カン・エシム

[PLAY]『思想は自由』作・演出家 キム・ジェヨプ インタビュー[後編]

[PLAY]『思想は自由』作・演出家 キム・ジェヨプ インタビュー[後編]

 

ジェヨプ夫妻と幼い息子との一場面。イ・ソヨン(左)とチョン・ウォンジョ(右)

●ドイツ演劇シーンの事情が良くわかりました。では、その経験をどのように作品に落とし込まれるのでしょうか?
「それがまだうまく行かなくて……今みたいに自分でしゃべれればいいのに(笑)」

●(笑)。作品資料には「コメンタリー形式」にすると書いてありましたが、どんな感じですか?
「映画のDVDなどを見ると、監督や俳優が、あのシーンを撮ったときにはこうだった、みたいに副音声でコメントをするのがありますよね。それと似た感じで、2015年に起きたことに対して、距離を持ってコメントをしてみるのです。今回も(『アリバイ年代記』などと同様に)ジェヨプというキャラクターがいて、またチョン・ウォンジョがジェヨプを演じます。もう彼とは生涯契約しないといけませんね(笑)。彼が旅をするシーンを見せながら、コメントをしていくスタイルです。あとは、ドイツ人の俳優も出演するんですが、ドイツ語でセリフを言ったあと、いきなり韓国語で、これはこういう意味です、と教えてくれたりもします」

チョン・ウォンジョ(右)は、キム・ジェヨプ作品にはジェヨプ役、もしくはナレーター役で必ず登場する

●チョン・ウォンジョさんは、キム・ジェヨプ作品には欠かせない存在ですね。見た目などは全く違うイメージですが(笑)、ペルソナとも言われています。彼をいつも起用する理由を教えていただけますか?
「まず、観客の反応が良いですね。興行にとても役立つ人です(笑)。実は、大学時代から友達なんです。昔『朝鮮刑事ホン・ユンシク(조선형사 홍윤식 2007年作)』という作品でも一緒にやったことがありましたし。実は『アリバイ年代記』を作る前に、ウォンジョ君が何年か演劇をやめていた時期がありました。ある日、2年ぶりくらいに偶然劇場で会って、“いま何やってる?”と聞いたら、“何もやってない”と言うんです。当時は制作の仕事や地方の仕事もしていたようで。ちょうどそれが『アリバイ年代記』を上演する1年前くらいだったので、彼をキャスティングしようと決めました。父親役にはナム・ミョンリョル先輩をキャスティングしていたので、彼も格好いいから血統を考えると息子も格好良くないと、と思って(笑)。
チョン・ウォンジョが持っている最大の魅力は、真摯すぎる部分を少し薄めてくれるところです。僕もそういう意味でウォンジョ君と似ていますが、社会批判的な話をするとき、重くなったり、悲壮になったり、啓蒙的な態度になってしまうのが大嫌いです。そうなりそうな話を軽くて楽しいものだと考える感覚を、ウォンジョ君は持っているんです。
個人的な話ですが、ウォンジョ君は今、緑の党(녹색당)の党員です。彼自身が自分のやり方で、個人主義的な方法で、生活政治を実践しているんですね。その態度も僕とよく合うと思います。そして親近感と彼が持っている魅力ですかね。とても魅力的な人ですね」

淡々としていながらも、印象的な低音の声と存在感が光るチョン・ウォンジョ

●ウォンジョさんは、何もせずただ舞台に立っているだけでも、すごく雰囲気がある方ですよね。
「そうなんです。舞台上に立つ演技、人の話を聞いている演技、どこかを眺めている演技は、天才的です!(笑)。彼みたいにナレーターを務めてくれる俳優はあまりいないです。俳優は緊張したり、表現欲求があるから、自分が知っている以上のことを入れやすいですね。でも、ウォンジョ君はまずそういう性向ではないし、人の話をよく聞いて自分化する能力を持っているんです。元々学生の時からそうでしたし。だからとても信頼する俳優です。あと、今が演技の黄金期です。最近の出演作で、彼の俳優人生に残るような演技を何回か披露して、もうルネサンスですね(笑)。僕と始めたころは最悪の状態で出会ったのに(笑)」

