ユン・ナム

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.16

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.16

 

ハムレットとして生まれ、ジュリエットを夢見る女『ハムイク』

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キム・ウンソン脚本家 ©ドゥサンアートセンター

今回は、今月、韓国演劇界で最も注目されている人を紹介したいと思います。劇作家キム・ウンソンです。彼の新作『ハムイク(함익)』(演出:キム・グァンボ 김광보)が9月30日から世宗(セジョン)文化会館Mシアターで、そしてもう一つの新作『サンシャインの戦士たち(썬샤인의전사들)』(演出:ブ・セロム 부새롬)が9月27日から、ドゥサン・アートセンター スペース111で上演されるからです。2作とも評論家と観客の両方から今月最高の期待作と言われています。

話題の主人公キム・ウンソン(김은성)は、1977年生まれ。2006年『シドン仕立て店(시동라사)』でデビュー以来、『スヌ伯父さん(순우삼촌)』(2010)、『延辺母さん(연변엄마)』(2011)、『月の国連続ドラマ(달나라연속극)』(2012)、『ロプンチャン流浪劇場(로풍찬유랑극장)』(2012)、『木蘭姉さん(목란언니)』(2012)、『ぐるぐるぐる(뺑뺑뺑)』(2014)等々、数多くの話題作を発表してきた劇作家です。特に、脱北して韓国に来た女性を主人公にした『木蘭姉さん』は日韓演劇交流センターが主催する「韓国現代戯曲ドラマリーディング」(2015年1月 世田谷パブリックシアター シアタートラム)で、日本語朗読上演され、両日満席を記録するほど日本の観客からも多くの支持を得ました。この『木蘭姉さん』のように彼のオリジナル戯曲も高く評価されていますが、彼が最も得意とするのは、西欧の古典戯曲を現代韓国社会に置き換え、緻密でユーモア溢れる脚色バージョンを書き上げることです。チェーホフの『ワーニャ伯父さん』を『スヌ伯父さん』に、リュボミル・シモヴィチ(Ljubomir Simovic)の『ショパロヴィチ流浪劇団(The Traveling Troupe Sopalovic)』を『ロプンチャン流浪劇場』に、テネシー・ウィリアムズの『ガラスの動物園』を『月の国連続ドラマ』にと、有名な原作を全く新しい作品に変身させる奇抜さは、ほかの作家は真似できない彼の武器です。今月の新作のなかでも、その系譜を継ぐ作品があります。シェイクスピアの『ハムレット』を脚色した『ハムイク』がそれです。

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『ハムイク』の主人公ハム・イク役のチェ・ナラ(左)と、幻覚のなかに登場するもう一人のハム・イクを演じるイ・ジヨン ©ソウル市劇団

『ハムイク』の最も大きな特徴は、ハムレットを女性にしたところです。韓国の財閥「マハ・グループ」オーナーの娘であるハム・イクは、イギリス留学で演劇(悲劇)を専攻した秀才です。彼女は、マハ・グループ傘下にある大学の教授に就任し、才色兼備な女性として上流社会の注目を浴びます。しかし彼女は長い間、復讐心を胸に秘めています。子どもの頃、自殺した母が、父と継母によって殺されたと思っているからです。しかし父の権威の前では一言も言えない彼女には、婚約者のオ・ピリョンも何の役に立ちません。その代わりに、ボンドを吸って幻覚の中だけで存在するもう一人の自分と会話しながら復讐を夢見ます。そんなある日、大学で『ハムレット』の上演に向け指導している中、ハムレットに夢中になっている学生「ヨヌ」が彼女の目に留まります。ヨヌの登場で、彼女の心は揺れ始めるのです。

先に稽古を見られる幸運を得て稽古場を覗いてみたら、まさに息詰まる100分でした。分厚い台本を消化した26名の俳優たちが、約100分間という短い時間の中に『ハムレット』と今の韓国を生きる人々を表現していたからです。そしてこの世界を作っていくのは、韓国屈指の演出家キム・グァンボです。彼が団長を務めているソウル市劇団は、今年の上半期の定期公演でもシェイクスピアの『ヘンリー4世』を上演して好評を得ましたが、素敵なチームワークは今回も舞台上で輝くだろうと感じられました。

