国立劇団

映像で出会う韓国の舞台!無料配信を続々実施

映像で出会う韓国の舞台!無料配信を続々実施

 

他国に先駆けて新型コロナウイルス感染症の防疫対策を徹底して行ってきた韓国。その手法が世界的に評価される一方で、密閉した空間に多数の観客が集う舞台シーンにおいては、日に日に規制の厳しさが増している。上演中作品の中断や、2~4月に上演予定だった多くの作品が、中止や延期を余儀なくされている状態だ。
そんななか、現在すべての作品が上演休止されている国立劇場をはじめ、公的機関が運営する劇場を中心に、過去のアーカイブなどを期間限定で無料公開する動きが始まっている。

以下に各団体と、映像公開スケジュール、映像へのリンクを紹介する。
(作品題名のリンクは、すべて映像への直接アクセスが可能)

【国立劇場】
国立劇場は、韓国の民俗芸能パンソリと芝居を融合した歌劇「唱劇(チャングク)」を上演する国立唱劇団と、韓国伝統舞踊を基盤とする国立舞踊団が過去に上演したアーカイブ映像を公式YouTubeチャンネルで期間限定無料公開中。

●国立唱劇団『覇王別姫』(2019年作)
公開日:公開中~4月8日(水)まで

●国立舞踊団『墨香』(2017年作)
公開日:公開中~4月10日(金)まで

◆「国立劇場」公式YouTubeチャンネル⇒ https://www.youtube.com/user/ntong2/featured
「国立劇場」公式サイト⇒ https://www.ntok.go.kr


【国立劇団】
国立劇団は、4月6日(月)~17日(金)の2週間、近年上演され好評を得ていた演劇4作品を公式YouTubeチャンネルで公開する。
すべての映像は公開日の午前10時から、24時間限定で公開される。

●『ペスト』(2018年)
公開日:4月6日(月)、13日(月)
原作:アルベール・カミュ 脚色・演出:パク・グニョン(劇団コルモッキル主宰)
出演:イ・チャンウ、カン・ジウン、チョ・ヨンギュ、パク・ヒョンジュン、キム・ハン他

●『ロクサーヌのためのバラード』(2017年)
公開日:4月8日(水)、15日(水)
原作:エドモン・ロスタン『シラノ・ド・ベルジュラック』
脚色:キム・テヒョン 演出:ソ・チュンソク
出演:キム・ジフン、アン・ビョンチャン、アン・チャンファン、ハ・ユンギョン他

●『1945』(2017年)
公開日:4月9日(木)、16日(木)
原作:ぺ・サムシク 演出:リュ・ジュヨン
出演:チュ・イニョン、キム・ジョンウン、パク・ユニ、イ・ボンリョン、キム・ジョンミン他

●『ミス連発』(2016年)※邦題:『間違いの喜劇』
公開日:4月10日(金)、17日(金)
原作:ウィリアム・シェイクスピア
演出:ソ・チュンシク、ナム・グンホ
出演:アン・ビョンチャン、イム・ヨンジュン、イ・ギヒョン、ペク・ソックァン他

このほかにも、公式YouTubeチャンネルでは「短い演劇朗読会(짧은 연극 낭독회)」と題し、国立劇団で2020年に上演予定の作品『趙氏孤児、復讐の種』『満船』『ヨンジ』の朗読映像も先行公開している。

◆「国立劇団」公式YouTubeチャンネル⇒ https://www.youtube.com/user/ntckmaster
「国立劇団」公式サイト http://www.ntck.or.kr


(写真左から)ソウル芸術団の無料公開作品『早い春、遅い冬』『金襴房』『七庶』『青い目のパク・ヨン』©ソウル芸術団

【ソウル芸術団】
ソウル芸術団は「チャンネルSPAC」と題して4月6日(月)~15日(水)に全4作品をNAVER TV「公演チャンネル」とV LIVEの「V MUSICALチャンネル」を通じて公開する。
※公開時間は各日午後7時半から、すべて1回限りの公開となる。

●『早い春、遅い冬』(2015年作)
公開日:4月6日(月)午後7時30分~9時
出演:コ・ミギョン、キム・ドビン、キム・ベッキョン、キム・ソンヨン、パク・ヨンス、チョ・プンレ他

