背水の孤島

さいきいずみの「韓劇日誌」Vol.5 

さいきいずみの「韓劇日誌」Vol.5 

 

「“極私的” 2014年韓国公演界総括」

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演出、セット、衣装とすべてリニューアルした『モーツァルト!』

久々にコラム更新です。気が付けば前回から半年以上空いておりました(汗)。韓劇.com正式オープン後は、皆さんに大きな関心をいただきありがとうございました。まだまだ至らない部分も多いですが、2015年もよろしくお願い致します。
韓国の各メディアで年末に公演界の1年を総括する記事が上がっていたので真似してやってみようと思いました…が、普通にやっては面白くないので独断と偏見による、超私的な2014年の感想をUPしてみたいと思います。
さて、昨年1年間でいったい自分は何本舞台を見たのか? 先日チケットの半券を数えてみたところ、舞台関係のトークショーやショーケースなども入れて200本超。おお、こんなに見てたんだなぁと我ながらビックリしました。チケット代にいくらつぎ込んだのか、考えるのも恐ろしいです(笑)。
ピックアップした作品は、2014年の上演作をミュージカルについては3つのカテゴリに分け、一方、演劇は印象に残ったBEST10を紹介したいと思います。作品タイトルにはすべて公演データベースPlayDBのリンクを張りました。気になった作品があったら、調べてみてください。

【ミュージカル部門】

<大劇場 ライセンス作品編>BEST3
『モーツァルト!』
『マリー・アントワネット』
『ウィキッド』
大劇場のライセンスミュージカルは「ミュージカルは曲ありき」を再認識させられた、必殺キラーチューンを持っている作品が並びました。特に“All New”と謳った『モーツァルト!』の再演は、原作のもつ強さを改めて実感しました。新演出は、例えばコロレド大司教のトイレシーンなどベタな部分は必要最小限にし、ヴォルフガングの苦悩に焦点を当てて再構築していたので賛否両論あったと思いますが、私は良かったと思います。そして、安定のイム・テギョン、大躍進のパク・ウンテ、瑞々しさのパク・ヒョシンと、ヴォルフガング役は誰を見てもクオリティを保てていたのが凄かった。ピックアップした他2作に比べて段違いの規模である世宗文化会館での上演、という部分でも意味ある再演だったと思います。『マリー・アントワネット』と『ウィキッド』は初演でありながら、俳優たちの歌や演技、ストーリー構成とトータルで完成度が高く、観劇後の満足度が高かったです。

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2014年最高のヒット作『フランケンシュタイン』

2014年最大の話題作『フランケンシュタイン』が入ってない! と思われる方、多いと思いますが、個人的には結構シビアに見ました。韓国映画やドラマによくある幼少時のトラウマから成る話。ストーリーライン(特に2幕)はかなり大雑把な構成でしたし、音楽が耳に残らなかったです。俳優個々の歌や演技はハイレベルですし、豪華なステージなので劇場で見ているときは、とても楽しいのですが、観劇後に何か心に残るか? といったら疑問が残りました。11月から再演が決まっているので、この作品が韓国を代表する創作ミュージカルとして名を残せるかどうかは、今年が正念場だと思います。
同じく、多くの方がご覧になったであろう『ドラキュラ』は回転するセットを中心に置き、スピーディーに展開していて見ごたえはあったのですが、もっとドラマチックに盛り上がるか……というところでアッサリ終わってしまう物足りなさが残りました。また、レンフィールド役のイ・スンウォン、ルーシー役のイ・ジへなど、若き助演陣の熱演が賞賛されていましたが、裏を返せば彼らがシーンスティーラーとなってしまうほど主要キャストの描写が弱かった、ということではないでしょうか?

