「韓国創作ミュージカルの課題①」 ライセンス作品にはない“違和感”
今年の韓国ミュージカル界は「フランケンシュタイン」の大ヒットや「シャーロック・ホームズ」「ブラック メリー・ポピンズ」の日本版上演などで、“創作ミュージカル(창작뮤지컬)”と呼ばれる韓国オリジナル作品の話題でもちきり。昨日ノミネートが発表された「ザ・ミュージカルアワーズ」を筆頭に、今年のミュージカル関係の授賞式では創作ミュージカルに多数の賞が与えられることでしょう。
すでにお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、近年制作・上演された創作ミュージカルには共通する3つのキーワードがあります。
①タイトルロールが海外の歴史的著名人
②サスペンス仕立てのストーリー
③事件の発端はトラウマ
①については実在する、しないを問わず、その名を聞けば世界中の誰もがキャラクターをイメージできる人物がタイトルロールになっています。
「フランケンシュタイン」
「シャーロック・ホームズ」
「アガサ」(アガサ・クリスティ)
「ブラック メリー・ポピンズ」
「アルセーヌ・ルパン」
「ジャック・ザ・リッパー」(切り裂きジャック)
などなど。下半期にEMKが上演するのは、歴史に名を残す女スパイの物語「マタ・ハリ」ですし。
②については、上でズラリと挙げた作品すべてが殺人や事件の背景を追っていくサスペンスものであり、その発端はキーワード③の「トラウマ」が背景にある作品が多いんです。
近年の韓国ミュージカル界は、いくつかの海外ライセンスミュージカルのヒットによって、市場の拡大を印象づけた一方で、例えば、実はオリジナル作品がそれほど評価を得られていなかった作品を買い、韓国版を上演していたりして、版権ビジネスのターゲットになった印象があります。
加えて、日本では頭打ちなドラマやK-POPに次ぐ、第3の韓流を狙った韓国ミュージカルの上演が増加。海外ライセンス作品は日本での上演が困難な作品が多いことから、韓国オリジナル作品を制作してライセンスを売る側に転じようとする動きに拍車がかかったわけです。しかし最近では日本での上演はあくまでステップに過ぎず、いま韓国エンタメ業界のすべてが目を向けている中国市場での展開が最終目標、と言われるようになってきました。
海外の著名なキャラクターを主人公に据えれば、衣装やセットの世界観なども含め、作品を作りやすいというのはあるでしょう。これまで海外ライセンス作品を制作してきたノウハウの蓄積で、雰囲気は出せていると思います。しかし、創作ミュージカルを見ていると海外ライセンス作品や海外の演出家を招聘した作品などにはない違和感を時折覚えるんです。時代設定があまり考慮されていないようなセットや衣装。劇中にいきなりローカルな展開が盛り込まれる~~例えば、叱られて反省するときに両手を挙げて正座する、など韓国でしか通用しない所作がヨーロッパを舞台にした作品に登場したりするわけです。もちろん、お遊び的に入るのは楽しくていいと思うんですが、それが結構、真剣に、無意識に、行われている。これを演出家も役者も気づいていないのはどうかな、と思います。
設定や登場人物に違いがあるとはいえ、似通ったサスペンスやスリラー作品が多いのも気がかりです。既存の韓国映画やドラマを見ても、過去のトラウマに起因するダークでウエットな物語を作るのは得意中の得意。復讐劇などネガティブなストーリーのほうが、韓国の観客たちもカタルシスを得やすいんだろうな、と思います。ただ個人的には、観劇中は面白くても見終わった後に深い感動まで得られる作品は少ないです。ほかにも海外ライセンス作品に登場した、“既視感”のあるセットやシーンが多い……とか、欲を言えば、セットデザインはひたすらモノや装飾を投入してデコラティブにするんじゃなくて、照明の効果を上手く利用した、もっとシンプルでモダンな感じにできないかな……とか。ついつい色々と考えながら観劇してしまっています。
いまはとにかく創作ミュージカルの制作規模を拡大させている過渡期ですから、しばらくはヒット作をロールモデルにした類似作が量産されるでしょう。しかし、今後は観劇後に温かな気持ちにさせてくれるようなロマンチックコメディや重厚で見ごたえあるヒューマンドラマなど、作品性を多様化させたり、革新的な衣装やセットが楽しめる作品が増えることを期待しています。
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