●『金襴房(クムランバン)』(2018年作)
公開日:4月8日(水)午後7時30分~9時20分
出演:キム・ゴネ、チェ・ジョンス、ソン・ムンソン、キム・ヨンハン、カン・サンジュンほか

●『七庶(チルソ)』(2017年作)
公開日:4月13日(月)午後7時半~10時
出演:パク・ヨンス、チョン・ウォニョン、パク・ガンヒョン、チェ・ジョンス他

●『青い目のパク・ヨン』(2013年作)
公開日:4月15日(水)午後7時半~9時50分
出演:イ・シフ、キム・へウォン、パク・ヨンス、チェ・ジョンス、キム・ドビン、チョ・プンレ他

◆NAVER TV 公演チャンネル⇒ https://tv.naver.com/theater
◆V MUSICALチャンネル⇒ https://channels.vlive.tv/EDE229/home
「ソウル芸術団」公式サイト⇒ http://www.spac.or.kr/


【貞洞劇場】
ソウル市庁舎近くに位置し、海外からの観光客も気軽に楽しめる韓国の伝統芸能をベースにした作品を上演している常設劇場「貞洞(チョンドン)劇場」。2月から開幕延期していた『赤壁』は正式に公演中止が発表されたが、上演を準備していた本作を公式YouTubeチャンネルで無観客上演の生中継が行われる。

●『赤壁』
4月8日(水)午後8時より
◆貞洞劇場公式YouTubeチャンネル⇒ https://www.youtube.com/jeongdongtheater
「貞洞劇場」公式サイト⇒ https://www.jeongdong.or.kr

貞洞劇場『赤壁』©貞洞劇場


【南山芸術センター】※4月7日情報追加

1960年代に開館し、韓国現代演劇のメッカとして社会問題を積極的に取り上げた新作演劇を継続的に上演。また日韓演劇交流の場としても活用されてきた南山(ナムサン)芸術センターでは、4月9日~30日まで「NAMSAN FLIX」と題し、6作品のアーカイブがソウル文化財団のNAVER TVチャンネルとYouTubeチャンネルで公開される。

4月13日(月)~15日(水)公開『全ての軍人は可哀そう』(日本公演時タイトル『哀れ、兵士』)広報映像

●『大晦日、またはあなたが世界を記憶する方式』
公開日:4月9日(木)~12日(日)
原作:チャン・ガンミョン 脚色:チョン・ジンセ 演出:カン・リャンウォン(劇団ドン)
出演:キム・ソクジュ、キム・ムニ、ユ・ウンスク、チェ・テヨン、シン・ソヨン
※「韓国が嫌いで」などで注目される若手作家チャン・ガンミョンの同名小説を舞台化。
2018年東亜演劇賞作品賞ほか、主要演劇賞を総なめした作品。

●『全ての軍人は可哀そう』(日本公演時タイトル『哀れ、兵士』)
公開日:4月13日(月)~15日(水)
作・演出:パク・グニョン(劇団コルモッキル)
出演:チャン・ヨニク、ソン・ジンファン、カン・ジウン、ソ・ドンガプ、コ・スヒ他
※芸術人ブラックリスト問題が明るみになったさなかに被害の当事者であったパク・グニョンが「国家とは何か」を問題提起した作品。を2016年に「フェスティバル/トーキョー」でも上演。

●『彼女を言います』
公開日:4月16日(木)~19日(日)
構成・演出:イ・ギョンソン(クリエイティブVaQi)
出演:チェ・ヨハン、ナ・ギョンミン、チャン・スジン、ウ・ボムジン、ソン・スヨン
※セウォル号事件で娘を失った母親にインタビューする形式で進行。クリエイティブVaQiのイ・ギョンソンはノンフィクションをベースに俳優と共同制作するスタイルの作品を多数発表している。

●『7番国道』
公開日:4月20日(月)~22日(水)
作:ペ・ヘリュル 演出:ク・ジャヘ(ここは当然、劇場)
出演:クォン・ウネ、パク・スジン、イ・リ、チョン・バクチャン、チェ・ヨハン
※サムスン半導体工場白血病事件と軍疑問死という、大きな社会問題となった事件の被害者遺族たちの闘いを取り上げた作品。

●『妻の感覚』
公開日:4月23日(木)~26日(日)
作:コ・ヨノク 演出:キム・ジョン(プロジェクト・ホワイル)
出演:ユン・ガヨン、ペク・ソックァン、イ・スミ、チェ・フェジン、ファン・スンミ他
※新作が常に話題となる女性劇作家コ・ヨノクが「三国遺事」で檀君を生んだとされるオンニョ(熊)の神話をモチーフにした創作劇。

