ソル・ギョング

土田真樹の「エーガな日々」Vol.4

土田真樹の「エーガな日々」Vol.4

 

「2014年韓国映画総括&2015年の期待作は?」

新年の挨拶が遅くなってしまいましたが、今年もよろしくお願い致します。久々のコラム更新は2014年を振り返ると同時に2015年に向けての展望を占ってみようと思います。

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李舜臣(イ・スンシン)将軍を演じたチェ・ミンシク(写真左)、来島通総(くるしまみちふさ)役のリュ・スンニョン  <『鳴梁』プレス試写会より>©Maki Tsuchida

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主要キャストが勢ぞろい!『鳴梁』プレス試写会より ©Maki Tsuchida

2014年の韓国映画界における最大イシュー(話題)は、やはり慶長の役における豊臣水軍と朝鮮水軍の海戦を描いた『鳴梁(명량 ミョンリャン)』の大ヒットだったでしょう。それまで韓国映画界最大のヒット作は観客動員数約1300万人を動員した『グエムル 漢江の怪物』だったのですが、『鳴梁』は、更に400万人以上を上回る1700万人以上の観客動員数を記録しました。朝鮮軍が豊臣軍を破った史実を描いているのですが、細部や歴史解釈に関する部分は日本のモノとは違っており、日本から見ると国辱映画となるかもしれませんが、ともあれ韓国では大ヒットとなりました。
日本の大河ドラマにおける明治維新や戦国時代の武将のように、これまで何度も映像化されてきた物語なのですが、様々な登場人物の人間模様を描いて、感情移入しやすいキャラクターを散りばめたこと。そして上映時間の半分を占める迫力ある海戦シーンなど、確かに見どころはたくさんあったのですが、最大のカタルシスは、日本に勝つという爽快さではなかったでしょうか。キム・ハンミン監督は前作『神弓-KAMIYUMI-(原題:최종병기 활)』(2011年)で、満州族の清軍との戦いを描いて観客動員数800万人を超える大ヒットを記録しており、ナショナリズムを刺激するエンターテイメント作りがお得意なのかもしれません。

一方、このような大作の影に隠れている感もありますが、韓国インディーズの躍進も見逃せません。特筆すべきは、大手の配給会社がインディーズ映画に投資・配給を行うようになったことは、インディーズ映画界にとって新たな配給モデルとなりました。中でも、最も話題となったのは、『ハン・ゴンジュ 17歳の涙(原題:한공주)』に主演して、第35回青龍映画賞で主演女優賞も受賞したチョン・ウヒの発見ではないでしょうか。チョン・ウヒは1987年生まれ。女優としては遅咲きと言えるでしょうが、今年はファン・ジョンミンと共演する『哭声(곡성)』(仮題)などへの主演が決まっており、第2のムン・ソリになるのでは? と、私が注目している女優です。

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青龍映画賞で4冠を達成!『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』のポスターと主演のチョン・ウヒ ©Maki Tsuchida

2014年の公開作の中には、韓流スターが出演しているにもかかわらず、興行面で惨敗する作品も目立ちました。ソン・スンホンが不貞の夫を演じた『情愛中毒(原題:인간중독)』は、露出シーンが話題になりましたが、観客動員数には直結しませんでした。ソン・へギョ、カン・ドンウォンと、2大韓流スター主演の『ドキドキ私の人生(두근두근 내 인생)』もしかり。興行失敗の最大の原因といえるのが、映画で最も大事な要素であるキャラクターに共感できないことでした。
一方、2014年に観客動員数1000万人を超えた映画の主人公は、『弁護人(변호인)』(※公開は2013年12月)ソン・ガンホ、『鳴梁』はチェ・ミンシク、12月に公開し、2月現在もまだロングラン上映している『国際市場で逢いましょう(原題:국제시장)』はファン・ジョンミンと、いわゆる韓流スターではなく、演劇畑出身の実力派中堅俳優であることがわかります。それと同時に観客層にも変化がありました。これまでの映画館の観客は若い人が中心だったのですが、これらの作品は明らかに中高年が多いのです。
韓国では2014年のトレンドが映画のみならず、様々な分野で復古風(복고풍 ポッコプン)という言葉で表現されるレトロ感覚が幅をきかせていました。この流れは2015年も続いており、ユ・ハ監督の“街(거리)3部作”の最終章となるイ・ミンホ主演の『江南1970(강남 1970)』、1960~70年代にフォークブームの拠点となった音楽喫茶を舞台にした『セ・シ・ボン』など、1960年代、70年代を時代背景にした作品が劇場公開され、興行面でも成功を収めています。

