西便制

[PLAY]鄭義信がブレヒト×パンソリに挑戦! 唱劇『コーカサスの白墨の輪』制作発表会

[PLAY]鄭義信がブレヒト×パンソリに挑戦! 唱劇『コーカサスの白墨の輪』制作発表会

 

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取材陣を前に挨拶する鄭義信

演劇『焼肉ドラゴン』『ぼくに炎の戦車を』など、日韓演劇界でその動向が常に注目を浴びている劇作家・演出家の鄭義信(チョン・ウィシン)が、ブレヒトの原作を韓国伝統の歌劇、唱劇(창극 チャングク)方式で演出に挑む新作『コーカサスの白墨の輪』の制作発表会が、3月2日国立劇場へオルム劇場で行われた。

唱劇とは、歌い手(소리꾼 ソリクン)が節をつけながら物語を語る伝統芸能パンソリ(판소리)をベースに、芝居の要素が加わった韓国式の歌劇。鄭義信は、昨年国立劇場タルオルム劇場(中劇場)で『ヴェニスの商人』をミュージカル仕立てにした『歌うシャイロック』を上演して話題を呼んだが、今年は大劇場であるへオルム劇場で、しかも唱劇を演出するとあって、多数のメディアが取材に参加した。

ドイツの劇作家ベルナルド・ブレヒトが1944年に創作した戯曲『コーカサスの白墨の輪』は、ある領主の邸宅で女中として働くグルシェが主人公。衛兵のシモンと婚約したものの、クーデターにより領主は殺され、その妻は逃亡。さらにシモンは戦地に送られてしまい、グルシェはシモンの帰りを待ちながら、屋敷に残された領主の子を育てることになる。戦争によって翻弄されるいち庶民の姿をドラマチックに描く物語だ。
「西洋の作品と、パンソリがどう融合していくのかを自分の目で見てみたかった」という鄭義信は、「パンソリにどうチャレンジしていいのか悩んだが、パンソリには人間の奥底を震わせる何かがある。今回この作品にチャレンジすることで、自分の中の韓国人的なものを拾い上げられたらと思った」と唱劇に挑む意気込みを語った。
鄭義信とパンソリの出会いはイム・グォンテク監督の映画『西便制(ソピョンジェ)』(1993年)。鄭義信が脚本を手掛けた映画『月はどっちに出ている』と同時期に公開され、『西便制』の主演女優オ・ジョンへとも交流があったことで、一段とパンソリに興味を持ったという。唱劇の演出については「オペラの演出はやったことがあるが、パンソリは声の出し方が独特なので動きと声をどう合わせるか、という問題が立ちはだかっている」そうだが、本作を通して「喜劇と悲劇は一対。戦争によって引き裂かれた人たちの物語を通して、戦争と平和について問いたいと思います」と語った。

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(写真左から)国立劇団劇場長アン・ホサン、鄭義信、音楽監督キム・ソングク、芸術監督キム・ソンニョ

一方、唱劇の基盤となる作唱・作曲を担当するのは中央大学伝統芸術学部教授で、中央国楽管弦楽団団長でもあるキム・ソングク。「原作がもつ普遍的な物語の魅力を、唱劇としてどう伝えるか悩んだが、オペラやミュージカルのように誰もが口ずさめるような曲を1つ作ってみようと計画している」そうだ。伝統的な国楽の楽器のみならず、西洋の弦楽器やロック、デジタルサウンドも駆使して、韓国の音楽家が得意とするフュージョン的な楽曲を構成するようだ。
国立劇場では昨年、米国で活躍するルーマニア人演出家アンドレイ・サーバンが、パンソリの代表曲の一つ『春香歌(춘향가 チュニャンガ)』を演出した『DIFFERENT CHUNHYANG(다른 춘향)』を上演するなど、国外の演出家による唱劇の新機軸に力を注いでいる。国立劇場の芸術監督である女優キム・ソンニョは「原作の素材にひとさじ加えて親しみやすい作品にしてくれるのが鄭義信さんです。唱劇はずっと変化しています。21世紀に向けて間口を広げ、いまは新しいジャンルを開発する時です。唱劇は無限挑戦。チャレンジ精神を忘れず、面白い音楽劇を創っていきたい」と現役で舞台に立つ女優らしく、未来へむけて唱劇を発信していく姿勢を見せていた。

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(写真左から)裁判官アツダク役ソ・ジョングムとユ・スジョン、グルシェ役チョ・ユア、シモン役チェ・ヨンソク

