マスコミも燃えた!『冬ソナ』&韓ドラ取材裏話
ペ・ヨンジュンの初来日は、2004年の4月3日。NHK-BSでの放送から丸一年後、NHK地上波で『冬のソナタ』が放送されるタイミングでしたね。私、この時は取材ノータッチで、空港やファンミーティングの熱狂ぶりを「すげ~な~!」ってテレビで観ていただけでした(笑)。
たしか初来日のときのファンの空港でのお出迎えが5000人だったかと思います。それ以前は、映画『ハリー・ポッター』シリーズの、ダニエル・ラドクリフ来日時の3000人が最多。最近の、WBC(野球)の侍JAPANのお出迎えで1200人なので、1人で5000人って凄いですよね。2度目の公式来日のときは、ホテルの前でファンが事故に遭ったりもしましたし。
●参考映像:韓国ドラマ『冬のソナタ』ブーム(NHKアーカイブス)※2度目の公式来日時の空港の様子が映像冒頭に出てきます。公式発表は3500人。
あの記者会見の時は、記者席の前方にいてヨン様の涙を間近で見ましたね。自分のせいでファンの方がけがして申し訳ない、って悲壮感が漂っていて。世間的にもものすごい騒ぎになりましたよね。ヨン様は礼儀正しいことで知られていたけど、韓流ブームのトップバッターだったので、どこか国を背負っている……韓国を代表しているようなところが感じられたかな。私にとってはミステリアスな存在で、礼儀正しくて謙虚だけど筋肉ムキムキの写真集を出したり、映画『スキャンダル』(03年)のような大胆な作品に出たり。直接インタビューしたことがないので、今でもどんな人なのか謎なんですよ。
私が覚えているのは、とにかくどの質問もメモをしっかり取って、回答する姿です。それこそ全国からマスコミも集まっているので、熱量半端ない質問が飛んでくるんです。どれだけハマっているかアピールしたり、自分の地域ネタをからめたり、ときには返答に困りそうな細かい質問なんかもあるんですよ。それに対しても慎重に言葉を選びながら、真摯に応じる。微笑みながら、完璧に。なんていうか、非の打ち所がなさすぎて、本当に人間なのかな? と思ったぐらいです。
その後、私がペ・ヨンジュンの記者会見に初参加したのは映画『四月の雪』(05年)で日本公開前にソウルで記者会見したときだったので、だいぶ遅かったですね。日本ではあまりにも人気なので、取材のハードルが高すぎてテレビとか新聞社などの大手メディア以外の人間は記者会見に参加するのが精一杯って感じでした。
●参考記事①:ペ・ヨンジュン『外出(四月の雪)』試写会場 取材熱気でホット(聯合ニュース)※映像あり。日本からの取材陣が約200人、日本から飛んできた女性ファン数百人と書いてあります。
●参考記事②:ペ・ヨンジュン、アジアで認めてもらえる俳優になりたい(聯合ニュース)※映像あり。『四月の雪』の公式記者会見の模様。国内外のメディア1000名が参加。ヨン様は「今日は緊張して映画が見られませんでした。あとで観客の方々と一緒に見たいと思います」と話しています。
まさに、雲の上の人でした(笑)。フィーバーといえば、イ・ビョンホンとチェ・ジウが来日した2004年の東京国際映画祭(映画『誰にでも秘密がある』)も印象深いですね。記者会見はもちろん、アフターパーティーなども、異常な人数でした。そうそう、イ・ビョンホンといえば、映画『純愛中毒』(02年)です。取材陣が集まりすぎて、会見場に人が入りきらないんですよ!当時、アジア映画でそんなに取材陣が集まることはなかったので、もはや事件でした。あの頃はやっぱり“狂乱”でしたね。
●参考記事①:チェ・ジウとイ・ビョンホンの記者会見に800人!(シネマトゥデイ)映画『誰にでも秘密がある』来日時のリポート。
●参考記事②:女性ファン熱狂、イ・ビョンホン来日会見は一触即発(映画.com)映画『純愛中毒』来日時のレポート(2004年)
俳優以外には『冬ソナ』の主題歌を歌ったRyuとか、『美しき日々』のZeroとか、OST歌手の人たちにもよく取材しました。彼らは歌番組には出演しないから“顔のない歌手(얼굴 없는 가수)”って呼ばれていて……。
