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投稿者 典子 木村:

木村典子の「お隣の演劇」Vol.3

木村典子の「お隣の演劇」Vol.3

 

 「第35回ソウル演劇祭 開幕」

演劇祭01ソウル演劇協会が主催する「第35回ソウル演劇祭:演劇は時代の精神的希望だ」が開幕しました。4月14日(月)にアルコ芸術劇場大劇場で行われた開幕式には、演劇界の元老たちをはじめ若手までソウルで活動する多くの演劇人たちが集まり、ソウル演劇界の祝祭であることを感じさせます。

ソウル演劇祭は演劇フェスティバルの中でももっとも歴史が古く、1977年に韓国文化芸術振興院主催で開催され始めた大韓民国演劇祭が母体です。その後、87年に民間団体である韓国演劇協会へと開催主体が移管され「ソウル演劇祭」となりました。現在はソウル演劇協会がこのソウルの演劇人の祝祭を運営しています。
演劇祭02開幕式をのぞいてみましょう。ソウル演劇協会パク・チャンヨル会長の挨拶は、中国人旅行者をターゲットとしたアダルト演劇の増加など、演劇の街・大学路と演劇の危機に対する話が印象的でした。このような演劇環境の変化の中で、今年は「演劇は時代の精神的希望だ」というテーマとなったのでしょう。開幕宣言とともに「第4回ソウル演劇人の日」の受賞者(功労賞・美しき演劇人賞・若手演劇人賞)と、「第1回ソウル演劇人大賞」(大賞・演技賞・演出賞・劇作家賞・スタッフ賞・翻訳賞・制作賞・演劇分ち合い功労賞・演劇希望公務員賞)の受賞者が発表され、受賞者たちの晴れやかな笑顔が会場を満たしました。また、広報大使としてドラマ・映画でも活躍する演劇出身俳優ユン・ジュサン、チェ・イルファ、チョン・ボギョン、ナム・ミョンニョル、オ・ダルスの5名が紹介されましたが、韓国演劇界の層の厚さが感じられます。
第35回ソウル演劇祭期間(4週間)で公演される作品は、老舗劇団「漢陽レパートリー」「アリラン」から若手のフリンジ参加作まで55作品。この中でも若手演劇人を対象とした「未来よ、わきあがれ」部門に参加する8作品は、これからの大学路を担う注目作です。
旅客船事故で韓国全体が悲しみにくれる中、‘演劇が時代の精神的希望’となる、そんな演劇祭になることを願うばかりです。

ソウル演劇祭03■第35回「ソウル演劇祭」

4月14日~5月11日

演劇祭公式サイト: http://www.stf.or.kr/

ソウル演劇協会 公式サイト http://www.stheater.or.kr/

 

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木村典子の「お隣の演劇」Vol.4

木村典子の「お隣の演劇」Vol.4

 

鄭義信ワールドの魅力『歌うシャイロック』

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「歌うシャイロック」シーン写真より シャイロック役を演じたのは演劇、ミュージカルと多くの舞台に立ってきたパク・ギリュン  写真提供:国立劇団

4月5日から20日まで春満開の南山の国立劇場で、鄭義信演出『歌うシャイロック』(原作/シェイクスピア「ベニスの商人」)が公演されました。1年に2~3作品は必ず韓国でも公演される鄭義信さんの作品は、韓国でも多くの観客を得、鄭義信ワールドに魅了されたファンもいます。私が見に行った日も500席の客席は満席!

『歌うシャイロック』は、『赤道直下のマクベス』(ソン・ジンチェク演出)に続く韓国での新作。シェイクスピア誕生450周年を記念して、国立劇団が製作した作品です。「ベニスの商人」はご存知のように、友人バサーニオの結婚のためにユダヤ人の金貸しシャイロックから金を借りた貿易商アントーニオは、期日までに返済できない時は肉1ポンドを与えると契約します。しかし、財産を積んだアントーニオの船は難破し、全財産を失った彼はシャイロックに金を返すことができなくなってしまいます。そんな中、シャイロックの娘ジェシカはロレンゾと駆け落ちします。友人の助けで富豪の娘ポーシャと結婚したバサーニオは、この知らせを聞き、金を手に裁判に駆けつけますが、シャイロックは頑なにアントニオの肉1ポンドを要求。そこに若い法学者に扮したポーシャが登場し、肉は切り取ってもいいが、一滴の血でも流せば契約違反であると裁判を収拾します。シャイロックはならば金を受け取ると申し出ますが一度拒絶しているため認められず、アントーニオの命を奪おうとした罪で全財産を没収されるという話です。

