[COLUMN]韓国ドラマの舞台人 第1回『賢い医師生活』前編

 

長年韓国ドラマ専門ライターとしても活動している筆者が、不定期ながら新連載を始めます。題して「韓国ドラマの舞台人」。タイトルそのままに、近年韓国ドラマでの活躍が目覚ましい舞台出身俳優の魅力を紹介します。

第1回はついに3月12日から韓国tvNで放送スタートする『賢い医師生活(슬기로운 의사생활)』(⇒ドラマ公式サイト)。『応答せよ』シリーズ3作を手掛けたシン・ウォンホ監督が、前作『賢い監房生活(슬기로운 감빵생활 邦題:刑務所のルールブック)から2年ぶりに発表する新作ドラマです。

主な配役は以下の通り

●肝胆膵外科医イクジュン:チョ・ジョンソク ※肝臓・胆嚢・膵臓の専門医
●小児外科医ジョンウォン:ユ・ヨンソク
●胸部外科医ジュンワン:チョン・ギョンホ
●産婦人科医ソクヒョン:キム・デミョン
●神経外科医ソンファ:チョン・ミド

5人は、99学番(1999年度入学)医大同期で20年来の親友同士。全員が40代突入を目前にした医師たちです。通常は、放送開始前に番組公式サイトには必ず公開されるキャラクター紹介や人物関係図が、今のところは全く出ていません。(制作の遅れなのか、あえて秘密にしているのか…)
新型肺炎の影響で、映像生中継を通して公開された制作発表会でもみな“スポ”(スポイラー=ネタバレ)にならないよう、緘口令がひかれているのか、具体的な内容についての話はあまりされなかったため、どんなドラマになるのかは見てのお楽しみ、という状況です。
現時点で分かるのは、過去のシン・ウォンホ監督作品と同様に、群像劇、人間ドラマという2大キーワードは維持。以前の作品では主人公を取り巻く家族の物語がかなり盛り込まれていましたが、それが今回は彼らが担当する患者の物語中心に代わるようです。

このドラマの主人公5人のうち、チョン・ギョンホを除く4人が舞台経験者。チョ・ジョンソクとユ・ヨンソクは、出演時期は異なるものの過去にミュージカル『ヘドウィグ』と『壁抜け男』に主演したことがあるという共通点を持っています。キム・デミョンは2014年のドラマ『ミセン』でブレイク前は、ミュージカル『地下鉄1号線』『アサシンズ』など舞台を中心に活動していた人です。

●チョ・ジョンソク 舞台出演作一覧(PlayDB)

●ユ・ヨンソク 舞台出演作一覧(PlayDB)

●キム・デミョン 舞台出演作一覧(PlayDB)

そして、今回紅一点のヒロインに抜擢されたのがチョン・ミドです。
韓国舞台シーンを代表するミッ・ポ・ペ(믿우=信じて観る俳優)でありながら、これまで映像ではほとんど活動しなかったことから、韓国でも本作のヒロインとして発表された際には「チョン・ミドとは誰?」という記事が出たほど、一般的には知られていない俳優でした。日本の韓国ドラマファンも、おそらく同じ印象を持ったことでしょう。
しかし彼女の凄さを知る人たちは「キターーーー!」と歓喜の嵐。韓国インターパークが運営する舞台情報サイトPlayDBでも、わざわざ記事が公開されるなど、キャスト発表と同時に舞台マニアの間では大きな話題となっていたのです。

(写真左)2016年『もしかしてハッピーエンディング』/(写真右)2014年『バンジージャンプする』

放送開始数日前に映像の生中継で公開された制作発表で明かされていたのは、シン・ウォンホ監督に彼女の起用を勧めたのはチョ・ジョンソクだったそうです。ユ・ヨンソクも彼女が出演する舞台を見て「以前からファンだった」と公言しています。彼らの推薦に加え、監督自身もヒロインは無名の新しい人を起用したかったと言っていたのですが、例えば『応答せよ1994』のチョンウや、『刑務所のルールブック』のパク・ヘスなど、実力はあるのに大衆への知名度が低かった俳優たちを大抜擢してブレイクさせてきた監督が、今回はチョン・ミドに白羽の矢を立てたのです。

(写真左)2018年『ドクトル・ジバゴ』/(写真右)2013年『ウェルテル』

とても小柄で華奢な彼女ですが、安定した演技力、歌唱力はもちろん舞台上での存在感も抜群。なのに演じるキャラクターに忠実で、自分自身を前面に出すタイプの人ではありません。そんな彼女ですから、共演者はもちろん、演出家や制作者も彼女との仕事を拒む人はまずいないと思います。
その代表が名優チョ・スンウ。2012年にミュージカル『ドクトル・ジバゴ』で共演後、『ラ・マンチャの男』『ウェルテル』『スウィーニー・トッド』と、彼女を連続して相手役に指名し共演しています。

●2015年の『ウェルテル』15周年記念公演時の雑誌「Scene PLAYBILL」のチョ・スンウ&チョン・ミドインタビュー

記事中では、かのチョ・スンウに「舞台を離れても常に側にいてほしい俳優です。学ぶべきところが多く、この人が与える刺激は計り知れない」とまで言わしめるほど。チョ・スンウがこれほど共演者を絶賛していたのはあまり見たことがありません。

また、演技派女優を中心に構成されている劇団メンシアターの団員でもある彼女は、数々の大劇場ミュージカルでヒロイン役を務めながら定期的に小劇場演劇にも出演。ほかにも国立劇団など、公的劇団が制作した作品でも主演を務めています。とにかく、舞台ではあちこちで引く手あまたの名女優なのです。

筆者も韓国で一人舞台女優を挙げるならば、迷うことなく彼女を選びます。個人的に、チョン・ミドの凄さを体感したのが、2014年に芸術の殿堂で上演された演劇『メフィスト』でした。ゲーテの『ファウスト』を大胆に解釈したこの作品で、『冬のソナタ』の父親役として日本では知られている演劇界の大御所、チョン・ドンファンを相手役に一歩も引けを取らず、エネルギッシュに悪魔メフィストを演じていました。
当時の映像が残っています。

こんな強烈な役もできれば、一方で可憐なヒロインもこなすことができるチョン・ミド。『賢い医師生活』で、ついに彼女の凄さがブラウン管を通してお披露目されます。チョ・ジョンソクを筆頭に、個性豊かな面々が揃うなか、監督が紅一点のヒロインを彼女に任せたのは、きっと大きな理由があるはずです。そして放送後の大ブレイクは必至。しかし一旦ブレイクしてしまうとなかなか舞台では見られなくなってしまうことが多い昨今ですが、それでも多くの方に舞台でのチョン・ミドの演技も堪能してもらいたいと切に願います。

第2回では、引き続き『賢い医師生活』に出演している多数の舞台出身助演俳優にスポットを当てて紹介予定です。

●チョン・ミド 舞台出演作一覧(Play DB)

※文中のリンクは、ドラマ関連サイトや、ミュージカル、演劇の映像などを紹介しています(すべて韓国語サイト)

文:さいきいずみ(韓劇.com)

●2013年のミュージカル『ウェルテル』(共演はオム・ギジュン)

●2014年のミュージカル『ONCE (ONCE ダブリンの街角で)』(共演はユン・ドヒョン)

●2016年の演劇『BEA』(共演は、劇団メンシアターの団員でもあり、『ブラックドッグ』などドラマでも活躍するイ・チャンフン)

●2018年のミュージカル『ドクトル・ジバゴ』(共演はパク・ウンテ)

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