<中・小劇場 創作ミュージカル編>BEST3

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魂のこもった歌が、深い感動を呼ぶ『西便制』

『西便制(ソピョンジェ)』
『ザ・デビル』
『サリエリ』
声(ソリ)に人生をかける父娘の壮絶な生き様を、魂の歌パンソリに乗せて描く『西便制』は3度目の再演も変わらぬクオリティでした。特に娘ソンファを演じる本物のソリクン(=パンソリの歌い手)であるイ・チャラムの神がかったパンソリを聴いて、心を動かされない人はいないでしょう。洋もののような華やかさはないものの、一歩間違うと垢抜けないローカル感が出てしまう作品世界を韓紙を使ったシンプルなセットでスタイリッシュに見せていました。決して気楽に見られるストーリーではありませんが、こういう作品こそ、韓国を代表する創作ミュージカルとして大切に育て、公演を続けてほしいと思っています。

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独創的な作品世界で評価が分かれた『ザ・デビル』

新作では『ザ・デビル』が個人的には最も印象に残った作品でした。当初制作会社はドゥサンアートセンターで『ママ、ドント・クライ』の上演を企画していたものの、作品に対し劇場が大きすぎると判断。そこで演出イ・ジナがブロードウェイで見た『ファウスト』にインスパイアされて、新たに“ショーミュージカル”を創作しよう、ということになったのだそうです。ゴシックロックをベースにしたスコアはクオリティ高く、ライティングを駆使した立体的なセット、舞台上で生演奏を見せる演出など見どころ満載でした。しかし「ファウスト」の世界観を知らないと筋が難解なことや、演奏やコーラスが目立ちすぎ、サウンドのボリュームが大きいなどの観客の声を反映して、公演中盤からはライブ感がスポイルされてしまったのは残念。メディアでは賛否両論でしたが、こういう実験的な作品を創作・上演したこと自体を称賛したいです。グレードアップして再演する日を楽しみに待ちたいと思います。

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10月プレミアムコンサート開催!『サリエリ』

『サリエリ』は演出、衣装など色々と危なっかしい部分はありましたが、なぜか中毒性の高い作品でした。モーツァルトの才能に嫉妬するサリエリの心を具象化したジェラスが『エリザベート』におけるトートのように魅惑的に描かれていたのも面白かったです。
2013年に小劇場で大ヒットし、中劇場にランクアップして注目を浴びたのが『共同警備区域JSA』『女神様が見ている』でした。しかし、いずれも小劇場版を凌ぐことはできず。2作品ともベースはしっかりしている作品ですから大きく崩れることはなかったものの、より大衆向けにしたかったのか、説明的描写が追加されたことで作品全体の緊張感が失われてしまいました。劇場をサイズアップする際にいかに構成し直すか……小劇場創作ミュージカルが抱える課題を見た気がしました。

<惜しかったで賞編>
『ヴォイツェック』 『太陽王』 『プリシラ』
『シンギン・イン・ザ・レイン』
派手な宣伝に比べ、作品力が伴わなかった4作です。LGアートセンターで上演した『ヴォイツェック』『プリシラ』は作品に対して舞台が大きすぎると感じました。『太陽王』『シンギン・イン・ザ・レイン』は大舞台で構成可能な作品でありながら演出は小劇場方式。俳優の頑張りが作品に反映できていないのも残念でした。

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韓国版に見事に昇華した社会派ドラマ『背水の孤島』

【演劇部門】BEST10

『背水の孤島』
『少年Bが住む家』
『道を去る家族』
『マクベス』
『フランケンシュタイン』
『メフィスト』
『飛行少年KW4839』
『愉快な下女マリサ』
『私に会いに来て』
『デス・トラップ』

 

演劇では、劇団TRUSHMASTERS中津留章仁原作『背水の孤島』が個人的ベストでした。セウォル号沈没事故で韓国社会が激震中のなかで上演。演劇界で注目を集める気鋭の演出家キム・ジェヨプが、アイロニカルな作品世界を十分に読み取り、実力派俳優たちとともに韓国版に再生させた秀作でした。本作と、少年犯罪を犯した家族の苦悩を描いたCJクリエイティブマインズ発の作品『少年Bが住む家』は観劇中に涙が止まらないほど心を揺さぶられました。『背水の孤島』は公演中のアフタートークをリポートしていますので、ご興味ある方はお目通しください。
韓国のゴッホと呼ばれるイ・ジュンソプを取り上げた『道を去る家族』は演戯団コリペのイ・ユンテク作・演出作品。日本で美術を学び、才能を開花させた画家が、愛する日本人の妻や家族と別れて暮らさねばならなかった半生を知るきっかけとなりました。ジュンソプ役、チ・ヒョンジュンが劇中で描き上げる牛の絵や、絵画から飛び出してきたような舞台美術がとにかく素晴らしかったです。