物語の主人公となるグルシェ役チョ・ユア、シモン役チェ・ヨンソクは、国立唱劇団のインターン生のなかから、オーディションを経て大抜擢された。チョ・ユアは「まさか私がグルシェ役に選ばれるとは思っていなかった。演出家さんが純粋なイメージを買ってくれたと聞いたが、生まれて初めて純粋だと言われた(笑)」と話し、チェ・ヨンソクは「シモン役に決まった後、日本の演出家だと聞いてアニメや宝塚など日本の作品をたくさん見て予習したが、そのままの姿でいいんだ、と言われた」と、新人らしい初々しさを披露していた。そして、クライマックスに登場する裁判官アツダクをはじめ、一人多役で登場するのは国立唱劇団団員のユ・スジョンとソ・ジョングム。数々の舞台に立ってきたベテランの2人が新人を脇からガッチリと支えることになる。

kokasasu3鄭義信は、「グルシェやシモンなど主人公はいるが、俳優たちが全体で動く集団劇というところに注目してほしい」と語ったほか「最後のパーティーシーンは、原作とはまったく違う展開になる」と予告した。加えて、通常の座席と違い、「“白墨の輪”というタイトルを象徴するように舞台を円型に囲む構成にする」とのこと。「鄭義信は空間が使える演出家だと思ってもらえると思います」と締めくくった。なお、このところ年に1作は韓国で新作を発表していた鄭義信だが、来年、再来年はスケジュールの都合で難しいそう。鄭義信の作品世界と唱劇の魅力を一度に楽しめる、国立劇場の意欲作だけに、ファンならずとも見逃せない公演となりそうだ。

kokasasu5【公演情報】
2015 国立唱劇団 新作『コーカサスの白墨の輪(코카서스의 백묵원)』
2015年3月21日~28日 国立劇場 へオルム劇場
出演:ユ・スジョン、ソ・ジョングム、チョ・ユア、チェ・ヨンソク、ホ・ジョンヨル、キム・ミジン、ナム・へウン、イ・グァンウォン、イ・グァンボク

脚本・演出 鄭義信/作詞・作曲 キム・ソングク/振付 イ・ギョンウン/武術指導 栗原直樹/舞台デザイン イ・テソプ/照明 キム・チャンギ/衣装デザイン キム・ジヨン/小道具デザイン カン・ミンスク/扮装デザイン キム・ジョンハン

(写真左から)領主夫人ナテラ役キム・ミジン、裁判官アツダク役ユ・スジョン、グルシェ役チョ・ユア  写真提供:国立劇団

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(写真左から)領主役ホ・ジョンヨル、領主夫人ナテラ役キム・ミジン、グルシェ役チョ・ユア、シモン役チェ・ヨンソク  写真提供:国立劇団

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さいきいずみの「韓劇日誌」Vol.5 

さいきいずみの「韓劇日誌」Vol.5 

 

「“極私的” 2014年韓国公演界総括」

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演出、セット、衣装とすべてリニューアルした『モーツァルト!』

久々にコラム更新です。気が付けば前回から半年以上空いておりました(汗)。韓劇.com正式オープン後は、皆さんに大きな関心をいただきありがとうございました。まだまだ至らない部分も多いですが、2015年もよろしくお願い致します。
韓国の各メディアで年末に公演界の1年を総括する記事が上がっていたので真似してやってみようと思いました…が、普通にやっては面白くないので独断と偏見による、超私的な2014年の感想をUPしてみたいと思います。
さて、昨年1年間でいったい自分は何本舞台を見たのか? 先日チケットの半券を数えてみたところ、舞台関係のトークショーやショーケースなども入れて200本超。おお、こんなに見てたんだなぁと我ながらビックリしました。チケット代にいくらつぎ込んだのか、考えるのも恐ろしいです(笑)。
ピックアップした作品は、2014年の上演作をミュージカルについては3つのカテゴリに分け、一方、演劇は印象に残ったBEST10を紹介したいと思います。作品タイトルにはすべて公演データベースPlayDBのリンクを張りました。気になった作品があったら、調べてみてください。

【ミュージカル部門】

<大劇場 ライセンス作品編>BEST3
『モーツァルト!』
『マリー・アントワネット』
『ウィキッド』
大劇場のライセンスミュージカルは「ミュージカルは曲ありき」を再認識させられた、必殺キラーチューンを持っている作品が並びました。特に“All New”と謳った『モーツァルト!』の再演は、原作のもつ強さを改めて実感しました。新演出は、例えばコロレド大司教のトイレシーンなどベタな部分は必要最小限にし、ヴォルフガングの苦悩に焦点を当てて再構築していたので賛否両論あったと思いますが、私は良かったと思います。そして、安定のイム・テギョン、大躍進のパク・ウンテ、瑞々しさのパク・ヒョシンと、ヴォルフガング役は誰を見てもクオリティを保てていたのが凄かった。ピックアップした他2作に比べて段違いの規模である世宗文化会館での上演、という部分でも意味ある再演だったと思います。『マリー・アントワネット』と『ウィキッド』は初演でありながら、俳優たちの歌や演技、ストーリー構成とトータルで完成度が高く、観劇後の満足度が高かったです。