●シーンスティーラー的存在の、チ・チュンソンさんもよく出演されますね。彼の魅力は何だと思いますか?
「彼は、懐がとても広い人です。権威的ではなく、深さとサイズを両方持っている人です。表現方式はとても堅実です。何よりも話術。年齢的には大先輩なのですが、彼の世代の演劇では、そんな話術で演技をする人はほとんどいなかったです。とても演劇的なしゃべり方、演劇的なエネルギーがたくさん入った演技をしたんですね。なのに、彼はとても現代的なんです。全ての点で僕とよく合いますし。今回はすごいアクション演技を見せますよ。期待しててください(笑)」

ハ・ソングァン(右)は、2014年にはキム・ジェヨプが演出し、ドゥサンアートセンターで上演した『背水の孤島』に出演した

●コメンタリー方式ということは、劇中で映像を使われるのでしょうか?
「映像をたくさん撮ってきました。2015年にもたくさん撮ったんですが、それは主に作品の材料になって、今年1月に3週間くらい、必要な部分を撮りに行ってきました。今回は実際に舞台で流せる風景を主に撮ってきたので、映像はたくさん使う予定です。観客と一緒にドイツツアーする感じにしたいと思います。異国の風景、例えば、カフェの映像があって、カフェの前を通る人たちも映っていて、それを見ていたらまるで自分がその場所に来ているような気分になるように、です」

●『思想は自由』というタイトルだけに、大統領選挙が終わったいま、この作品が上演される特別な意味もあると思います。
「2015年にこの作品を書いたときには、ベルリンでとても幸せな時間を送っていました。でもそのころ韓国では悪いことばかりで。MERS(マーズ)もありましたし、セウォル号事件から1年経っても何も解決できていなかったし、演劇界も…。僕はとても気楽に過ごしていたので、Facebookなどを通してでも、一所懸命に活動をしたいと思っていましたが、妻が言うには韓国に戻る前には暗く、気力もなくなり、うつ病みたいになってたと。帰りたくないんだなと(笑)。
1年間、ベルリンで暮らしながら150作品ほど演劇を見たんです。でも、それにくらべると整理はうまく出来ていない状態でした。韓国に戻って向かい合わねばならない状況が悲惨でしたし、『検閲-彼らの言葉-』の準備もしなければならなかったからです。でも2016年、17年と、時間が経つにつれ、今は稽古をしながら、どのように距離を調整するかを探っています。演劇は同時代的でないといけませんので、今の観客にどのような意味を持つか、その視線で、稽古をしつつ台詞を修正しています」

稽古中も以心伝心という感じの二人

●稽古では俳優と一緒に創りあげている感じですか?
「はい。稽古では僕があるシーンの説明をするんです。すると俳優から、今僕が話した内容が台本にはないと言われるんです(笑)。おかしいな、でもこのシーンはこのように書かれているんだと、僕が言うと、じゃぁ、と反応が来るんですね。特にチョン・ウォンジョは、僕の頭の中が見えているような気までするんです。“ここであの話をしないといけない。この台詞を入れよう”とか。“この台詞は早すぎる、もっと後で語ることにしよう”とか。それで僕は“あの時点ではこう感じた”と言い張ると、彼は“物語の流れを考えると後の方が良い”と言う。それで結局後にすると決めたら、今回はなかなか台詞を入れるタイミングがない。“じゃあ、お前が決めてくれ”と(笑)。こんな風に、対話し続けています。何でウォンジョ君といつも一緒にやっているか、その理由を考えると、彼とは演劇を作る方法が共有できているからだと思います」