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パク・ヘスが圧巻の演技!『フランケンシュタイン』

『マクベス』『フランケンシュタイン』はともにパク・ヘス主演作。ダイナミックで入魂の熱い演技を見せてくれた彼あってこその作品でした。『フランケンシュタイン』は日本でもNTLiveで公開された英国版が原作ですが、ワン・ヨンボム版の創作ミュージカルと比較すると、こちらのほうがストーリーラインがしっかり構築されていたと思います。
『メフィスト』『飛行少年KW4839』『愉快な下女マリサ』(プラス、『背水の孤島』も)は舞台美術をヨ・シンドンが担当した作品。それぞれに作品自体も面白かったのですが、独創的かつアーティスティック、反面、キッチュなポップさも持ち合わせた彼が生み出すセットは、韓国でいま一番面白く、作品のクオリティを上げるのにも一役買っていると思います。『メフィスト』については主演女優チョン・ミドの怪演も光っていました。
5年ぶりに再演した、映画『殺人の追憶』の原作でもある『私に会いに来て』、同名映画が有名な作品をキム・スロプロジェクトが初演した『デス・トラップ』は推理サスペンスでしたが、どちらも笑えるコミカルなシーンを盛り込みながら、しっかりとした推理劇に仕上げてありました。
ほかにも、イ・ジェギュンが東亜演劇賞・新人演技賞を受賞した『家族という名の部族―TRIBES』や、『アリバイ年代記』『背水の孤島』のキム・ジェヨプによる新作『なぜ私は小さなことにのみ憤慨するのか』などなど10本に収めるのが困難なほど、素晴らしい作品にたくさん出会うことが出来ました。

韓国の公演界全体を見ると、2013~14年前半までに業界を支配していた妙な高揚感は見事に消え去りました。多くの来日公演が成果を上げられず、日本で多くのメディアが展開している嫌韓的な報道がボディーブローのように効いてきているため、観光もエンタメも中国向けにシフトしています。いくつかのミュージカルが中国公演を標ぼうしているので、そのうちアイドルを起用したミュージカルなどは日本ではなく中国で公演を始めるのではないでしょうか? さらに最近危機感を覚えているのが、大型ミュージカルのチケット価格設定です。VIP席14万ウォン基準になり、今年は15万ウォンの作品も出てくるかもしれません。昨年から急激に円安が加速したこともあり、現時点のレートで1万5千円越。日本国内作品の平均価格をついに超えました。もちろん、韓国ではさまざまな割引を駆使して定価で購入する人はほとんどいませんが、韓国の平均所得を考えると割引をしても高すぎます。前売りは定価で購入するしかない私たち日本の観客にはますます厳しい状況です。ここ数年で韓国ミュージカルに魅了され、韓国まで観劇にいらっしゃっている方は多いと思います。今年は話題性のみならず、作品性もしっかりと見極めて、大劇場から小劇場まで、より幅広い作品を観てみてほしいなと思います。

2015年の公演ラインナップは近日公開予定です。一人でも多くの方が素晴らしい作品に出会えますように!

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[REPORT]大きな痛みを経て、より意味ある上演に―『背水の孤島』アフタートーク リポート②

 

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中絶費用を工面できない野崎(ハ・ソングァン)に詰め寄る夕(キム・ソジン)


●観客5 公演を見た後で友達と話したのが、極限の状態で野崎と夕がしたこと(注2)について共感できるか? という部分でした。どういう思いでこのシーンを書かれたのでしょうか?

