中津留章仁

[PLAY]上野で上演「日韓演劇週間 Vol.4」韓国から2劇団が来日

[PLAY]上野で上演「日韓演劇週間 Vol.4」韓国から2劇団が来日

 

nikkanengeki4poster韓国の劇団を精力的に招聘・上演している上野ストアハウスで、今年も「日韓演劇週間 Vol.4」が開催。2つのプログラムに分けて実施され、韓国から2劇団が来日する。

11月23日から上演のAプログラムでは、創作集団Choc.24(창작집단 쵸크24)の『6月26日』が上演される。

物語の舞台は日本統治時代の1938年、江原道(カンウォンド)出身の二人の青年、ソンニョンとヨンチュンが主人公。日本軍に徴用された二人はその後、ソ連軍~ドイツ軍と戦況の変化に伴い捕虜となり、ついにはドイツ軍の捕虜として徴用されて戦ったフランス・ノルマンディ戦で連合軍の捕虜となり、二人は離れ離れに。やっとの思いで故郷に戻り、二人が再会したのは、皮肉にも朝鮮戦争が開戦した(6・25)翌日、1950年6月26日だった。
実話をもとに作・演出のチャン・テジュンが2009年にモノドラマとして大学路で初演したという本作。二人芝居にリメイクして上演した2015年の「春川国際演劇祭」で大賞、演出賞、男性主演賞を受賞している。

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創作集団Choc.24『6月26日』

同期間に上演される『たったいま八月の冥王星でたったいま八月の地球では』は、現代詩を用いた作品を多数上演している劇団「遊戯空間」の作品。福島県在住で、東日本大震災以降、大きな注目を集めた詩人・和合亮一の2編の詩をベースに、震災から6年が経過しようとするなかで風化しつつあるこの問題に和合氏の言葉とともに向き合うという。

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遊戯空間『たったいま八月の冥王星でたったいま八月の地球では』

そして、11月30日から上演するBプログラムでは、Dreamplay these21(드림플레이 테제21)『検閲-彼らの言葉-』が上演される。

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Dreamplay these21『検閲-彼らの言葉-』

本作は、今年6月~10月に大学路で上演された連続上演シリーズ「権利長戦2016_検閲却下(권리장전2016_검열각하)」で『検閲言語の政治学:二つの国民』というタイトルで上演された劇団の最新作だ。2013年に国立劇団で上演された『カエル』以降、作・演出したパク・グニョン作品をはじめ、反政府的表現をした作品に韓国文化芸術委員会が上演を中止させたとする検閲問題について再考する内容となっている。10月にフェスティバル/トーキョー16で『哀れ、兵士』を上演して注目を浴びたパク・グニョンらとともに、国が極秘に作成した「公演芸術家ブラックリスト」に名が挙がっていたという劇団代表のキム・ジェヨプ。奇しくも国家を揺るがすほどの大事件に発展した朴槿恵大統領の問題が世界的なニュースとなっているなか、検閲問題にどう切り込んでいるのか注目される。

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中津留章仁Lovers『水無月の云々』

同期間には、劇団TRUSHMASTERSの中津留章仁が、作品の上演ごとにオーディションを実施して無名の若手俳優を起用しているというユニット「中津留章仁Lovers」の『水無月の云々』を上演。ある寂れた商店街にある店を営む一家を主人公に、かつて殺人が起きたこの一家の複雑な人間模様が描かれる。
ちなみに、Dreamplay these21のキム・ジェヨプは、2014年に韓国で上演された中津留章仁原作『排水の孤島』を演出している。昨年の「日韓演劇週間Vol.3」に続き、日韓を代表する“社会派”演劇人が、今年も同時上演して交流を続けている。

A、Bプログラムともに演出家らによるポストパフォーマンストークなどのイベントも開催。韓国作品は日本語字幕付きで見られるため、より深く作品世界を理解でき、韓国演劇の魅力に触れる、絶好の機会となるだろう。


【韓劇.com読者を「日韓演劇週間 Vol.4」公演にご招待!】

韓国劇団の公演のみ、各回2組4名様をご招待致します。(先着順)
ご希望の方は、上野ストアハウスの下記メールアドレス宛に、①~④の必要事項を明記の上ご応募ください。

メールの件名は「日韓演劇週間・招待応募」と記入
①お名前 ②ご連絡先(電話番号) ③希望日/時間 ④ご覧のサイト名(韓劇.com)