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『ハムイク』制作発表より (写真左から)キム・ウンソン脚本家、ユン・ナム、チェ・ナラ、イ・ジヨン、キム・グァンボ演出家 ©ソウル市劇団

稽古の前には「たくさんの方々が期待してくださっているんですが、実は心配です」と自信なさげに語っていたキム・ウンソンさんも稽古を見ながら感嘆詞を連発!ソウル市劇団の団員でハム・イクを演じるチェ・ナラ、彼女の幻覚の中に現れるもう一人の自分を演じるイ・ジヨンは驚くほどの呼吸で悲劇の主人公を表現していました。また、劇団外から今回特別参加している人気俳優のユン・ナムは、明るく熱心で演技そのものにはまっている、普段の彼とほぼ変わらないようなヨヌを演じていました。三人だけではなく、26名の俳優の一人ひとりの集中力と熱気は本当にすごくて、見ているこちらも緊張するしかなかったほどです。でも決して嫌な緊張感ではなく、この物語の悲劇性にとても似ていて、一層この作品世界に入り込ませてくれました。

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『ハムイク』制作発表より ヨヌ役を演じるユン・ナム ©ソウル市劇団

学生たちに「あんたたちに悲劇がわかる?」と叫んだハム・イクは、結局最後には凄絶に壊れてしまいます。ヨヌを見て揺れ始めた恋心、彼女の陰によって執着やヒステリーのような醜い形になってしまいます。優柔不断なハムレットのキャラクターから彼の女性性に注目し、この作品を執筆をしたというキム・ウンソン。この作品はオリジナルの創作劇だと言ってもいいくらい原作を大胆に脚色していますが、『ハムレット』のストーリーを知った上で観劇すると、より面白くなる作品です。400年前にイギリスで誕生した物語が、ソウルのどこかで実際に今起こっていることと言っても違和感がないほど生々しい物語になっているからです。ハム・イクが客席に向かって、「生きるべきか死ぬべきかは問題ではない。“生きているか死んでいるか、それが問題だ”」と問う、『ハムレット』の有名なセリフを活用したシーンも胸を打ちます。

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『サンシャインの戦士たち』イメージ写真 ©ドゥサンアートセンター

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『サンシャインの戦士たち』チョン・バクチャン(左)と、シム・ジェヒョン ©ドゥサンアートセンター

キム・ウンソンのもう一つの新作『サンシャインの戦士たち』も、韓国の現代史の素顔をそのまま見せてくれる作品です。3年以上の時間をかけて執筆したというこの戯曲は、娘を失った小説家を主人公にし、彼の目に映る、繰り返される歴史の悲劇を描いています。彼が主宰する劇団「月の国椿の花」によって上演されるこの作品は、彼がドゥサン・アートセンターのヨンガン財団から受賞した「第3回ドゥサン・ヨンガン芸術賞」の副賞として企画・制作されました。ドゥサン・アートセンターは若手アーティストを継続的にサポートする活動をしているのですが、彼はそのサポートを受けている一人でもあります。今後ドゥサン・アートセンターが制作した彼の代表作『木蘭姉さん』もオーディションを行い新メンバーによる再演を計画しているそうですので、これからのキム・ウンソン脚本家とドゥサン・アートセンターのパートナシップにもご注目ください。


hamikposter【公演情報】
演劇『ハムイク』(함익)
2016年9月30日~10月16日 世宗文化会館Mシアター

<出演>
カン・シング、チェ・ナラ、イ・ジヨン、ユン・ナム、ファン・ソンデ、パク・ギドク、グ・ドギュン、イ・ウォニ、キム・ドゥボン、キム・スア、ナ・ソクミン、ソン・チョルホ、チョン・ウンジョン、イ・ジョンジュ、チョン・ボヨン、イ・セヨン、パク・ジンホ、ホ・ヒョホン、チョン・ソクファン、チョン・ユジン、ユ・ウォンジュン、ハン・ジョンフン、パク・ヒョン