(注2)震災直後に避難生活をおくるなかで市職員の中年男性・野崎は夕と性交渉をもち、のちに夕の妊娠が発覚、2人は秘密裡に中絶を画策する。

中津留「野崎のエピソードは創作なんですけれども、想像するにそういったこともきっとあっただろうというような話はあります。妊娠したかどうかは分かりませんが。人間というものが非常事態に陥ったときに、どれだけ人間の価値観とか常識が崩れていくか、ということを石巻のシーンでは延々と描いているわけですね。人間というのはまず誰でも美しく生きたいという希望を誰でも持ちます。しかし現実は欲しいだけのお金がない、貧乏で生活レベルも上がらないという不満があるわけですね。好きな人とも結ばれない、好きな人が出来てもその人が結婚していたり、というようなこともありますよね。例えば、結婚というものが愛の一つの美しい形だとしたら、ドラマを描くときには不倫だとか、人間がかぜなぜそうなっていくのか? という悪いことを作家は考えなければいけないと思います。同じように、人を殺してしまう人の心情を、普通の人は気が狂ってると思うでしょう。ところがその人の心情を、我々は人間を描くプロとして、もう少し分析してそれを理解していかなければいけないと、何となく思っています。原因はいろんなものがあると思うんですけども、なぜ人は悪いことをしてしまうか、いいことをしても上手くいかない、あるいはどうしても悪いことをしてしまう、そういったことにドラマというものがあるのではないでしょうか? 全部幸せになっていくものがマジョリティ(多数)であるとすれば、私はきっと、“そうではない”ものを創るのが得意だと思います(笑)。それは人間の本質に近づきたいからだと思っています」

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2幕の舞台は震災から12年後の都内の某警備会社。1幕で石巻にいた登場人物たちの立場が大きく変化している

●観客6 こういう敏感なテーマを描いて演劇として創る際に難しい点はなかったでしょうか? 韓国でも原子力発電所などが話題になっているので、時期的にもピッタリだと感じました。でも実際はオリジナルで創作するのは難しいのではないかと思ったんです。日本ではこういう作品を創作する環境はどうなのか知りたいです。
中津留「私は有難いことに、国から少し助成を頂いて作品を創ることがここ数年増えています。こういった作品を創りたいという企画書は上げるんですけども、その時点で台本があることはまずないんですね。“中津留ならばこのクオリティをやってくれるだろう”というのが担保になってます(笑)。ですから、その担保をきちんと支払うために頑張ります(笑)」
「敏感なテーマ、ということについては個人の自由です。まず劇作家は結果が曖昧なので怖くて書かないと思います。そして民衆はこういう辛いことからなるべく目を背けたいと思っています。この作品は有難いことに日本でたくさん賞をいただいたんですけども、芸術のあり方や立ち位置ということをカンパニーの公演を通して訴えてきたので、それがひとつの形になったのかな、という気がします」