●応募先メールアドレス: info@storehouse.ne.jp


nikkanengeki4poster【公演情報】
ストアハウスコレクションNo.8
日韓演劇週間Vol.4「見えざるコミュニティをめぐって」
会場:上野ストアハウス (⇒公式サイト

●Aプログラム:2016年11月23日(水)~27日(日)
・創作集団Choc.24(韓国)『6月26日』
作・演出:チャン・テジュン 出演:ヤン・フンジュ、ユン・グクジュン

・遊戯空間(日本)『たったいま八月の冥王星でたったいま八月の地球では』
出演:藤田三三三、三田直門(劇団銅鑼)、草野峻平、佐藤辰也、小野田由紀子、篠田悦子、杉村誠子、中込里菜

●ポストパフォーマンストーク①:11月26日(土)
参加者:チャン・テジュン(Chok.24代表)/篠本賢一(遊戯空間)/ファン・ウンギ(春川国際演劇祭)/七字英輔(演劇評論家)
●座談会:11月27日(日) ゲスト:詩人・和合亮一

●Bプログラム:11月30日(水)~12月4日(日)
・Dreamplay these21(韓国)『検閲-彼らの言葉-』
作・演出:キム・ジェヨプ 出演:ぺク・ウンチョル、ソン・ジンホ、クォン・ミニョン、チョン・ユミ、ソ・ジョンシク、ユ・ジョンヨン、ハン・サンワン、パク・アルム、キム・ウォンジョン、キム・セファン

・中津留章仁Lovers(日本)『水無月の云々』
作・演出:中津留章仁 出演:柘植裕士、米田敬、堤千穂、梅田麻衣、小谷友里恵、北野雄大、上西愛理、宮本行庸、古越千香子、勢古尚行、細身慎之介、樋田洋平

●ポストパフォーマンストーク②:12月3日(土)
参加者:キム・ジェヨプ、中津留章仁、木村真悟(上野ストアハウス)

●日韓演劇週間 Vol.4公式サイト

写真提供:上野ストアハウス ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。

[REPORT]大きな痛みを経て、より意味ある上演に―『背水の孤島』アフタートーク リポート②

 

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中絶費用を工面できない野崎(ハ・ソングァン)に詰め寄る夕(キム・ソジン)


●観客5 公演を見た後で友達と話したのが、極限の状態で野崎と夕がしたこと(注2)について共感できるか? という部分でした。どういう思いでこのシーンを書かれたのでしょうか?

(注2)震災直後に避難生活をおくるなかで市職員の中年男性・野崎は夕と性交渉をもち、のちに夕の妊娠が発覚、2人は秘密裡に中絶を画策する。

中津留「野崎のエピソードは創作なんですけれども、想像するにそういったこともきっとあっただろうというような話はあります。妊娠したかどうかは分かりませんが。人間というものが非常事態に陥ったときに、どれだけ人間の価値観とか常識が崩れていくか、ということを石巻のシーンでは延々と描いているわけですね。人間というのはまず誰でも美しく生きたいという希望を誰でも持ちます。しかし現実は欲しいだけのお金がない、貧乏で生活レベルも上がらないという不満があるわけですね。好きな人とも結ばれない、好きな人が出来てもその人が結婚していたり、というようなこともありますよね。例えば、結婚というものが愛の一つの美しい形だとしたら、ドラマを描くときには不倫だとか、人間がかぜなぜそうなっていくのか? という悪いことを作家は考えなければいけないと思います。同じように、人を殺してしまう人の心情を、普通の人は気が狂ってると思うでしょう。ところがその人の心情を、我々は人間を描くプロとして、もう少し分析してそれを理解していかなければいけないと、何となく思っています。原因はいろんなものがあると思うんですけども、なぜ人は悪いことをしてしまうか、いいことをしても上手くいかない、あるいはどうしても悪いことをしてしまう、そういったことにドラマというものがあるのではないでしょうか? 全部幸せになっていくものがマジョリティ(多数)であるとすれば、私はきっと、“そうではない”ものを創るのが得意だと思います(笑)。それは人間の本質に近づきたいからだと思っています」

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2幕の舞台は震災から12年後の都内の某警備会社。1幕で石巻にいた登場人物たちの立場が大きく変化している