そうそう!『天国の階段』(03年)で「ポゴシプタ」を歌ったキム・ボムスも、最初は顔のない歌手として活動してましたよね。来日イベントに行ったとき、めちゃくちゃ歌うまくてびっくりしました。
そもそもドラマの主題歌や挿入歌をOSTと呼ぶようになったのも、韓ドラの影響ですよ。こういう風に『冬ソナ』を機に日本に定着した韓国文化はいろいろあると思うな。
『冬ソナ』から始まった韓流ブームの影響で、中年女性が情報収集のためにパソコンを始めたりスマートフォンを持ち始めたりして、一気に高齢女子のデジタル化が進んだよね。
今で言う“推し活”の走りですよね。ファンミーティングに取材に行くと、参加しているみなさん肌がつやつやで、はにかむ姿は乙女や少女そのもの。あの表情を見るだけで、幸せのお裾分けもらっている気分になります。改めて、これだけ多くの女性たちを生き生きとさせた韓流ってすごいと思いますね。
『冬ソナ』はいまの韓ドラと何が違う?
『冬ソナ』と最近の韓ドラとを比べるとどうですか? 私はタイム感というか、展開スピードがこんなに遅かったっけ? とちょっと驚きました。
今のドラマって、造りが複雑になってて伏線の仕込みとかも凄いじゃないですか。それがあまりにも多いから観てて疲れるのよ。『冬ソナ』は驚きのどんでん返しがあってもシンプルだし、悪人が悪辣過ぎない。財閥ものではないからかな? それに、映像と音楽と、主人公たちの感情の流れを大切に撮ってる気がした。
今の韓ドラに慣れていると、そのゆったりした進行に驚くかもしれないけれど、当時は、ノスタルジックな雰囲気と映像美がとにかくぐっときましたよね〜。ちょっと懐かしいようなピュアさがあるじゃないですか。『冬ソナ』は四季シリーズということもあり季節の情景を感じられる効果があったと思います。
OSTもピアノ曲中心で、とてもシンプルだけど耳に残りましたよね。今だとロックとかヒップホップとか、もっといろんなジャンルの曲が流れるし、劇中に効果音などもガンガン入れてきますしね。
『冬ソナ』はほとんどの曲をRyuが担当したおかげで、シンプルで美しいメルヘンチックな世界観が出来上がっていた気がします。まぁそれは”ユン・ソクホワールド”なのかもしれないけれど。
脚本家のインタビュー記事を読んだら、「状況とかはあまり書き込まないで監督にお任せした」って言ってましたね。
『冬ソナ』と同時期、日本ではどんなドラマを放送していたかを改めて調べたら、最初のBS放送は、03年の視聴率1位、2位作品となった木村拓哉主演の『GOOD LUCK!!』(TBS)が終わって『白い巨塔』(TBS)までの空白期! 同時期には『Dr.コトー診療所』(フジテレビ)を筆頭にヒューマンドラマやホームドラマが多い時期でした。04年の地上波放送のときはというと『オレンジデイズ』(TBS)や『ウォーターボーイズ2』(フジテレビ)など。若い人向けの作品が元気な時期なんですよ。そんなところに「初恋」をテーマにしたドラマチックな作品がNHKで放送された。あの時、あの瞬間、ベストなタイミングだったんじゃないかって思いました。『冬ソナ』など初期韓流作品って、40代以上の女性の支持が圧倒的に高かったですが、その世代の人々が、ときめきを覚える作品を求めてたのかもしれないですね。
意外とありそうでなかった、というか、当時の中高年層が求めてたところにスポッと入ったんでしょうね。
当時の中高年層が日本の若い俳優のおっかけをやるのはちょっと気が引けるけど、韓国の俳優、特にペ・ヨンジュンはお年寄りにもすごく優しかったから、そこに惹かれたのかも? とにかくファンに対する態度が紳士的だったから。
『冬ソナ』見てると、ペ・ヨンジュンが何かの瞬間に振り向いてニコッ!ってするとか、彼が素敵に見えるようスロー気味に溜めで撮られたシーンがやたら盛り込まれてるんですよね(笑)。ユジンのみならず、視聴者が彼に堕ちていかざるを得ないマジックが仕込まれてる(笑)
微笑みの貴公子って呼ばれてたもんね(笑)