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「歌うシャイロック」 写真提供:国立劇団

原作「ベニスの商人」はアントーニオのこと。しかし、鄭義信さんはシャイロックに焦点を当てて『歌うシャイロック』として音楽劇に脚色しました。とはいえ、シャイロックに焦点を当てながらも、鄭義信ワールドの魅力のひとつであるひとりひとりの登場人物の悲喜劇こもごもの人生を描き出し、業突く張りな金貸しシャイロックも含め登場するすべての人々が悲しくも愛おしい人間たちとして観客に伝わってきました。実は私、中学生の頃にはじめて「ベニスの商人」を読んで、まったく納得できませんでした。(その後は一度も読んでいませんが)でも、鄭義信版「ベニスの商人」は、誰もがそれぞれ事情を抱え、それぞれの事情のなかで人生の悲喜劇が生まれ、それらが絡み合い、私たちの日常を作っているのだなと妙に納得。これが鄭義信ワールドなのでしょう。

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イ・ジェグン演じる“ヒゲの女中”ネリッサ(写真中)をはじめ、ポーシャの家に仕えるメイドはみな男性が演じて笑いを誘った。 写真提供:国立劇団

今年はシェイクスピア誕生450周年ということで、韓国では続々とシェイクスピア作品が上演されます。言葉はわからなくとも、シェイクスピアの作品ならどんな作品か知っている方も多いと思います。旅行にシェイクスピア観劇を組み込むのもをいいかもしれません。

「テンペスト」写真提供:国立劇団

「テンペスト」写真提供:国立劇団

 ■国立劇団『テンペスト』(キム・ドンヒョン演出)⇒公式サイト
5月9日~25日 国立劇場タルオルム劇場 出演:オ・ヨンス、オ・ダルスほか
■明洞芸術劇場『ジュリアス・シーザー』(キム・グァンボ演出)⇒公式サイト
5月21日~6月15日 明洞芸術劇場 出演:ソン・ジュンハク、ユン・サンファほか
■シェイクスピア演劇祭⇒公式サイト
6月20日~7月20日 忠武アートホール 中劇場ブラック
・7月1日~8日 劇団旅行者『ロミオとジュリエット』(ヤン・ジョンウン演出)
・7月12日~20日 劇団76団&演戯団コリペ『狂ったリア2』

 

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木村典子の「お隣の演劇」Vol.2

木村典子の「お隣の演劇」Vol.2

 

 「日本現代戯曲リーディング」

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本谷有紀子作・キム・ハンネ演出「乱暴と待機」公演の様子

いつの間にか黄色のケナリが咲き始め、春の気配。演劇界もこれから秋までが各種演劇フェスティバルも開催されシーズンに突入。今年はどんな話題作が登場するのか楽しみです。

IMG_5086aその前に、2月21日から23日まで明洞芸術劇場で開催された『日本現代戯曲リーディング』のご報告!韓日演劇交流協議会(会長キム・ガンポ)が主催するこの交流事業は、今年第6回を迎えました。2002年、日本側のカウンターパートナーである日韓演劇交流センターと共に「韓国現代戯曲リーディングVol.1」を開催以来12年間、隔年で相手国の作家と作品を紹介してきました。初期には“戯曲リーディング”という公演スタイルが普及していなかったこともあり、観客が少なく関係者は苦労もしましたが、今では明洞芸術劇場が満席になるほどです。

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観客のQ&Aに応える、「ぬけがら」の作者、佃典彦(写真右から2人目)と演出家リュ・ジュヨン(同3人目)

今年は、本谷有希子『乱暴と待機』(キム・ハンネ演出)、前田司郎『偉大なる生活の冒険』(キム・ジェヨプ演出)、佃典彦『ぬけがら』(リュ・ジュヨン演出)と、今注目される作家の作品がリーディング公演され、宮本研『美しきものの伝説』、藤田傳『とりあえずの死』を含めた「現代日本戯曲集6」(演劇と人間)が出版されました。

