土田真樹の「エーガな日々」Vol.3

 

「今、韓国インディーズが面白い」

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映画『萬神』試写会より(写真左)から、パク・チャンギョン監督、ムン・ソリ、キム・グムファ、リュ・ヒョンギョン、キム・セロン

タイトルのごとく、ここ最近劇場公開されている韓国インディーズが熱い。イタリアのネオレアリズモ、フランスのヌーベルヴァーグ、ニューヨークを中心としたアメリカン・ニューシネマなどなど、いつも新たな波はインディーズ映画からやってきた。
ここでなぜ、韓国インディーズが熱いかというと、商業映画とのボーダレス化が進んできたことと、商業映画では扱いそうなテーマや視点から実験とも違う、ある種の冒険的作品が登場してきたことによる。

韓国におけるインディーズ映画といえば、民主化運動の啓蒙手段であり、大学の教室や労働組合の集会所などでひっそりと上映されてきた。いわゆる386世代(注)の監督には民主化啓蒙映画出身の監督も少なくない。

彼らは韓国映画界の寵児となり、韓国映画界に新たなうねりを起こしたが、いかんせん韓国の映画人のライフサイクルは短い。韓国の撮影現場に行ってみると、若いスタッフが多いことに驚く。ほとんどが20代で、30代だとちらほらだ。で、彼らが年を重ねてからの行き場といえば、監督や撮影監督など撮影現場の管理職的なポストにある者は、大学の講師となって後輩育成に邁進する。
一部の売れっ子監督を除いては大手の映画会社から声をかけられることもなく、現役にこだわるのであればインディーズに身を置くしかないのである。

『南部軍』や『ホワイトバッジ』などの戦争大作映画で一世を風靡したチョン・ジヨン監督らが第一線から退いて久しい。冤罪事件をテーマにチョン・ジヨン監督がアン・ソンギ主演で撮った『折れた矢』は、インディーズ映画ながらも数々の映画賞を受賞し、チョン・ジヨンの復活とまで言われた。その後も社会問題に切り込んだ作品を監督、および制作し続けており、すっかり社会派映画人のイメージが定着した感がある。また、イ・ジャンホ監督はオ・グァンノクを主演に迎え、19年ぶりの新作長編映画『視線』を監督し、健在ぶりをアピールしていた。
人間国宝となったムーダン(巫堂)キム・クムファの人生を描いた『萬神』は、ドキュメンタリーと再現フィルムが混在したユニークな作品。子供時代、少女時代、中年時代をそれぞれ、キム・セロン、リュ・ヒョンギョン、ムン・ソリが演じている。観客動員数1万人を超えればヒット作と言われる韓国インディーズにあって、公開3週目で3万人を超えるヒットとなった。

昏睡状態に陥って数十年間眠っていた売れない小説家が、彼が目覚めたときには有名作家になってたというエピソードを描いた『ロシアン小説』、花札の出目の数字が韓国の成人ならば誰でも持っている住民登録番号と一致した者が死ぬ『ゴーストップ殺人』など、インディーズならではともいえるユニークな作品が続々と発表されている。女子高生レイプ事件を描き、海外の映画祭で高評価を得て数々の賞を受賞した『ハン・ゴンジュ』も最近劇場公開され、話題を集めている。

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映画『ハン・ゴンジュ』試写会より (写真左から)キム・ソヨン、チョン・ウヒ、チョン・インソン、イ・スジン監督

既存世代の返り咲きと新しい才能の台頭が韓国インディーズを活気づかせ、韓国映画界全体に少なくないシナジー効果を与えている。インディーズという小さな波が、やがて上記したようなうねりに変わっていく時を僕たちは生きている。

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映画『ゴーストップ殺人』記者会見より (写真左から)イ・スンジュン、クォン・ナムヒ、ソン・ヨンジェ、キム・ジュングォン監督
注:1990年後半に監督デビューした、当時30代で1980年代に大学に入学した1960年代生まれの映画監督のことを指す。インテル製のCPUである386プロセッサーにちなんだ呼び名でもあり、現在はほとんどの監督が40代となった今、486世代とも呼ばれるようになった、中には50代となった者もおり、ペンティアム世代(586世代)とも呼ばれるとか。いずれにしろ、韓国映画界は中堅監督が主流を成している。

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