少女漫画世代からしてみると「あ、知ってる!この世界!」ですよ。白馬の王子様の実写版なイメージでした。
同時期に作られてた他の韓ドラと比較しても、あそこまでメルヘンチックな作品はなかったですからね。
一方で、ロマンスシーンは露骨じゃないし、控えめなのにすっごくドキドキする。ユン・ソクホ監督に取材したときに「監督が描くロマンスシーン(たとえば小指と小指を合わせるなど)は、一見ピュアだけど、一方でセクシーですよね」って伝えたら「自分の初恋やデートしたときにやりたかったことを実現させた」っておっしゃって。夢を実現してたのかぃ!と、心のなかでツッコミました(笑)。
私も監督が北海道で撮った映画(『心に吹く風』17年)で取材したときに、バスのシーンはご自身の体験ですか?って訊いたら「そうだ」って言ってて、『冬ソナ』も自分の初恋をかなり投影してるって言ってましたね。あとはね、『冬ソナ』は結構エロいのよ。サンヒョクがユジンをホテルに連れ込むシーンとか衝撃だったもん。でもそういう人間の欲望というか、エロさをエロくなく出してあるの。
そういうところも大人にウケたんじゃないかなと。さじ加減が上手くてピュアに見えるんですよ。冷静に見るとそうでもないのに。「大人のための童話」だったんですよね。
美しく感じる要因のひとつとして、詩的なセリフが多いよね。物語の肝になる場面でいきなり詩的なセリフや独白があったりする。韓国って地下鉄の駅に詩が掲示されてたりとか、一般の人にも広く詩が浸透してて、みんなポエティカルな表現をするのが元々大好きなんですよね。
今思い出しましたが、「ユジンさん…」「ミニョンさん…」って丁寧語でのやりとりも新鮮だったかも。愛情表現とか、恋愛の駆け引きなんかも当時の日本のそれともちょっと違ってて、欧米人ではなく、自分たちと姿かたちが似た人たちがあんなにロマンスに対して情熱的なのにも驚きました。
いま改めて『冬ソナ』を観るならば…
そうすると『冬ソナ』は最近の韓ドラに興味を持って観てる人たちが好むものとはだいぶギャップがありますね。
好きな人はずっと好きな作品であることは間違いないけれど、正直なところ、最新ドラマを視聴する時間を削ってまで、今絶対観て!とはおススメできないかも……
20年前もノスタルジックだったけど、もうクラシックスとして、昔の韓国の文化とか背景を楽しむ作品かな?とは思いますね。
私はロケ地巡りをあまりやってなかったんですが、改めてよく見たら特に街中のシーンは自分が知ってるところで撮られていて驚きましたね。ユジンがミニョンを街中で初めて見かけるシーンは大学路だったし、ユジンとサンヒョクがデートに行った映画館が忠武路の大韓劇場だったり。ミニョンの事務所マルシアンの建物は東大門にあるらしいんです。『冬ソナ』のロケ地と言えば春川が有名ですけど、ソウル市内だけでもかなりのロケ地があるので、観光ついでに気軽に寄ってみるのも面白いと思います。
●参考資料:ドラマ『冬のソナタ』ロケ地 in ソウル(ソウルナビ)
高校のシーンは北村韓屋村の奥にある中央高校だよね。『愛の温度』(17年)でヤン・セジョンとソ・ヒョンジンが雨宿りしたシーンも中央高校の向い側でしたね。『欠点ある恋人たち』(19年)や『トッケビ』(16年)にも使われているみたい。
あとは、再視聴にひとつおススメしたい方法があります。「みるアジア」という配信サイトなんですが、“まるわかり字幕”といって、セリフを忠実に訳したバージョンでドラマを鑑賞することができるサービスがあるんです。当時だとわからなかったニュアンスとかが明らかになってドラマの理解度がグンとあがります。ファンはもちろん、韓国語学習者も再視聴を楽しめると思います。
昔、『冬ソナ』で学ぶ韓国語教室とかありましたね~。私も20年前は一言も分からなかった韓国語を今は字幕なしでもだいぶ聴きとれるようになって、細かいニュアンスまで分かるようになるとかなり作品の印象が変わりました。単なる純愛ドラマじゃないというのが改めて分かると思います。
『冬ソナ』ファンに薦めたい最近のドラマは?