●ウォンジョさんはもはや分身みたいな存在なんですね(笑)。
最後に、日本公演のお話を伺いたいです。特に昨年は、検閲などの問題に焦点が当たるあまり、作品自体の魅力がうまく伝わっていない印象も受けました。日本の演劇人とはどんな交流をされましたか?
『アリバイ年代記』(2015年)も『検閲-彼らの言葉-』(2016年)も同じ上野ストアハウスという劇場で上演しました。『背水の孤島』の原作者、劇団TRASHMASTERSの中津留章仁さんの作品と二本立てで上演したんです。
『アリバイ年代記』を見て、『検閲-彼らの言葉-』を見てくださった観客は、これが同じ脚本家の作品なのか! と驚いたようです(笑)。よく見ると似ているんですけどね。
やっぱり日本の観客には、今の韓国の現実に直接反応をしていることが衝撃的だったようです。評論家の西堂行人先生も見に来てくださって、日本はいま自己検閲が内面化されているため、韓国と本質的な状況は変わらないのに、それに対応する方式が確実に違うと、おっしゃっていました。
韓国の演劇人たちが光化門広場に作ったブラックテントも、日本のアングラ世代、つまり60~70年代の学生運動の時に日本では黒テントがあったんですね。ただ、その時日本は世界史的な流れと同時に動いたんです。68革命(フランスで1968年に起きた「五月革命」)もありましたし。

ユ・ジョンヨン(左)は、カン・エシム(右)扮する在独韓国人スンオクと親しい日本人ジャーナリスト「ツカサ」役で登場

韓国は20年くらい後の80年代にそういう動きがあって、最近またそれがフラッシュバックして朴槿恵まで至り、いま新たに変化しているところです。このように韓国が持っている力動性、そしてその力動性が演劇に反映されることに興味を持ってくださっていると思います。ちょうど劇団コルモッキルのパク・グニョン先輩が僕が日本に行く1カ月前にフェスティバルトーキョーで『哀れ、兵士』を上演したこともあって、より関心が高かったと思います。日本では検閲がないと思っていたけど、韓国と同じだ、似ているとおっしゃるんですよ。安倍も朴槿恵も。細かな部分では違うでしょうけど、韓国ではあまりにも問題が出てきましたから。韓国では日本に比べると韓国人は市民革命に対する記憶や想像力を持っていますから、それを舞台に再現させる方法もより積極的なんでしょう。劇場の方々ともたくさん話しましたが、確かに、日本が韓国に興味をたくさん持っていることを知りましたね」

*     *     *

本公演の模様 ©ドゥサンアートセンター

おそらく日本の舞台ではなかなか見られないやり方で、今も自分の演劇を作っているキム・ジェヨプさん、そして彼の素敵な仲間たちである俳優とスタッフ。幕が上がる前から既に話題作となっていた『思想は自由』が、また海を越え、日本で上演されるかも? と期待しながら、愉快なインタビューを終えました。彼の3年ぶりのドゥサンでの新作上演に、皆さんも足を運んでみてください。

⇒キム・ジェヨプ インタビュー[前編]へ

⇒『思想は自由』作品紹介コラムへ

取材・文:イ・ホンイ 取材協力:ドゥサンアートセンター

[PLAY]『思想は自由』作・演出家 キム・ジェヨプ インタビュー[前編]

[PLAY]『思想は自由』作・演出家 キム・ジェヨプ インタビュー[前編]

 

ジェヨプ役のチョン・ウォンジョ(右)と、在独韓国人イ・サンボクを演じるハ・ソングァン(左)

稽古ではシーンごとにフロアに出向き、俳優の立ち位置や動きを決めていた

●まず、作品の舞台であるドイツに行かれることになったきっかけを教えてください。
「大学で“研究年”というのがあります。6年大学で教授として勤務すれば、1年休ませてくれる。韓国の大学にはこのような制度があります。それで、1年くらい海外で暮らしてみたいなと思ったんです。旅行は行ったことあるんですが、海外で暮らした経験はなかったので。今回は、ベルリン芸術大学から訪問教授として研究員ビザが出て、妻と息子と一緒にベルリンで一年間過ごせました」

