ホン・ユニ

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.21

イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.21

 

国立劇団、創作劇開発プロジェクト第1弾
『かごを持って出かけるんですね、また』

去年から、韓国国立劇団が新しく始めていた新人劇作家サポート・プログラム「作家の部屋(작가의 방)」が、ついに成果を出しました。その主人公はユン・ミヒョン劇作家。彼女は今年1月、東京の座・高円寺で上演された「韓国現代戯曲ドラマリーディング Vol.8」に唯一の女性劇作家として参加し、自身の代表作である『若い軟膏―ア・ラブストーリー 젊은 후시딘—어 러부 스토리』(2013)を日本の観客に紹介したことがあります。そんな彼女が今回、「作家の部屋」を通して執筆した新作『かごを持って出かけるんですね、また (광주리를 이고 나가시네요, 또)』が、4月7日から23日まで、国立劇団小劇場パンにて上演されています。

ポップなデザインが目を引く『かごを持って出かけるんですね、また』ポスター

国立劇団の「作家の部屋」は、デビュー5年から10年以内のプロ劇作家を対象に国立劇団が参加者を募集し、そのなかから選ばれた10名の若手劇作家が約5カ月間、先輩劇作家からのアドバイスをもらったり、作家同士で討論をしながら、新作を書き下ろしていくというプログラムです。去年11月には参加者たちが朗読公演を行いましたが、そのなかでも観客と評論家から大きく支持されたのがユン・ミヒョンが手掛けた作品でした。その結果、本作は「作家の部屋」第1期作品のなかで、国立劇団の正式公演として上演される幸運を得ることになったのです。彼女だけではなく、今後も同じ第1期メンバーのユン・ソンホ『漏水工事』とチョン・ソジョン『ドリームタイム』が、5月に同劇場でショーケースとして公開される予定です。
30代後半であるユン・ミヒョンは、20代には詩と小説を書き、30代になってから劇作家としてデビューしたという韓国では珍しい経歴を持っている劇作家です。何よりも詩と小説を執筆しながら磨いた独自の筆力と観察力が彼女の武器です。特に『かごを持って~』は、彼女が「老人3部作」と名付けた作品の一つで、劇中に登場する老人たちの優れた描写が見どころだと言えます。

定年退職後、家でドラマばかり見ている息子をよそに、母(おばあさん)はかごに食料などをひそませて精力的に外へ売りに出かける

この物語の主人公は、こっそりと家の食材などをかごに入れて、一人暮らしの老人たちに売り歩いているおばあさんです。彼女は、若い頃も同様にかごに品物を入れて商売し、子供たちを育て上げたのですが、そのお金で買った家を息子夫婦にあげたことを今は後悔しています。彼女が再びかごを持って出かけるようになったきっかけは、息子の定年退職。息子は、引退後はサプリメントでも売って老後をおくろうと思っていたものの、厳しい現実に挫折し、毎日ソファーに寝っ転がっては、マクチャン(막장)ドラマ(ドロドロ系ホームドラマ)を見る怠惰な日々を送っています。それを見て不安を感じた息子の妻は、米やラーメンなど食材を大量に買い溜めし始めるのです。

孫娘ミミは祖母の行動を見て「早く年寄りになりたい」と容貌までも変え始める。

この三人の異常行動を観察し、その理由を探そうとするのは、孫娘のミミです。ミミは、大学院生の時に担当教授からセクハラされて以来、10年間も引きこもっている人物です。つまり、この家族は“誰もお互いを養うことができない”状態なのです。その後、ミミはおばあさんに似せて髪を白髪に染め、老婆のような服を着はじめます。「もう何もかも諦めて早くお年寄りになりたい」とつぶやき、ミミが将来自分に訪れるであろう中年を飛ばして、老人になるために練習をしていく過程を見せながら、現代の老人たちの生活をリアルかつコミカルに描いていきます。
実際に老人を観察するため、ひと夏の間ずっと公園で過ごしたというユン・ミヒョンは、作品の中で、500ウォンとアンパンをもらうために教会に並ぶ老人たち、必要なのはリンゴ一個と半分以上使った歯磨きだという老人。自分が一人で死んだ後に(死臭が外に出て)早く見つかるようにしたいと、小さな扇風機を買う老人など、貧しい独居老人などの厳しい現実を繊細に描写していました。かごを持って行商するおばあさんを演じたホン・ユニをはじめ、韓国演劇界の重鎮オ・ヨンスなど、小劇場作品や、特に若い制作陣の作品ではなかなか出会えない大ベテラン俳優が出演し、「老い」の生々しさとともに、深い味のある演技を見せてくれました。

主人公のおばあさんをユーモアたっぷりに演じたホン・ユニ(右)と、独居老人の悲哀を圧巻の存在感でを見せた、韓国演劇界の重鎮オ・ヨンス(左)