脚本:キム・ウンソン/演出:キム・グァンボ/音楽監督:チャン・ハンソル/振付:クム・ベソプ/美術:パク・ドンウ/衣装:ホン・ムンギ/ヘアメイク:イ・ドンミン


sunshineposter演劇『サンシャインの戦士たち』(썬샤인의 전사들)
2016年9月27日~10月22日 ドゥサン・アートセンター Space111

<出演>
ウ・ミファ、キム・ジョンテ、イ・ファリョン、クァク・ジスク/クォン・テゴン・チョン・バクチャン/チョン・セビョル/イ・ジへ/シム・ジェヒョン/チョ・ジェヨン/ノ・ギヨン/チャン・ユル/パク・ジュヨン

脚本:キム・ウンソン/ドラマターグ:ソン・ウォンジョン/演出:ブ・セロム/美術:パク・サンボン/照明:チェ・ボユン/映像:チョン・ビョンモク/音楽:チェ・ゴウン、ファン・ヒョヌ/音響:イム・ソジン/衣装:ぺ・ウンチャン、リュ・ヘソン/小道具・ヘアメイク:チャン・ギョンスク

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[MUSICAL]観客が男たちを自由に…!?『風月主』雲楼主人コール開催

[MUSICAL]観客が男たちを自由に…!?『風月主』雲楼主人コール開催

 

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真聖女王(イ・ジスク)の寵愛を一手に受けているヨル(ソン・ドゥソプ)

2年ぶりの再演が開幕したミュージカル『風月主』(プンウォルジュ)を、観客が舞台の感動と余韻を写真や映像にそのまま記録できるスペシャルイベント「雲楼(ウンル)主人コール」が9月11日に開催された。

物語の舞台となっている古代新羅時代には花郎(ファラン/화랑)という眉目秀麗な青年を集めた集団があり、なかでも精鋭は風月主と呼ばれていた。文芸にも秀で、美しい容姿をもつ男性の象徴となっていた風月主は、のちの時代には妓生のような存在の呼称にもなっていたという。そのような史実をベースにしている本作は、男性の妓生、風月(プンウォル)たちが主人公だ。雲楼とは、彼らが身分の高い女性客をとるために身を置く場所のこと。つまり、今回のイベントは観客が雲楼の客人となれる特別な1日となった。

主人公は、容姿端麗な男たちが集う雲楼で、幼いころから兄弟のようにすべてを共にしてきたヨルとサダム。雲楼で一番人気のヨルを寵愛していた孤独な真聖(チンソン)女王が彼の子を懐妊。待ち望んでいた妊娠に喜び、愛するヨルを王の座に迎えようとする女王だが、かたくなに拒むヨルの背後にはサダムの存在があることを知り、サダムに圧力をかけはじめるのだ。

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ヨル(キム・デヒョン)とサダム(キム・ジフィ)は幼いころから雲楼でともに成長した兄弟以上の仲

美しい男たちの切ない愛が交錯する物語に2012年の初演から大ヒット。翌年の再演を経て日本公演も行われた。3度目の再演を記念して開催されたこのイベントのチケットは発売と同時に即完売するほどの圧倒的な人気を見せていただけに、客席にはカメラ、ビデオレコーダーなどをもつファンで超満員。試演が始まったとたん、すさまじいシャッター音のなか、ヨル、サダムと各トリプルキャストを中心に、全キャストが登場して9曲のハイライトシーンが上演された。

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真聖女王(チョン・ヨン)はサダム(ユン・ナム)にヨルのもとから去るよう命じる