●観客7 キム・ジェヨプ演出家に質問ですが、前でも仰ったように敏感なテーマの作品を韓国で上演するにあたり、一番気を遣ったのはどういう部分か伺いたいです
キム・ジェヨプ「最初にこの作品を見た(読んだ)ときは、ドキュメンタリー的な作品と読み取ったと思います。(背景について)知らねばならない、勉強もしなければならないと思ったんですけど、ドキュメンタリーみたいに僕らが真似するのはむしろ間違ってるだろうと。もうちょっと爆弾的な内容の話じゃないかと思って、1幕の場合も日本の宮城らしく僕らがやる意味はないんじゃないかと。いずれにしても韓国の俳優が、同世代の韓国の観客たちに向けて演じる作品なので、もう少し普遍性のあるストーリーにするために台本にはアレンジを加えたところもあります。
日本では3時間半ほどの上演時間があった作品を韓国ではインターミッションを入れて2時間45分くらいにしたんですけど、日本の特性が出ているところよりも普遍化できることをより盛り込んだように思います。政府の責任的部分や自然災害に見えるけど、実は人災に近いこと……事故のように見えるけど運命として受け入れるものではなく、人間の過ちや不誠実な部分を際立たせようとしたのですが、韓国でも良くないことが今年の上半期は次々と起きているせいで、1幕では僕が思うに、これが日本(の物語)だという距離感を忘れてしまうほど普遍的な感情を観客が早く体感してしまったと思います。
制作する過程でも個人的にはかなり辛かったです。公演もこれまで自分がやってきた作品は公演中にはあまり見ないほうなんですが、作品を上手く創らなければ、という考えは捨てました。上手く創ることに意味はないと思った反面、どれくらい真実味を持たせられるか。上手く演じようとか、作品を良く見せようとするのはむしろ嘘臭くなるようだったので、最も率直かつ誠実で真実味のある瞬間を観客にアピールしよう、と。それで上演時間を短く調整しつつ、台本の読み合わせや演出しながらも相談をよくやるほうなんですが、今回はあえてそれをしないようにしました。その時感じたままをそのまま演ろう、あまりオーバーにしないで、と。日々変わっていくだろうから、その瞬間にわずかでも真実味があるように、観客に一瞬でも感動や共感を与えられればと。私たちが観客にどれくらい近づいて行けるか? という感じで演出したような気がします。
2幕は中津留さんも未来を想像して書かれたたものなので、1幕と2幕では全く性格が違うというか、違うジャンルと言ってもいいくらいで。インターミッションを経て心を落ち着けて劇場に戻ったのに、いきなり違う劇場に入ってしまったような感じがありますよね(笑)。1幕は“感じる”ようにしたとしたら、2幕は“考えながら創る”感じでした。

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警備会社社員となっていた太陽(キム・シユ)は、原子爆弾テロを画策。キャラクターの名前とこのシーンから映画「太陽を盗んだ男」へのオマージュが浮かぶ

2幕で(登場人物が)みな集まりますよね? 12年後にありえないくらい集まるので(笑)、感じるより考える方向を生かせるのは何か? と考えて、日本社会が抱えている危機感というか……韓国は市民革命を経験した国だと思うし、日本では歴史上市民革命を成功したことはほぼないようなので、台本を間違った方向に持って行ったことも多かったと思うんです。アナーキスト的な感じがしましたね、太陽が最後に阻止されたことはテロだというように。韓国にはアナーキズムみたいな部分はないじゃないですか、だけど日本の人よりはダイナミックな感じもするし……韓国の観客たちに情緒的に考えられる方向に、2幕自体をアピールできるかどうかが最も悩んだところです。最後に私たちに元々ある話もしたかったし。(パンフレットにある)中津留さんの挨拶文を読んだときに……僕たちは同い年なんですが(笑) 大きな痛みになったと。当時かなり悩みながら書かれた文章なので、最も一緒にコンジョンすることができる1テキストが持っている力を信じて、同時代を生きている人たちに向けて、さらに浮彫りにする方法は何か? という部分を一番悩んだような気がします。

……家に帰らなきゃいけないでしょ?(笑) いっそ1泊2日でやってはどうですか(笑) 質問がなければ、最後に中津留さんに今日ご覧なった感想、観客と対話した感想などを伺いたいと思います」

中津留「すごく面白かったです。先程キム・ジェヨプさんが仰ったように、(作品の)本質を、石巻の部分(1幕)は“感じる”、後半(2幕)は“考える”と、彼が上手く演出プランを抜き取ったことで、非常にこの作品が観客の皆さんにダイレクトに届いたのではないかと思います。客席の皆さんの反応を見ていて、日本と変わらないくらいこの問題に真剣に考えてくださっていたので、とても嬉しく思います」

[REPORT]大きな痛みを経て、より意味ある上演に―『背水の孤島』アフタートーク リポート①

 

두산인문극장_배수의고도_포스터ソウル市内ににある劇場のなかでも重要な公演拠点のひとつになっているドゥサン(斗山)アートセンターのSpace111で中津留章仁原作の『背水の孤島』韓国版が、6月10日~7月5日まで上演されました。
「ドゥサン人文劇場-不信の時代」と題した3作連続上演を締めくくる作品として上演された『背水の孤島』は中津留氏が主催する劇団TRASHMASTERSが2011年、12年に上演し紀伊国屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞選考委員特別賞など多数受賞した作品。東京・永田町―石巻―そして12年後の都内警備会社と3つのシーンに分け、震災後の日本をリアルに切り取った物語です。(詳しいストーリーは国際交流基金のサイトに紹介されています)