●観客6 こういう敏感なテーマを描いて演劇として創る際に難しい点はなかったでしょうか? 韓国でも原子力発電所などが話題になっているので、時期的にもピッタリだと感じました。でも実際はオリジナルで創作するのは難しいのではないかと思ったんです。日本ではこういう作品を創作する環境はどうなのか知りたいです。
中津留「私は有難いことに、国から少し助成を頂いて作品を創ることがここ数年増えています。こういった作品を創りたいという企画書は上げるんですけども、その時点で台本があることはまずないんですね。“中津留ならばこのクオリティをやってくれるだろう”というのが担保になってます(笑)。ですから、その担保をきちんと支払うために頑張ります(笑)」
「敏感なテーマ、ということについては個人の自由です。まず劇作家は結果が曖昧なので怖くて書かないと思います。そして民衆はこういう辛いことからなるべく目を背けたいと思っています。この作品は有難いことに日本でたくさん賞をいただいたんですけども、芸術のあり方や立ち位置ということをカンパニーの公演を通して訴えてきたので、それがひとつの形になったのかな、という気がします」

●観客7 キム・ジェヨプ演出家に質問ですが、前でも仰ったように敏感なテーマの作品を韓国で上演するにあたり、一番気を遣ったのはどういう部分か伺いたいです
キム・ジェヨプ「最初にこの作品を見た(読んだ)ときは、ドキュメンタリー的な作品と読み取ったと思います。(背景について)知らねばならない、勉強もしなければならないと思ったんですけど、ドキュメンタリーみたいに僕らが真似するのはむしろ間違ってるだろうと。もうちょっと爆弾的な内容の話じゃないかと思って、1幕の場合も日本の宮城らしく僕らがやる意味はないんじゃないかと。いずれにしても韓国の俳優が、同世代の韓国の観客たちに向けて演じる作品なので、もう少し普遍性のあるストーリーにするために台本にはアレンジを加えたところもあります。
日本では3時間半ほどの上演時間があった作品を韓国ではインターミッションを入れて2時間45分くらいにしたんですけど、日本の特性が出ているところよりも普遍化できることをより盛り込んだように思います。政府の責任的部分や自然災害に見えるけど、実は人災に近いこと……事故のように見えるけど運命として受け入れるものではなく、人間の過ちや不誠実な部分を際立たせようとしたのですが、韓国でも良くないことが今年の上半期は次々と起きているせいで、1幕では僕が思うに、これが日本(の物語)だという距離感を忘れてしまうほど普遍的な感情を観客が早く体感してしまったと思います。
制作する過程でも個人的にはかなり辛かったです。公演もこれまで自分がやってきた作品は公演中にはあまり見ないほうなんですが、作品を上手く創らなければ、という考えは捨てました。上手く創ることに意味はないと思った反面、どれくらい真実味を持たせられるか。上手く演じようとか、作品を良く見せようとするのはむしろ嘘臭くなるようだったので、最も率直かつ誠実で真実味のある瞬間を観客にアピールしよう、と。それで上演時間を短く調整しつつ、台本の読み合わせや演出しながらも相談をよくやるほうなんですが、今回はあえてそれをしないようにしました。その時感じたままをそのまま演ろう、あまりオーバーにしないで、と。日々変わっていくだろうから、その瞬間にわずかでも真実味があるように、観客に一瞬でも感動や共感を与えられればと。私たちが観客にどれくらい近づいて行けるか? という感じで演出したような気がします。
2幕は中津留さんも未来を想像して書かれたたものなので、1幕と2幕では全く性格が違うというか、違うジャンルと言ってもいいくらいで。インターミッションを経て心を落ち着けて劇場に戻ったのに、いきなり違う劇場に入ってしまったような感じがありますよね(笑)。1幕は“感じる”ようにしたとしたら、2幕は“考えながら創る”感じでした。

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警備会社社員となっていた太陽(キム・シユ)は、原子爆弾テロを画策。キャラクターの名前とこのシーンから映画「太陽を盗んだ男」へのオマージュが浮かぶ

2幕で(登場人物が)みな集まりますよね? 12年後にありえないくらい集まるので(笑)、感じるより考える方向を生かせるのは何か? と考えて、日本社会が抱えている危機感というか……韓国は市民革命を経験した国だと思うし、日本では歴史上市民革命を成功したことはほぼないようなので、台本を間違った方向に持って行ったことも多かったと思うんです。アナーキスト的な感じがしましたね、太陽が最後に阻止されたことはテロだというように。韓国にはアナーキズムみたいな部分はないじゃないですか、だけど日本の人よりはダイナミックな感じもするし……韓国の観客たちに情緒的に考えられる方向に、2幕自体をアピールできるかどうかが最も悩んだところです。最後に私たちに元々ある話もしたかったし。(パンフレットにある)中津留さんの挨拶文を読んだときに……僕たちは同い年なんですが(笑) 大きな痛みになったと。当時かなり悩みながら書かれた文章なので、最も一緒にコンジョンすることができる1テキストが持っている力を信じて、同時代を生きている人たちに向けて、さらに浮彫りにする方法は何か? という部分を一番悩んだような気がします。

