[REVIEW]思春期の混沌をアーティスティックに表現 演劇『飛行少年KW4839』

 

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開演前は空港にいるようなアナウンスが流れ、観客は飛行機に搭乗するような感覚に

『バンジージャンプする』『ヒストリー・ボーイズ』『メフィスト』『愉快な下女マリサ』『ステディ・レイン』『ピローマン』『背水の孤島』『RED』『洗濯(パルレ)』『木蘭姉さん』……近年手掛けた作品だけでも、ゆうに10作を超える舞台デザイナーのヨ・シンドン。斬新かつ独自の美学をもつ舞台デザインが高く評価され、受賞歴も多数。韓国公演界でひっぱりだこの存在だ。昨年ドゥサンアートセンターSpace111で上演した初演出作品『サボイ・サウナ』に続き、演出2作目となる『飛行少年KW4839』が6月13日~20日までペク・ソンヒ チャン・ミンホ劇場で上演された。

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劇場入口には鳥の巣箱のオブジェ。画面右側奥に偶然写っているのが作・演出のヨ・シンドン

国立劇団が5月から上演している青少年演劇シリーズの1作として上演された本作。劇場に入ると、プロジェクターやライティングを駆使して空間全体を空港~飛行機に搭乗するような演出がなされていた。搭乗客である観客を案内していた乗務員たちが制服を着替えて学生となって登場。11人の生徒たちは真面目なガリ勉キャラから、オタク系、不良少女に無気力キャラなど。それぞれのキャラクターを象徴するような小物が用意され、さすがは細部までディテールにこだわるヨ・シンドンらしさが随所に感じられた。
もっともユニークだったのは、青少年と大人の世代間ギャップを表現していた部分。ドイツ語で語る若者の告白に合わせ韓国語字幕つきのイメージ映像を出したり、さまざまな世代に最近の青少年について訊いたインタビューコメントを、老人⇒女学生が、主婦⇒男子学生が、という風に逆のジェンダーの俳優に完璧なリップシンクをさせて語らせていたシーンは大ウケしていた。だが、冒頭では女子高生がアニメキャラに扮して歌うなど明るい雰囲気で始まった芝居が、次第に一人一人の内面の告白へと移っていき、混沌としていくさまは、現代の若者像を見ているようだった。

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劇場に入ると、飛行機搭乗前の入国管理(?)ブースで俳優に年齢や職業、幼い頃の夢などをインタビューされる

そしてクライマックスは机に臥せってばかりいたある男子生徒がぽつりと語り始めた独白から始まる。
「私には限界が悩みです。私にとって限界という単語は、とても恐ろしい感じがします。私は自分に限界を感じようが、背後に限界を感じようが、どんな部分でも限界を感じたら、私は終わってしまうだろうと考えてきました。しかし、限界を認めてしまえばその程度のことだという話を聞いたときに、本当にバカなことを悩んでいたということを悟りました。まだ味わってもいない限界と悩みを急いで味わい、投げ捨てた自分自身が恥ずかしかったです」
このセリフを、一人、また一人と生徒たちが繰り返し輪唱しはじめ、最後は11人全員で力いっぱいに絶叫していくのだ。このシーンは圧倒的で、多くの観客が涙をぬぐう様子が見られた。パンフレットにあった演出家のインタビューを読むと、この作品は青少年向けに作ったという意識はそれほどなかったそうだが、若い世代のみならず、いまは大人になってしまった世代でも、かつては抱えていたはずの言葉にできない思春期の葛藤や混乱を呼び起こされるような感覚に陥ったようだった。

hikouC演出1作目『サボイ・サウナ』ではセリフはほとんどなく外国人俳優や全裸の男優をまるでオブジェのように登場させるなど、演劇というよりはインスタレーションやアートパフォーマンスに近いアプローチだったが、この2作目ではそこから一歩踏み込み、ドラマ性を持たせた作品になっていた。スタッフクレジットを見ると、『サボイ・サウナ』でも起用していた構成作家チョン・スジン、音楽監督チョン・ジェイルなど、過去にヨ・シンドンが手掛けた数々の話題作でともに作業した気鋭のスタッフがズラリ。わずか1週間程度の公演を、こうして贅沢に上演できる環境を羨ましく感じるとともに、演出3作目への期待がますます高まった公演だった。