●演劇の本場であるイギリスやアメリカではなく、なぜドイツに?
「2回ほどベルリンに行ったことがありました。最初に行ったのは、あるリサーチプログラムがあって、僕は演劇担当者として10日くらいベルリンに行き、いろいろと調べる仕事をしました。あの時、やっぱりここは違うな~と感じられたんです。リサーチをするために行ったので、報告書も書かなければならなかったのですが、その経験を経て僕に合う場所だと思ったし、もっと知りたいと思いました。その後、ドゥサンアートセンターで2014年に演出した『背水の孤島』が終わってすぐドイツ語が勉強したくて行ってきました。実は、高校のときに第2外国語もドイツ語だったんです。みんな留学は英語圏によく行くんですが、最近アメリカ演劇は、新しいというか前世代を超える何かが出てこないんですね。イギリスも戯曲はいいものがたくさん出ていますが、演劇を作ることにおいては自由ではないというか、演劇が公共的な産物である認識があまりないんです。でも、ドイツに行ってみたら、社会が力動的に動いているように見えて、演劇とか公共性のシステムが互いに影響を与え合いながら動いていたので、演劇人は自分の仕事に対して公共性、つまり公的なサポートを受けて作品を作っていることをちゃんと考えていたのが印象的でした」

街の壁にはいたるところでさまざまなストリートアートが。ストリートミュージシャンも多数 ©ドゥサンアートセンター

●ドイツでは、韓国の演劇とはどのような点が違いましたか?
「リサーチプログラムの時に色々と分かったんですが、首都ベルリンには、公共劇場が50館くらいあるんです。ベルリンだけで、です。もちろん、演劇だけではなくてオペラなども上演できる公立劇場ですね。その劇場を回りながら、いわゆるメジャーな作品を見たんです。でも、今度は実際に暮らしながらマイナーな作品も見始めたんです。すると、マイナーな作品は地域的な特性がとても強い。韓国は大学路とか明洞みたいに、スポットがぎゅっと集まっているんですね。一方ドイツは、地域ごとにコミュニティーが形成されているんです。例えば、旧東ベルリンの国境地帯は少数民族や貧しい人々が住む危なくて汚いところで、移民の地域なんです。それがベルリンの壁崩壊後、統一されてからそこに芸術家が暮らすようになり、新しくよみがえったんです。芸術家がいろんな役割を果たしているから、地域政府や国家もたくさん支援をしていました。

ジェヨプが妻とイベントを見に出かけるシーンも (写真左から)ユ・ジョンヨン、イ・ソヨン、チョン・ウォンジョ

今も、ノイケルン(Neuköln ※地名)辺りに行くと、しまった、来なければ良かったと、一瞬思うのですが、それでも昔に比べるとずいぶん変わりました。劇場もあるし、子ども博物館もある。そのなかの上演作を見てみると、例えば、オペラを作っても「オペラ」ではなく、「ノイケルンオペラ」と呼びます。自分たちは、オペラを良く知らないから、正統派のオペラは作れないと言って、独自のオペラを作るんです。劇場に行くと、クーラーもないから扇子を配っていて(笑)。でも見てみるといい作品なんですよね。とてもオルタナティブで、韓国で言うなら、アングラミュージカルみたいな感じで。ドイツではミュージカルという呼称は海外のライセンス作品を指すようで、彼らが作る作品は“音楽劇”と呼んでいました。
それにノイケルンという地域の特性を生かす芸術家が多いです。なぜかというと、芸術監督たちが移民2世だからです。歴史的に見ても、ベルリンには移民の労働者が多いのですが、その人たちはベルリン人、ドイツ人にならなければという意識もあまりなかったです。ドイツはヒトラー/ナチスの時代があったので、誰にも全体主義を強要してはいけないことをよく知っていますから。だから、多文化コードを生かした方が、より自分のアイデンティティとか競争力になると見ているんです。

