韓国の伝統芸能パンソリ(판소리)のソリクン(소리꾼/歌い手)でありながら、舞台女優、小説家としてもマルチに活動しているチョ・アラ作・演出・主演の独り芝居『仕方がない』のプレスリハーサルが開幕を控えた8月28日に行われた。
1981年生まれのチョ・アラは、1980~90年代にバラエティー番組を中心に活躍したコメディアン、チョ・ジョンヒョン(조정현)を父にもつ。父は全盛期だった1999年に脳溢血で倒れ、その後、身体に麻痺が残りながらも回復したが、コメディアンとしての活動からは引退を余儀なくされている。娘チョ・アラにとって、幼いころにはテレビで大人気の有名な父が自慢だったが、引退後に背負った父親の影が、ソリクン、女優として活動する彼女にとっては大きな重荷となってしまうのだ。本作の創作にあたり、父親の記事を集めた16冊のスクラップブックや180本にわたる映像など、資料をすべて再見することから始めたという。タイトル『仕方がない(어쩔 수가 없어)』は当時流行語になるほどの人気となった、父の持ちネタのひとつで、ポスターの題字も父が書いたものだ。
本作は「サイコ巫女 チョ・アラのマルチインタラクティブ劇遊び」というサブタイトルがついており、芝居はチョ・アラがムーダン(巫堂)の扮装をして劇場の外で語りだすところから始まる。パンソリには欠かせない鼓手(고수 コス=太鼓奏者)の音楽+現代的なノイズやエレクトリックサウンドにビデオアートも交えた、韓国式に言えばフュージョン(Fusion)パンソリパフォーマンス的な作品だ。この独特の作品世界が評価され、2015年ソウル文化財団 芸術創作支援事業 多元(ダウォン)部門に選定されている。
ストーリーは、盲目の父の視力を回復させるために親思いの娘チョン(清)が身を捧げ、海に沈むという代表的なパンソリの物語のひとつ『沈清歌(심청가 シムチョンガ)』がベースになっている。劇中では、父チョ・ジョンヒョンがコメディアンとして活躍した当時の映像がふんだんに使われ、そのなかで道化師のような扮装をしたチョ・アラが芝居や語り、ダンスなどを交えながら“サイコ巫女”に扮して自分史を演じる点がユニークだ。父との確執や葛藤もストレートにさらけ出し、自己のアイデンティティを追及する姿は、親に人気俳優や歌手などをもつ二世たちが共通して背負っている十字架を見ているようだった。
チョ・アラが持てる力を最大限に発揮し、舞台作品として昇華させた『仕方がない』は、8月29日から9月6日まで、ソウル駅そばにある国立劇場 小劇場パンで上演される。
【公演情報】
サイコ巫女 チョ・アラのインタラクティブ劇遊び『仕方がない』(어쩔 수가 없어)
2015年8月29日~9月6日 国立劇場 小劇場・幕
作・演出・共同構成・作唱・出演:チョ・アラ
共同構成・ドラマターグ:キム・ユジン
助演出・舞台監督:マ・ドヨン
サウンドデザイン:ユン・ジェホ
楽士:ミン・ヒョンギ
ポスター写真提供:Play for Life ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。
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