……家に帰らなきゃいけないでしょ?(笑) いっそ1泊2日でやってはどうですか(笑) 質問がなければ、最後に中津留さんに今日ご覧なった感想、観客と対話した感想などを伺いたいと思います」

中津留「すごく面白かったです。先程キム・ジェヨプさんが仰ったように、(作品の)本質を、石巻の部分(1幕)は“感じる”、後半(2幕)は“考える”と、彼が上手く演出プランを抜き取ったことで、非常にこの作品が観客の皆さんにダイレクトに届いたのではないかと思います。客席の皆さんの反応を見ていて、日本と変わらないくらいこの問題に真剣に考えてくださっていたので、とても嬉しく思います」

[REPORT]大きな痛みを経て、より意味ある上演に―『背水の孤島』アフタートーク リポート①

 

두산인문극장_배수의고도_포스터ソウル市内ににある劇場のなかでも重要な公演拠点のひとつになっているドゥサン(斗山)アートセンターのSpace111で中津留章仁原作の『背水の孤島』韓国版が、6月10日~7月5日まで上演されました。
「ドゥサン人文劇場-不信の時代」と題した3作連続上演を締めくくる作品として上演された『背水の孤島』は中津留氏が主催する劇団TRASHMASTERSが2011年、12年に上演し紀伊国屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞選考委員特別賞など多数受賞した作品。東京・永田町―石巻―そして12年後の都内警備会社と3つのシーンに分け、震災後の日本をリアルに切り取った物語です。(詳しいストーリーは国際交流基金のサイトに紹介されています)

台本翻訳・構成を手掛けた、日本の舞台シーンにも造詣が深いイ・ホンイが“不信の時代”というテーマにピッタリだと劇場に推薦して上演が決定。演出は『アリバイ年代記』で東亜演劇賞など昨年の主要演劇賞をさらったキム・ジェヨプ、美術を『飛行少年KW4839』など最近は演出家としても活動する舞台デザイナーのヨ・シンドンと気鋭のスタッフが名を連ね、キャストも数々の話題作に出演した実力派がズラリ。近年稀に見る完成度の高さと俳優たちの熱演は口コミで評判が広がり、公演後半はチケットが連日完売する大ヒットとなりました。
この上演が注目度を高めたもう一つの要因として、4月に起きた「セウォル号沈没事故」は外せないでしょう。事故後、国の災害対策の比較材料としてニュース番組では東日本大震災が大きく取り上げられ、韓国の人たちは改めて関心を寄せていたからです。自国の災害対策の無力さ痛感した“アフター4.16”を経験したからこそ、この作品は一段とリアリティをもって観客に受け入れられたはず。失礼な言い方ですが、大きなクライシスを経て冷静さを取り戻しつつあったなかでの、“絶妙なタイミング”の上演だったのです。

7月1日に原作者の中津留章仁氏が訪韓し、上演後、演出家のキム・ジェヨプ氏とともにアフタートークが行われました。3時間弱の公演後、トークは夜11時を回ってスタートしたにもかかわらず、キム演出家がウォーミングアップとして最初の質問をした後は、客席から次々と手が上がり、観客たちの作品に対する関心の高さが伝わってきました。
公演終了から時間が経過してしまいましたが、大きな意義ある上演だった韓国版上演での観客との対話の様子を紹介したいと思います。

두산인문극장_배수의고도_작가와의 대화

アフタートークの様子(写真左から、演出キム・ジェヨプ、中津留章仁、翻訳・構成イ・ホンイ)

●キム・ジェヨプ 「背水の孤島」を執筆したきっかけは?

中津留「3.14の震災があったあと、石巻市にボランティアに行きました。缶詰を拾ったり、瓦礫の撤去だったり、ある家庭の位牌を探してほしいとか、金庫を探してほしいとかいろんな依頼があったんですけども、そういったことを通して、地元の人やボランティア、報道の方などと触れ合っていくなかでこの作品の着想を得たわけです」

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被災地のドキュメンタリーを制作する甲本(イ・ユンジェ)は、リアリティを出したいあまり、避難生活を送る夕(キム・ソジン)に”演出”を強いる

●キム・ジェヨプ 執筆からいま2年経っていますが、当時は震災を取り上げた作品としてはかなり早かったのではないでしょうか? 急いで作品に仕上げた理由は?

