム・シンガー」で優勝チームの一員となったコ・フンジョンをはじめ、挑戦者として出演していたぺク・ヒョンフンとコ・ウンソン。そして審査員として出演していたマイケル・リーと、番組で一躍注目を浴びたミュージカル俳優が勢ぞろいしている点も見どころ。視聴年齢制限アリ、という破格の舞台が期待される『ロッキー・ホラー・ショー』は、5月26日~8月6日まで、弘益大大学路アートセンター大劇場で上演される。


【公演情報】
ミュージカル『ロッキー・ホラー・ショー』(록키호러쇼)

2017年5月26日~8月6日 弘益大大学路アートセンター大劇場

<出演>
●フランクン・フルター博士役:マイケル・リー、ソン・ヨンジン、チョ・ヒョンギュン
●ジャネット・ワイズ役:チェ・スジン、キム・ダへ、イ・ジス
●ブラッド・メイジャーズ役:パク・ヨンス、ぺク・ヒョンフン、コ・ウンソン
●マジェンダ役:キム・ヨンジュ、ソムン・タク、リサ
●リフ・ラフ役:キム・チャンホ、コ・フンジョン
●コロンビア役:チョン・イェジ
●ブラッド・メイジャーズ/エディ役:チ・へグン
●ナレーター役:チョ・ナミ
●ロッキー役:チェ・グァンフィ

原作:リチャード・オブライエン/演出:オ・ルピナ/音楽監督:キム・ソンス

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【キャラクター紹介映像】

【キャストインタビュー映像】

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.19

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.19

 

地球と私のパラレルワールド『わが星』

地球ちゃん役のキム・ヒジョンと姉役のチョ・ハナ

日本の演劇関係者と話をすると、時々、韓国演劇は助成金制度が日本より充実していると言われたりします。大学路の多くの作品が国からサポートを受けて上演していることを考えると、ある意味、それは本当かもしれません。特に、毎年1月には上演作自体は少なくなる代わりに、厳しい審査を受けて生き残った期待の新人の作品が集中的に上演の機会を得ます。その中でも、代表的なプログラムが「NEWStage」ではないかと思います。

「NEWStage」は、ソウル文化財団ソウル演劇センターがデビュー10年未満の若手に対し、作品の創作から上演までをサポートするプログラムです。公募を通して選ばれた3~4人の若手演出家は、上演劇場が提供されるだけではなく、中間発表の場でフィードバックももらえ、宣伝までも担当してもらえる貴重な機会を得るのです。そのため、応募作も多く、競争が激しいのはもちろん、特にこれまでは創作劇(オリジナル演劇)が選考対象になっていました。

このプログラムに今年は、4人の若手演出家の作品が選ばれました。
①イ・ヨンジュ(이연주)『電話のベルが鳴る(전화벨이 울린다)』(1月5日~8日 トンスンアートセンター トンスン小劇場)
②キム・ジョン(김정)『お客たち(손님들)』(1月12日~15日 トンスン小劇場)
③イ・ウンソ(이은서)『I’m an artist』(1月14日~18日 萬里洞[マンリドン]芸術人住宅)
④シン・ミョンミン(신명민)『わが星(우리별)』(1月19日~22日 トンスン小劇場)
①コールセンターの労働者問題、②親を殺した少年の事件、③芸術家の視点から見た育児の問題など、4作品のうち、3作品は今の韓国社会の空気を反映するような作品が選ばれました。そして今回ご紹介する4番目の作品だけが、他の作品とは違い、何も起こらない日常を明るく楽しく描きます。きっと最後は作り手にも観客にもみんな笑顔になってほしいからでしょう。しかし、それよりも本作品にもっと注目すべき理由があるのです。「NEWStage」では珍しく、日本演劇の翻訳劇が選定されたからです。

地球ちゃん一家(写真左から、おばあちゃん役イ・セロム、地球ちゃん、姉、母役キム・スア、父役パク・ギドク)