3度目の再演では、前2回の無機的なイメージとは異なり、雲楼の建物のなかにいるようなセットが組まれている。キム・ドンヨン演出家は「初演、再演でも多くの観客から愛された作品なので、プレッシャーも大きかったですが、前2回とまったく違うようにしようという考えはなく、台本を読んで、曲を聴いて浮かんだ風景を舞台に移そうと思いました。最も重要だと考えたのは作品のなかにいる主人公たちの心情をどう表現するかで、それに集中したように思います。雲楼という空間で、互いに得られないものを求める人たち、それぞれに誰かの生きがいとなっている相手を得ることができないという哀しい想いを、美しい背景のなかに込められれば、というのが私の演出の方向だったと思います。制作中に冗談で話していたのですが、実際に美しい木々に囲まれ、風の音が聴こえるような野外で公演ができたらいいなと言っていたほど、美しい場所で、美しいけど哀しく、哀しいからこそ美しい感性豊かな公演になればと思います。なぜ彼らはそうなってしまうのか、と説明するよりも切ない感情が美しい一枚の絵のように心に残る作品になればいいなと思っています」と語り、登場人物たちの心情にフォーカスした演出になっていると解説していた。

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サダム役のキム・ソンチョルとヨル役のキム・デヒョン

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サダム役のユン・ナムとヨル役のイ・ユル

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サダム役のキム・ジフィとヨル役のソン・ドゥソプ

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雲長(ウンジャン)役のユン・ソグォンとシム・ジェヒョン

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真聖女王役のイ・ジスクとチョン・ヨン

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(写真左から)ヨ夫人役のチェ・ユジン、チン夫人役のチャン・イジュ、雲楼の末っ子クングム役のソン・グァンイル

初演でヨル役を演じて人気沸騰したソン・ドゥソプとイ・ユルのカムバックや、サダム役のキム・ソンチョル、クングム役のソン・グァンイルなど注目の新人も出演し、再び大学路に旋風を巻き起こしている『風月主』は11月22日まで上演される。


15pwjposter1【公演情報】
ミュージカル『風月主』(풍월주)
2015年9月8日~11月22日 プティツェルシアター(大学路)

出演:ソン・ドゥソプ、イ・ユル、キム・デヒョン、キム・ジフィ、ユン・ナム、キム・ソンチョル、チョン・ヨン、イ・ジスク、ユン・ソグォン、シム・ジェヒョン、チャン・イジュ、チェ・ユジン、ソン・グァンイル

脚本:チョン・ミナ/作曲:パク・ギホン/演出:キム・ドンヨン/音楽監督:グ・ソヨン/舞台:パク・サンボン/照明:イ・ドンジン/音響:ヤン・ソクホ/衣装:キム・ウニョン/ヘアメイク:キム・ユソン/小道具:チェ・へジン

ポスター写真提供:CJ E&M ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。


 

 

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[PHOTO]ミュージカル『ロ・ギス』プレスコール

[PHOTO]ミュージカル『ロ・ギス』プレスコール

 

ミュージカル『ロ・ギス』プレスコール
2015年3月19日 DCFデミョン文化工場 1館

出演:キム・デヒョン、ユン・ナム、ユ・イル、キム・ジョング、
ホン・ウジン、イム・チュンギル、チャン・デウン、
オ・ウィシク、チョン・スンウォン、イ・ウチョン、
イム・ガンヒ、イ・ジスク、ヤン・ギョンウォン、キム・ミンゴン、
キム・ソンス、キム・ジヘ、クォン・ドンホ

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【PHOTO】ミュージカル『思春期』プレスコール

【PHOTO】ミュージカル『思春期』プレスコール

 

ミュージカル『思春期』プレスコール
11月26日 忠武アートホール 中劇場ブラック

ヨンミン役:シン・ソンミン/ユン・ナム
ソンギュ役:チェ・ソンウォン/チョ・ヒョンギュン
班長役:キム・ダヒン/(カン・ジョンウ)
キョンチャン役:イム・ビョンテク/(パク・ジョンウォン)
ヨンマン役:キム・ソンチョル
ヨンチョル役:コ・フンジョン
スヒ役:パク・ランジュ
ファギョン役:カン・ユンジョン

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