今注目されている若手演出家たちが演出したリーディング公演は、映像を使ったものから観客を湧かせるパフォーマンスを導入したものまで、ただ耳で聞くだけではない、観客の想像力を刺激するもので、作品とリーディング公演の面白さを伝えてくれました。毎回のことですが、日本から参加した作家たちが驚くのは、韓国の観客の反応のよさと積極的さです。劇場で演劇をともに作り上げる観客の姿勢は、韓国演劇にとって大きな力であり、大きな財産です。これをあらたえて痛感した時間でもありました。
来年1月には、日本で韓国の若手作家3名の話題作がリーディング公演されます。ぜひ、韓国演劇の今を見に、足を運んでみてください。

「韓国現代戯曲ドラマリーディングVol.7」
2015年1月13日(火)~18日(日)
会場:世田谷パブリックシアター/シアタートラム
日韓演劇交流センター http://www.tckj.org/

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木村典子の「お隣の演劇」Vol.1 

木村典子の「お隣の演劇」Vol.1 

 

「2013韓国演劇プレイバック」

「アリバイ年代記」 国立劇団&劇団ドリームプレイ(作/演出キム・ジェヨプ) 写真提供/国立劇団、撮影/パク・ジョンミョン

「アリバイ年代記」
国立劇団&劇団ドリームプレイ(作/演出キム・ジェヨプ)
写真提供/国立劇団、撮影/パク・ジョンミョン

今年も面白い芝居に出会えますように!と願いつつ、2013年韓国演劇界を振り返ってみたいと思います。毎年年末になると、各種演劇賞が発表されますが、これら受賞作に注目すれば、翌年活躍する劇団や演劇人の顔が見えてきます。

(以下、公演タイトルのリンクは公式サイトおよびPlay DBの作品紹介ページに飛びます)

月刊『韓国演劇』(韓国演劇協会刊)が選ぶ「2013公演ベスト7」

<演劇部門>

<再演部門>

<海外公演部門>

  • ロシア・チェーホフ・フェスティバル『テンペスト』 <템페스트>

韓国演劇評論家協会主催の「2013今年のベスト3」

この中でも、圧倒的な支持で注目されたのが『アリバイ年代記』と作/演出のキム・ジェヨプ(43)です。この作品は、作家が父と兄、そして自分、家族の物語と歴史を淡々と描いた秀作です。1930年植民地時代に日本で生まれて教育を受け、祖国に戻り、1955年定年になるまで大邱中央高校で数学教師として勤めた父キム・テヨンをドキュメンタリー的に回想しつつ、父親の年代記を通じて韓国近現代史の暗部が告白されていきます。丁寧に深く個人の人生を掘り下げることで歴史を描き出す手法は、韓国演劇における政治劇に新しい可能性を見せたと評価されました。

そして、もう一本注目されたのが1977年に旗揚げされ今も話題作を公演し続けている劇団演友(ヨヌ)舞台『七軒梅』(イ・ヤング作、ムン・サンファ演出)。米軍キャンプ近くの‘基地村’のクラブで働いていた七人の女性たちが年をとって七つの小さな部屋を借りて姉妹のように同居する物語を通して、‘基地村’に象徴される不条理な社会構造と不条理さの中で生きるしかないそれぞれの人生を描いています。

韓国演劇の面白さは何か?と聞かれたら、上記の二作品のように市井の人々の中にあるそれぞれのドラマとそこから韓国の社会や歴史が見えてくる点だと答えるでしょう。ここ数年、演劇界の停滞が指摘されてきた中、四十代の演出家たちが韓国演劇の面白さを再認識させてくれた2013年でした。今年も期待したいと思います。

mozart【おまけ】韓国演劇評論家協会が主催する「今年のベスト3」の授賞式は、大学路・アルコ芸術劇場小劇場の向かいにある「ギャラリーカフェ・モーツアルト」で、評論家と演劇人が集まり、まるで小さな忘年会のようにアットホームな雰囲気でおこなわれています。「モーツアルト」は、最近コーヒーチェーン店が増えた大学路で古くからある隠れ家的な喫茶店。大学路の喧騒に疲れたら、クラシック音楽が流れるここでで静かに一息つくのもいいですよ。私のオススメは「しょうが茶」です。

ギャラリーカフェ「モーツァルト」(갤러리카페 모짜르트)

住所:ソウル市鍾路区大学路8街道119(서울특별시 종로구 대학로8가길 119 )

地図: NAVER地図

営業時間:12:00~22:00(月曜休業)

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