劇中ではドイツ人俳優も登場。フィリップ・ヴィンディッシュマンは一人多役で登場する

それから、クロイツベルグ(Kreuzberg)辺りもアンダーグラウンドですね。ここで成功した芸術監督がマクシム・ゴーリキー劇場(Maxim Gorki Theater)の芸術監督としてスカウトされている。この劇場はドイツで最もメジャーな観光客が一番よく行く劇場ですね。以前行ったときにはとても古い印象を受けたんですが、新しい監督になってからは、かなり変わりました。彼は今はまたシャウビューネ(Schaubuehne)という劇場に移ったのですが。
とにかくドイツで分かったことは、アンダーグラウンドでうまくやっていけば、アンダーグラウンド的なハードウェアやソフトウェアをそのままオーバーグラウンドに持っていけることです。それが同時代のイシュー(話題)であり重要な作品なので。アンダーとオーバーの世界が区分されていないことでしょう。公共劇場の芸術監督たちが集まって国の政策を批判する記者会見を開き、宣言文を読み、デモしに行くんです。この人たちみんな税金もらって働いている人たちです。それが、韓国ととても違うなと思いました。

移民差別反対集会に参加している父娘 ©ドゥサンアートセンター

ベルリンに行ってみたら、すべての劇場が公立で、公共性を持っていて、彼らは今の政策の話をしていました。ドイツ座(Deutsches Theater)は、最も保守的な劇場なんですが、帰国する前にその劇場でドラマターグ協会が開くフェスティバルがあって行ってみたら、演劇人が政治的に何をするべきかについて5日間カンファレンスや公演をしていたんです。
よく見ると、すべての劇場が政治的な演劇をやっているようでした。それで“何でみんな政治的な演劇をするのか?”と聞いてみたら、“政治的な演劇をやらないと何をするんだ?”と言われました。もちろん、商業劇をやっている劇場もあるんですが。要は、彼らは政治的なイシュー、今一番問題になっているイシューを扱って作品を作るのが自分たちの義務だと思っているようでした。公共劇場で、旬の話題を扱う作品をやらないのは無責任だと思っているんでしょう。
公共劇場も、韓国の公共劇場よりずっと汚れています。なぜかというと、シャウビューネやドイツ座みたいな権威ある劇場に行っても、朝から子どもたちが遊んでいるんです。昼間には町の人たちが講演、朗読会、出版記念会などで使っていて、夜にはプロ劇団が使います。とても有名な俳優も地域の住民のためにワークショップをしないといけません。国立団体に所属する俳優は、契約期間の間、例えば5年間は外部の仕事は絶対してはいけません。出演料とは別に月給を400万ウォンくらいもらいますから。あと、終演後には俳優は観客と一緒にビールを飲むんです。義務ですね。地域ととても密接な関係なんです」

(写真左から)ジェヨプの妻ソヨン役:イ・ソヨン、スンオク役のカン・エシム、ナギョン役のキム・ウォンジョン

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取材・文:イ・ホンイ 取材協力:ドゥサンアートセンター

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.22

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.22

 

キム・ジェヨプのドイツ体験記 『思想は自由』

5月23日からドゥサンアートセンターSpace111で、韓国演劇界を牽引する気鋭の劇作家、演出家キム・ジェヨプの新作演劇『思想は自由(생각은 자유)』が開幕しました。このタイトルはドイツの民衆歌謡「Die Gedanken sind Frei(思想は自由)」から借りてきたそうです。

この作品には「キム・ジェヨプ」を演じる俳優が登場し、実際に彼が2015年に一年間過ごしたドイツでの出来事を舞台で再現しながら、またそのときの記憶について語っていきます。ベルリンという都市、ドイツの演劇界、そしてそこで出会った韓国人の生活を舞台上に並べ、それらを通して今の韓国を客観的に見ようとした作品です。