台本翻訳・構成を手掛けた、日本の舞台シーンにも造詣が深いイ・ホンイが“不信の時代”というテーマにピッタリだと劇場に推薦して上演が決定。演出は『アリバイ年代記』で東亜演劇賞など昨年の主要演劇賞をさらったキム・ジェヨプ、美術を『飛行少年KW4839』など最近は演出家としても活動する舞台デザイナーのヨ・シンドンと気鋭のスタッフが名を連ね、キャストも数々の話題作に出演した実力派がズラリ。近年稀に見る完成度の高さと俳優たちの熱演は口コミで評判が広がり、公演後半はチケットが連日完売する大ヒットとなりました。
この上演が注目度を高めたもう一つの要因として、4月に起きた「セウォル号沈没事故」は外せないでしょう。事故後、国の災害対策の比較材料としてニュース番組では東日本大震災が大きく取り上げられ、韓国の人たちは改めて関心を寄せていたからです。自国の災害対策の無力さ痛感した“アフター4.16”を経験したからこそ、この作品は一段とリアリティをもって観客に受け入れられたはず。失礼な言い方ですが、大きなクライシスを経て冷静さを取り戻しつつあったなかでの、“絶妙なタイミング”の上演だったのです。

7月1日に原作者の中津留章仁氏が訪韓し、上演後、演出家のキム・ジェヨプ氏とともにアフタートークが行われました。3時間弱の公演後、トークは夜11時を回ってスタートしたにもかかわらず、キム演出家がウォーミングアップとして最初の質問をした後は、客席から次々と手が上がり、観客たちの作品に対する関心の高さが伝わってきました。
公演終了から時間が経過してしまいましたが、大きな意義ある上演だった韓国版上演での観客との対話の様子を紹介したいと思います。

두산인문극장_배수의고도_작가와의 대화

アフタートークの様子(写真左から、演出キム・ジェヨプ、中津留章仁、翻訳・構成イ・ホンイ)

●キム・ジェヨプ 「背水の孤島」を執筆したきっかけは?

中津留「3.14の震災があったあと、石巻市にボランティアに行きました。缶詰を拾ったり、瓦礫の撤去だったり、ある家庭の位牌を探してほしいとか、金庫を探してほしいとかいろんな依頼があったんですけども、そういったことを通して、地元の人やボランティア、報道の方などと触れ合っていくなかでこの作品の着想を得たわけです」

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被災地のドキュメンタリーを制作する甲本(イ・ユンジェ)は、リアリティを出したいあまり、避難生活を送る夕(キム・ソジン)に”演出”を強いる

●キム・ジェヨプ 執筆からいま2年経っていますが、当時は震災を取り上げた作品としてはかなり早かったのではないでしょうか? 急いで作品に仕上げた理由は?

中津留「津波の被害や放射能の被害がどうなっていくのか、分からない状態で作品にまとめていく作業は非常に危険な作業だったわけです。日本の劇作家はある程度結果が出てから総括して書く、というタイプが多いような気がするんですね。この作品の場合は結果がほとんど分からない状態での執筆だったわけです。なぜそういう選択をしたのかというと、時間が経った後では総括はできると思うんですけど、その時の人間の心情や心の痛みや感じたことは時間が経つと薄れていくのではないかという危惧がありました。もちろん時間が経ったほうが近未来を描くうえではもっと正確な提示が出来たかもしれないんですけども、そのリスクよりも私は人間の心情を描くべきだと思ったんです。この作品を通じて心の痛みとか辛さ、この出来事をずっと忘れないための大きなものにするためだったんです」

