韓流ブーム到来から20周年となった昨年、第1回を公開した韓国ドラマコラム「韓ドラ温故知新」。長らく間が空いてしまいましたが、第2回は数々の韓国ドラマ媒体で活躍中の杉本真理さんと一緒に、2023~2024年必見の日本配信作品をプラットフォーム別にピックアップ。今後注目の新作も紹介しています。ドラマをより深く楽しめる関連動画も併せてお楽しみください。
※俳優名は敬称略。作品名は邦題のサブタイトル等を省略している場合があります。また、作品によっては多少のネタバレも含みます。あらかじめご了承ください。
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<ライタープロフィール>
杉本真理
出版社勤務を経て、充電期間中に韓国ドラマに出合い、この道へ。現在は「韓国TVドラマガイド」「韓国TVドラマガイドONLINE」(双葉社)の編集・執筆を中心に「韓国テレビドラマコレクション」「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」(キネマ旬報社)などで執筆。好きなジャンルは時代劇・長編・サスペンス、ときどきロマンス。
さいきいずみ
テレビ誌編集者・ライターとして2004年から韓流取材に携わる。その後大学路で観劇にハマり、2011年から韓国舞台情報を紹介する韓劇.comを主宰。好きなジャンルは『ミセン-未生-』『刑務所のルールブック』などの演技派舞台俳優が出ているヒューマンドラマとシットコムなどのベタなコメディ。
■ Netflix 編■
SNSも併せて韓劇.comを見てくださっているみなさん、いつもありがとうございます。韓ドラファンの方々に紹介したい作品を2人で選んでいたら7章にわたる長編コラムになってしまいました(笑)、お時間あるときにゆっくり読んでくださるとうれしいです。
ではまず、Netflixから。特にオリジナル作品はKゾンビ、Kパニック、Kサスペンスと、韓国映画の人気要素をドラマ化したものが多いですよね。最近の配信作も『寄生獣―ザ・グレイ―』、『殺人者のパラドックス』、『タッカンジョン』と、いずれもちょっとクセがある。そういう意味では、ロマンチックな作品を求める層とは別のファン層も形成されていると思います。王道モノから個性派まで作品性の幅広さが魅力なので、いろんな作品を楽しんでみてほしいと思います。
韓国で放送したtvNでは最終話の視聴率24.8%。『愛の不時着』を抜いて歴代視聴率1位を記録して有終の美を飾りました。
脚本家パク・ジウン×俳優キム・スヒョンといえば、『プロデューサー』から始まり、『青い海の伝説』、『星から来たあなた』と、すでに3本も一緒に作った黄金コンビなので、キム・スヒョンの魅力が良く出ていましたよね。
加えてヒロインは『私の解放日誌』で「私を崇めて…」という究極の台詞をバズらせた若き名優キム・ジウォンですからね。今作では、表向きにはクールな財閥令嬢を装いつつ、実は夫が大好きなへインをチャーミングに演じていました。へインがヒョヌの素敵さにドキドキしてうろたえちゃうシーンにキュンキュンした人は多いと思います(笑)
全体の作りはシットコム的で、境遇の違う2家族の話という部分は週末ドラマ風。夫婦、そして家族の再生という普遍的なテーマをこんな風にときめきたっぷりに描けるのか! と思いました。婿が財閥家でてんやわんやするという設定も新しかったですね。そして『愛の不時着』同様、ヒロインが強くて愛らしい。周囲には憎めないキャラクターがいっぱい。これだけヒットの定石が揃っていたら、そりゃ楽しいはずですよね。
不治の病に記憶喪失、交通事故…と、王道の反転要素もすべて詰め込んであって、最終回はもう満腹状態でした(笑)
そういえば、ユン・ウンソン役のパク・ソンフンは、先日出演したトーク番組で前作に続き悪役を演じたので、個人SNSに酷いコメントをたくさん書かれたと話していました(笑)。ですが、実はかなりの苦労人かつ孝行息子だという素顔も明かして評価が爆上がりしていました。
個人的には小劇場演劇で頑張っていたのをいち観客として見ていたので、いまこうして大活躍している姿を見るのはとても嬉しいんですよね。
『ドクタースランプ』というと、特に日本人は一瞬「ん!?」となると思うんですけど(笑)、主演はパク・シネとパク・ヒョンシク。『相続者たち』(2013年)から、約10年ぶりに共演するヒューマンラブストーリーとくれば、韓ドラファンの琴線に触れること間違いなしの作品ですね。
ロマンスものとしてはもちろん、2人が困難な状況と向き合いながら前に進んでいく姿が描かれていて、自分もそうありたいって思えた作品でした。うっかり一緒に泣いたりして。
過去にヒーリングドラマって呼ばれているのに、違和感を覚える作品があったりしたんですけど、本作は本当にヒーリングロマンスという表現がピッタリでした。