新作が常に注目を浴びるキム・ジェヨプ

まるで私小説を連想させるこのような劇作術は、いつしかキム・ジェヨプを代表するものになりました。2013年に初演し、代表作となった『アリバイ年代記(알리바이 연대기)』は、彼と彼の父親の人生を描きながら、彼らが出会ってきた歴代大統領の話を、まるで目で見るエッセイのように表現した作品でした。また、去年発表した『検閲-彼らの言葉-(검열언어의 정치학: 두 개의 국민)』は、韓国演劇界に衝撃を与えた検閲問題に対し、関連した人々の言葉をそのまま集めて作りあげたものでした。
これら日本でも上演されて好評を得た作品や、韓国の近現代を生きた詩人キム・スヨン(김수영 1921-1968)が書いた詩の題名をそのまま使い、自分の中のキム・スヨン探しを試した『なぜ私は小さなことだけに憤慨するだろうか(왜 나는 조그마한 일에만 분개하는가)』など、彼の多くの作品が同様の形式で作られています。
ごく個人的な話をしているのに、作品全体が持つテーマはいつも社会的で政治的であるため、彼の作品は決して「私」的な物語という印象より、一種の「公」的な歴史のような印象を観客に与えます。そのため、よく「ドキュメンタリー」的だと説明されるキム・ジェヨプの作品は、実際に作品の素材だけではなく表現方法においてもドキュメンタリーのような作品が多いのです。

待望の新作だけに、すでに残席が少ない回もあるという『思想は自由』。台本の最初のページには、「演劇じゃなくてもいい演劇」と書いてありました。一般的な演劇の形式から離れた作品になりそうで、今回は、彼のどんな体験が描かれるのだろうか? と多くの観客に期待されるなか、開幕前の稽古場を訪ね、創作の背景を伺いました。

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【プロフィール】
キム・ジェヨプ(김재엽 Kim Jae-Yeoup)
劇団「ドリームプレイ テーゼ21」代表/世宗大学映画芸術学科教授
1973年大邱生まれ。98年に『9つの砂時計』で韓国演劇協会創作劇公募に当選。02年には『ペルソナ』が韓国日報 新春文芸に当選し、若手劇作家として頭角を現す。同年、故パク・クァンジョンが代表を務めた劇団「パーク」の創立メンバーとして参加し、『チェックメイト』を作・演出して演出家としても始動。03年に劇団の前身となる「ドリームプレイ プロジェクト」の活動をはじめ、05年には劇団「ドリームプレイ」を創立。劇団第1作の『幽霊を待ちながら(유령을 기다리며)』はゴチャン国際演劇祭大賞と演出賞をW受賞した。以降も『誰が大韓民国の20代を救うのだろうか(누가 대한민국 20대를 구원할 것인가?)』(09年)、『ここ、人がいる 여기, 사람이 있다』(11年)など演劇賞の受賞作も多く、新作戯曲は常に注目を集めている。13年に初演した『アリバイ年代記』は最も歴史ある東亜演劇賞の作品賞と戯曲賞を受賞。韓国演劇評論家協会「今年の演劇ベスト3」、月刊「韓国演劇」の「今年の演劇ベスト7」に選ばれるなど、主要な演劇賞を総なめした。
また11年には蓬莱竜太原作『まほろば(마호로바)』、14年には中津留章仁原作『背水の孤島(배수의 고도)』など、日本作品の演出も手がけている。
●劇団「ドリームプレイ」公式Facebook https://www.facebook.com/theaterdreamplay/


【公演情報】
ドゥサン人文劇場 2017:葛藤 Conflict
演劇『思想は自由』(생각은 자유)

2017年5月23日~6月17日 ドゥサンアートセンターSpace111

<出演>
●スンオク役:カン・イェシム
●ジョンホ役:チ・チュンソン
●イ・サンボク役:ハ・ソングァン
●ジェヨプ役:チョン・ウォンジョ
●ソヨン役:イ・ソヨン
●ツカサ役ほか:ユ・ジョンヨン
●コ・ナギョン役ほか:キム・ウォンジョン
●クォン・ユンビ役ほか:パク・ヒジョン
●インカ役ほか:ユン・アンナ(Anna Rihlmann)
●キュレーター役ほか:フィリップ・ヴィンディッシュマン(Philipp Windischmann)

作・演出:キム・ジェヨプ/美術:シン・スンリョル/照明:チェ・ボユン/音楽・音響:ハン・ジェグォン/小道具:イ・スビン/人形作家:キム・ギホン/衣装:オ・スヒョン/ヘアメイク:イ・ジヨン/映像撮影:イム・ソンア/映像:ユン・ミンチョル