『わが星』は、日本で2009年に初演された、劇団「ままごと」を主宰する柴幸男作・演出の作品です。彼はこの作品で、岸田戯曲賞を最年少で受賞しました。再演とワークショップを繰り返している作品ですので、日本でご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。本作の大きな特徴は、多くの台詞がラップになっていることです。口ロロ(クチロロ)というバンドと一緒に作ったそうで、そのためかこの作品はまるで一つの歌のように構成されていて、見終わった後もずっと頭の中で劇中のメロディーが流れてしまいます。今回の韓国版では、新たに若い韓国の音楽監督を招きました。戯曲の設定を韓国人の物語にする以外は、セリフなどはほとんど変えず、韓国語に合わせたラップを作りました。

地球ちゃんと月ちゃん役のホ・ジン

物語は、“地球”という少女の一生と、わが星である地球の誕生から消滅までをリンクさせた内容です。コスモス団地に引っ越してきた地球ちゃん。彼女には祖母、父、母、姉の家族がいます。いつもうるさくて、喧嘩もよくするんですが、いつの間にか仲直りして……と、こんな毎日を繰り返しています。地球ちゃんには、隣に住んでいる月ちゃんという友達がいます。二人は毎日のように遊んでは喧嘩し、また仲直りして遊んでいますが、徐々に二人の距離は少しずつ離れていきます。

同じ形の建物が並ぶ団地、でもその中にある、遠くから見てもすぐ分かる我が家の明かり、友達に送った手紙、誕生日プレゼント、父の帰りを待っている母、祖母が教えてくれること、姉ちゃんとの喧嘩、受験勉強などなど。決して特別ではないけれど、地球ちゃんにとっては大切な記憶が繰り返されたり、その記憶自体が遊びになったり、いきなり宇宙に飛んでしまったりする不思議な体験です。それを見ている観客の人生まで美しく輝く、魔法のような100分間。普段は感じ取れない日常の小さい幸せにメロディーをつけるために、演出家と俳優は細かいところまで計算しながら、ラップ作りに挑戦しているのですが……セリフは殆ど変わっていないとはいえ、音節の数や音の響きや言葉のニュアンスが違う韓国語版の台本にピッタリのラップを作り出すのは簡単ではありません。たった4日間という短い上演期間が惜しいくらいの苦労をしていて、その努力には大きな拍手を送ってあげたいです!

この韓国語版『わが星』の演出を務めるシン・ミョンミンは創作集団LASの演出部に所属しています。LASについては、私の第9回コラムでも紹介しましたが、大学路で最も期待されている若手劇団で、主宰のイ・キプム(이기쁨)はハイバイの岩井秀人作『て(손)』や、東野圭吾の同名小説が原作の『容疑者Xの献身(용의자 X의 헌신)』を演出し、日本の作品とも縁が深い演出家です(ちなみに、イ・キプム演出の『て』は5月末に大学路アルコ小劇場で再演予定です)。
シン・ミョンミン演出家が日本の戯曲を演出するのは『わが星』で二回目です。『わが星』の戯曲がとても気に入った彼は「NEWStage」に申請した後、勉強のために柴幸男のもう一つの戯曲『少年B』を読み、それを去年の6月、劇団制作公演として先に上演しました。『少年B』は第6回コラムで紹介した作品です。


『少年B』も『わが星』も、ものすごく幸運でもなく、かと言って不幸のどん底を経験したこともない、登場人物たちの平凡な人生を“物語”にしていた作品です。日常の中の何気ない出来事をキャッチし、それを繊細に変奏していきます。特に、劇的な展開や俳優たちの爆発しそうな熱演、社会・共同体としての問題意識が満ちている韓国の演劇界で、この柴幸男の小さな世界は一層特別な存在です。海の向こうから私をずっと見てくれたんだと感じさせる暖かい作品は、きっと多くの韓国の観客から愛されることでしょう。トンスン小劇場で起こる小さな奇跡を、ぜひご期待ください。