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2014年最高のヒット作『フランケンシュタイン』

2014年最大の話題作『フランケンシュタイン』が入ってない! と思われる方、多いと思いますが、個人的には結構シビアに見ました。韓国映画やドラマによくある幼少時のトラウマから成る話。ストーリーライン(特に2幕)はかなり大雑把な構成でしたし、音楽が耳に残らなかったです。俳優個々の歌や演技はハイレベルですし、豪華なステージなので劇場で見ているときは、とても楽しいのですが、観劇後に何か心に残るか? といったら疑問が残りました。11月から再演が決まっているので、この作品が韓国を代表する創作ミュージカルとして名を残せるかどうかは、今年が正念場だと思います。
同じく、多くの方がご覧になったであろう『ドラキュラ』は回転するセットを中心に置き、スピーディーに展開していて見ごたえはあったのですが、もっとドラマチックに盛り上がるか……というところでアッサリ終わってしまう物足りなさが残りました。また、レンフィールド役のイ・スンウォン、ルーシー役のイ・ジへなど、若き助演陣の熱演が賞賛されていましたが、裏を返せば彼らがシーンスティーラーとなってしまうほど主要キャストの描写が弱かった、ということではないでしょうか?

<中・小劇場 創作ミュージカル編>BEST3

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魂のこもった歌が、深い感動を呼ぶ『西便制』

『西便制(ソピョンジェ)』
『ザ・デビル』
『サリエリ』
声(ソリ)に人生をかける父娘の壮絶な生き様を、魂の歌パンソリに乗せて描く『西便制』は3度目の再演も変わらぬクオリティでした。特に娘ソンファを演じる本物のソリクン(=パンソリの歌い手)であるイ・チャラムの神がかったパンソリを聴いて、心を動かされない人はいないでしょう。洋もののような華やかさはないものの、一歩間違うと垢抜けないローカル感が出てしまう作品世界を韓紙を使ったシンプルなセットでスタイリッシュに見せていました。決して気楽に見られるストーリーではありませんが、こういう作品こそ、韓国を代表する創作ミュージカルとして大切に育て、公演を続けてほしいと思っています。

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独創的な作品世界で評価が分かれた『ザ・デビル』

新作では『ザ・デビル』が個人的には最も印象に残った作品でした。当初制作会社はドゥサンアートセンターで『ママ、ドント・クライ』の上演を企画していたものの、作品に対し劇場が大きすぎると判断。そこで演出イ・ジナがブロードウェイで見た『ファウスト』にインスパイアされて、新たに“ショーミュージカル”を創作しよう、ということになったのだそうです。ゴシックロックをベースにしたスコアはクオリティ高く、ライティングを駆使した立体的なセット、舞台上で生演奏を見せる演出など見どころ満載でした。しかし「ファウスト」の世界観を知らないと筋が難解なことや、演奏やコーラスが目立ちすぎ、サウンドのボリュームが大きいなどの観客の声を反映して、公演中盤からはライブ感がスポイルされてしまったのは残念。メディアでは賛否両論でしたが、こういう実験的な作品を創作・上演したこと自体を称賛したいです。グレードアップして再演する日を楽しみに待ちたいと思います。

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10月プレミアムコンサート開催!『サリエリ』

『サリエリ』は演出、衣装など色々と危なっかしい部分はありましたが、なぜか中毒性の高い作品でした。モーツァルトの才能に嫉妬するサリエリの心を具象化したジェラスが『エリザベート』におけるトートのように魅惑的に描かれていたのも面白かったです。
2013年に小劇場で大ヒットし、中劇場にランクアップして注目を浴びたのが『共同警備区域JSA』『女神様が見ている』でした。しかし、いずれも小劇場版を凌ぐことはできず。2作品ともベースはしっかりしている作品ですから大きく崩れることはなかったものの、より大衆向けにしたかったのか、説明的描写が追加されたことで作品全体の緊張感が失われてしまいました。劇場をサイズアップする際にいかに構成し直すか……小劇場創作ミュージカルが抱える課題を見た気がしました。

<惜しかったで賞編>
『ヴォイツェック』 『太陽王』 『プリシラ』
『シンギン・イン・ザ・レイン』
派手な宣伝に比べ、作品力が伴わなかった4作です。LGアートセンターで上演した『ヴォイツェック』『プリシラ』は作品に対して舞台が大きすぎると感じました。『太陽王』『シンギン・イン・ザ・レイン』は大舞台で構成可能な作品でありながら演出は小劇場方式。俳優の頑張りが作品に反映できていないのも残念でした。