それにしても、2人とも30代になっても変わらぬ愛らしさがありますよね。高校の制服姿もギリOK(笑)。ヒョンシクは甘え上手で愛されキャラな彼の魅力がさく裂してました。家族と一緒にジョンウを受け止めつつ再生への道を模索していくハヌルも、パク・シネならではの温かみがあってとても良かったです。
最近のドラマの傾向として、ヒロインを振り回すツンデレ男主人公がいないんですよ。むしろヒロインを応援するような「サポート男子」が多い。例えば『サムダルリへようこそ』のチ・チャンウクとか、本作におけるヒョンシクがそう。自身も傷を抱えながら、誰かの大切な存在として笑顔を取り戻す彼らを見ながら、私も癒されました。我慢強くて、頑張りすぎて傷ついてるヒロインを支えた男性主人公の存在が、物語を輝かせていた作品でした。
私、韓国エンタメ界のリメイク能力がめちゃくちゃ好きで。欧米ドラマにしろ、日本のドラマにしろ、原作のエッセンスを忘れずに、韓国らしさ全開にするじゃないですか。時事ネタや社会問題をうまく盛り込んだり。だから日本の漫画原作の『寄生獣―ザ・グレイ―』も期待してたんです。
『地獄が呼んでいる』や映画『新感染』シリーズのヨン・サンホ監督が、原作漫画「寄生獣」の大ファンでドラマ化が実現したんですよね。監督の思い入れがクリーチャーの造形やスピード感溢れる展開にも現れていました。関連動画を見たら、日本の原作ファンからも好評なコメントがついていて、これを見るためにNetflixに加入したって人もいたみたいです。
もともとの「寄生獣」は主人公と右手に寄生した「ミギー」の話なので基本、人間と寄生生物のバディものなんです。韓国版は、脳の一部を寄生されたヒロインを『ジキルとハイド』的に描いているのが特徴ですね。分かりやすくてよくできてるなーって思いました。
主人公スイン役は『青春ウォルダム』のチョン・ソニ。時代劇での男装もわりとしっくりきてたほど、声がもともと低めなんですが、スインと寄生生物「ハイジ」の声色を見事に変えて演じています。
ク・ギョファンが相変わらず飄々としていながらも、物語をしっかり引っ張っていく妙演を見せていました。そのほかの役者も見どころ多いんで、あまり予備知識なく見たほうが楽しいかも。6話の短編ながら、ギュッと濃縮されていて見ごたえもあるので、気が付いたら最後まで一気見しちゃうと思いますよ。
昨年の配信作のなかでは『ザ・グローリー 〜輝かしき復讐〜』が他を圧倒する話題でした。『ミスター・サンシャイン』、『トッケビ』、『太陽の末裔』などなど、手がけた作品は必ずヒットさせるキム・ウンスク脚本家が初めて配信作品に挑んだ野心作。『太陽の末裔』以来、脚本家と約6年ぶりのタッグとなったソン・ヘギョが、粛々と復讐を遂行するドンウンを怪演して、バラエティ番組でパロディ化されるほどの人気でした。
キム・ウンスク作品は、とても巧妙で台詞で聞かせて魅せる。特に序盤の作りは秀逸で目が離せなくなる。今作では、悪役たちのなんとも居心地を悪くさせる絶妙な演技のあとで、ドンウンが、彼らの表情や動きを言葉で繰り返すじゃないですか。あれがまたゾッとして……。アン・ギルホ監督による白と黒で描く演出も効いてました。
キム・ウンスク脚本家のインタビューを読んだら、自分の娘がいじめの被害者だったら? と想定して、ドンウンの復讐劇が被害者への慰めになればと、あのような壮絶ストーリーになったそうです。良くも悪くも話題に事欠かなかった作品で、宿敵ヨンジン役のイム・ジヨンをはじめ、いじめた側の俳優までも大人気になる社会現象級のヒットになりました。
悪役ブレイクは韓ドラのヒットの法則ですよね。Netflixが2023年上半期に世界配信した作品の視聴数を初めて公式発表したんですが、『ザ・グローリー』のパート1は6億2280万時間視聴され、なんと世界で3番目に多く見られた作品だそうです! 韓国内でも2023年最高のヒット作だったと言えるでしょう。
モミを助けようとするチュ・オナム役、アン・ジェホンのオタクキャラが超ハマってましたよね。見た目はもちろん、日本語セリフなども含めて、かなり作り込んでいたし。『恋愛体質〜30歳になれば大丈夫』以降は、どちらかというとイケメン方向だったと思うんですが、今回は完璧な隠キャ。役者だなーって思いました。
そしてオナムの母親役だったヨム・ヘラン! モミを追跡するためにあらゆるスキルを身に着けて進化していく執念演技が凄かった! それで私、10年以上前に俳優のチョ・ジェヒョンがプロデュースした小劇場演劇に出演した彼女を「天才だ」と激賞していたことを思い出したんですよ。最近改めてその天才ぶりを実感しているところです。アン・ジェホンと共に、先日の第60回「百想芸術大賞」助演賞受賞は快挙でしたね。