●観客1 今日芝居をご覧になってどう思われたかお伺いしたいです。
中津留「まず、俳優陣の熱演に好感を持っています。それとキム・ジェヨプさんの演出のスマートさにも感心しています。日本ではもっとセットにリアリティがあったんです。(韓国版は)少し抽象的なセットになっていますね。抽象的にすることによって人の動きやどこのシーンを立てるかというのが明確になっていたと思います。何よりも俳優のエモーショナルな演技に共感しました」

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1幕(写真左)は石巻の被災地が舞台。木材のアナログ感を生かし、仮設住宅の雰囲気を出してある。2幕は12年後の警備会社が舞台のため、プロジェクターを使って近未来感を演出

●観客2 日本では今もメディアで取り上げられたり、人々が危険性を実感したりしていますか?
中津留「日本人の特徴、と言っていいのか分からないですけど、こういう事実があるということは大体の人が知っていると思います。ところがこれを胸に抱いたまま生きていくのは非常に困難です。そこで日本人は上手く忘れてみたり、現実を逃避するような気持ちの切り替えをすることによって、何とかこの現実から目をそむけながら生きているわけです。政府の方針もそういうことを助けているかもしれないですね。演劇というものは市民のものだと考えているので、政治がどうだとか経済がどうだとか、というのがあっても芸術というものは対等でなければならないと思っています。政治や経済などから解き放たれたところで表現をしなければいけないと私自身も思っていますし、観客自身もそういった芸術に触れることによって、より自由な視点や生き方を考えていく。そういう観客とのやり取りを我々も目指しています」

●観客3 企業や政府の描写について、実際に起こっていることをベースにしているのでしょうか? どういう事件やどういう点に共感されたのでしょうか。
中津留「(震災後の政府の対応や報道などについて語る)最初の甲本のナレーションというのは、実際にあったことだそうです。創作の部分もありますし、現実に基づいているところもあります。日野自動車が(創業地である)日野市から撤退するという部分などもリアルにあることですね。トヨタ(自動車)のところは噂、という部分で留まっています。そういう部分は創作だと考えてください。それから石巻でのシーンは基本的に創作です。あの~…私は酷い話を書くのが得意な作家です(笑)。人間の業、というか、悪いほうに悪いほうに転がっていくような話をよく書きます。そのほうが人間の本質や、本当に人間が何を選ぶかというドラマを描けるからです。(12年後の様子を描いた)3場(韓国公演では2幕)はほぼ創作です。ところが、最近その3場の世界観が現実化しています。その辺がちょっと面白いところでもあります」

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太陽役キム・シユの熱演がストーリーを大きく牽引した

●観客4 1幕の最後で太陽と夕(注1)の台詞に、死体を見ながら「綺麗だ」というシーンがありますが、それは石巻にボランティアに行かれたときに直接聞かれたり経験されたことなのでしょうかか? 死体を見た印象に「綺麗だ」という言葉をもってこられた理由を知りたいです。

 注1:石巻の被災地に父と3人で暮らす姉弟。夕(ゆう)は大学生、太陽は高校生。

中津留「それは私の創作です。まぁ、それが“文学”じゃないですかね(照笑)。ズルい答えですけど(笑)。やっぱり死体と綺麗というのは絶対に繋がらない言葉じゃないですか。この作品なら、その言葉と言葉の隙間を掴むことができるような気がしていて、甲本のナレーションを書きながら、どういう風に組み立てようかと思って、その構想を掴んだときに“あ、これで書ける”と思いました」

⇒リポート②につづく

[PLAY]『亀、もしくは…』『背水の孤島』など6月は日本作品上演ラッシュ!