中津留「津波の被害や放射能の被害がどうなっていくのか、分からない状態で作品にまとめていく作業は非常に危険な作業だったわけです。日本の劇作家はある程度結果が出てから総括して書く、というタイプが多いような気がするんですね。この作品の場合は結果がほとんど分からない状態での執筆だったわけです。なぜそういう選択をしたのかというと、時間が経った後では総括はできると思うんですけど、その時の人間の心情や心の痛みや感じたことは時間が経つと薄れていくのではないかという危惧がありました。もちろん時間が経ったほうが近未来を描くうえではもっと正確な提示が出来たかもしれないんですけども、そのリスクよりも私は人間の心情を描くべきだと思ったんです。この作品を通じて心の痛みとか辛さ、この出来事をずっと忘れないための大きなものにするためだったんです」

●観客1 今日芝居をご覧になってどう思われたかお伺いしたいです。
中津留「まず、俳優陣の熱演に好感を持っています。それとキム・ジェヨプさんの演出のスマートさにも感心しています。日本ではもっとセットにリアリティがあったんです。(韓国版は)少し抽象的なセットになっていますね。抽象的にすることによって人の動きやどこのシーンを立てるかというのが明確になっていたと思います。何よりも俳優のエモーショナルな演技に共感しました」

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1幕(写真左)は石巻の被災地が舞台。木材のアナログ感を生かし、仮設住宅の雰囲気を出してある。2幕は12年後の警備会社が舞台のため、プロジェクターを使って近未来感を演出

●観客2 日本では今もメディアで取り上げられたり、人々が危険性を実感したりしていますか?
中津留「日本人の特徴、と言っていいのか分からないですけど、こういう事実があるということは大体の人が知っていると思います。ところがこれを胸に抱いたまま生きていくのは非常に困難です。そこで日本人は上手く忘れてみたり、現実を逃避するような気持ちの切り替えをすることによって、何とかこの現実から目をそむけながら生きているわけです。政府の方針もそういうことを助けているかもしれないですね。演劇というものは市民のものだと考えているので、政治がどうだとか経済がどうだとか、というのがあっても芸術というものは対等でなければならないと思っています。政治や経済などから解き放たれたところで表現をしなければいけないと私自身も思っていますし、観客自身もそういった芸術に触れることによって、より自由な視点や生き方を考えていく。そういう観客とのやり取りを我々も目指しています」

●観客3 企業や政府の描写について、実際に起こっていることをベースにしているのでしょうか? どういう事件やどういう点に共感されたのでしょうか。
中津留「(震災後の政府の対応や報道などについて語る)最初の甲本のナレーションというのは、実際にあったことだそうです。創作の部分もありますし、現実に基づいているところもあります。日野自動車が(創業地である)日野市から撤退するという部分などもリアルにあることですね。トヨタ(自動車)のところは噂、という部分で留まっています。そういう部分は創作だと考えてください。それから石巻でのシーンは基本的に創作です。あの~…私は酷い話を書くのが得意な作家です(笑)。人間の業、というか、悪いほうに悪いほうに転がっていくような話をよく書きます。そのほうが人間の本質や、本当に人間が何を選ぶかというドラマを描けるからです。(12年後の様子を描いた)3場(韓国公演では2幕)はほぼ創作です。ところが、最近その3場の世界観が現実化しています。その辺がちょっと面白いところでもあります」

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太陽役キム・シユの熱演がストーリーを大きく牽引した

●観客4 1幕の最後で太陽と夕(注1)の台詞に、死体を見ながら「綺麗だ」というシーンがありますが、それは石巻にボランティアに行かれたときに直接聞かれたり経験されたことなのでしょうかか? 死体を見た印象に「綺麗だ」という言葉をもってこられた理由を知りたいです。

 注1:石巻の被災地に父と3人で暮らす姉弟。夕(ゆう)は大学生、太陽は高校生。

中津留「それは私の創作です。まぁ、それが“文学”じゃないですかね(照笑)。ズルい答えですけど(笑)。やっぱり死体と綺麗というのは絶対に繋がらない言葉じゃないですか。この作品なら、その言葉と言葉の隙間を掴むことができるような気がしていて、甲本のナレーションを書きながら、どういう風に組み立てようかと思って、その構想を掴んだときに“あ、これで書ける”と思いました」

⇒リポート②につづく