서부전선

『ブラザーフッド』『シルミド』などを超える大ヒット作となるか!? ソル・ギョング&ヨ・ジング主演『西部戦線』

ところで、2015年は復古風だけではなく、多様な映画がラインナップしています。
朝鮮時代を背景にした映画では、イ・ビョンホン、チョン・ドヨン主演の『侠女、刀の記憶(협녀, 칼의 기억)』。義兄弟の絆を裏切った男とそれを許さない女が、時を経て対峙するストーリーで、劇中では舞うような剣アクションを見せてくれることでしょう。一方、リュ・スン二ョン、ペ・スジ(miss A)、ソン・セビョク、キム・ナムギル出演の『桃李花歌(도리화가)』は朝鮮時代に実存したパンソリの名手、シン・ジェヒョの愛の物語を描いた作品で、こちらも見逃せません。
愛の物語といえば、主演のチョン・ウソンが制作も手掛け、キム・ハヌルと豪華共演を果たした『私を忘れないで(나를 잊지 말아요)』は、事故で記憶を失った男が、自分の過去を思い出せないまま新しい恋に落ち、消えていた10年間の記憶を埋めていくというストーリーです。
他にも1953年6月25日の朝鮮戦争を背景に南北の兵士が孤軍奮闘する、ソル・ギョング、ヨ・ジング主演の『西部戦線(서부전선)』や、リュ・スンワン監督が『国際市場』で再ブレーク中のファン・ジョンミンと『生き残るための3つの取引(原題:부당거래)』以来、約4年ぶりにタッグを組んだ『ベテラン(베테랑)』は、ベテラン刑事の活躍を描くアクションノワールです。
2015年も魅力的な作品が劇場公開を控え、韓国映画から目が離せない年になりそうです。

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[SPECIAL INTERVIEW]イ・ジュニク監督

[SPECIAL INTERVIEW]イ・ジュニク監督

 

ljititle1自分はいつまでも映画職人。

イ・ジュンギが大ブレイクするきっかけとなった『王の男』(2005年)が観客動員数1200万人を超え、その後も多くのヒット作品を世に送り出しているイ・ジュニク監督。また『アナーキスト』や『恐怖タクシー』(ともに2000年)といった韓国映画の名作を手がけ、海外の秀作を輸入配給など映画会社シネワールド代表としての顔を持つ。しかしながら、自分は映画監督になるつもりは毛頭なかったとおっしゃいます。何ゆえ彼が映画を撮り続けているのでしょうか? 映画界入門から、青龍映画賞作品賞、脚本賞をはじめ多くの映画賞を受賞した最新作『ソウォン/願い』まで、映画作りに取り組む姿勢についてうかがいました。

写真・取材・文_土田真樹

●初監督作品は『キッドコップ』(1993年)という子供が悪党を懲らしめる作品でしたね。
「大学を中退して職を転々としていたのですが、いい給料をもらえるのがソウル劇場の宣伝部の仕事だったんです。すぐに宣伝部長という肩書きをもらったのですが、スタッフは私ひとりでしたから、映画館のポスターのデザインをしたり、宣伝用のチラシを配ったり、営業にもでかけたりとひとりで何でもやりました。宣伝活動をやる中で映画監督と打ち合わせをすることもあったのですが、話をするうちに自分でもやれるのではないかという妙な自信が頭をもたげてきたのです。そこで撮ったのが『キッドコップ』だったのですが、興行結果は惨たんたるものでした。映画監督なんてもうやるものかと監督引退宣言をしました。映画監督デビュー作が引退作になったわけです(笑)」

●その後は映画会社・シネワールド代表としてプロデューサーとして活躍されていたわけですが、引退宣言10年目にして『黄山ヶ原(ファンサンボル)』(2003年・未)にて復帰されます。
「元々は私が監督するつもりはなかったのです。10人の監督にオファーを出したのですが、10人全員に断られてしまいました。シナリオもあるし予算もついている。私が監督経験があるということで、代打として監督を買って出たのですが、これがヒットしたのです。ならばもう一本撮るかと作った『王の男』が観客動員数1000万人を超える大ヒットとなった。それ以来、メインの活動を映画監督に置き、現在に至るというところです」

●ご自信で企画・シナリオ・プロデュースも手がけマルチな才能を発揮なさっていますが、アイデアはどこから?
「私の周りには優秀なスタッフがいます。彼らと一緒に、ときには会議室で、ときには飲み屋でアイデアを出し合うのですが、その中に「これは売れる!」とピンと来るものがあればすぐにシナリオ執筆にかかります。これまで手がけた作品もそのようにして生まれてきました。もう勢いで映画を作っているようなものです(笑)」

●シナリオを書いてから俳優にオファーを出すわけですが、キャスティングの秘策があるとか。
「シナリオを誰に渡して出演オファーを出すかが重要なのですが、オファーを出す俳優に合わせてシナリオをどんどん変えていきます。納得して出演してもらうのが大切なのはもちろんですが、俳優の魅力を最大限引き出すのも監督の役目です。出演を断られ別の俳優にオファーを出すときは、シナリオの書き換えを行う。シナリオはあくまでも叩き台であり、撮影現場で変えていくこともしばしばです」

lji2●最新作は『ソウォン/願い』ですが、この映画を撮ろうと思ったきっかけは?
「このシナリオは私が書いたのではなく、ロッテエンターテイメントから監督のオファーをもらったものです。未成年の性犯罪を描いた映画はこれまでも作られてきましたが、ほとんど加害者目線で作られている。あるいは復讐劇として作られてきたわけで、被害者の立場から描かれることはほとんどありませんでした。性犯罪の被害者は心に傷を負いながらも生きていかねばならない。人は誰でも幸せになる権利がある。そのような願いを込めて映画を撮りました。
ところで、今回は用意されたシナリオ、製作は自分の会社ではなく他の会社。私は監督だけ担当したのですが、全て自分でやっていたときよりも楽でしたね。これからは監督だけに専念しようと思います(笑)」

