ナミヤ雑貨店の奇蹟

[PLAY]日韓問題の影響が舞台にも…東野圭吾原作演劇『ナミヤ雑貨店の奇蹟』公演中止

[PLAY]日韓問題の影響が舞台にも…東野圭吾原作演劇『ナミヤ雑貨店の奇蹟』公演中止

 

日韓の政治・経済界で続く軋轢が、韓国の舞台シーンにも影響を及ぼし始めている。

ミュージカル『スリル・ミー』などの制作会社として知られるダル・カンパニーが、10月に予定していた演劇『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の再演中止を発表した。
本作は、2016年に劇場街大学路にある劇場ビル「デミョン文化工場(現・YES24 Stage)」の開館2周年記念の新作開発プロジェクトの一環でショーケースを行った後、2018年8月~10月に同劇場で本公演を上演していた。韓国で最も人気が高い日本の小説家である東野圭吾の同名小説を原作に、劇団キャラメルボックスの上演脚本をもとに韓国版を制作した作品だった。(詳しくはショーケース上演時の裏側を紹介した翻訳家イ・ホンイさんの⇒コラムを参照)

ダル・カンパニーが公式SNSに公開した告知文とその翻訳は以下の通り。

こんにちは、ダル・カンパニーです。
2019年10月に予定していた演劇『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の公演を取消することになりご案内いたします。

現在ダル・カンパニーは「誰も知らないところで悩んでいる現代人に伝える温かい慰労」という企画意図で長い間準備期間とリーディング公演を経て2018年8月に初めてお披露目した演劇『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の再演を準備していました。

しかし、最近日本との政治・経済的な問題で悪化している両国の関係と、それによる汎国民的憤怒に深く共感し、作品を通じて伝えようとしたメッセージとは別に、現時点で本作品を(舞台に)上げることは望ましくないと判断しました。

作品を待ってくださっていた観客の方々にご了承を申し上げ、共に作品を準備してきたスタッフと俳優の方々にも深い謝罪の言葉をお伝えします。

2019年8月20日 ダル・カンパニー一同

筆者はショーケースから本作を見てきたが、2016年に行われたショーケースは、人気俳優の起用もあり、チケットも即完売するほどで作品の評判も上々だった。その反響を受けて制作された本公演も、原作の作品世界を丁寧に舞台で再現した作品となっていた。しかしながら、ショーケースとはキャストが異なったことや、原作がベストセラーゆえの舞台化へのハードルの高さ、公演界全体に客足が落ちる夏季の上演だったことなども重なり、筆者が観劇した際は空席が目立っていた。韓国の舞台シーンでは、初演の結果が厳しくとも再演で内容、興収ともにリカバーしようとすることは少なくないが、原作小説は人気の作品でさえ「日本発」というキーワードへの風当たりの厳しさには勝てなかったということだ。

2018年『ナミヤ雑貨店の奇蹟』初演プレスコールハイライト映像(「ザ・ミュージカル」公式YouTubeチャンネルより)

これに先立ち、韓国の公立劇場では日本関連作の上演中止が始まっていた。

現在、芸術の殿堂で25日まで上演している日韓共同制作の人形劇『ごめんね、ありがとう! るる島の秘密』は、地方公演と年末に予定されていた再演がキャンセルされた。
一方、国立劇団は9月に予定していた演劇『氷花』の上演を急遽中止にした。この作品は1940年代に発表されたイム・ソンギュの戯曲が原作で、1920~30年代に極東ロシアに強制移住させられた朝鮮人を描いた作品だという。この場合は作品の内容よりも、原作戯曲が日本植民地時代に行われた「国民演劇祭」参加作だったことが、問題視されたようだ。
(参照記事:東亜ドットコム「韓日葛藤に焦れる文化界…公演中止し日本活動を隠す」

日本製品不買運動の影響は、舞台シーンのみならず、文化界全体に拡散しつつある。例えば、翻訳出版を準備していた日本小説の出版延期や、著者を招聘したイベントなども中止。演劇の原作となった東野圭吾の小説は2割も売り上げを落としたという。
(参照記事:韓国経済「出版界、反日雰囲気に日本の本マーケティング非常」)