私が昨年Netflixでハマったのは意外にもロマンス作で、『その恋、断固お断りします』でした。最悪の出会いを果たした2人が契約恋愛と、流れだけ書くと定番ぽいんですが、キャスティングが実に見事でして。といっても、キム・オクビンもユ・テオもラブコメディと結びつかない俳優だと思うんですけど(笑)
この2人の組み合わせ自体が貴重っていうか、実年齢アラフォー俳優主演のラブコメ自体、あまりない気がします。昨年は『イルタ・スキャンダル ~恋は特訓コースで~』のチョン・ドヨン51歳、『医師チャ・ジョンスク』のオム・ジョンファ54歳と、アラフィフ女優主演のラブコメが当たった年でもありました。
仕事はもちろん、腕っぷしも圧倒的な「最強」ぶりがキム・オクビンにぴったりでした。そんな彼女にガンホは「リスペクト。本気で尊敬してる」と告白するんですが、これを発するユ・テオが素晴らしくって。このセリフのためにキャスティングにしたんじゃないかと思ったほどです。世の中の「男性観、女性観」への風刺もうまく描いてありました。
ガンホの所属事務所代表を演じたキム・ジフンが最近絶好調ですよね。『ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え』も良かったし、日本ではAmazonプライムビデオで配信した『もうすぐ死にます』も評判良かった。次回作の『Butterfly(原題)』はハリウッドで撮影するそうですね。
ユ・テオとキム・ジフンは実年齢も同い年で、息もぴったり。いいブロマンスでした。最近のキム・ジフンものとしてはめずらしく(笑)、穏やかな役柄ですし、コ・ウォニと演じるサブカップルのロマンスもときめけます。
『D.P.』はシーズン1がとにかく多方面から評価が高かった作品でしたね。兵役中のリアルな軍生活や脱営兵それぞれの背景も細部まで描いてあって、かなり見ごたえがあった。そして、このドラマも重要なテーマとして軍内部の「いじめ」が盛り込まれていた作品でした。
「お前も傍観者だ」と言われた気がして、それがずっとトゲのように刺さってる大事な作品です。一方で、ジュノとホヨルが絶妙な相棒関係となって事件を追っていくエンタテインメントな部分、バディドラマの良さもあった。だから、シーズン2では2人のバディシーンが少ないのがちょっと寂しかったです。
シーズン1では兵役と軍のあり方に対してセンセーショナルに問題提起をしていた感じだったけど、シーズン2は作り手がちょっと自問自答している感じがしました。これ以上深く掘ったらヤバいんだろうな、というか、兵役が現在進行形であることを見せつけられたなぁという。
これは『D.P.』だけじゃなくて韓国のシーズン制ドラマ全体に感じていることなんですが、「もっと新しいものを見せたい、視聴者を驚かせたい」っていう欲が強く感じられるんですよ。変えていかないと飽きられるって思っているのかもしれない。でも、それを追求してると長寿シリーズにはなりにくい気がしていて。シーズン3もぜひ作ってほしいけど、いろいろハードルが高そうですよね。
2023年下半期で評判良かったのが『今日もあなたに太陽を~精神科ナースのダイアリー~』でした。ドラマの原題でもあるんですが『精神病棟にも朝が来る』というウェブトゥーン原作。原作漫画はかわいらしいタッチの絵で、主人公以外の登場人物はみんな動物キャラなんですよ。これをうまいこと人間のキャラに当てはめていました。
演出が見事だなと思いました。例えば、パニック障害になったユチャン(チャン・ドンユン)が、溢れ出してきた水の中であっぷあっぷして息が出来なくなるシーンとか。患者本人にしか分からない世界を可視化してくれた、精神的な病は身近なことだと分かるストーリーだったと思います。彼らと同じように息苦しくなったら、病院や薬に頼ってもいいんじゃない? と作り手が背中をさすってくれているような気もしました。
精神科のお話なので、安易なことをやると批判されかねないでしょうから、難しいテーマからも逃げずに丁寧に描いていたのが良かったですね。ドラマを見ながら、日常の些細な事の積み重ねが心の病に発展していくんだな、ということに改めて気づかされた良作でした。このドラマは基本設定を変えたりしなくてもシーズン2、3と作れそうなので、このトーンを維持した続編が見たいですよね。
私は『離婚弁護士シン・ソンハン』のようなありふれた日常を描くドラマもも結構好きでした。女友だち3人の姿を描いた『39歳』の脚本家の作品だったので、今度は男友だちで来たか〜と。トロットを熱唱するチョ・スンウの姿も見られましたしね(笑)。ただ、最近のドラマの作りからすると、少しスローだったかもしれません。一方で、『セレブリティ』のように時代を切り取ったサスペンス 作品も興味深かったです。私が若かったらもっと刺さったかも?
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