この一人一人の俳優に声をかけたのも、ユン・ミヒョン自身。演劇の現場では、演出家を中心に作品の方向性が決められるのが一般的ですが、「作家の部屋」は何よりも作家の意思を最優先にして作品に反映したため、このキャストが実現できたそうです。特に彼女は、去年11月に先行して行った朗読公演では演出も兼任したため、劇作家と俳優の間に特別な信頼関係を築くことができたようです。朗読公演に出演後、個人的な事情で参加できなかった女優一人を除いては、全員が今回の本公演にも出演しました。
新作発掘のために様々なプログラムが企画されていますが、劇作家に演出やキャスティングの権限まで与えた事例は今までなかったと思います。若手芸術家にとっては、公募に作品を出さないと上演の機会さえ得られないのが現実だそうですが、そんな中、劇作家と戯曲に集中して選考する国立劇団の「作家の部屋」が、今後どのような役割を果たせるか、とても興味深いです。すでに「作家の部屋」の第2期活動もスタートしており、1期のユン・ミヒョンは2期にも参加する予定だそうです。来年さらに成長した彼女の新しい作品に出会えるように、これからも応援したいと思います。


【公演情報】
演劇『かごを持って出かけるんですね、また』 (광주리를 이고 나가시네요, 또)
2017年4月7日~23日 国立劇団小劇場パン

<出演>
ホン・ユニ、オ・ヨンス、パク・へジン、イ・ヨンソク、シン・アンジン、パク・ジア、イ・ジヘ、チョ・ヨンウン、イ・ヒョンジュ、キム・チャンドン、ソン・ドンハン、キム・ミラン、イ・ソヨン、クァク・ジョンファ、チョ・ミンギョ、パク・ヒョンス

作:ユン・ミヒョン/演出:チェ・ヨンフン/舞台:イ・オムジ/照明:ナ・ハンス/衣装:チャン・ギチョン/音楽:イ・ヒョンジュ/小道具:コ・ジェハ/ヘアメイク:ペク・ジヨン/音響チョン・ユンソク

写真提供:国立劇団 ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。


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[MUSICAL]7年ぶりの再演『ビリー・エリオット』韓国版 キャストを公開

[MUSICAL]7年ぶりの再演『ビリー・エリオット』韓国版 キャストを公開

 

主人公ビリー役に抜擢された4人。写真左から、チョン・ウジン、シム・ヒョンソ、ソン・ジファン、キム・ヒョンジュン

2010年に韓国版を初演し、観客を感動の渦に巻き込んだ名作『ビリー・エリオット』が7年ぶりに再演。12月の公演を控えて、多彩なキャストが公開された。

2000年に公開され、世界中で大ヒットした映画『リトル・ダンサー(原題:BILLY ELLIOT)』を原作にした『ビリー・エリオット』の舞台は、80年代英国北部の炭鉱町。母を亡くし、鉱夫の父と認知症の祖母、そして兄トニーと暮らすビリーが主人公だ。偶然バレエの魅力に目覚め、踊りたい衝動に葛藤するビリーと、彼の才能を伸ばすために尽力する大人たちの姿が、温かな目線で描かれている。映画版の原作者スティーブン・ダルトリーがミュージカル版の脚本も手掛け、2005年に英・ロンドンで初演。オリヴィエ賞5部門受賞し、2009年のブロードウェイ公演ではトニー賞10部門の快挙を成し遂げ、英・米・韓公演以降も、オーストラリア、カナダなど世界で一千万人以上の観客を動員した大ヒット作だ。
2010年の韓国初演ももちろん、子役たちの熱演が評判を呼び爆発的ヒットを記録。いまだにミュージカルファンの間で伝説となっており、昨夏開催された「ジャラソム・ミュージカル・フェスティバル」では子役たちが成長した姿で舞台に立ち、イベントの大きな目玉になっていたほど不動の人気を誇っている。

7年ぶりの再演にあたり、約1年前に実施された1次オーディションから入念に準備された。その後、イメージはもちろん、ダンスの実力や根気と情熱を持つ少年たちが選抜され、「ビリー・スクール」と呼ばれるトレーニングを重ねて3次オーディションを経てようやく今年1月、ビリーとマイケル役を確定したという。

厳しい条件をクリアした、奇跡のようなビリー役には4人の少年が選ばれた。
ストリートダンスが得意なキム・ヒョンジュン、テコンドーの有力選手だったソン・ジファン、幼いころからバレエレッスンを受けていたシム・ヒョンソ、タップダンスが大好きというチョン・ウジンの4人だ。それぞれが幼くしてイベントや大会で多数の受賞歴を持つ実力者だけに、素晴らしい“ビリー”を見せてくれるに違いない。
また、ビリーの親友マイケル役には、カン・ヒジュン、クァク・イアン、ユ・ホヨル、ハン・ウジョン。ダンスやテコンドーなどそれぞれに特技をもつ個性豊かな彼らは、ビリーと並び観客に愛されることになるだろう。