【公演情報】
演劇『わが星』(우리별)
2017年1月19日~1月22日 トンスンアートセンター トンスン小劇場

<出演>
●地球:キム・ヒジョン
●姉:チョ・ハナ
●父:パク・ギドク
●母:キム・スア
●月:ホ・ジン
●先輩:イム・ヨンウ
●男:チョ・ヨンギョン

原作:柴幸男/演出:シン・ミョンミン

●創作集団LAS 公式サイト⇒http://www.las.or.kr

写真提供:創作集団LAS ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。


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[PLAY]人気作家が突然の失踪…その理由は?『盗まれた本』開幕

[PLAY]人気作家が突然の失踪…その理由は?『盗まれた本』開幕

 

人気脚本家ソ・ドンユン役のイ・シフ(左)と彼を拉致した元アシスタント、チョ・ヨンラク役のチョ・サンウン

『ピローマン』『私に会いに来て』『報道の指針』などの話題作を手掛け、韓国の演劇ファンに支持されているビョン・チョンジュ演出家が実力派俳優を揃えておくる『盗まれた本』が4度目の再演初日を前にプレスコールを開催した。

ビョン・チョンジュ演出家

『盗まれた本』は映画『コ死-二番目の話』『ミスター主婦クイズ王』などを作・演出したユ・ソンドン監督が、2011年に「大韓民国ストーリー公募」で大賞を受賞した同名映画シナリオが原作となっている。
長らくスランプに陥っていた脚本家ソ・ドンユンが、才能ある作家志望の若者チョ・ヨンラクが書いたシナリオを盗んだことから巻き起こる拉致事件と、その背景を描き出したスリラー作品だ。

劇中映し出されるアニメーションを芝居とシンクロさせたユニークな演出も見どころの本作。ビョン・チョンジュ演出家は、9月に上演した3度目の再演からさらにバージョンアップし、今回の上演をVer.3.5と呼んでいる。「前回と大きな変化はありませんが、一番最後のシーンにアニメーションを追加しました。原作にはなく、この原作を基にしたウェブトゥーン(ウェブ漫画)にあるシーンですが、原作とウェブトゥーン、演劇が互いに影響を受けつつ構成できて個人的には満足しています」と今回のバージョンに手ごたえを感じているようだった。

確かな演技力で存在感を見せるイ・シフ

長年の沈黙を破って脚本を執筆した映画が大ヒットしたものの、映画賞の授賞式後に拉致され、で一気に栄光から奈落の底に落ちるソ・ドンユン役には今年ソウル芸術団から独立後、ミュージカル、演劇と精力的に出演しているイ・シフが新たに加わった。
「ドンユン役はほとんど出ずっぱりで退場するシーンがないので、稽古に入る前は“ああ、どうやって進行させよう?”と強迫観念に囚われていましたが、一旦芝居が始まってヨンラクとやり取りし始めたら、ある瞬間からそんな心配は忘れて芝居に入り込んでしまいます」と、体調管理に気を付けてひたすら役に没頭するだけだと語っていた。

穏やかな面持ちだが、時に狂気を見せるヨンラクを演じるカン・ジョンウ

劇中ではヨンラク以外のサブキャラクターを一人多役で演じるチョ・サンウン

自身が執筆した脚本を盗んだドンユンを拉致監禁し、脚本執筆をさせようとするチョ・ヨンラク役はトリプルキャスト。プレスコールでは、9月公演にも出演していたチョ・サンウンと今回初出演となるカン・ジョンウが出席した。

カン・ジョンウは「誰かを閉じ込めたり、傷つけたりしてみたいとちょっとでも思ったことがある人がいたら、悪いことはせずにこの作品を見に来てストレス発散してほしいです」とユニークな推薦コメントを。一方チョ・サンウンは「9月の公演よりもよりこなれた演技を舞台と近い距離で見られると思います。すべての俳優がそれぞれに違ったカラーを持っているので、すべてのペアの公演を見に来てくださればありがたいです」とアピールしていた。