●韓国内では『トガニ 幼き瞳の告発』(2011年)など社会問題に発展した映画もあります。『ソウォン/願い』の反応はいかがでしたか?
「韓国では12歳未満の少女が被害者となる性犯罪が一日に約3件起こっています。3件というのも警察に届けられた件数だけですから、実際はもっとたくさんあるでしょう。大事なことは、被害者にいかに接するかということです。この映画の監督オファーを受けたのも、性犯罪という素材ではなく、このようなテーマに共感したからです。
フランスで上映したときは観客から拍手喝采で迎えられました。観客との対話では、「この映画をフランスの国営放送のゴールデンタイムに放送すべきだ」という評価をいただきました。韓国ではR12で劇場公開されたのですが、多く中学校が団体で見に来て生徒たちに見せ手感想文を書かせたそうです。性犯罪被害者は自分から事件を語ることはなく、また事件被害を隠して生きていくケースがほとんどです。事件そのものを考えることも大切ですが、被害者たちを見守る目というのもまた大切だと思います」

●父親役をソル・ギョング、母親役をオム・ジウォンが演じていますが。
「ソル・ギョングがこの映画に出演を決めたのは『ペパーミント・キャンディー』や『オアシス』などへの郷愁があったとのことでした。シナリオを読むと自分がこれまで感じていた渇望を思い切りぶつけることができる役なので出演を決めたと後に語っています。このような役への渇望があったので、この映画で表現したのでしょう。オム・ジウォンはソル・ギョングが推薦したのです。
オム・ジウォンは、撮影当時は未婚なのに母親役だし、ファッションリーダーなのにアジュマスタイルの衣装を着て恰幅よくするなど、これまでオム・ジウォンっという女優が持つイメージを自ら壊してくれました。女優がダイエットすることはあっても、その逆はほとんどありません。しかも妊娠5カ月の設定ですから脇腹の肉を付けるのも大変でした」

●ソル・ギョング演じる父親が人形の着ぐるみに入ったりと努力するのが印象的でした。
「イ・チャンドン監督の映画『シークレット・サンシャイン』(2007年)と比較されることがあるのですが、主人公の母親がひとりで苦しみを内に抱えることに対して、『ソウォン/願い』の父親は苦しみを抱えるのでなく、いかにして家族に笑顔を取り戻すかと肯定的な生き方を実践していきます。
この映画を撮り終わってから、ティム・バートン監督の『ビッグ・フィシュ』をしばしば思い出します。主人公は子供のころ、父親の話を信じていたのですが、大人になってからそれがホラ話だったことを知ります。ちょうど子供がサンタクロースは実在しないと気づかされるのと似ているかもしれません。 ロベルト・ベニーニ監督・主演の『ライフ・イズ・ビューティフル』では父親がガス室に送られる瞬間まで、これは遊びだと子供を楽しませます。父親というのは子供にとってファンタジーを与える存在なのです。ですから、ソル・ギョングが着ぐるみに入って娘を喜ばせるのは当然の行為だといえるでしょう。笑っている瞬間だけは苦痛から開放されるのですから」

●最後に監督にとって映画作りのモットーについてお聞かせください。
「私は映画学校で映画を学んでいませんし、映画少年だったわけではありません。気がついたら映画監督になっていたのです。映画を作るスタンスは、宣伝用ポスターを作っている頃となんら変わりません。映画の持つメッセージを伝えることは同じ 映画を作るスタンスは、宣伝用ポスターを作っている頃となんら変わりません。ただ監督となった今、観客に講釈を垂れるよりも、素直にシナリオの持つメッセージを伝える媒介でありたいと思っています」

 

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イ・ジュニク監督と筆者

<インタビュー後記>
イ・ジュニク監督は猿だと思う。監督との付き合いは『アナーキスト』の頃からだから、かれこれ15年近くなる。初めてお会いした頃は、口数が多くて落ち着きのない人だという印象だったが、それは今も変わらない(笑)。お調子者で、「そうだ、そうとも!」が口癖である。そうして、皆からよいアイデアを引き出して映画という完成形に持っていく。
猿であるがゆえに、彼の作る作品も猿真似であるといえる。もちろんこれはよい意味である。人の感動の形というのは喜怒哀楽であり、それは意外と単純なものであると言える。映画というのは観客の喜怒哀楽の琴線にいかにして触れ感動に持っていくかだ。商業映画監督の至上は多くの映画の感動であり、イ・ジュニクは過去の作品の真似をしながら自分のノウハウへと再創作していく職人監督なのだ。

『ソウォン/願い』
監督:イ・ジュニク
出演:ソル・ギョング、オム・ジウォン、キム・へスク、イ・レほか
8月9日(土)より、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
⇒日本公式サイト