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韓国版に見事に昇華した社会派ドラマ『背水の孤島』

【演劇部門】BEST10

『背水の孤島』
『少年Bが住む家』
『道を去る家族』
『マクベス』
『フランケンシュタイン』
『メフィスト』
『飛行少年KW4839』
『愉快な下女マリサ』
『私に会いに来て』
『デス・トラップ』

 

演劇では、劇団TRUSHMASTERS中津留章仁原作『背水の孤島』が個人的ベストでした。セウォル号沈没事故で韓国社会が激震中のなかで上演。演劇界で注目を集める気鋭の演出家キム・ジェヨプが、アイロニカルな作品世界を十分に読み取り、実力派俳優たちとともに韓国版に再生させた秀作でした。本作と、少年犯罪を犯した家族の苦悩を描いたCJクリエイティブマインズ発の作品『少年Bが住む家』は観劇中に涙が止まらないほど心を揺さぶられました。『背水の孤島』は公演中のアフタートークをリポートしていますので、ご興味ある方はお目通しください。
韓国のゴッホと呼ばれるイ・ジュンソプを取り上げた『道を去る家族』は演戯団コリペのイ・ユンテク作・演出作品。日本で美術を学び、才能を開花させた画家が、愛する日本人の妻や家族と別れて暮らさねばならなかった半生を知るきっかけとなりました。ジュンソプ役、チ・ヒョンジュンが劇中で描き上げる牛の絵や、絵画から飛び出してきたような舞台美術がとにかく素晴らしかったです。

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パク・ヘスが圧巻の演技!『フランケンシュタイン』

『マクベス』『フランケンシュタイン』はともにパク・ヘス主演作。ダイナミックで入魂の熱い演技を見せてくれた彼あってこその作品でした。『フランケンシュタイン』は日本でもNTLiveで公開された英国版が原作ですが、ワン・ヨンボム版の創作ミュージカルと比較すると、こちらのほうがストーリーラインがしっかり構築されていたと思います。
『メフィスト』『飛行少年KW4839』『愉快な下女マリサ』(プラス、『背水の孤島』も)は舞台美術をヨ・シンドンが担当した作品。それぞれに作品自体も面白かったのですが、独創的かつアーティスティック、反面、キッチュなポップさも持ち合わせた彼が生み出すセットは、韓国でいま一番面白く、作品のクオリティを上げるのにも一役買っていると思います。『メフィスト』については主演女優チョン・ミドの怪演も光っていました。
5年ぶりに再演した、映画『殺人の追憶』の原作でもある『私に会いに来て』、同名映画が有名な作品をキム・スロプロジェクトが初演した『デス・トラップ』は推理サスペンスでしたが、どちらも笑えるコミカルなシーンを盛り込みながら、しっかりとした推理劇に仕上げてありました。
ほかにも、イ・ジェギュンが東亜演劇賞・新人演技賞を受賞した『家族という名の部族―TRIBES』や、『アリバイ年代記』『背水の孤島』のキム・ジェヨプによる新作『なぜ私は小さなことにのみ憤慨するのか』などなど10本に収めるのが困難なほど、素晴らしい作品にたくさん出会うことが出来ました。

韓国の公演界全体を見ると、2013~14年前半までに業界を支配していた妙な高揚感は見事に消え去りました。多くの来日公演が成果を上げられず、日本で多くのメディアが展開している嫌韓的な報道がボディーブローのように効いてきているため、観光もエンタメも中国向けにシフトしています。いくつかのミュージカルが中国公演を標ぼうしているので、そのうちアイドルを起用したミュージカルなどは日本ではなく中国で公演を始めるのではないでしょうか? さらに最近危機感を覚えているのが、大型ミュージカルのチケット価格設定です。VIP席14万ウォン基準になり、今年は15万ウォンの作品も出てくるかもしれません。昨年から急激に円安が加速したこともあり、現時点のレートで1万5千円越。日本国内作品の平均価格をついに超えました。もちろん、韓国ではさまざまな割引を駆使して定価で購入する人はほとんどいませんが、韓国の平均所得を考えると割引をしても高すぎます。前売りは定価で購入するしかない私たち日本の観客にはますます厳しい状況です。ここ数年で韓国ミュージカルに魅了され、韓国まで観劇にいらっしゃっている方は多いと思います。今年は話題性のみならず、作品性もしっかりと見極めて、大劇場から小劇場まで、より幅広い作品を観てみてほしいなと思います。

2015年の公演ラインナップは近日公開予定です。一人でも多くの方が素晴らしい作品に出会えますように!

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