●『青の国』
公開日:4月27日(月)~30日(木)
作・演出:キム・スジョン(劇団新世界)
出演:カン・ジヨン、クォン・ミナ、クォン・ジュヨン、キム・ドゥジン、キム・ボギョン他
※1967年アメリカで、ある高校の歴史の授業で行われた実験を基に制作。韓国社会における根本主義、他者への暴力と憎悪を取り上げた作品。

◆「ソウル文化財団」公式YouTubeチャンネル⇒ http://www.youtube.com/user/sfacmovie
◆「ソウル文化財団」NAVER TVチャンネル⇒ http://tv.naver.com/sfacmovie
「南山芸術センター」公式サイト http://www.nsac.or.kr


このほか、平素から韓国ミュージカル、演劇のオンラインストリーミングを実施しているポータルサイト運営のNAVER TVKAKAO TVでは、プレスコールの全編公開や生中継のダイジェストなど公開中の映像を見ることができる。

【NAVER】
◆NAVER TV 公演チャンネル⇒ https://tv.naver.com/theater
◆V MUSICALチャンネル⇒ https://channels.vlive.tv/EDE229/home

●ミュージカル『ドラキュラ』シッツプローブ(2020年2月14日放送分)

●ミュージカル『マリー・キュリー』プレスコールハイライト(2020年3月20日放送分)
●ミュージカル『英雄本色』プレスコール(2020年1月16日放送分)
●演劇『幻想童話』プレスコールハイライト(2019年12月26日放送分)
●ミュージカル『アイーダ』ショーケース(2019年10月28日放送分)


【KAKAO】
◆「メロンチケット公演実演チャンネル」⇒ https://tv.kakao.com/channel/3307050/video

●「第4回韓国ミュージカルアワード授賞式」(2020年1月20日放送分)

●ミュージカル『笑う男』プレスコール(2020年1月14日放送分)
●ミュージカル『マリー・アントワネット』プレスコール(2019年8月29日放送分)
●ミュージカル『シティ・オブ・エンジェル』コメンタリーライブ(2019年8月19日放送分)
●ミュージカル『エクスカリバー』プレスコール(2019年6月18日放送分)

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イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.12

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.12

 

演劇とドキュメンタリーの間で ― 『光の帝国』

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夫キヨン役のチ・ヒョンジュン(左)と妻マリ役のムン・ソリ

今年は韓国とフランスの修交130周年を迎えた年で、舞台芸術分野でもさまざまな企画が行われています。このような雰囲気のなか、今月は韓国の国立劇団とフランスのオルレアン国立演劇センターのコラボレーションにより制作された演劇『光の帝国(빛의제국)』をご紹介したいと思います。この作品は同名小説を原作にしていますが、この小説を執筆したキム・ヨンハ(김영하)は、1995年にデビューして以来、韓国で数々の文学賞を受賞しながら、アメリカ・フランス・ドイツ・日本・イタリアなど10カ国に著作が紹介されている小説家です。彼の代表作のなかで北朝鮮のスパイを主人公にした本作が、今回の上演作品として選ばれ、フランスの制作陣と韓国の実力派舞台俳優を集結して制作されたのです。フランスのスタッフは、小説家で演出家でもあるヴァレリー・ムレジャン(Valérie Mréjen)が脚色を、多くの海外共作に参加している演出家でオルレアン国立演劇センターの芸術監督のアルチュール・ノジシエル(Arthur Nauzyciel)が演出を務めています。ノジシエルは、本作を準備しながら去年、ジャン・ジュネの映画をベースにした『スプレンディーズ(Sprendid’s)』を同じ明洞芸術劇場で上演し、韓国の観客には馴染みのある演出家です。それから、演劇は6年ぶりの出演となった韓国を代表する映画俳優ムン・ソリ(문소리)と、同劇場で上演した『試練‐The Crucible(시련)』『旅立つ家族(길떠나는 가족)』などで主演を務めた俳優チ・ヒョンジュン(지현준)が出演することで開幕前から期待を集めていました。