最後に『冬ソナ』ファンにも観てほしい近年の作品を紹介したいと思います。
(作品へのリンクは、日本、または韓国のドラマ公式サイトにつなげています)
●『ただ愛する仲』(17年)イ・ジュノ、ウォン・ジナ、イ・ギウ、カン・ハンナ出演
●『愛の温度』(17年)ヤン・セジョン、ソ・ヒョンジン、キム・ジェウク出演
●『空から降る一億の星』(18年)ソ・イングク、チョン・ソミン、パク・ソンウン出演
●『ここに来て抱きしめて』(18年)チャン・ギヨン、チン・ギジュ、キム・ギョンナム出演
私は“胸がキュッとなる純愛ドラマ”という基準で選んでみました。
いずれもさまざまな障害がありながら、主人公の男女が愛を貫こうとするところは『冬ソナ』ファンにも刺さるストーリーだと思います。特に『愛の温度』ヤン・セジョン、『空から降る~』ソ・イングクは韓国で直接インタビューしたのですが、どちらも演じたキャラクターが素敵だったうえに俳優本人の印象もとても良かったので、より記憶に残っています。
●『その冬、風が吹く』(13年)ソン・ヘギョ、チョ・インソン、キム・ボム出演
●『愛するウンドン』(15年)チュ・ジンモ、キム・サラン、キム・テフン出演
●『むやみに切なく』(19年)キム・ウビン、ぺ・スジ、イム・ジュファン出演
●『天気がよければ会いにゆきます』(20年)パク・ミニョン、ソ・ガンジュン、イ・ジャンウ出演
私は“映像美”と“純愛”を描いた作品をチョイスしました。
『その冬~』は孤独な魂が惹かれあう様と凛とした空気を漂わせる冬の景色が見事にマッチ、『天気が良ければ~』は冬から春にかけて互いに心を開いていく男女の恋模様が季節の移り変わりと共にじっくり描かれていて、どちらも『冬ソナ』に通じる映像美が感じられます。『~ウンドン』は初恋の美しさを描いた一作。『むやみに~』は高校時代のときめきから再会・誤解・すれ違いがあって、切ない純愛に泣かされます。
●『花様年華~君といた季節〜』(20年)イ・ボヨン、ユ・ジテ、ジニョン(GOT7)出演
●『18アゲイン』(20年)イ・ドヒョン、キム・ハヌル、ユン・サンヒョン出演
●『私たち、家族です~My Unfamiliar Family~』(20年)ハン・イェリ、キム・ジソク出演
私からは少し変化球なチョイスを。上の2つは“初恋”が鍵の大人ロマンス&若手の注目株も要チェック作です。初恋相手と再会から始まる『花様年華』は現代の大人パートも、若手が演じる過去パートも切なきゅん満載の純愛メロ。『18アゲイン』は、なぜか18歳の容姿に戻った36歳夫が、妻や我が子のために奮闘する物語。妻役キム・ハヌルが02年に主演した人気作『ロマンス』のセルフパロディシーンなども楽しめます。最後の『私たち、家族です~』は、記憶喪失や出生の秘密といった定番要素&毎回明らかになる秘密に驚くんですが、心に響くセリフが多いし、家族のすれ違いと愛に泣く作品です。
次のパート③では、『冬のソナタ』を現在オンライン視聴可能な配信サイトや、主要キャストの出演作などを楽しめる動画へのリンクをたっぷりと紹介します。
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