土田真樹の「エーガな日々」Vol.2

 

「ゆうばりファンタに愛されたミューズ、キム・コッピ」

OLYMPUS DIGITAL CAMERAここ数年、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭(以下、ゆうばりファンタ)に毎年参加しているキム・コッピ。
彼女の知名度を高めたのは、ヤン・イクチュン監督作品『息もできない』であるが、ゆうばりファンタが彼女の映画人生を変えたといって過言ではない。演技力の高さとピュアな癒し系ともいえる美貌に魅了された日本の映画関係者は少なくない。KレコードのYプロデューサーもそんなひとり。筆者のところに、彼女の連絡先を知りたいと連絡が来たのが3年前。その縁は『クソすばらしいこの世界』(2013年 監督・脚本/朝倉加葉子 ⇒公式サイト)で結実した。
そして、今年は『グレイトフルデッド』(2013年 監督・脚本/内田英治 ⇒作品情報)を引っさげてゆうばりに帰ってきた。『グレイトフルデッド』は、超高齢化社会というズシリと重いテーマを背景に、孤独な老人たちを観察するという趣味を持つ“孤独ウォッチャー”の女。人生に失望し、今まさに孤独死をを迎えようとする老人。そんなふたりが繰り広げる破壊力満点の愛憎劇であるが、キム・コッピ演じるスヨンは、老人たちの家を訪ねて話を聞くテラピーのボランティア。しかしながら、ふたりの愛憎劇に巻き込まれてしまう不運な韓国人女性である。
彼女に出演を決めた理由を聞くと「内田監督から会いたいと連絡があり、韓国で会ったのですが、そのときは具体的な話は出なかったのですが、『君を僕の映画に出演して欲しい』と口説かれたのは覚えています」と、内田英治監督からの積極的なアプローチがあったという。
出演が決まり、スヨンの役作りで苦労した点を問うと、特になかったという「スヨンは他人に愛を分かつ慈愛に満ちた女性です。ボランティア活動に共感する気持ちもありますし、最大限自分の中にあるものを引き出そうとしました」と等身大で演じられたと語った。

OLYMPUS DIGITAL CAMERAところで、近年立て続けに日本映画に出演しているキム・コッピだが、日韓の映画作りの違いをどのように感じているのだろうか。「映画作りは、日本も韓国も特に違いを感じることはありません。やはり違いは作品によってですね。内田監督は役者に一任して、自分から演技指導をしません。塩見役の笹野高史さんとのやり取りは自分たちで考えながら演じました」と、ベテラン役者同士がわかる阿吽の呼吸があった。「笹野さん、撮影の合間は、いつも最新スマートフォンをいじっているんです。あのお年でIT機器を使いこなしているのはすごいなと思いました(笑)」と感心しきりだった。

今や日本映画界のホラークィーンの座を着々と固めつつあるが、ホラー映画にこだわる理由について「ゆうばりで会った映画関係者からオファーをもらうので、そんな作品ばかりなんです。もちろん、違ったジャンルの映画もやってみたいですよ」と笑っていたのが印象的だった。
キム・コッピの今度の活動が気になるところだが、日本映画だけでなく韓国映画もラインナップされている。まずは、今年の秋にはキム・ドンヨン監督の『嘘(거짓말)』が公開を控えており、香港で撮影するドイツ映画への出演も決まっている。座右の銘は「あるがままに」。向上心よりも、今の自分が好きだ。これからも自然体の演技で世界の映画監督を魅了し続けるのだろう。

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