初代韓国統監となった伊藤博文を1909年に暗殺し、韓国では朝鮮独立運動のシンボルとされている安重根(アン・ジュングン)の半生を描いたミュージカル『英雄』が4月14日に開幕した。これを前にドレスリハーサルが行われ、13日にはチョン・ソンファ、14日にはミン・ヨンギ主演で進行された。
『英雄』は2009年に初演され、2011年にはNYブロードウェイのリンカーンセンターで上演を果たすなど、その題材もあいまって韓国を代表する創作ミュージカルの一つに数えられている。また光復(日本における終戦により植民地支配から解放された)70年目の節目となった今年初旬には、 伊藤博文を暗殺した中国のハルビンでも公演を行った。
これまで、リュ・ジョンハン、ヤン・ジュンモ、シン・ソンロクなど多くの実力派俳優が主演し、今回9回目となる再演では、安重根役に初演から同役を務め、約3年ぶりの出演となるチョン・ソンファ、ハルビン公演に主演した『あの日々』のカン・テウルに加え、今回初出演となる『三銃士』『ジャック・ザ・リッパー』などでおなじみのミン・ヨンギが加わった。
身柄を隠して密偵となり、“ナミダ”という源氏名の芸者に扮して伊藤博文に接近するソルヒ役には、2012年公演以来の出演となるリサ、2014年公演にも出演したオ・ジニョンに、『モーツァルト!』『マーダー・バラッド』などの話題作に出演した歌手のイム・ジョンヒが初出演している。
また『風と共に去りぬ』で奴隷長を熱演したパク・ソングォン、『ヴォイツェック』出演のチョン・ウィウク、『女神様が見ている』『思春期』の新人パク・ジョンウォンが安重根の側近となる同志たちをシングルキャストで演じるほか、安重根に淡い恋心を抱く中国人の少女リンリン役をミュージカル『デスノート』への出演が決まっているイ・スビンと、『あの日々』のソン・サンウンが演じている。
安重根が同志たち12名とともに指を切り、大極旗に「大韓獨立」という血文字を書いて暗殺を決起するシーンから始まる本作は、伊藤博文が芸者ナミダを見初めるお座敷のシーンや、伊藤が演説するシーンでのステレオタイプにデフォルメされた日本の描写は日本人の立場から見ると違和感を覚えるシーンも多い。だが、単に伊藤博文を悪人として描くのではなく、人間としての葛藤もしっかりと盛り込まれているのは興味深い点だ。また、暗殺を実行後、収監されていた刑務所で日本人看守と交流するシーンなど、史実にあるエピソードも盛り込まれ、本作では安重根を単なる暗殺者ではないひとりの人間として描いている。
安重根を演じる3人を筆頭に、本作ではしっかりした下地をもったミュージカル俳優が出演しているのは評価すべき点だ。例えば、チョン・ソンファが同志たちと圧倒的な声量で歌い上げるコーラスシーンは彼がかつて出演していた『レ・ミゼラブル』の名場面を彷彿とさせる。また、1幕の中盤で、安重根ら独立運動の同志たちが日本軍に追われるシーンではハイレベルなアンサンブルたちの歌唱力と身体能力の高さが発揮される見どころの一つだ。
劇中に、初恋のエピソードや安重根の心の支えとなる母親の存在、仲間の死など、韓国のエンターテイメント作品には必須の韓国人の琴線に触れる重要なキーワードが散りばめられており、一度見れば、この作品が韓国で支持され続けている理由が体感できるはずだ。
個性がまったく違う3人の安重根のキャラクターを堪能できる2015年版の『英雄』は、5月31日までブルースクエア サムソン電子ホールで上演される。
【公演情報】
ミュージカル『英雄』(영웅)
2015年4月14日~5月31日 ブルースクエア サムソン電子ホール
出演:チョン・ソンファ、ミン・ヨンギ、カン・テウル、キム・ドヒョン、チョ・スンリョン、リサ、イム・ジョンヒ、オ・ジニョン、ソン・サンウン、イ・スビン、チョン・ウィウク、パク・ソングォン、パク・ジョンウォン、イム・ソンエ、チャン・ギヨン、キム・ドックァン、キム・テヒョン、チャン・デウン、チョ・ヨンテ、イ・ヨンジン、チュ・ホンギュン、ホン・インア
演出・代表:ユン・ホジン/プロデューサー:ファン・ボソン/作詞:ハン・アルム/作曲:オ・サンジュン/舞台:パク・ドンウ/音楽監督:キム・ムンジョン/ドラマトゥルク:ソン・ギウン/振付:イ・ラニョン
●公開リハーサルフォト: チョン・ソンファ編 / ミン・ヨンギ編
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