そして、ビリーを見守る大人たちは大御所からベテランまで、豪華な面々が揃った。
無骨だが、誰よりもビリーを愛する父親役には、映画、ドラマ、舞台と長年一戦で活躍してきたキム・ガプスと、ミュージカル『JSA』で見せた味のある演技が評判となったチェ・ミョンギルが演じる。
かつては大学路で劇団を主宰し、精力的に出演していたキム・ガプスは、5年ぶりの舞台復帰作がミュージカルとあって、一段と大きな話題を呼ぶことになりそうだ。

ビリーの天賦の才能を見つけ出し、その才能を伸ばそうとするバレエスクールの講師ミセス・ウィルキンソン役には、韓国ミュージカル界の第一世代スター女優であるチェ・ジョンウォンと、『ウィキッド』『ジーザス・クライスト・スーパースター』など数々の大作で個性豊かなキャラクターを演じて来たキム・ヨンジュが演じる。
なかでも、長年この作品への出演を熱望していたというチェ・ジョンウォンは「私の人生の作品のひとつ。年を取ってもビリーのおばあちゃん役で舞台人生を終えたい」と語るほどの愛着を見せ、並々ならぬ意気込みを見せている。

認知症を患いながらもビリーを温かくユーモラスに見守るおばあちゃん役には、韓国演劇界で“大母(대모)”と呼ばれ、15年に主演した演劇『ハロルドとモード』では、カン・ハヌルと歳の差60歳の恋人を演じて話題を呼んだパク・チョンジャと、キム・ジュンス主演の『ディセンバー』では母親役を演じていたベテラン舞台女優ホン・ユニが演じる。

そのほか、ビリーの兄トニー役には『マンマ・ミーア!』『ウェルテル』などでアンサンブルを務めていたグ・ジュンモが抜擢されたほか、総勢58名のキャストが新たな韓国版『ビリー・エリオット』を創り上げる。

2017年の年末、最高の話題作となるのは必至の『ビリー・エリオット』は、新道林(シンドリム)のD-CUBEアートセンターで、12月から約5カ月間にわたり上演される。


【公演情報】
ミュージカル『ビリー・エリオット』韓国版(빌리 엘리어트)
2017年11月28日~2018年4月29日(予定)D-CUBEアートセンター

<出演>
●ビリー役:キム・ヒョンジュン、ソン・ジファン、シム・ヒョンソ、チョン・ウジン
●マイケル役:カン・ヒジュン、クァク・イアン、ユ・ホヨル、ハン・ウジョン
●トニー役:グ・ジュンモ
●お父さん役:キム・ガプス、チェ・ミョンギョン
●ミセスウィルキンソン役:チェ・ジョンウォン、キム・ヨンジュ
●おばあちゃん役:パク・チョンジャ、ホン・ユニ
●ビリーの母役:キム・ミョンフェ
●ジョージ役:イ・サンジュン
●ミスター ブレイス・ウェイト役:チャン・ウォンリョン
●デビー役:キム・ヨナ、パク・シヨン、ソク・ジュヒョン
●バレーガールズ役:キム・ナリン、キム・ミンジョ、キム・ジュウォン、シム・ヘビン、アン・ヒョンファ、イ・ソヨン、イ・ファジン、チョン・イェジン、チョン・スンミン、チェ・ユジン、キム・スミン、キム・ウニ、ビョン・ヘリム
●トールボーイ役:イ・ジュニョン、チェ・ジュヌ
●スモールボーイ役:ソン・ジュファン、アン・ユジュン、オ・ハンギョル
●大人ビリー役:キム・テギュ、ぺク・ドゥサン
●アンサンブル:カン・ジュソン、コ・チョルスン、クォン・サンソク、キム・ギジョン、キム・ムンジュ、キム・ソングァン、キム・ソンス、キム・ヨンフン、キム・イェジ、ソ・ヨハン、ソ・ジェミン、オム・ジュンソク、イ・ギヨン、イ・ジョンヒョク、チョン・ジュンソン、チャ・ジョンヒョン、チェ・ウンジュ

脚本・作詞:リー・ホール/作曲:エルトン・ジョン/演出:スティーブン・ダルトリー/振付:ピーター・ダーリング/協力演出:サイモン・ポラード/協力振付:二コラ・ベルシャー、ダミアン・ジャクソン/協力音楽スーパーバイザー:ティム・スミス/韓国協力演出:キム・テフン/韓国協力振付兼バレエトレーナー:ノ・ジヒョン/韓国協力振付助手兼タップダンストレーナー:イ・ジョングォン/韓国協力音楽監督:オ・ミニョン/韓国協力助演出:イ・ジェウン

写真提供:シンシカンパニー ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。