芝居とアニメーションをシンクロさせた演出が見もの

9月の上演ではドンユンとヨンラクのペアを固定していたが、今回は2人のドンユン役と、3人のヨンラク役がランダムに出演し、組み合わせの妙が楽しめるとのこと。
拉致事件の裏に隠されていた秘密を紐解く醍醐味と、実力派俳優たちによる熱演が堪能できる『盗まれた本』は、大学路芸術劇場 木と水(旧、木と水(나무와 물)劇場)で、2月26日まで上演される。


【公演情報】
演劇『盗まれた本』(도둑맞은 책)
2016年12月16日~2017年2月26日 大学路芸術劇場 木と水

<出演>
●ソ・ドンユン役:パク・ホサン、イ・シフ
●チョ・ヨンラク役:カン・ジョンウ、イ・ギュヒョン、チョ・サンウン

プロデューサー:チョン・ユラン/原作:ユ・ソンドン/演出・脚色:ビョン・チョンジュ/音楽:オム・ブレ/イラスト:イ・ギュヒ/映像:シン・ジョンヨプ/舞台・小道具:チョン・スギャン/照明:イ・ジュウォン/衣装:オ・ヒョニ/音響:チャン・ギヨン/写真:チェ・ヨンソク/助演出:パク・ジュニョン

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[MUSICAL]イ・テソン、キム・ジュンヒョン主演『ザ・アンダードッグ』開幕

[MUSICAL]イ・テソン、キム・ジュンヒョン主演『ザ・アンダードッグ』開幕

 

ジン役のキム・ジュンヒョン(左)と、軍曹役のキム・ボムレ

豪華キャストとスタッフが揃い、注目されていた新作ミュージカル『ザ・アンダードッグ』が開幕し、プレスコールが開催された。

『ザ・アンダードッグ』は、さまざまな動物を取り上げる韓国SBSの人気番組『TV動物農場(TV동물농장)』で2012年に放送した、「ザ・アンダードッグ」という特集からインスピレーション得て、制作陣が約4年にわたり準備してきたという。番組は保護犬(韓国では遺棄犬 유기경[ユギギョン]と呼ぶ)の実態を紹介したドキュメンタリーだったが、これをモチーフに舞台化するという珍しい作品コンセプトに、上演が発表されるやいなや話題を呼んでいた。

ジン役のキム・ジュンヒョン(左)と、マーティ役のチョン・ジェウン

稽古中には遺棄動物保護センターを俳優、スタッフ全員で訪問してボランティアを行ったほか、遺棄犬支援ブレスレットの広報キャンペーンや、観客が愛犬を預けて観劇できるスペシャルチケットの発売、有料チケット1枚売上ごとにペットフードを100g寄付するなど、作品の上演のみならず。さまざまな保護犬支援活動を展開している。プードル・ソフィ役のグ・オクブンは遺棄動物保護センターを訪れた際に、犬を一匹引き取って飼っているとも話していた。

キム・ボムレがソロナンバー「私の任務、私の忠誠」を哀感たっぷりに披露する(左)/イ・テソン演じるジンには激しいアクションシーンも(右)

プレスコールではオープニングから犬が人間に追われる映像が流れると、遺棄犬収容所に珍島犬ジンが入れられ、胸の痛むようなシーンから始まった。収容所で逞しくサバイバルする犬たちの姿や、犬たちを取り仕切る“軍曹”の苦悩など、硬軟取り混ぜたバリエーション豊かな楽曲とともに、まるで人間の生き様を見ているような犬社会が展開する。