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セットも衣装もすべてがグレートーンで統一

2016hikari1舞台セットは、二つの巨大なスクリーンが壁のように立てられていて、テーブルと椅子、ソファが置いてあるシンプルな構造です。舞台上にあるものは、俳優の衣裳を含めて全てがグレーのトーンに統一されていました。それは照明によって暖かいグレーにも見えたり、蛍光灯が使われるときには冷たいグレーに見えたりして、シーンによって異なる質感を見せました。それとは対照的に、バックにあるスクリーンにはとても美しくて多彩な色の映像が流れました。最近、韓国の演劇でも映像を取り入れるケースが多いですが、ここまで積極的に舞台の芝居とシンクロさせたのは珍しいと思います。加えて、ところどころ、俳優が肉声ではなく、舞台上に設置されているマイクを使って話すシーンもありました。例えば開演の際には、舞台上に既に上がっていた俳優のなかの一人が「公演中には携帯電話の電源を切ってください」などの案内コメントをしたのです。劇中では、俳優本人の北朝鮮に関する記憶がマイクを通して語られたりもしました。そのシーンは芝居と言うよりも、まるでプレゼンテーションでもするような印象がありました。

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室内や街中であらかじめ撮影された映像が舞台の演技とシンクロしていく

2016hikari6このような一風変わった演出方法を用いながら、本作は原作小説の世界を魅力的に描いていました。物語は、夫婦であるキヨンとマリのある一日を扱っています。映画輸入業者のキヨンはその日、妙なメールを受信します。そのメールが意味するのは「全てを捨てて、直ちに北朝鮮へ戻れ」というものでした。実は、彼は北朝鮮から来たスパイで、10年以上、何の指令ももらえないまま韓国で一般人のように過ごしてきたのです。彼は複雑な気持ちになり、同じく北朝鮮から潜入している仲間に会ったりタロット占いに行ったりします。一方、彼の妻であるマリはその日、不倫相手の大学生と会います。そして彼から自分の友だちと一緒に寝てほしいと言われ、三人でラブホテルに向かいます。しかし、もう一人、彼の友人(先輩)も外で待っていることを知り、彼女はその場を離れます。二人とも悲惨な一日を過ごしたその日の夜、キヨンは妻に真実を告白します。突然日常が壊れてしまったマリは戸惑い、彼に向かって「北朝鮮へ帰れ」と冷たく叫びます。でも、結局マリを離れないキヨンの姿を最後に、この物語は終わります。
2016hikari4舞台と映像を、そして肉声とマイクの声を横断させながら、この演劇はフィクションとドキュメンタリーの境界を曖昧にしていった作品だったと思います。それが可能だったのは、全てのエピソードがコラージュのように構成されていたからでしょう。「最も近いと信じていた人の秘密を知ったら?」という普遍的な話をベースにしながら、こんな嘘のようなことが本当に起こっても不思議ではない韓国を外からの視線で見ることができた、面白い体験でした。ストーリーに感情移入させるより、提示するイメージを通して観客に考えさせる意図が強かったと言えるでしょう。それに、小説だけではなく、ルネ・マグリットの同名絵画『光の帝国』―青く光っている空の下、街は夜のなかに沈んでいる絵―も連想させ、韓国の舞台ではあまり見られない視覚的な刺激があったのも楽しかったです。3年という長い準備期間を経て誕生した作品だからこそ味わえるチームワークも印象深に残ります。フランス人の演出家と韓国俳優が一つの目標に向かっているように感じられたからです。本作は3月27日までのソウル公演終了後、5月17日から21日までフランスのオルレアン国立演劇センターで上演される予定です。フランス人にとってはこの作品世界がどのように映るのか、とても気になります。


2016hikariposter【公演情報】
演劇『光の帝国』(빛의 제국)
2016年3月20日~3月27日 明洞芸術劇場

出演:ムン・ソリ、チ・ヒョンジュン、チョン・スンギル、ヤン・ドンタク、キム・ハン、ヤン・ヨンミ、キム・ジョンフン、イ・ホンジェ
原作:キム・ヨンハ/演出・脚色:アルチュール・ノジシエル/脚色:ヴァレリー・ムレジャン

●国立劇団(明洞芸術劇場)公式サイト 作品紹介ページ

写真提供:韓国国立劇団 ©NATIONAL THEATER COMPANY OF KOREA
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<『光の帝国』ハイライト映像>


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[PLAY]少年犯罪の加害者家族の再生を描く秀作『少年Bが住む家』開幕

