鄭義信ワールドの魅力『歌うシャイロック』
4月5日から20日まで春満開の南山の国立劇場で、鄭義信演出『歌うシャイロック』(原作/シェイクスピア「ベニスの商人」)が公演されました。1年に2~3作品は必ず韓国でも公演される鄭義信さんの作品は、韓国でも多くの観客を得、鄭義信ワールドに魅了されたファンもいます。私が見に行った日も500席の客席は満席!
『歌うシャイロック』は、『赤道直下のマクベス』(ソン・ジンチェク演出)に続く韓国での新作。シェイクスピア誕生450周年を記念して、国立劇団が製作した作品です。「ベニスの商人」はご存知のように、友人バサーニオの結婚のためにユダヤ人の金貸しシャイロックから金を借りた貿易商アントーニオは、期日までに返済できない時は肉1ポンドを与えると契約します。しかし、財産を積んだアントーニオの船は難破し、全財産を失った彼はシャイロックに金を返すことができなくなってしまいます。そんな中、シャイロックの娘ジェシカはロレンゾと駆け落ちします。友人の助けで富豪の娘ポーシャと結婚したバサーニオは、この知らせを聞き、金を手に裁判に駆けつけますが、シャイロックは頑なにアントニオの肉1ポンドを要求。そこに若い法学者に扮したポーシャが登場し、肉は切り取ってもいいが、一滴の血でも流せば契約違反であると裁判を収拾します。シャイロックはならば金を受け取ると申し出ますが一度拒絶しているため認められず、アントーニオの命を奪おうとした罪で全財産を没収されるという話です。
原作「ベニスの商人」はアントーニオのこと。しかし、鄭義信さんはシャイロックに焦点を当てて『歌うシャイロック』として音楽劇に脚色しました。とはいえ、シャイロックに焦点を当てながらも、鄭義信ワールドの魅力のひとつであるひとりひとりの登場人物の悲喜劇こもごもの人生を描き出し、業突く張りな金貸しシャイロックも含め登場するすべての人々が悲しくも愛おしい人間たちとして観客に伝わってきました。実は私、中学生の頃にはじめて「ベニスの商人」を読んで、まったく納得できませんでした。(その後は一度も読んでいませんが)でも、鄭義信版「ベニスの商人」は、誰もがそれぞれ事情を抱え、それぞれの事情のなかで人生の悲喜劇が生まれ、それらが絡み合い、私たちの日常を作っているのだなと妙に納得。これが鄭義信ワールドなのでしょう。
今年はシェイクスピア誕生450周年ということで、韓国では続々とシェイクスピア作品が上演されます。言葉はわからなくとも、シェイクスピアの作品ならどんな作品か知っている方も多いと思います。旅行にシェイクスピア観劇を組み込むのもをいいかもしれません。
■国立劇団『テンペスト』(キム・ドンヒョン演出)⇒公式サイト
5月9日~25日 国立劇場タルオルム劇場 出演:オ・ヨンス、オ・ダルスほか
■明洞芸術劇場『ジュリアス・シーザー』(キム・グァンボ演出)⇒公式サイト
5月21日~6月15日 明洞芸術劇場 出演:ソン・ジュンハク、ユン・サンファほか
■シェイクスピア演劇祭⇒公式サイト
6月20日~7月20日 忠武アートホール 中劇場ブラック
・7月1日~8日 劇団旅行者『ロミオとジュリエット』(ヤン・ジョンウン演出)
・7月12日~20日 劇団76団&演戯団コリペ『狂ったリア2』
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