 

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札幌座『亀、もしくは…』より

日本との相互交流が定期的に行われている韓国演劇界で、6月は日本作品&戯曲の上演ラッシュが続き注目を集めている。

6月21日まで上演中の『ウェルズロード12番地(웰즈로도 12번지)』は、演劇だけでなくテレビドラマ、映画と幅広いジャンルで脚本執筆を手掛ける土田英生(つちだひでお)が自身の英国留学体験をもとに書下ろし、2013年に上演した作品。原作では物語の舞台はロンドン生活に馴染めない日本人たちが集まる和食レストランという設定だったが、今回はすべて韓国バージョンに脚色して上演される。演出は2008年に土田と組んで『悔しい女』を上演し、好評を得たパク・ヘソン。5年ぶりに再び土田作品を手掛けるとあって、韓国の観客たちにも期待されている。

kame2012-16月10日から大学路の芸術空間ソウルで上演される『亀、もしくは…(거북이 혹은…)』は、北海道の劇団「札幌座」の代表作を日本オリジナルキャストで上演する来韓公演。物語の舞台はとある精神科サナトリウム。見学研修に訪れた医学生と医師、看護師、そして自分を亀と思っている患者の4人が繰り広げる会話を通して正常と異常、出演者と観客の境界を問うブラックコメディだ。ソウル公演を終えたあとは、13日~15日まで大田(テジョン)公演を実施する。

同じく6月10日からドゥサンアートセンターSpace111で上演される『背水の孤島(배수의 고도)』は、劇団TRASHMASTERSを主催する中津留章仁が作・演出し、2011年、12年に上演された作品。東日本大震災で被災し、仮設住宅に暮らす父子3人家族を中心に、一家を取り巻く厳しい環境と人間模様、登場人物たちの立場が変化している12年後の姿が濃密に描かれる。『アリバイ年代記』で今年東亜演劇賞の作品賞や戯曲賞を受賞した劇団ドリームプレイを主催するキム・ジェヨプが演出。ソン・ジョンナム(『雄鶏たちの闘い_COCK』『デモクラシー』)、イ・ユンジェ(『歌うシャイロック』『小説家久保氏の1日』)、キム・ソジン(『かつて愛していた女性に送った旧ソ連宇宙飛行士の最後のメッセージ』『あの日々』)など、登場人物すべてが役柄に合った絶妙なキャスティング。3時間弱という上演時間ながら、時間の経過を忘れるほど韓国演劇俳優たちの演技力を改めて実感する見ごたえある作品だ。

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『背水の孤島』プレスコールより

そして6月19日からは芸術の殿堂 自由小劇場にて『秋の蛍(가을 반딧불이)』が3度目の再演を行う。原作は『焼肉ドラゴン』『僕に炎の戦車を』などで韓国にもファンが多い鄭義信(チョン・ウィシン)の戯曲。女性と駆け落ちした父・文平に捨てられたタモツと叔父・修平が営む貸しボート屋に、失業した中年男のサトシや修平の子を妊娠中という女・マスミが転がり込み、それぞれに傷を抱えている4人が一緒に暮らすうちに疑似家族となっていくさまを繊細に描いた人情喜劇だ。
今回の再演では、ミュージカル『女神様が見ている』に出演中のチン・ソンギュ、演劇『柔道少年』に出演中のオ・ウィシク、チョン・ヨンら劇団「公演配達サービスカンダ(공연배달서비스 간다)」の俳優陣や、『アガサ』でタイトルロールを演じていたヤン・ソミンが参加するなど新キャストが多く、前2回とはまた違った味わいの公演になりそうだ。

いずれも日本公演時には、作品性を高く評価されたものばかり。6月に韓国を訪れる方は、ぜひ劇場に足を運んで欲しい。

■公演情報■

『ウェルズロード12番地』 ⇒日本公演時サイト
⇒Interpark公演情報
6月6日~21日 大学路・ジョンボ小劇場

『亀、もしくは…』  ⇒日本・札幌座公式サイト
●ソウル公演:6月10日、11日 芸術空間ソウル
●大田(テジョン)公演:6月13日~15日 カトリック文化会館アートホール ⇒Interpark公演情報

『背水の孤島』  ⇒日本・劇団公式サイト
⇒Interpark公演情報
6月10日~7月5日 ドゥサンアートセンター Space111

『秋の蛍』  ⇒日本公演時サイト
⇒Interpark公演情報
6月19日~7月20日 芸術の殿堂 自由小劇場

※公演をご覧になりたい方はチケット購入サポート可能ですので、お問い合わせください。