[PLAY]少年犯罪の加害者家族の再生を描く秀作『少年Bが住む家』開幕

 

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デヒョン役のイ・ギヒョン

国立劇団が2015年度「若い演出家伝」シリーズの第1弾として上演する、演劇『少年Bが住む家』のプレスリハーサルが開幕を控えた4月13日、国立劇団ペク・ソンヒ チャン・ミンホ劇場で行われた。

『少年Bが住む家』は、CJ文化財団が実施している新人クリエイター育成事業「CJクリエイティブマインズ」の演劇部門選定作となり、2014年に大学路で初演してその作品性の高さと俳優たちの熱演が話題となった作品だ。

物語の舞台は、14歳のときに誤って殺人を犯してしまった少年デファンとその家族が住む家。模範囚だったデファンは保護観察処分となり自宅に戻っていたが、近所では「悪魔の家」と呼ばれているこの家を訪ねる者は誰もいなかった。父親は息子が自立するために自身と同じく自動車整備工になるように促していたが、母親は息子が表に出ることを恐れ、罪を犯したのは私のせいだと自分を責め続ける。一方のデファンは夜ごとに現れるもう一人の自分の姿、“少年B”の悪夢に悩まされていた。事件以降、一家は息をひそめるように暮らしてきたが、ある日、隣家に引っ越してきた若夫婦の妻が事情を知らず挨拶に訪れたことで、日常に少しずつ変化が表れはじめる。

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デヒョンの父役イ・ホジェと母役カン・エシム

殺人を犯した少年とその家族たちをじっくりと見つめた本作を生み出したのは、脚本家、演出家ともにいま韓国演劇界の次世代旗手と注目を浴びる女性たちだ。
今年『屋上のカウボーイ』やドゥサンアートセンターSpace111で行ったリーディング公演『女は泣かない』などの脚本を執筆したイ・ボラムは、まだ20代ながら日常に潜むさまざまな問題に切り込んだ作品を次々と発表している。本作は1999年に起きた米・コロンバイン高校乱射事件の加害者の母親が、事件から10年後、被害者たちに謝罪の手紙を送ったというエピソードを知って構想したという。今回の再演にあたり「犯罪者であっても誰かの子であり、子を失う母になるかもしれない、という看過しがちな現実を受け止める瞬間が来るかもしれない」というテーマを観客に投げかけ、「それに対する悩みや怒りを乗り越える瞬間を共有したい」と述べている。
shonenb22また演出のキム・ソヒはイ・ユンテク、キム・グァンポ、パク・グニョンなど錚々たる劇作家・演出家を輩出した演劇実験室恵化洞1番地出身。『あなたの手』『怪物が住んでいる』など身近な素材を取り上げた社会派作品を発表し、多数の演劇賞も受賞している。今作では生活感漂うセットと、過剰な効果を排したシンプルな演出によって、登場人物の心象と演技に集中させることに成功している。

デファン役のイ・ギヒョン、母親役のカン・エシム、姉ユナ役のイ・ウンジョンら初演メンバーに加え、父親役には大ベテランのイ・ホジェが、そしてデファンを苦しめる少年Bを『模範生たち』やミュージカル『ラブレター』のカン・ギドゥンが演じている。家族それぞれが抱える苦悩を、俳優たちが少ないセリフのなかでも見事に表現しているなか、カン・エシム演じる母親が嗚咽し、震えながら心情を吐露する様は、涙なしには見られないほど胸に刺さる名シーンのひとつだ。

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少年B(カン・ギドゥン)の出現に苦しむデヒョン

近年日本でも、青少年犯罪における加害者および被害者の人権や処遇について議論を呼んでいるが、犯罪者とその家族を取り巻く厳しい世間の眼、そして再生への希望を静謐かつ鋭く切り取った秀作『少年Bが住む家』は4月26日まで同劇場で上演される。


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演劇『少年Bが住む家』(소년B가 사는 집)
2015年4月14日~4月26日 国立劇団 ペク・ソンヒ チャン・ミンホ劇場

出演:イ・ホジェ、カン・エシム、ペク・イクナム、チェ・ジョンファ、イ・ウンジョン、イ・ギヒョン、カン・ギドゥン

芸術監督:キム・ユンチョル/脚本:イ・ボラム/演出:キム・スヒ/舞台:イ・チャンウォン/照明:パク・ソンギョ/衣装:イ・ミョンア/扮装:チ・ビョングク/音楽:チョン・ソンイ/舞台監督:グ・ミンチョル/助演出:キム・ヨンス