取材協力:ドゥサンアートセンター


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[PLAY]井上ひさし原案『木の上の軍隊』韓国版、稽古場写真を公開

[PLAY]井上ひさし原案『木の上の軍隊』韓国版、稽古場写真を公開

 

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新兵役のソン・ドゥソプ

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新兵役のシン・ソンミン

世界各国で上演された話題作や韓国オリジナルの秀作戯曲を上演している「演劇列伝」。その第6シーズンとなる「演劇列伝6」の開幕作となる『木の上の軍隊』が、初日を控え、稽古場写真を公開した。

第二次世界大戦当時、沖縄で敵の攻撃を避けて巨大なガジュマルの木に登って身を隠し、以降2年間もの間、樹上で過ごした二人の兵士の実話をもとにした物語。2010年に逝去した、日本を代表する劇作家井上ひさしが、死の直前まで執筆を準備していたという幻の作品だ。残された資料をもとに蓬莱竜太が執筆し、栗山民也が演出、井上版に出演予定だった藤原竜也主演で死後3年を経て、2013年に上演された作品が、今回韓国で初めて上演される。

日本オリジナル版でも特徴的だった、ステージを埋め尽くす樹上のセットを韓国版でも再現。この舞台美術は、「演劇列伝」で現在再演中の古沢良太原作『趣味の部屋』でも美術を手がけた、舞台美術家の伊藤雅子が担当している。兵士役の俳優たちは、極限の状況で生きた兵士たちをリアルに演じられるよう、稽古場でも立体的な仮設セットを組み、稽古を重ねたという。

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分隊長役のユン・サンファ(写真上)とキム・ヨンミン

新兵役のシン・ソンミンは「仮設セットでの稽古が最初は大変でしたが、慣れるにしたがって楽になりましたた。木の上で演技するのは心配ですが、期待感のほうが大きいです」と語っている。また、分隊長役のキム・ヨンミンは「実際に木を昇ったり降りたりするようなセットになっているので、日常生活では使わない筋肉を使い、筋肉痛になりました。今回僕たちのチームはお互いの筋肉痛をいたわりながら親しくなったようです(笑)」と、ユニークな表現で和やかな稽古場の様子を伝えている。

生きるために誰かを殺さねばならないという戦争の矛盾。そして樹上という極限の状況で起こる二人の兵士の対立や理解を通して、我々の生活そのものが終わらない戦争であり、人間が本当に守らねばならないものは何かを問う『木の上の軍隊』は12月19日、20日のプレビュー公演から開幕。来年2月28日まで、芸術の殿堂 自由小劇場で上演される。

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ガジュマルの木の精役のカン・エシム(左)とユン・ウンスク


kinoueposter【公演情報】
演劇『木の上の軍隊』(너무 위의 군대)
2015年12月19日~2016年2月28日 芸術の殿堂 自由小劇場

<出演>
●分隊長役:ユン・サンファ、キム・ヨンミン
●新兵役:ソン・ドゥソプ、シン・ソンミン
●木の精役:カン・エシム、ユン・ウンスク

原案:井上ひさし/作:蓬莱竜太/演出:カン・リャンウォン/音楽監督:チャン・ヨンギュ/振付:クム・べソプ/舞台:伊藤雅子/照明:チェ・ボユン/衣装:カン・ギジョン


 

<メイキング映像・インタビュー>

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[PLAY]少年犯罪の加害者家族の再生を描く秀作『少年Bが住む家』開幕

[PLAY]少年犯罪の加害者家族の再生を描く秀作『少年Bが住む家』開幕

 

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デヒョン役のイ・ギヒョン

国立劇団が2015年度「若い演出家伝」シリーズの第1弾として上演する、演劇『少年Bが住む家』のプレスリハーサルが開幕を控えた4月13日、国立劇団ペク・ソンヒ チャン・ミンホ劇場で行われた。

『少年Bが住む家』は、CJ文化財団が実施している新人クリエイター育成事業「CJクリエイティブマインズ」の演劇部門選定作となり、2014年に大学路で初演してその作品性の高さと俳優たちの熱演が話題となった作品だ。