珍島犬ジン役の二人、キム・ジュンヒョンとイ・テソン

登場するキャラクターがすべて犬だけに、俳優たちはどのように演じるのか関心が集まっていたなか、珍島犬ジンを演じるキム・ジュンヒョンは「犬のように演じるのか? というような質問もたくさん受けたが、できるだけそういうイメージは無くすようにして、私たち(人間の)疎外階層だと考えた。疎外階層が抱える感情や感性を表現しようと努力している」と語っていた。

ジン役のもう一人の注目キャストは、俳優デビュー14年目にして初めてミュージカルに出演するイ・テソンだ。「以前からミュージカルに挑戦してみたかったが、いい機会を得て出演することになった。ライセンス作品やすでに知られているような作品ではなく、創作ミュージカルの初演に出演することを憂慮する人も多かったが、新しいジャンルと素材を扱った作品であり、10年、20年と時を経て再演される際には自分が初演のオリジナルキャストとして出演したことに、大きな意味があると思った」と、前向きなコメントを聞かせてくれた。

中士(チュンサ、日本では軍曹にあたる)役のキム・ボムレ(左)とキム・ボガン

ベテランのキム・ボムレは、シェパードの軍曹役でカリスマ性あふれる姿を見せている。キム・ジュンヒョンとともに、大劇場のライセンスミュージカルに出演することが多い彼が、今回久々に大学路の作品に出演している。「ライセンス作品の場合は作品の内容や楽曲で選ぶほうだが、創作ミュージカルはチームワークだと思っている。制作会社代表や演出家、制作陣とも知己があり、俳優たちも一緒に演じたことがある人が多いため、それを信じて出演を決めた」と語っていた。

(写真左)マルチーズ・マーティ役のチョン・ジェウンとチョン・ミョンウン/(写真中)ダルメシアン・ジョディ役のキム・ジェマンとチェ・ホジュン/(写真右)プードル・ソフィ役のグ・オクブンとパク・ミソ

本作は、作曲、音楽監督のイ・ソンジュンをはじめ、振付、衣装など、大ヒット作『フランケンシュタイン』を創り上げた豪華スタッフが揃っている。作品の世界観や楽曲のメロディーに、やはりどことなく共通点を感じることができるのも、観劇ポイントの一つとなりそうだ。個性豊かなキャストとともに社会問題を鋭く切り取った『ザ・アンダードッグ』は、2017年2月26日まで、大学路のUNIPLEX1館で上演される。


【公演情報】
ミュージカル『ザ・アンダードッグ』(더 언더독)
2016年12月2日(金)~2017年2月26日(日) 大学路UNIPLEX1館

<出演>
●珍島犬・ジン役:キム・ジュンヒョン、イ・テソン
●シェパード・軍曹役:キム・ボムレ、キム・ボガン
●マルチーズ・マーティ役:チョン・ミョンウン、チョン・ジェウン
●ゴールデンレトリバー・おじいさん役:チョン・チャヌ、キム・ヒョンギュン
●ダルメシアンミックス・ジョディ役:キム・ジェマン、チェ・ホジュン
●プードル・ソフィ役:グ・オクブン、パク・ミソ
●アンサンブル:キム・ギヨン、キム・ユル、イ・ジンソン、ムン・ガプジュ、イ・ジュニョン、シム・ジェ

プロデューサー:チェ・ミンホ/制作総括:クォン・ジニョン/演出:ユ・ビョンウン/脚本:ユ・ビョンウン、チャン・ウソン、ユン・グァンヒ/音楽監督:イ・ソンジュン/作曲:カン・ジンミョン、カン・ハ二ム、イ・ソンジュン/振付:ソ・ビョング、技術監督:イ・ユウォン/舞台:キム・ヘジ/照明:ミン・ギョンス/音響:クォン・ドギョン/衣装:ハン・ジョンイム/小道具:チョ・ユニョン/映像:チョン・ジョンヒョン/ヘアメイク:キム・スッキ/舞台監督:パク・ジョンビン

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