舞台に関わる制作者や俳優など当事者たちは、日本との文化やコンテンツ交流に対する肯定的な意識はいまも変わっていないのが本音だろう。しかし社会の雰囲気や世論にそれが飲み込まれようとしている。公立劇場のみならず、民間の制作会社も影響を受け始めていることは、日韓両国で政治や経済を動かしている人々や文化芸術に関わる人々が、もっと真剣に受け止める必要がある。そして、これはもはや対岸の火事ではないのだ。

文:韓劇.com さいきいずみ

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.20

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翻訳劇制作の世界、演劇『ナミヤ雑貨店の奇蹟』

朗読公演『公演、出会う 同行』のポスター ©デミョン文化工場

南山アートセンターで今年初めて行われる朗読公演「サーチライト」2017 ©南山アートセンター

韓国では、1月から大学路では生まれたばかりの赤ちゃんのようなショーケース作品がたくさん上演されました。前回のコラムで紹介した「NEWStage」とほぼ同じ時期から始まった「創作産室(창작산실)」の作品群も2月まで上演が続きました。「創作産室」は、オリジナルの演劇・ミュージカルを公募し制作するプログラムですが、韓国は3月から年度が変わるため、2月は一種の成果発表の場になっているのです。

それと同時にソウル文化財団の助成金公募申請の締切りも2月にありました。大学路で活動する多くの演劇人は助成金をもらって作品を制作するため、2月は大学路のあちこちで申請書類を作成する演劇人を目にします。厳しい競争のなかで助成金を得て新しい作品を作るためには、入念な準備が必要なのです。

韓国にはさまざまな助成金プログラムがありますが、どうやって選定作を決めるか気になる方もいらっしゃると思います。例えば、ソウル文化財団は書類審査を通して、「創作産室」は書類審査とショーケースを通して作品を選定します。加えて、最近は、“朗読公演”という形式を活用するケースが増えています。ショーケース公演に比べて制作期間と予算を節約でき、事前に観客の反応を見ることができるからでしょう。去年から試験的に朗読公演を行い、今年からは定期的なプログラムとして編成する予定のドゥサン・アートセンター、加えて今年3月に行われる南山アートセンターの「サーチ・ライト」がそれです。以前からアート志向の強い作品をサポートしているこの二つの劇場だけではなく、このような試みは一般観客の反応に、より敏感な商業劇の世界では実はもっと前から行っています。日本でも上演された『女神様が見ている』などを生んだ、CJ文化財団が実施している「CJクリエイティブマインズ」がその代表的なプログラムです。
そして、2014年のオープン当初から話題の小劇場作品を多数上演し、新たな大学路のメッカとなっている「デミョン文化工場」も去年から新作発掘プログラム「公演に出会う、同行(공연, 만나다 동행)」(以下「同行」)を始めています。「同行」は創作劇と翻訳劇を問わず、デミョン文化工場が制作できそうな良い脚本があれば誰でも応募できるプログラムで、書類審査を受けて選ばれた3作品は、全2回の朗読公演を行い、観客からのフィードバックを検討した上で、一つの作品を選定。その作品は正式にデミョン文化工場のレパートリーとして本公演になるのです。

今年行われた第2回「同行」には、一つ特徴がありました。それはミュージカル『Boys in the band(보이즈 인더 밴드)』以外の二つの作品、音楽劇『曲がれスプーン(구부러져라, 스푼)』と演劇『ナミヤ雑貨店の奇蹟(나미야 잡화점의 기적)』は、日本の作品を原作にしていることでした。『曲がれスプーン』は劇団ヨーロッパ企画の上田誠による同名原作をミュージカル『洗濯(パルレ)』の作・演出家チュ・ミンジュが脚色と演出を務めた作品。一方、東野圭吾の同名小説が原作の演劇『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は劇団キャラメルボックスの成井豊の脚本を、『女神様が見ている』の演出家パク・ソヨンが演出した作品です。
翻訳劇の場合は、ある程度、既に検証されたコンテンツだと思われることが多く、なかなか新作のためのサポートは受けられないのですが、数少ない創作支援の機会の中で、韓国演劇界とミュージカル界の全体的な翻訳劇の比率を考えてみても、日本の作品が二つも入っていたのは、やはり珍しいことでした。