物語の舞台は、14歳のときに誤って殺人を犯してしまった少年デファンとその家族が住む家。模範囚だったデファンは保護観察処分となり自宅に戻っていたが、近所では「悪魔の家」と呼ばれているこの家を訪ねる者は誰もいなかった。父親は息子が自立するために自身と同じく自動車整備工になるように促していたが、母親は息子が表に出ることを恐れ、罪を犯したのは私のせいだと自分を責め続ける。一方のデファンは夜ごとに現れるもう一人の自分の姿、“少年B”の悪夢に悩まされていた。事件以降、一家は息をひそめるように暮らしてきたが、ある日、隣家に引っ越してきた若夫婦の妻が事情を知らず挨拶に訪れたことで、日常に少しずつ変化が表れはじめる。

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デヒョンの父役イ・ホジェと母役カン・エシム

殺人を犯した少年とその家族たちをじっくりと見つめた本作を生み出したのは、脚本家、演出家ともにいま韓国演劇界の次世代旗手と注目を浴びる女性たちだ。
今年『屋上のカウボーイ』やドゥサンアートセンターSpace111で行ったリーディング公演『女は泣かない』などの脚本を執筆したイ・ボラムは、まだ20代ながら日常に潜むさまざまな問題に切り込んだ作品を次々と発表している。本作は1999年に起きた米・コロンバイン高校乱射事件の加害者の母親が、事件から10年後、被害者たちに謝罪の手紙を送ったというエピソードを知って構想したという。今回の再演にあたり「犯罪者であっても誰かの子であり、子を失う母になるかもしれない、という看過しがちな現実を受け止める瞬間が来るかもしれない」というテーマを観客に投げかけ、「それに対する悩みや怒りを乗り越える瞬間を共有したい」と述べている。
shonenb22また演出のキム・ソヒはイ・ユンテク、キム・グァンポ、パク・グニョンなど錚々たる劇作家・演出家を輩出した演劇実験室恵化洞1番地出身。『あなたの手』『怪物が住んでいる』など身近な素材を取り上げた社会派作品を発表し、多数の演劇賞も受賞している。今作では生活感漂うセットと、過剰な効果を排したシンプルな演出によって、登場人物の心象と演技に集中させることに成功している。

デファン役のイ・ギヒョン、母親役のカン・エシム、姉ユナ役のイ・ウンジョンら初演メンバーに加え、父親役には大ベテランのイ・ホジェが、そしてデファンを苦しめる少年Bを『模範生たち』やミュージカル『ラブレター』のカン・ギドゥンが演じている。家族それぞれが抱える苦悩を、俳優たちが少ないセリフのなかでも見事に表現しているなか、カン・エシム演じる母親が嗚咽し、震えながら心情を吐露する様は、涙なしには見られないほど胸に刺さる名シーンのひとつだ。

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少年B(カン・ギドゥン)の出現に苦しむデヒョン

近年日本でも、青少年犯罪における加害者および被害者の人権や処遇について議論を呼んでいるが、犯罪者とその家族を取り巻く厳しい世間の眼、そして再生への希望を静謐かつ鋭く切り取った秀作『少年Bが住む家』は4月26日まで同劇場で上演される。


shonenbposter【公演情報】
演劇『少年Bが住む家』(소년B가 사는 집)
2015年4月14日~4月26日 国立劇団 ペク・ソンヒ チャン・ミンホ劇場

出演:イ・ホジェ、カン・エシム、ペク・イクナム、チェ・ジョンファ、イ・ウンジョン、イ・ギヒョン、カン・ギドゥン

芸術監督:キム・ユンチョル/脚本:イ・ボラム/演出:キム・スヒ/舞台:イ・チャンウォン/照明:パク・ソンギョ/衣装:イ・ミョンア/扮装:チ・ビョングク/音楽:チョン・ソンイ/舞台監督:グ・ミンチョル/助演出:キム・ヨンス

 

<フォトギャラリー>

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