 

<フォトギャラリー>

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木村典子の「お隣の演劇」Vol.4

木村典子の「お隣の演劇」Vol.4

 

鄭義信ワールドの魅力『歌うシャイロック』

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「歌うシャイロック」シーン写真より シャイロック役を演じたのは演劇、ミュージカルと多くの舞台に立ってきたパク・ギリュン  写真提供:国立劇団

4月5日から20日まで春満開の南山の国立劇場で、鄭義信演出『歌うシャイロック』(原作/シェイクスピア「ベニスの商人」)が公演されました。1年に2~3作品は必ず韓国でも公演される鄭義信さんの作品は、韓国でも多くの観客を得、鄭義信ワールドに魅了されたファンもいます。私が見に行った日も500席の客席は満席!

『歌うシャイロック』は、『赤道直下のマクベス』(ソン・ジンチェク演出)に続く韓国での新作。シェイクスピア誕生450周年を記念して、国立劇団が製作した作品です。「ベニスの商人」はご存知のように、友人バサーニオの結婚のためにユダヤ人の金貸しシャイロックから金を借りた貿易商アントーニオは、期日までに返済できない時は肉1ポンドを与えると契約します。しかし、財産を積んだアントーニオの船は難破し、全財産を失った彼はシャイロックに金を返すことができなくなってしまいます。そんな中、シャイロックの娘ジェシカはロレンゾと駆け落ちします。友人の助けで富豪の娘ポーシャと結婚したバサーニオは、この知らせを聞き、金を手に裁判に駆けつけますが、シャイロックは頑なにアントニオの肉1ポンドを要求。そこに若い法学者に扮したポーシャが登場し、肉は切り取ってもいいが、一滴の血でも流せば契約違反であると裁判を収拾します。シャイロックはならば金を受け取ると申し出ますが一度拒絶しているため認められず、アントーニオの命を奪おうとした罪で全財産を没収されるという話です。

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「歌うシャイロック」 写真提供:国立劇団

原作「ベニスの商人」はアントーニオのこと。しかし、鄭義信さんはシャイロックに焦点を当てて『歌うシャイロック』として音楽劇に脚色しました。とはいえ、シャイロックに焦点を当てながらも、鄭義信ワールドの魅力のひとつであるひとりひとりの登場人物の悲喜劇こもごもの人生を描き出し、業突く張りな金貸しシャイロックも含め登場するすべての人々が悲しくも愛おしい人間たちとして観客に伝わってきました。実は私、中学生の頃にはじめて「ベニスの商人」を読んで、まったく納得できませんでした。(その後は一度も読んでいませんが)でも、鄭義信版「ベニスの商人」は、誰もがそれぞれ事情を抱え、それぞれの事情のなかで人生の悲喜劇が生まれ、それらが絡み合い、私たちの日常を作っているのだなと妙に納得。これが鄭義信ワールドなのでしょう。

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イ・ジェグン演じる“ヒゲの女中”ネリッサ(写真中)をはじめ、ポーシャの家に仕えるメイドはみな男性が演じて笑いを誘った。 写真提供:国立劇団

今年はシェイクスピア誕生450周年ということで、韓国では続々とシェイクスピア作品が上演されます。言葉はわからなくとも、シェイクスピアの作品ならどんな作品か知っている方も多いと思います。旅行にシェイクスピア観劇を組み込むのもをいいかもしれません。

「テンペスト」写真提供:国立劇団

「テンペスト」写真提供:国立劇団

 ■国立劇団『テンペスト』(キム・ドンヒョン演出)⇒公式サイト
5月9日~25日 国立劇場タルオルム劇場 出演:オ・ヨンス、オ・ダルスほか
■明洞芸術劇場『ジュリアス・シーザー』(キム・グァンボ演出)⇒公式サイト
5月21日~6月15日 明洞芸術劇場 出演:ソン・ジュンハク、ユン・サンファほか
■シェイクスピア演劇祭⇒公式サイト
6月20日~7月20日 忠武アートホール 中劇場ブラック
・7月1日~8日 劇団旅行者『ロミオとジュリエット』(ヤン・ジョンウン演出)
・7月12日~20日 劇団76団&演戯団コリペ『狂ったリア2』

 

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