「DIRECTURG42の第1作―『傷だらけの運動場』」
今回は、私が所属している創作集団「DIRECTURG42(ディレクターグ42/디렉터그42)」をご紹介したいと思います。日本に比べると、韓国は若手劇団の活躍はあまり目立たないように見えますが、実はいろんな形の試みが行われています。「DIRECTURG42」もその一つです。
「DIRECTURG42」は、Director(演出家)+Dramaturg(ドラマターグ)+42(「間」を意味する韓国語「サイ」が数字の42と同じ発音です)で作られた言葉です。劇団第12言語演劇スタジオ(제12언어연극스튜디오)に所属する俳優・演出家のマ・ドゥヨンが主宰し、主に英語圏作品の翻訳・ドラマターグとして活動しているマ・ジョンファ、そして私イ・ホンイの3人がメンバーの小さな団体です。
特に、マ・ドゥヨンは、劇団月の国椿の花(달나라동백꽃)の『ロプンチャン旅芝居一座(로풍찬 유랑극단)』『くるくるくる(뺑뺑뺑)』や、昨年大学路芸術劇場で上演された『DEMOCRACY(데모크라시)』、東京デスロック作品の韓国版『三人いる!(세 사람 있어!)』、そして青年団の『東京ノート』の韓国版『ソウルノート(서울노트)』など、数多くの演劇に出演したベテラン俳優で、日本でも『カルメギ』『シンポジウム』『多情という名の病』などの舞台に立ったことがあります。漢陽(ハニャン)大学の在学中の2004年から演出を始めましたが、本格的に演出家としてデビューしたのは2012年『Dr.Fritz or』(David Ives作)からです。彼はこれまで上演したティム・クローチ作『オークツリー』(2013)、ヨン・フォッセ作『私は風』(2014、2015)など、奇抜なコンセプトを持つ海外作品を翻訳し、独自の解釈を入れるという演出の特徴を持っています。
しかし、意外と翻訳劇を上演するためには、多数の難関を突破しなければなりません。勿論、翻訳劇は既に原作戯曲が観客から評価を得て検証された作品を再び作り上げるので、いろんな意味で安全かもしれません。でも創作劇でないと助成金を申請できないケースもあります。また、有名な演劇賞を受賞した作品や既に検証された作家の作品ではない限り、「韓国で上演しても面白いか?」「いま韓国で上演する価値があるか」について厳しく問われます。今も世の中には面白い作品が次々と生まれているのに、どうしても上演するまでに時間差ができてしまうのがもったいない気がするのも正直な気持ちです。そこで、韓国を含めて世界のあちこちにアンテナを張り、さまざまな素材を集めて実験をしてみようと思って始めたのが「DIRECTURG42」です。そのために、従来の劇団の形ではなく、俳優が所属していないクリエイター集団を作り、海外と韓国演劇のハブ―いわば、ネットワーキングのような機能を果たすことを目標としているのです。
そしてその第1歩として上演するのが『傷だらけの運動場(상처투성이 운동장 Gruesome, Playground, Injuries)』です。今アメリカで最も注目を浴びている作家の一人、ラジヴ・ジョセフ(Rajiv Joseph)が2009年に発表した作品ですが、同年に初演された彼の別の作品『バグダッド動物園のベンガルタイガー(Bengal Tiger at the Baghdad Zoo)』は、今年12月8日から27日まで東京・新国立劇場小劇場で上演されます。昨年ドゥサンアートセンターで上演した『背水の孤島』の原作者である劇団TRASHMASTERSの中津留章仁さんが演出するこの作品は、実話に基づいたイラク戦争をめぐる物語ですが『傷だらけの運動場』は男女二人だけが出演する、かわいい……でも少しグロテスクな演劇です。
物語はケイリンとダグの8歳から38歳までを描いています。まず登場する舞台はある学校の保健室。高いところから落ちて怪我したダグと、お腹の調子が悪いケイリンが出会い、二人は友達になります。ケイリンはダグの傷を手で触ってあげるのですが……ここでシーンが変わり、二人は20歳になっています。次の舞台は病院で、ダグは前歯一つと左目をなくしていて、見舞いにきたケイリンに、自分の傷を触ってほしいと頼むのですが、今度は断られてしまうのです。
この作品は2幕8場で構成されているんですが、以降も、13歳、28歳、18歳、30歳、23歳……と、過去と未来が交互に登場し、二人が38歳になる最後のシーンまでが描かれます。すべてのシーンでダグは怪我をしていて、どんどん身体がボロボロになっていくのです。なのにケイリンが自分の傷を触ってくれたら治ると信じているダグを見ていると、この物語はコミック・ファンタジーなのかと疑ってしまうほどです。でも、もし私たちが大人になるまで負う心の傷を身体の傷に変換したら、ダグに負けないくらいの満身創痍になるかもしれない、という作品です。
本公演は5月8日(金)の夜7時半から、1回のみ上演される予定です。地下鉄4号線恵化(ヘファ)駅4番出口そばにあるソウル演劇センターの2階、アカデミールームにて無料で行われます。このかわいいカップルを演じるのは、コミカルな演技が素晴らしい劇団第12言語演劇スタジオの俳優ペク・ジョンスンさんとパンソリを専攻しながらコンテンポラリ・アートの世界でも大活躍中のチョ・アラさんです。舞台セットは作らず、俳優が観客の前で戯曲を読むリーディング形式で上演されます。
今後「DIRECTURG42」は、主に英語圏と日本の最新作を韓国に紹介しながら、マ・ドゥヨンというアーティストの生々しい成長の軌跡を見守っていきたいと思っております。ご期待宜しくお願い致します!
【公演情報】
「ソウル創作空間演劇祭」参加作
DIRECTURG42『傷だらけの運動場(상처투성이 운동장)』
リーディング公演
5月8日(金) 夜7時半開演 ソウル演劇センター2F
出演:ペク・ジョンスン、チョ・アラ
●「ソウル創作空間演劇祭」公式ブログ⇒ http://cafe.naver.com/creatingspace
●「ソウル演劇祭」公式サイト⇒ http://www.stf.or.kr/
●ソウル演劇センター公式サイト⇒ http://www.e-stc.or.kr/
●ソウル演劇センター地図⇒ (NAVER地図)
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