『同行』で上演された『曲がれ!スプーン』(写真左)と『Boys In The Band』 ©デミョン文化工場

2014年に上演された演劇『容疑者Xの献身』のポスター

今回、演劇『ナミヤ雑貨店の奇蹟』を準備したのは、実は去年の第1回「同行」で朗読上演されたミュージカル『容疑者Xの献身』も制作した「ダル・カンパニー」でした。同じく東野圭吾の原作小説/成井豊の脚本をベースに、2014年に上演された演劇『容疑者Xの献身』(イ・キプム演出)を見て「同行」の朗読公演につなげたダル・カンパニーが、再び力を入れて作ったのです。
ちなみに、東野圭吾は韓国で最も愛されている日本の小説家の一人です。韓国を代表する大型書店、教保(キョボ)文庫によると、2007年~2016年の間、日本の小説で最も売れたのが「ナミヤ雑貨店の奇蹟」で、特に2014年からは3年連続1位を記録したほどのベストセラーになっているそうです。「容疑者Xの献身」も6位に入るほど、東野作品は韓国で親しまれているのですが、それゆえに、今年の「同行」は期待と共に心配の声も高かったのも事実でした。そんななかで最も反応が良かったのは、やはり『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の朗読公演で、特に俳優の力が大きかったと評判になりました。ナミヤ雑貨店に盗みに入る、敦也、翔太、幸平を演じたホン・ウジン、チュ・ミンジン、チェ・ソンウォンは、まるで本公演のように台本を持たず台詞を全て覚え、動きもつけて演じました。何よりも、ドラマ『応答せよ1988』出演後、白血病が発覚して舞台を離れていたチェ・ソンウォンが9カ月ぶりに復帰するとあって、舞台ファンのみらなずマスコミも注目していました。また、この作品は登場人物がとても多いのですが、前出の3人以外の26名の登場人物を7名の俳優が巧妙に演じ分けました。朗読公演ながらも俳優全員にとって、とても負担が大きい作品でしたので、それを見事にこなした俳優への拍手が大きかったのです。

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』朗読公演より。(写真左から)チュ・ミンジン、チェ・ソンウォン、ホン・ウジン ©デミョン文化工場

『ナミヤ』チームが稽古を始めたのは1月23日で、朗読公演の2月10日~11日まで約3週間の時間がありました。翻訳者として参加した私もこの期間の間、たくさん学び、またいろんなことを感じることができました。

  1. 多くの観客に既に読まれた小説を舞台化するにあたり、どうすれば新鮮だと感じてもらえるか。
  2. 大劇場用として作られた脚本を小劇場、それに朗読公演という形式にうまく作れるかどうか。
  3. 日本人の人物名が、韓国の観客には難しくて覚えにくいが、30名に近い登場人物をどのように整理すれば良いか。
  4. 日本語だからこそ可能な駄洒落のようなセリフをどうするか。
  5. 韓国の観客には受け入れがたい日本独特の部分をどうするか。

などの課題があり、それをスタッフや俳優とみんなで悩む時間でもありました。
は、演出家パク・ソヨンの奇抜なアイデアで、朗読するときに俳優が台本を置く譜面台の前に役名とキャラクターイメージの絵を描いた紙を掛けておき、紙芝居のような楽しさとともに、役柄の情報を観客に提供しました。
は、原作を最大限変更しない、という方針になりました。

全ての翻訳劇がそうですが、このように翻訳の過程は翻訳者一人の作業だけでは終わりません。俳優に読んでもらってからわかることもありますし、今の韓国社会の雰囲気に影響される場合もあります。例えば、2014年に翻訳を担当し、ドゥサンアートセンターで上演した『背水の孤島』(中津留章仁原作)は、東日本大震災を取り上げた作品でしたが、稽古が始まるころにセウォル号事件が起こったことで、観客たちの作品の解釈に大きな影響を与えました。ほかにも、去年、著名な芸術家によるセクハラや性的暴行事件が相次いで話題となったため、最近は性的な冗談や女性を卑下する表現などに観客が敏感となってしまい、抗議をすることも多くなりました。このような背景もあり、①から⑤までを慎重にクリアしていくことは制作陣にとってとても大事な作業となりました。

