『ジキル&ハイド』『ラ・マンチャの男』『スウィーニー・トッド』『デスノート』など海外ライセンスの大型ミュージカルを多数上演してきたODカンパニーが韓国オリジナルの新作に挑む『イル・テノーレ(IL TENORE)』を12月から上演する。
『イル・テノーレ』はイタリア語でテノールの意味。本作は韓国で日帝強占期と呼ばれる日本植民地時代だった1930年代の京城(現在のソウル)を舞台に、朝鮮初のテナーを夢見る青年ユン・イソンと、オペラ公演のスタッフとなるソ・ジニョン、イ・スハンを中心に、抑圧的な時代のなかで夢に向かって走る若者たちの姿を描いたファクション(펙션/ faction:史実をもとにした創作劇)ミュージカル。
主人公ユン・イソンには実在のモデルがいる。1930~40年代に東洋一のテナーと呼ばれ活躍していた声楽家イ・インソン(李寅善 1907-1960)だ。当時朝鮮初のイタリア留学を経て帰国後オペラを初上演。声楽家でありながら朝鮮初の医大、セブランス医科大学(現在の延世大学校)を卒業した医師でもあった才人の半生がドラマチックに描かれる。
<イ・インソン参考資料> 韓国民俗文化大百科事典 이인선
本作は、ミュージカル『バンジージャンプする』『メイビー、ハッピーエンド』などの秀作を生んだ劇作家・翻訳家のパク・チョンヒュと、作曲家ウィル・アロンソンのコンビによる3作目の作品。『ベルナルダ・アルバ』『僕とナターシャと白いロバ』など、様々な韓国オリジナル作品を創作・支援してきたウラン文化財団が2018年にリーディング公演を実施。当時の主人公3人はチェ・ジェリム、チョン・ミド、イ・サンイが務めていた。
その後ODカンパニーが作品の版権を獲得。約4年の準備期間を経て、今回本公演に至った。
今回の本公演にあたり演出を担当するキム・ドンヨンは、パク作家とウィル作曲家とともに『メイビー、ハッピーエンド』を大ヒットに導き、一躍人気演出家に。以降『デスノート』韓国版、『ミセス・ダウトファイア』韓国版と、近年は大劇場ライセンス作品の演出も手がけている。振付は『ビートル・ジュース』韓国版のコナー・ギャラガー、舞台美術は『デスノート』『ドラキュラ』のオ・ピリョンと、韓国トップクラスの制作陣を揃えている。
本作の主人公となる朝鮮初のテノール、ユン・イソン役はホン・グァンホ、パク・ウンテ、ソ・ギョンスが務める。両親の望み通り、医師を志していた内気な優等生だった少年が、天才的なオペラの才能を見出され、朝鮮初のテノールを夢見るようになる。イソンの青年期~晩年までを演じる3人は、確かな歌唱力と豊富な舞台経験をもつ俳優たちだけに、彼らの出演が作品の方向性を決め、クオリティを高めてくれるのは間違いない。
イソンが出演するオペラの演出を担当することになるヒロイン、ソ・ジニョン役はキム・ジヒョン、パク・ジヒョン、ホン・ジヒが演じる。
ソ・ジニョンは表向きには文学を愛する大学生のサークル「文学会」のリーダー。だが実は日本からの独立を目指す抗日運動家の団体である「文学会」を率いる女傑でもある。緻密な戦略家で朝鮮の魂を守ろうとするキャラクターだけに、凛とした女性像が得意な3人は、まさにハマり役と言える。
ソ・ジニョンと同じく「文学会」メンバーで、オペラの舞台美術を担当することになるイ・スハン役をチョン・ジェホンとシン・ソンミンが演じる。スハンは常に銃を携帯し、国を支配する日本人たちと闘う準備をしている危険なほどに情熱的な運動家。「文学会」のリーダーの座をめぐり、ジニョンとライバル関係にもなるという。愛国心を鼓舞するため、オペラ上演に尽くすキャラクターを持ち味の異なる2人がどのように演じるのか興味深い。
この主要3キャラクターのほか、朝鮮最高のレコード会社「ゴールドレコード」社長で、業界に影響力をもつプロデューサー役チェ・チル役をチェ・ホジュンが演じる。
今春、ODカンパニーのシン・チュンス代表は、グローバル展開を目指すオリジナル作品の開発、上演プランを公表。まず10月に、ジェレミー・ジョーダン、エヴァ・ノブルザダというブロードウェイのトップ俳優を主人公に据えた第一弾作品『グレート・ギャツビー』をプロデュースし、米ニュージャージー州のペーパーミルプレイハウスでプレビューを成功させたばかり。続く第二弾作品となる『イル・テノーレ』も世界に通じる普遍性と高い完成度を備え、今後韓国国内のみならず、ブロードウェイなど海外進出を目指しているという。
韓国ミュージカル界の大きな期待を背負うオリジナル新作『イル・テノーレ』は12月19日から2024年2月25日まで芸術の殿堂CJトウォル劇場で上演される。
【公演情報】
韓国ミュージカル『イル・テノーレ』(일 테노레 IL TENORE)
2023年12月19日~2024年2月25日 芸術の殿堂CJトウォル劇場
<出演>
・ユン・イソン役:ホン・グァンホ、パク・ウンテ、ソ・ギョンス
・ソ・ジニョン役:キム・ジヒョン、パク・ジヒョン、ホン・ジヒ
・イ・スハン役:チョン・ジェホン、シン・ソンミン
・チェ・チル役:チェ・ホジュン
プロデューサー:シン・チュンス/脚本:パク・チョンヒュ/作曲:ウィル・アロンソン/演出:キム・ドンヨン/振付:コナー・ギャラガー/美術:オ・ピリョン
写真提供:ODカンパニー
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