このように、さまざまな試行錯誤を経て、作品はようやく観客に出会うことができるのですが、翻訳者には、最後の仕事が残ります。一所懸命に楽しく観劇すること。加えて観客の反応をつぶさに観察することです。トイレやロビーで観客たちが交わす対話、SNSでのつぶやきの全てを丁寧にモニターして、特定の台詞が気に入らなかった、とか、逆に良かった、などのコメントが出ていないか確認するのです。このモニタリングで特に指摘がなければ、作品は観客に何の違和感もなく、自然に受け入れられたことを意味するので、翻訳者として安心しても大丈夫だという証拠になるとも言えます。

2015年にLGアートセンターで上演『少しはみ出て殴られた』プレスコール写真より

そういえば昔こんなことがありました。2015年にLGアートセンターで上演した演劇『少しはみ出て殴られた』(土田英生原作)を観劇したミュージカル俳優のホン・グァンホさんが、終演後に「これ翻訳劇だったんですか? 全然分からなかった。オリジナル脚本だと思いました」と言ってくれたのです。これは、個人的には最高の褒め言葉でした。アイロニーですが、翻訳者は存在感が薄ければ薄いほど、嬉しいのです。今回の『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の朗読公演も、翻訳者として少しでも成長する機会を与えられたことを心から感謝しています。

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さいきいずみの「韓劇日誌」Vol.1

さいきいずみの「韓劇日誌」Vol.1

 

「何見る!? 2014韓国ミュージカル」

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豪華キャストが勢ぞろい!ミュージカル「フランケンシュタイン」

2014公演ラインナップmusical1

 

Facebookでは先行公開しておりました、今年の韓国ミュージカルラインナップです。画像をダウンロードして今年の観劇計画に役立てていただければと思います。

※無断転載、商用利用はご遠慮ください。また、表中の日程は確定したものではありませんのでご注意ください。

2013年に比べると作品数減。大型作品の新作は数えるほどしかありません。海外ライセンスの新作はEMKの「太陽王」「マリー・アントワネット」と、フランス王宮ものが目立っている一方、「プリシラ」「キンキーブーツ」というドラァグクイーンが主人公の作品が面白そうです。今年は「ヘドウィグ」「ラ・カージュ」の再演もありますので、何気に“綺麗なお兄さん(オネエさん?)”がたくさん観れる1年ですね。

韓国オリジナル作品は何と言っても「フランケンシュタイン」がキャスティング、制作規模ともに群を抜いた豪華さです。あとは作品自体のクオリティが高ければ、韓国から海外に向けて本格発信できる大型ミュージカルの先駆となれるでしょう。中、小劇場作品では「シャーロック・ホームズ2~ブラッディ・ゲーム」「共同警備区域JSA」は必見作。「~ホームズ」はパート1の日本版が2月に上演されたのでご覧になった方も多いはず。パート2は“切り裂きジャック”の話がベースになっています。「~JSA」は昨年のトライアル公演を好評に終え、劇場サイズを格上げして早くも本公演化。予習したい方は舞台版とは若干違いますが、イ・ビョンホン、ソン・ガンホらが主演した、パク・チャヌク監督の映画「JSA」(2000年)を観てお出かけください。

2014公演ラインナップmusical2再演作品では「スウィーニー・トッド」がもっともホットな話題を提供しています。初めて韓国ミュージカルの演出を手掛ける宮本亜門さんが、オーディションを実施し、「やはり声が生半可じゃない!」と韓国俳優を絶賛するツイートをされるほど。豪華キャスト発表を楽しみにしておきましょう。

そして、10年ぶりの「ブラッド・ブラザーズ」、6年ぶりの「ギャンブラー」(偶然2作とも過去にイ・ゴンミョンさんが出演)や、5年ぶりの「思春期」、かつてはこの作品がMミュージカルの代表作だった「愛は雨に乗って~サ・ビ・タ」が3年ぶりにカムバック、など久々の再演作品も気になります。また、昨年から制作予定に入っていた「嫌われ松子の一生」や今年新たにラインナップに入ってきた「ナミヤ雑貨店の奇蹟」、そして2年ぶりに再演する「深夜食堂」など、日本原作の作品は、ストーリーをご存知の方も多いと思いますので、韓国語のセリフがまだ聞き取れなくても楽しめるのではないかと思います。

すでにリピーターの方も多いですが、韓国ミュージカルは情熱的な俳優とノリの良い観客たちと一緒に楽しめる本場韓国で観るのが断然楽しいです。まだ韓劇デビューしていない方は、思い切って飛んでいらっしゃることをおすすめします!

 

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